第108話 ドヴェルグ王国の危機 前

▶ ▶ ▶


『……何じゃあれは……でかいのぉ……』

『王よ……王が見た夢のとは違うのですか?』


『あれ……は違う……と思うんじゃが……気持ち悪いのぉ……』

『ですなぁ……』


 ドヴェルク王は衛兵からの報告があり城の物見台から外を眺めていた。そこには正体不明の『触手の穴』から無理やりでてこようとしている巨大な妖魔がいた。タコやクラゲの様に触手が生えているのだが……ドヴェルク王国は内陸の山の中にあるのでタコの存在を知らないので余計気持ち悪く、不可解な生物が出てこようとしている……鉱石人たちにかなり不快な印象を与えていた。


『王よ! 最後の『穴』が閉じたようです! 線が消えました!』

『さて……どうなる?』


 兵士からの報告で、『触手の穴』へ他の周囲の普通の『穴』から魔力の流れがあったらしく、魔力視を強めると流れがわかる……との事だったので、魔力量が多い鉱石人が注意して見張っていた。


 触手型の妖魔は何かを察知したらしく、からだをかなりくねらせながら無理やり狭い穴から這い出て来ようとするが……途中で穴が閉じてしまい、一部の触手が切り落とされて体重を支えられなくなり地面に落下していく。


ズドォオオン!


 かなりの重量があったらしく、凄まじい落下の音が聞こえる。土埃が舞う中、巨大触手型妖魔は触手を伸ばし、近くにあった岩を持ち上げ……そのまま地面に打ち付ける。


ドォン!!!


ドォン!!!


ドォン!!!


 打ちつける度に地面が揺れ、まるで地震のようだった。巨大触手型妖魔は何度も叩きつけるので周辺の建物や城壁への被害がかなりでている感じだった。


『あやつは何がしたいんじゃ! 建物がすべて壊れるぞ!』

『あの岩をこちらに投げられたら……厳しいですね……なんという怪力……』

『あの形でも仮面をつけておるな……あれでも妖魔か……』


『王よ、救難信号を撃ち上げておきますか?』

『そうじゃな……『穴』の浄化を終えた部隊が戻ってくるといいんじゃが……余力があるといいのぉ……』

『戦士長たちでも……何ともならない気がしますな……』


 ドヴェルク王はしばし考えていたが……部下に命令を出す。


『あれを使うぞ!』

『……アレ? 開発中のアレですか? あれはまだまだ開発中です! そもそも移動できません!』

『上半分だけ持ってくればいいだろう! なんとかして城壁まで持ってまいれ!』

『わ、分かりましたよ……知りませんよ!』



 そう言うと部下の鉱石人は見張り台から急いで降りて伝令に行ってしまう。それと入れ替わりにシンプルな司祭の衣をまとったやや白髪交じりの鉱石人が見張り台のはしごを登ってくる。



『王よ、大変じゃ。あそこの下は、地下神殿の真上じゃ』

『……禁忌の場所か?』

『そうじゃ。あの封印された扉の先のハズ……あとで神官が地図を持ってくる……防がねばやばいことになる!』

『もしや、報告にあった例の悪夢の場所は……禁忌の神殿なのか?』

『そうかもしれんのぉ……暗い地面の穴から這い出る妖魔の群れ……この命の吸われた木々と大地……ここじゃったんじゃろうな……』

『むぅ……狐っ娘がもっと大きいとの報告じゃったのに! 色々と時間がずれすぎじゃ!』


 王は拳をものすごい力で城壁の縁に叩きつける。しばらく何かを考えた後に司祭の方を見る。


『……ワシは……どうすれば……スヴェトニグ先生どうしよう?』

『……お、王よ、ここぞという時だけ先生扱いするのはよせ! お前が判断しろ!』


『……むぅ……あ、今度はあやつめ、地面を掘り出したぞ!……やはり地下神殿が目的か?』


 ドヴェルグ王とスヴェトニグ司祭が見ている先では、巨大触手型妖魔が岩を投げ捨て触手で不器用に地面の岩や土、木などを触手に巻きつけ投げ飛ばして掘り出す。


『危険? なのじゃな? 街への被害は……今の所なさそうじゃが……』

『禁忌に触れてはならぬと言う教えが……禁忌の内容が分からぬのだが……王よ伝えて聞いておらんか?』

『……すまないがワシもわからん……』


 王と司祭が見つめ合うがその先どうすればいいかわからないままだった。


▶ ▶ ▶


 俺たちヴァノマーパルからの救援部隊と鉱石人の戦士達、レスタジン王国の元工作員の精鋭を募った。巨大型に太刀打ちできるのが条件だったので怯むものも多かったが、隊の半分は一緒に討伐の協力をしてくれる事になった。大型の相手ができなさそうな装備のものは強制的に居残り……魔石運びなどをやってもらうことになった。


『では、皆のもの参るぞ!』

『オゥ!!!』


 鉱石人の気合のこもった返事を合図に俺たちは移動を開始した。もちろん『流星の狩人』は全員参加だ。正直なところ俺は魔力が全快には程遠いので辞退したかったが……




『音が消えましたね』

『そうだね……叩く様な轟音はしなくなったね』


 高速移動しながらミィナスが話しかけてくる。その脇を風の様に疾走するヴィナルカが補足するように呟く。


『ええ、でも例の嫌な気配は残ったままね……』

『わかるのか?』

『ええ、チサト、あなたもわかるのではなくて?』


『え? ……うーん。この、ドロッとした、モヤーっとしたやつかな?』

『え、ええ、多分それね……』


 ヴィナルカの問いにチサトが不安げに答える。神託などを受ける人間にはわかるということなのだろうか? 俺は周りを見回すが、チームメンバーも感心している様だったのでおそらくそうだろう。そんなことを考えていると前方の城壁あたりから救難信号が空高く打ち上げられ、全員の顔が引き締まっていく。



『見えました! 巨大触手型と……あれは?』


 先行していたミィナスがちょうど枯れた草木の地点に差し掛かり妖魔の存在を知らせてくれようとしていたが、何と行っていいかわからない様子だった。俺たちにも妖魔が見える状態になり前方が一気に開けて見える。


「タコ?」

「イカ?」

「タコですかね?」

「クラゲとタコを足した感じだなァ……気持ちわりぃ」

「……戦車?」

「なんか色々途中な兵器に見えますね……」


 テンセイシャ組が日本語で状況報告をし合うが正直状況がわからない……大砲なのかあれ? あれを撃つ?


 俺たちが混乱しているとヴィナルカとヴォルスが状況を理解したようで軽く解説する感じで話してくれる。


『砦の防衛戦で『穴』からたまに出てこようとしていた触手型ね。あんなに大きいのね』

『あれは噂に聞く、巨大な弾を撃つ……大砲か? ……歴史的遺物だな』


『おお、博識じゃな! あれはドヴェルク王国の地下遺跡にあったと言われている魔法の砲弾を撃つ装置じゃ! 移動させる装置を作っておったはずだが……おお、巨人族の手を借りて移動させておるのか』


『たしかまだテスト段階のはずなんだが……』


 ドヴェルク族の戦士長が鉱石人の仲間と顔を見合わせながら困惑の表情になる。



ズドォォン!


 大砲の先から火と煙が吹き出し、巨大触手型妖魔の腕が何本も吹き飛ぶ。大砲自体は撃った反動で城壁の方まで吹き飛び、移動させていた急造の荷車のようなものを粉砕していた。


『なぜ攻撃を!』

『あれでは街に引きつけるようなものじゃないか!』


 そこにいた一同は危機を察知し更に高速で移動を開始する。




▶ ▶ ▶


 ドヴェルク王が城門前の広場に集まった鉱石人や巨人族に魔力で声を増幅させて大きくして国民に演説をする。


『同志たちよ! 我々はあの巨大妖魔を討ち取らねばならない!』


『……』


 広場に集まった鉱石人の戦士や巨人族はお互いに顔を見合わせあってどうすればいいかといった表情をする。


『今の我々は危機にひんしておる! お前たちも見たであろう! 夢の啓示では死の大地から這い出る妖魔達に殺される夢を見たものもいるだろう! 今がまさにその時だ! あの巨大妖魔が掘り起こす場所が夢の啓示にあった死の大地! 掘り起こされ大穴が空いたら妖魔の群れが押し寄せ、ここにいる多くのものが死ぬだろう! 街にいる家族たちも殺されるであろう! 我々がこの2ヶ月準備してきた力をすべて注ぎこむ時が今じゃ!』


 広場に集まった鉱石人と巨人族の顔が引き締まっていく。中には怯えた顔をするものもいたが殆どが戦う顔に切り替わっていく。


『国を! 仲間を! 家族を守るのじゃ! 同志よ! 立ち上がるのじゃ!』


『オーッ!!!』


 広場に集まった鉱石人と巨人族が持っている武器を掲げる。衛兵長や戦士長が集まった人間に槍を配る。口金部分(槍と穂先の接合部分)にやたら大きい装置のようなものが付いている槍だった。


『扱いには気をつけろよ! 突き刺すと爆発するぞ!』

『必ず穂先を真上に! 仲間に当てるなよ!』


 槍を持ったドヴェルグ王国軍500人は開かれた城門から行軍を開始し、巨大妖魔の前に軍を展開する。


『悪夢の光景だな……ワシはここで死んだ……』

『元々あまり植物のない荒野だったが……まったく命が感じられんな……』

『俺、俺もここで妖魔にやられた……』


 城門を出た鉱石人や巨人族は、触手型妖魔によって一変した死の大地を見て不安そうな顔をしながら陣を組んでいく。

 




 城壁の見張り台に戻ったドヴェルク王は配置についた大砲と戦士達をみて攻撃の合図を出す。


『大砲! 撃てぇ!!!!』


ズドォォン!


 巨大な大砲からものすごい轟音がした後に強烈な威力を持った砲弾が射出される。砲弾はかわす素振りを見せない巨大触手型妖魔の触手を何本も貫通して吹き飛ばしていく。が、射出と同時に土台の木組みの滑車などが威力に耐えられずにまとめて壊れて砕け散っていき大砲が横転してしまう。


『ああっ! 一発しか撃てないのか!』

『威力がありすぎだな……土台が脆すぎたか……』

『しかし、風穴はあけられたようじゃな!』


 ドヴェルク王とスヴェトニグ司祭が状況を見て慌てて巨大な戦斧を持って見張り台から駆け下りながら下で部隊に指示を出していた隊長らしき人に質問をする。


『状況は!』

『城壁上に弩部隊を配置、残った戦士達も大型の武器を持ち突撃できる準備完了しています!』

『わかった! ワシも出る!』



 巨大触手型妖魔は体の一部を吹き飛ばされながらも変わらずに地面を掘り続ける。そこにドヴェルク王とスヴェトニグ司祭が巨大な戦斧を持って到着する。


『気にも止めずにも彫り続けるとは……』

『やはり何かあるのぉ……』


 王が隊列を組んだ戦士たちに号令をかける。


『第一陣! 爆発槍構え! 投擲!』


『ウォーーーッ!』


 20人の巨人族や鉱石人が口金部分の大きな槍を投げ、巨大触手型妖魔に突き刺さると爆発魔法のような爆発が起きる。20本前後もあるので絨毯爆撃のような感じになっていた。投げ終えた者は隊列の後ろの方に移動し、次に槍を構えた部隊構えにでてくる。


『第二陣! 爆発槍構え! 投擲!』


『ウォーーーッ!』


 巨大触手型の妖魔は流石に堪えたのか、巨大な触手で自分の体を包むように展開し爆発槍を防御しだす、防御する度に触手が吹き飛んでいくが新たに生えてくる様で数がなかなか減らなかった。


『仮面を狙え!!! 第三陣! 爆発槍構え! 投擲!』


 完全に巨大触手型の妖魔は触手を防御にまわし、爆発で触手が損傷しちぎれて吹き飛んでいくが、再生力が勝りからだや仮面まで爆発槍が届いていない状態だった。

 ドヴェルク王が焦りの表情をしだし、悔しそうな感じで戦士長に爆発槍の残弾を確認する。


『くぅっ! 残り何本じゃ!』

『あと三陣分……60本です!』

『まとめて投げるしかあるまいか……』

『……危険だと思うのですが……援軍を待ってからでもよいのでは?』


 戦士長との会話を脇で聞いていたスヴェトニグ司祭が口を挟む。


『王よ……ここは賭けになりますな……』

『やるしかあるまい……民の半数が死ぬ可能性があるのだ……』


 ドヴェルク王は意を決し、部隊に命令を出す。


『第四陣、第五陣、第六陣一気に投げるぞ! 妖魔の仮面! 胴体を狙え!!』


 槍の投擲部隊も色々と理解していた様で、戸惑いながらも槍を投げられる様に投擲可能な者が左右に展開をする。それを見ていたドヴェルク王が一瞬考える感じになるが思いを奮い立たせて号令をかける。


『妖魔の仮面を狙え!! 爆発槍構え!! 投擲!!!』



ドォン!!ドォン!!!!!ドォン!!!!!


 凄まじい爆発音であたりに衝撃波が走る。煙もものすごく、巨大妖魔が完全に隠れて見えなくなるほどだった。


『や、やったか?』

『むぅ……嫌な感じの魔力の様な気配が残っておるな……』


 固唾を呑んで一同が煙が晴れるのを待つ……が、メキメキと言う音が聞こえ

、ユラユラと立ち上がる巨大な影が見えた……


『駄目じゃったか……』

『あれは……防げんのぉ……』


 巨大触手型妖魔は半壊した身体をフラフラとした感じで制御しながら巨大な岩を数本の触手で持ち上げ、今まさにドヴェルク軍に投げ放とうとしていた。


 王は軍の様子を見なくてもドヴェルク軍全体が絶望の雰囲気に包まれているのが分かるくらいだった。


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