ディーノ246GTティーポM
『これってディーノってヤツだよね』
まさか女子高生からその単語が出てきたことに俺はつい、
「知ってるのか!?」
声を上げてしまった。
いわゆる<クルマ好き>なら別に知ってても何もおかしくないが、かつてのスーパーカーブームの頃に青春を過ごしていたであろう五十代以上の女でさえ知らないであろうその名を、まさか令和の女子高生が知ってる……!?
この事実に、俺はますます頭が混乱した。すると大虎は、
「ウチのホントの父親がさ、乗ってたんだよ。ディーノの246GTでティーポMってのにさ」
ディーノのミニカー(こっちは246GTじゃなくて206GTだが、さすがにそこまで区別はつかなかったか)を手に取ってまじまじと見ながらそう言った。
「マジか……」
とは思ってしまったものの、唖然とする俺を見て、大虎は、「ニヤア」と邪悪な笑みを浮かべて、
「マジで男ってチョロいよね。こんなの、前にやたら自分のコレクションを自慢してくるのがいて、そん時の奴が言ってたのをそのまま言っただけじゃん。それを身の上っぽく言ったらそれだけでほだされそうになってやんの。キャハハ♡」
と嘲笑った。
それが完全に図星だったことで、俺はカアッと頭が熱くなるのを感じる。だが、ふと、頭によぎるものがあって、
「じゃあ、これは何だよ?」
手近にあったミニカーを手に取って、訊いてみる。それに対して大虎は明らかにギョッとした表情を見せつつもすぐにニヤニヤ笑いながら、
「えーっと、ハコスカ!でしょ?」
とか言いやがった。だが、違うな。俺が手にしたのは、
<ランサーターボGSR(ラリーアートカラー)>
だ。<ランエボ>の元ネタになったヤツ。確かに箱型のボディでシルエットはハコスカに似てるように車に興味のない奴には見えるかもだが、ぜんぜん違う。で、続けて、
「じゃあ、こっちのは?」
別のを手に取ると、
「あ、それはフェラーリでしょ!?」
勝ち誇ったように大虎は声を上げるが、残念、これは、超有名な、
<ランチア・ストラトスHF Gr.4(アリタリアカラー)>
だ。フェラーリファンとランチアファンに謝れ!!
そもそもフェラーリと言えば<
だからこいつは、
<ディーノ246GTティーポM>
しか知らないんだろうというのは察せられた。確かにその一つだけを知ってれば、いわゆる<クルマ好き>な奴相手には話のネタになるかもしれない。だが、男を手玉に取るための<ネタ>にしちゃ、それしか引き出しがないってのは、甘くないか?
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