確実な根拠まではないが

 大虎の実の父親が<ディーノ246GTティーポM>に乗ってたかどうかは、俺には分からない。ただ、こいつが男を手玉に取るためにクルマの話題を振るというのには、少々無理があると感じたのは正直なところだった。

 それに、ディーノ(208GT)のミニカーを手に取った時に一瞬見せた表情までが演技だったとは、ピンとこなかった。

 だから、確実な根拠まではないが、

『本当に実の父親がディーノ246GTティーポMに乗ってて、こいつはその父親のことが好きだったんじゃないか?』

 とは思ってしまった。

 するとなんか急に、スンと感情が冷めてしまって、

「そうか。ならもう勝手にしろ。今日一晩は泊めてやる。でも、俺に触るな。近寄るな。あと、これでも着とけ。新品だから」

 言いつつクローゼットの中からまだ袋に入ったままのスエット上下セットを放り投げた。

「え~? こんなダサいのイヤすぎる~。せめてピンクのがいい~」

 とかゴネるが、

「俺はピンクは着ねえ。それしかねえんだ文句言うな」

 俺はきっぱりとそう言った。

「え~? ぶ~ぶ~!!」

 風呂上がりでメイクしてなくてもそれなりに見られる顔で子供みたいに頬を膨らませるその様子は、なんだか小学生くらいのそれにも見えた。ただ、体は完全に、

 <出来上がった女のそれ>

 だったが。

 体は出来上がってんのに頭ん中は子供だから、いろいろおかしなことになるんだろうなとは思ってしまう。

『長女もこんな感じになるんだろうか……?』

 ふとそんな考えが頭をよぎるものの、長女はこいつとはかなりタイプが違うだろうし、あの前妻の下にいるなら、こうはならないだろうとも思った。むしろ俺と一緒に暮らしてたら俺に反発して捻じ曲がる気さえする。だから離婚したのはきっと正解だったんだろう。

 とも思うな。

 俺もそうだが前妻も世間体だけ考えて妥協した結果、長女が生まれちまったわけだ。は…っ! 運がなかったよな。可哀想に。

 それもあって、俺は大虎に自分の長女の姿を重ねてしまったのかもしれない。だから今だけは父親らしい態度でって気分になってしまった気がする。

 そうだ。どうせ今だけだ。

 まっとうな父親は自分の娘に欲情したりしない。ということは、俺が今、こいつに欲情する理由もない。

「ベッドは貸してやる。もう寝ろ。俺も寝る。お前の相手をしてたら頭がおかしくなりそうだ」

 さらにクローゼットから予備の布団を引っ張り出して、炬燵を避けて床に敷きながら吐き捨てるように告げてやったのだった。


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