仮の親子

 こうして俺と羅美は、<仮の親子>として改めて暮らし始めた。いつまでそれが続くかは分からないが、まあ、羅美が自分で俺の下を去っていくまで…かな。

『そんなこと有り得ない!』

 とか、

『綺麗事を!』

 とか、自分の価値観だけで決め付ける奴なんか知ったことじゃない。自分と同じように考えない人間を認めないような奴は、そういう奴らだけで群れとけ。余計な口出ししてこなきゃこっちからも絡まねえよ。

 羅美の誕生日には小さなケーキを買って、さすがに一七本もそれに立てると針山みたいになっちまうから一本だけにして、ロウソクに火を点し、

「誕生日、おめでとう」

 ささやかにお祝いした。そしたらよ、羅美のやつ、

「えへへ♡」

 って、それこそ小さな子供みたいに照れくさそうに微笑わらうんだ。髪はまあまだ金髪だが、俺の前ではまったく化粧っ気のない、言ってしまえば野暮ったいすっぴんで、でもそれがたまらなく可愛くて。

 学校にも毎日、ちゃんと行ってるらしい。化粧はしてるけどな。化粧して気合いを入れないと行く気になれないそうだ。大変だな。

 その一方で俺の方も、警察の少年課の<溝口みぞぐち>や、児童相談所の相談員の<倉城くらき>とも度々連絡を取り合って、羅美の様子を伝えることにしてる。

古隈こぐまさんには本当にご迷惑をおかけして申し訳ないと思っています。ですが、大虎に煩わされなくなっただけでも我々としてもすごく助かってる次第でして」

 溝口の言葉に、

「まあ、大虎は、ある意味じゃ『人見知りが激しい』だけなんですよ。自分が認めた相手の前ではおとなしくするけど、そうじゃない相手の前だと無茶苦茶警戒して、獣みたいになっちまう。そういうことなんでしょう」

 と返した。

「<人見知り>…ですか……」

 いまいちピンと来てなさそうな溝口だが、別にそれで構わないさ。少年課ともなりゃそれこそいろんなタイプの子供と接する機会もあるにしても、どうも話を聞いてると溝口は典型的な<役人気質>で、たまたま少年課に配されて、<そんなに大きな事件じゃないが面倒な事案>を押し付けられてるって印象だし、当てにするだけ無駄だろう。ただの連絡要員と思っておいた方がいいな。

 で、児童相談所の倉城の方も、溝口と似たようなタイプだと、話してて感じた。どっちも悪い奴じゃないんだが、子供の相手をするには実は向いてないんだろうってことだ。基本的にはマニュアル人間で、自分が想定してる範囲外のイレギュラーには弱い感じか。

 子供の相手ってのは、イレギュラーの連続だしな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る