裏マニュアル
『あの高校の卒業生は採用するな』
人事担当がそんな裏マニュアルを作ってるらしいというのは、まあこれまでにもちょこちょこ表沙汰にはなってるよな。本来なら<差別>ってやつに当たるだろうから本当はダメなんだろうが、そういうマニュアルを作りたくなるのも個人的には分からないでもない。今はマシになってきてるらしいが、あの学校、実際に通ってた
俺も、<学歴>で何が分かるのかについては懐疑的ではあるものの、でも、『だからこそ』なんだろうなとは思う。何しろ、<いい学校>に入るにはそれなりに努力が必要だったはずだ。そして、<いい学校>を卒業するにはそれなりの能力が求められるだろう。応募してきた人間のことについてロクに情報がない段階では、『いい学校を出た』というのは当人がした努力と能力をある程度は担保してくれる可能性が高い情報ではあると思う。だから、最低限の能力が保障されてそうな中から選びたいというのは、当然の発想だと思う。
無論、
<通信制の高校>に対する世間のイメージも必ずしもいいとは言えないことも知ってる。けどな、今通っている公立高校の時点で評価は最悪なんだ。だからこれ以上は下がりようもないさ。
と、考えることもできるだろう。
なあに。今の時点で一流企業への就職なんか望み薄なのは確定してるしな。だったら、羅美の境遇を前面に押し出して同情してくれる職場ってのを探すという手もある。
『汚い』って? 『狡い』って? はっ! 他所様を妬んで足を引っ張ろうとするような奴がそれを言うか? 他所様の足を引っ張ろうとする輩がやってることよりはまだマシってもんだと思うけどな。
まあそれについてはもう少し後で考えるさ。
いずれにせよ<中卒>よりは<高卒>の方が僅かばかりでも門戸は広がるだろうしな。
とは言え、今はまだ『途中で通信制高校に転入する』なんてのがそもそも一般的とは言い難いだろうから、羅美自身が明らかに戸惑ってた。彼女に理解してもらうのが当面のハードルだな。それさえクリアすれば後は単に手続き上の問題だ。
栗原も言う。
「当自治体では、学習の意欲がある児童に対する支援制度をいろいろご用意しています。ですので、経済的な面での心配はそれほど必要ないでしょう」
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