似たタイプ

 そこまで考えてふと思った。

『もしかして大虎って、牧島まきしまに似たタイプか……?』

 相手の懐に飛び込んで自分のペースに巻き込んでしまう。って辺りでは。

 ただ、今の大虎は、明らかに牧島ほどは上手くやれてないんじゃないかな。度々警察と揉めるのも、俺を脅してでしか居座ることもできないのも。

 だとしたら、牧島と大虎はどこで違っちまったんだ?

 高校の頃の牧島は、学校では目立たない、いるかいないか分からない奴だったそうだ。だがそれは、牧島曰く、

「ウザい連中に目を付けられないようにするための擬態、かな」

 ということだったらしい。対して大虎は、悪目立ちしているという。

 <似たタイプ>だってことなら、この差はいったい、なんなんだろうな。何がきっかけでそうなっちまったんだろう。

 家庭環境で言えば、

「まあ、うちの親も、子供に<金剛ディアマンテ>とか<蒼王サファイア>とか付ける奴だったしな。しかも、聞いた話によると孫にまで<煌輝ファンタジア>とか<星煌スターライト>って名前を付けたらしい。私がさっさと逃げたから娘と息子は被害を免れたけど。娘と息子は、知っての通りものすごく平凡な名前だよ。

 でも、キラキラした名前を付けるまではまだ『馬鹿だなあ』で済ませられたんだけどな……子供をペット扱いするのだけは許せなかった。だから私は親を見限ったんだ」

 と、以前語ってたくらいには、ロクなもんじゃなかったらしい。

 対して大虎も、少なからずロクでもない家庭環境だってことは察せられる。娘が家に帰らなくても、警察から連絡がいっても、動いてる気配がない。まともな、と言えるかどうかは分からないが、娘のことを心配してる親ならそれこそ『誘拐された!』って騒いでもおかしくないはずなのにその気配すらない。俺が逮捕されないのがその証拠だ。もちろん逮捕されたいわけじゃないが、娘がどこの誰とも分からない中年男の家に転がり込んでて放っておく親がまともなわけないだろ。

 牧島の場合は親戚を頼ったから、まだ分からないでもないか。

 いや、<頼ることができる親戚>がいることとそれがいないのとでは、大きいのかもしれないな……


 なんてことを考えつつ家に帰ると、

「おかえり~♡」

 今日はちゃんとスエットの上を着てエプロンを着けた大虎の姿があった。

「裸エプロンはやめたのか…?」

 俺が尋ねると、

「だってオッサン、ぜんぜん襲ってくんないしさ~。無理に我慢してんのかとも思ったけどそれも違うっぽいし、好みじゃないのかと思ってさ。てか、オッサン、ホモ?」

 とか言ってきやがった。だから俺は、

「違えよ。前にも言ったろ。俺は<清楚系>が好みなんだよ」

 吐き捨てるように言ったのだった。


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