<アリバイ>が必要
さて、これでまあ<羅美の子>を産んでもらって育てることが決まったわけだが、前妻との間に生まれた長女については全くと言っていいほど育児を行ってこなかった俺が育てられるのか? と言われれば、むしろ今だからこそ育てられる自信があるな。あくまで<前妻との子>だったからその気になれなかっただけなのも分かるし。
ははは、最低だろ? そんなことは百も承知だ。俺は最低な人間だよ。けどな、最低な人間だからっていつでもどんな時でも最低な振る舞いをするべきとは限らないよな? なら、今の俺にできることをするだけだ。
とは言え、育児に必要な知識については、正直、心許ない。だから児童相談所の倉城に連絡を取って、
「とにかく、そういうことで俺が大虎の子を育てることにした。だから協力してほしい。取り敢えずは、<育児教室>みたいなものに参加したいんだが」
と告げた。そんな俺に対して、
「私達も可能な限りの支援を行いたいとは思いますが、出産に至るまでの諸々の点で難しい部分はあるかもしれません」
などと弱腰だ。まあ、いかにもな<お役所対応>だな。でも、そんなことは承知の上だ。だから大して期待もしてない。そこで、
「病院で出産するのには親の承諾がいるみたいな話だろ? そこは悪いがあんたらに頑張ってもらう。大虎自身が児童相談所に保護を求めた上で出産するって形にできるはずだ。と言うか、してくれ。これは<相談>じゃない。<要請>だ。大虎と大虎のお腹の子に対する保護要請だ。嫌とは言わせない。あんたらが渋るならもっと上に直接請願するだけだ」
きっぱりと告げさせてもらった。ここで弱腰になったら、面倒を嫌うお役所はなんだかんだと言い訳を並べて関わり合いになることを避けようとするだろう。だからここは敢えて強気に行かせてもらう。ここで断ったら余計に面倒なことになると思わせるんだ。
『自分が育てるとか言ってて役所を頼るのか!?』
とか言う奴もいるかもしれないが、あのなあ、俺には実質的な<保護者の権限>がねえんだよ。未成年者が病院で出産するには保護者の同意が必要なところがほとんどのはずだ。病院としてもその辺りの厄介事は避けたいだろうからな。となれば、保護者の代わりに役所が後ろ盾になってくれてるという<アリバイ>が必要なんだよ。
俺は最低な人間だ。だからいまさら正攻法に拘るつもりもない。羅美の今の両親を説得するなんて無駄な手間を費やすつもりはねえよ。
自分の娘が何ヶ月も帰ってこねえのに捜索願も出さねえような親なんて当てにするだけ無駄だろ。
だから<人権>ってヤツを徹底的に利用させてもらう。
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