悪目立ち

 そうだ。一口に<悪目立ち>とは言っても、悪逆非道な感じで悪目立ちしてる場合と、そこまではいかないものの突飛な素行で悪目立ちする場合があるだろう。大虎、<大戸おおと羅美らみ>は後者って感じか。

 人当たりはそれほど悪くなさそうだから、友達とかも作るのは難しくないかもしれない。だが、

「大虎は、なんかグループみたいのを作ってるのか?」

 問い掛ける俺に、牧島まきしまは、

「う~ん、それが逆に孤立してる感じっぽいってのが娘の印象らしいんだよね。学校でも別に誰かとツルんでる様子もないし、話とかもしないし。特に教師とはまともに口をきこうとしないんだってさ」

 とのこと。

「なんか、俺が見た印象とは違うな」

「へえ? どんな風に?」

「いや、どっちかってえと、なんか悪い仲間とツルんでウェーイってやってそうな気がしたんだけどな」

「そうなんだ? ああでも、学校なんかとそれ以外じゃ印象変わる子っているよね」

「まあ、そんなもんなんだろうけど。なんかやっぱ、あれは<演技>だったんだろうなって気がしてきたよ」

「だけど、それが向こうの作戦かもしれないよ? そう思わせて同情を買うっていうさ」

「だよな……その可能性は高いよな……ほだされちゃダメだよな……」


 なんてやり取りをして、仕事終わりにも牧島に、

「警察から何も連絡がなかったところ見ると、別に騒ぎにはなってないかもしれないけど、やっぱ、ちょっとでも金になりそうなものはなくなってたりするだろうから、気を付けた方がいいよ。あと、Wi-Fiのルーターとかも置いてるんだろ? パスワードが書かれてたりするからそれ見てWi-Fiを勝手に使われたりってこともあるんじゃないか? もしそれでなんかやらかされてたりしたら、面倒なことになるかもね。私も証言はしてあげるけど、覚悟はしておいた方がいいかもね」

 って言われて、

「あ……!」

 と思ってしまった。そうだ。盗まれて困るものは別にないが、うちのWi-Fiからなんかネット使った犯罪行為でもやられてたら、これは確実に俺も責任を問われるヤツじゃないか。怪しい奴を部屋に一人にしておくとか、<重過失>って言われても仕方ないぞ……

 自分の迂闊さに頭を抱えながら、俺は焦る気持ちを抑えて慌てずに家に帰った。今さら慌てたところで手遅れだしな。そこで焦って車に撥ねられたり駅の階段を転げ落ちたりしたらそれこそ目も当てられん。

『泣きっ面に蜂』

 って言葉もあるが、そういうのは狼狽えたり焦ったりして注意力が散漫になった所為でやらかすことも多いと思う。

 なら、

『焦った時こそ冷静に』

 だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る