真っ向から否定してる

 <親の愛情>なんてものがいかにただの<幻想>か、俺自身がこれ以上ない<証拠>だろ。実子であるはずの長女に対しては愛情の欠片もねえんだからな。

 そもそも<人権>ってものを掲げなきゃならないってのがもう、<親の愛情>ってもんを真っ向から否定してる。親の愛情が常に正しいなら、そんなものが常に存在するなら、

『子供にも人権がある』

 なんて話をする必要もねえだろうが! 親の愛情が常に子供を守ってくれるはずだろうが!

 でも現実にはそうじゃねえから、人権ってもんを盾に子供を守らなきゃいけなくなる。何しろ子供を家畜みたいにこき使ってた時代なんてもんがあるくらいだからなあ? 

 だから俺も、羅美と羅美の子を守るために人権を利用させてもらうんだ。となれば、使える<制度>は片っ端から使うさ。

『なんでパパ活女なんかに税金を使うんだ!!』

 ってか? はっ! お前の共感なんか期待してねえから心配すんな! 他者の共感がなきゃなにもできねえ奴なんか最初はなからあてにしてねえよ! それに、

『パパ活女を買ってる奴らが払ってる税金からいただく』

 ってえ考え方もできるだろ? 羅美と羅美の子にかかる程度の額ならな。パパ活女に金を払えるほどの余裕があるんなら、自分が払った税金がパパ活女のために使われたって痛くも痒くもねえだろ?

 それが嫌ならパパ活女なんか買ってねえでもっと有意義なことに使え。

 そうだな。自分の子供にいい教育でも受けさせてやれよ。自分の子供の夢を応援してやれよ。


 とまあ、そういうわけだ。

 すると、倉城じゃ手に負えないってことになったからか、

「初めまして。この度、改めて大戸羅美さんの担当をさせていただくことになりました栗原くりはらと申します」

 なんて言いながら、<新しい担当者>が部屋を訪ねてきた。

 これがまた見るからに<曲者>って感じの、よれよれの背広にしわだらけのワイシャツ、擦り切れたネクタイといういでたちのオッサンだった。

『ああ、倉城以上に厄介事を任される役回りの人間だな』

 と俺も察した。

 そんな栗原は、羅美に向かって、

「それでは、羅美さんは正式に保護を求めるということでよろしいですね?」

 問い掛ける。

「……」

 憔悴しきった羅美は、黙って頷くだけだ。

「分かりました。ではこれ以降、うちで対応させていただきます。ご両親につきましては、これまでにも私どもの方からも何度もお話させていただこうと接触は図っていたのですが一切応じていただけませんでしたので、協力の意思なしと判断させていただくことはできます。その前提でサポートさせていただきます」

 本音を言わせてもらえばどこまで信用していいのか分からないタイプだったが、少なくとも倉城よりは役には立ってくれそうだ。


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