真っ先に羅美のことが

 そして俺は普通に仕事をこなして、普通に会社に戻ろうとしていた。羅美は終業式だったからそれこそ昼前には家に帰って、

『帰ったよ。別に何も言われなかった』

 とメッセージが届いてた。なんかもう、この手の物語だとだいたいこういうタイミングで何か起こるからな。俺も気を付けないと。

 で、右折の矢印信号が出たから対向車の二トントラックが止まったのを確認して右折しようとした時、その止まった二トントラックの陰から猛スピードで飛び出してきたのがいて……

「え……?」

 本当に一瞬だったが、頭の中にこれまでのことが猛烈な勢いでよぎった。<大虎>だった頃の羅美が今の羅美になるまでの様子がダイジェストで流れたように思う。

『走馬燈ってマジにあるんだな……』

 そんなことを思った。と言うか、なんであの一瞬でそんなことが思えるのか不思議にさえ感じた。

 何なんだろうな、あれは。

 そして同時に、俺が運転してた営業車の中がそれこそまるでドラム式の洗濯機にでもなったのかってくらいにぐちゃぐちゃに掻き回されて、

『ああ……俺は死ぬのか……ごめん……羅美……』

 とも思ったよ。


 けどまあ、結論から言うと、時速百キロ超で突っ込んできた対向車が俺の乗ってた営業車のボンネットの左に衝突。営業車は衝撃で対向車線を四回ばかり転がってたまたま屋根を上にして停止。さらにたまたま通りがかったパトカーがすぐさま対処してくれて、俺は救助されたんだが、転がった時に頭をどこかにぶつけたか額を切って流血してたもののそれ以外は何ともなくて、シートベルトとエアバッグの効果を思い知らされたよ。

 もっとも、それ以上に俺が強運だったらしいが。

 衝突してきた相手のは、<クルマ好き>としてイメージを下げたくないから敢えて車種は伏せるが<お高い国産スポーツカー>だった。イキった馬鹿なドライバーの所為で、ボンネットがぐしゃぐしゃどころか、衝突した際にスピンしてガードレールと中央分離帯に何度も衝突して、全面無事なところがなかった。一見しただけでもルーフまで大きく歪んでて、一発廃車なのが分かっちまった。

 で、救助されて、何気に相手のクルマを見た俺が一番に思ったのは、

『可哀想だな……』

 だった。真っ先に羅美のことが出てこない自分が情けなかったなあ……


 で、念のため、病院に救急搬送されたものの、額を三針縫っただけで、他は本当に目立った怪我はなかった。ただ、<ムチウチ>の類はレントゲンに出ないこともあるので、しばらく様子を見ないといけないけどな。


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