それが俺も楽しくてよ

 その調子で、淡々と毎日を過ごす。学校では相変わらず無視されてるらしいが、逆にホッとする。牧島まきしまも娘に対して、

「構わなくていいから、様子だけ見といて。もし誰かが余計なちょっかいをかけたら先生に言ってくれたらいい。それから私に連絡ちょうだい」

 と言ってるそうだ。普通のドラマとかだとここで牧島の娘が親身になって羅美を助けようとするんだろうけど、残念ながら牧島の娘には大した力もないしそもそも羅美に対して何の思い入れもないただの同級生だからな。そんな一生徒に羅美のフォローなんて任せる方がおかしいだろ。そういう事態になったらとっとと退学させる。そこでなんらかの刑事事件相当の行為があれば、学校に申し入れてるように即刻警察に通報してやる。そのために溝口と連絡を取り合ってるんだからな。

 しかし、学校側もこの脅しは相当効いてるらしい。事実、溝口からも、

「もし何かありましたらすぐにお知らせください」

 なんて申し入れてくれてるもんだから、よくある、

『弁護士に言うぞ!』

 みたいな口先だけのそれとは違う実効性のある<ハッタリ>にはなってるようだな。

 学校ってのがいかに厄介事が表沙汰になることを嫌うのかがよく分かる。

 まあそれは民間企業でも同じかもしれないが。

 いずれにせよ、『何もない』のならこっちもありがたい。


 そうして学校ではそれこそ『何もない』分、家では羅美としっかりと話をする。

 すると羅美は、

「今日さ~、犬のウンコ踏みそうになったんだよ。有り得なくない? 自分のペットのウンコの始末くらいしろっての!」

 とか、

「やっぱ、信号って守った方がいいのかな? ウチ、今まで信号守るとかなんとか考えたこともなかったんだけど、子供のこと思ったら、やっぱ親が信号無視してるとかヤバくね? 余裕で真似するよな?」

 とか、

「三学期終わったら、髪、黒くしようかな。どう思う?」

 とか、他愛ないことを話し掛けてきてくれた。俺はそれに、

「だよな。ウンコの始末もできねえなら飼うなって思うよな」

「おう、信号は守っとけ。他の奴らが守らなくても羅美は守っとけ。それでうっかり撥ねられでもしたら、歩行者の方も過失責任問われるぞ。法律守るってのはあくまで自分を守るためにすることだ。万一の事故に備えて保険に入るのと一緒だって考えたらいい」

「黒くしたいんならしたらいいんじゃないか? 今の髪も嫌いじゃねえけど、黒髪の羅美も可愛い気がする」

 って、ちゃんと羅美の話に耳を傾けて、応えさせてもらった。

 それが俺も楽しくてよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る