実は一体じゃない

『実の親がどんな人間でも、実際に育てる人間の接し方でまったく違うように育つってのを見せてやる』

 俺の狙いの一つはマジでこれだ。

『長女もまともに育ててなかった奴が何を言ってるんだ?』

 と考える向きもあるだろうが、まあ、長女は俺を嫌ってるだけでまだまっとうに育ってる方だと思うし、ダメな父親だったこと自体が大きな経験になってるからこそ、何がマズかったのか今なら分かる。

 分かるが、残念ながら前妻と長女に対してはその気持ちが向かない以上は、俺はやっぱりロクでもない人間であることも事実だ。

 けどな、<ロクでもない人間>であることと、『子供をまっとうに育てられるかどうか』ってのは実は一体じゃないってことも見せてやるよ。


 二月に入っても、羅美は淡々と学校に通ってた。学校では完全に無視されているのも相変わらずだ。教師にさえ無視されている。羅美に対しては挨拶さえしてこないそうだ。ここまで徹底してるとむしろ清々しいな。

 羅美も別に気にしていない。

「ウチ、キョーシから嫌われてるし、今さら好かれたいとも思ってないし」

 とのことだ。

 それはある程度の強がりも込みだとしても、無理をしてるわけでもないのは表情や振る舞いを見ていれば分かる。家での羅美は本当にリラックスしてるんだ。悪阻も収まってきたみたいで、暖房を効かせあったかくした部屋で下着姿で寛いでたりもする。

 そういうのを、

『だらしない!』

 と言って嫌う奴もいるだろうが、別にそれを嫌うような奴と付き合わせるつもりもないから心配すんな。これまで全く安心できなかったのがこれだけ安心できるようになったんだ。それを満喫して何が悪い。今の羅美に必要なのは<安らぎ>なんだよ。家の中でまでくだらねえ虚飾に拘ることじゃない。

「ん~……むっ!」

 とか声を上げて、

「バリッ!」

 って感じで<屁>をぶちかましても構わない。俺も逆にすごくホッとする。前妻はそういうところもちゃんとしようとする女性だったから、本音では息が詰まるのを感じてたんだ。要するに本当に相性が最悪だったんだよ、俺と前妻は。俺は家ではだらしなく寛ぎたいタイプなんだ。しかも妻に対しても家ではだらしなく寛いでほしかったってのもある。

 俺の前で屁をかまそうが、全裸で寝っ転がって尻を掻いてようが、そんなのは全然かまわない。人間がそんな四六時中きっちりとした姿を保てるなんて俺には理解できない。むしろ俺の前では油断した姿を見せてほしかった。外ではきっちりしてても、俺の前でまでそんな気を張った姿でいてほしくなかったんだ。

 それこそ、今の羅美みたいにだらしない姿を見せてほしかったんだよな。


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