オッサンのクセに……

 その後、一緒に寝てると、大虎は泣いているみたいだった。背を向けた俺に縋るようにして体を寄せて。そんな彼女に、俺は、

「言い方はきつかったかもしれねえけど、俺は間違ったことは言ってないと思ってる。でも、悪かった…すまん……」

 と、背を向けたまま言う。すると大虎は、

「……うっせ…! 悪いとか思うんなら言うな……! オッサンのクセに……ダッセェオッサンのクセに……!」

 鼻をすすりながら憎まれ口を叩いてくる。なんかそれがこいつの精一杯の虚勢に思えて、

「そうだな……」

 とだけ応えて、俺はそのまま寝たんだ。


 で、翌朝、俺が目を覚ますと、大虎は泣きはらしたひどい顔で寝てた。その彼女を起こさないようにそっとベッドを下りて仕事に行く用意を始めると、ふと、床の端に並べられた化粧品に目がいって、それがかなり減ってるのが分かってしまった。

「……」

 別に化粧なんかする必要ないとは思いつつ、

『まあ、昔は<戦化粧>なんてのもあったらしいしな。こいつらにとっての化粧ってのは、そういう意味もあるのかもな……』

 なんてことも頭をよぎってしまって、

『余ったら化粧品でも買え』

 ってしたためたメモと一緒に五千円を置いていった。もしかしたらぜんぜん足りないかもだが、足りなきゃまた明日渡すさ。

 金には困ってないし。


 そうして会社に向かうと、

「で、大虎とはどうよ? 我慢できてる?」

 牧島まきしまが顔を見るなりそんなことを訊いてきた。

「当たり前だろ。誰がお前の娘の同級生になんか手を出すか……!」

 声を抑えながらも言い返す。そんな俺にホッとしたみたいに、

「ならいいんだ。手ぇ出しちゃったら、たぶんあんた、大虎に嫌われるよ? あんたが手を出してこないから大虎も居ついてるんだと思うし」

 とも言ってくる。

「そんなもんかね。なんか、ヤってる方が安心して居座れるような気もするんだけどな。気兼ねなく」

「そりゃそういうタイプもいると思うけどさ。話を聞いてる限りではなんか違うんだよねえ。どっちかってえと、周りに信頼できる大人がいなかったら、ただ反発してるだけっていうか、自棄になってるだけっていうか、そんな印象があるんだよ」

「……確かに、あいつの周りには、あいつをちゃんと子供として扱ってくれる大人がいなかったみたいだな。あいつの実の父親以外には」

「ふ~ん。なんか聞き出せたってこと?」

「いや、聞き出したってえか、俺が『お前の実の父親は、お前を可愛がるのに何か<対価>を要求するような奴なのかよ』的なことを言ったら、ショックを受けてたみたいだから……」

「あらら…大虎のウイークポイントをダイレクトに突いちゃったのかもね」


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