可愛げのないクソビッチ
俺が家に帰ると、
「おかえり~♡」
羅美が甘えるようにそう言ってくれた。やっぱり夕食を作りながら。
「ただいま。どうだ? 気分は?」
「あ~……悪阻は時々ね。特にご飯が炊ける時の匂いがきつくてさ」
「あ、それってやっぱりあるんだ? よく聞く話だが」
「でも、うん。大丈夫だよ。ちょっと体はだるいけど」
「そうか。でも、無理はすんなよ」
「分かってる。あんがと♡」
明らかに俺に甘えるような態度を見せる。学校で無視されている分を、楽しめない分を、帰ってきてから補おうとしてる印象はあるな。だから俺は、
「羅美、ありがとう……」
そっと抱き締めながら言う。そんな俺に、
「な…なんだよ。ヤらせねーぞ!」
と言い返すが、抱き締められること自体を嫌がってるわけじゃないのは分かる。この辺り、今から思うと前妻は、最初の頃から俺に触れられることを喜んじゃいなかったのが分かる。セックスだってある種の義務感で相手をしてただけってのが分かる。そんな関係、安らげるか? 正直、俺もごめんだね。だから前妻に離婚届を突き付けられた時も、『ああ…よかった』としか感じなかったわけだ。
少なくとも羅美はこうして抱き締めてやりたいと思えるが、前妻に対しては思わなかったんだよ。まあそれは、前妻には俺という人間なんて本当は必要じゃなかったんだってのが察せられてたからなんだろうけどな。
人間には<相性>ってもんがある。
『いい人なんだけど』
『悪い人じゃないんだけど』
『でもなんか一緒にいても楽しくない。気持ちが休まらない』
そういう相手は確かにいるんだ。ガキの頃にツルんでた相手にだってそういうのは少なからずいた。猛スピードで街路樹に突っ込んで、同乗者三人を道連れに車ごと体が真っ二つになって死んだ奴もそうだった。一緒にいて楽しい奴じゃなかったよ。
その点、羅美は、確かに最初の出逢いは最悪だったかもしれないが、今、こうして一緒に暮らしているとな、ホッとするんだ。羅美が家にいてくれると安心するんだよ。だから、
「誰が自分の子供にそんな風に思うか。羅美は俺の子供だ。親が自分の子供を抱き締めて何がおかしい? それだけの話だ」
正直な気持ちを口する。すると羅美は、
「うっせ……バカ……」
とか口にする。
まったく、可愛いじゃねーか。
そうだ。他の奴から見たらまるで可愛げのないクソビッチかもしれないが、それでも俺にとっては<可愛い我が子>なんだよ。他の奴らの評価なんざ知ったことか。
『親にとっちゃ自分の子供が世界一可愛い』
それだけの話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます