強かに生きていくタイプ

「で、結局、大虎を家においてやってんだ?」

 会社では、牧島まきしまがそう話し掛けてきた。

「ああ……成り行きでな。出ていけって言ったら、『誘拐と強姦で訴えてやる!』って言われたよ」

「あちゃ~…その辺りは女のが有利だからねえ。昔に比べて被害を訴えやすくなった分、逆にそれを悪用できることに気付いたのも増えてきたみたいだし」

「まったくだ……勘弁してほしいぜ……」

「でも、冤罪は昔からあっただろうけど、疑われただけで社会的に殺されるってのも、昔からだったしね。それは変わりないか。ってか、ネットが普及したことで余計に状況が悪くなってるってのはある気がする」

「ホントだよな。詳しい事情も知らねえくせに正義面して私刑加えようってのがやりやすくなったのはあると思う。冗談じゃない」

「嫌な世の中だねえ……」

 この辺りの感性は、牧島は本当に男寄りだと思う。聞けばこいつの親も、<金剛ディアマンテ>なんてえ名前を付けるくらいだからまあ『お察し』って感じのだったそうで、中学卒業と同時に親戚を頼ってこっちの方に来たという。大虎も通ってる高校を受けたのは、当時の学力でも確実に通える公立校だっただけで、別に入りたかったわけじゃないそうだ。とにかく親から逃げられればどこでもよかったとか。

 で、大学にもどうにかこうにか進学して、コネも作って何とかうちの会社に入社。今の旦那と結婚して子供も二人作って、まあまあ幸せにやってるそうだ。家事が得意な旦那と。

 それでも、下衆な奴らからは出身校のこととかコネも利用して入社したこととか旦那に家事を任せっきりなこととかについてもあれこれ言われてるらしい。

 まったく、他人の家庭のこととかどうでもいいだろうが。何様のつもりだってんだよな。

 牧島がコネを作れたのも、こいつがそれだけ有能だからだ。するっと相手の懐に入り込んで、あっという間に仲良くなっちまう。そのおかげでクライアントからの受けもよく、それだけじゃなくて実際の実務能力もあるから、今じゃこの会社に欠かせない人間になってる。だから余計に妬まれてる部分もあるらしいが。

 それでもこいつは、常務と家族ぐるみの付き合いにまでなって、実は娘や息子が他にやりたいことがなければ大学を卒業したらうちの会社に入れるようにと手を回してるとも。自分の能力を最大限に活かして強かに生きていくタイプだよな。しかも別に後ろ暗いことをしてるわけでもない。まっとうに人間関係を築いてそれを利用してるだけだ。

 正直、俺も羨ましいと思うことはある。だが、別に妬むつもりもねえよ。

 こいつはすごい奴だ。それは間違いねえ。


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