安らげる時間が必要だ

 世の中にゃ家にいる時まできっちりしてろと言う奴がいる。けどな、それを言ってる当人が家でだらしない様子を見せてたらそんなもん、

『お前が言うな』

 ってだけだろ。俺だってそんな奴の言うことなんざ聞く気にもならない。その点、前妻は敢えてそういうことは言ってこなかったものの、言いたそうにはしてたな。しかも当人がきっちりしてるから『お前が言うな』とは言えないにしても、そんなことを言われてたら俺は家に帰らなくなってたかもしれない。

 でも、前妻には感謝してるんだ。頑張って家庭を維持しようと努力をしてくれてた。だけど俺がロクデナシだったからその努力が無駄になったというだけで。

 どうだ? ここまでだけでも俺がいかにロクでもない人間かが分かるだろう? そんな俺が羅美に対して何を偉そうに言えるんだ?ってことも分かるだろう?

 だからこそ家ではだらしなく寛いでほしいんだよ。俺の前じゃつまらない虚飾に拘る必要はないんだ。

 家でも学校でも安らぐことができなかった数年間を取り戻してほしいんだよ。

 それに今は妊娠中だ。精神的に安心できることが特に重要だと思う。


 ちなみに今でも一緒のベッドに寝てる。羅美もその方がよく眠れるそうだ。そして俺もな。

 これも、まったく理解できない奴はいるだろう。と言うか、羅美と出逢う前の俺には理解できなかったしな。他の誰かと一つのベッドで一緒に寝るなんて、有り得なかった。眠れるなんて思わなかった。

 なのに今じゃ、羅美がいないと眠れる気がしない。羅美の寝息が聞こえて、体温が感じられて、それでホッとするんだよ。これも、羅美と出逢ってなかったら知らないことだった。

『<相性>ってやっぱあるんだなあ……』

 と実感させられた。でも同時に、やっぱ羅美は俺にとっちゃ<娘>なんだよな。<女>じゃないんだ。

『女性として認めないのはおかしい!』

 とかキレる奴もいるだろうが、いやいや、そこは女性として認めちゃったらダメだろう。『女性として認める』ってことは、『異性として意識する』ってことだぞ?

 もちろん、デリカシーのないことをするのはおかしいと思う。でもそれは、

『女性として認める云々』

 の問題じゃなくて、

『相手を自分と同じ人間として認めるかどうか?』

 ってことじゃないのかよ。相手をちゃんと人間として認めてたら、性別に関係なく、デリカシーのない、相手が嫌がるようなことをしないってのは、当たり前だろ? 自分が<嫌なこと>をされて嬉しくないのは相手も同じだって分かるよな?

 相手を人間だと認めるからこそ、『安らげる時間が必要だ』って感じるんだよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る