第98話 捕縛作戦

♣ ♣ ♣


『先生! シャズイール先生! 気持ちはわかりますがしっかりしてください!』 

『ああ……ごめんなさい……任務を果たさなければ同じことだものね……あの子達が無事だと良いわ……』


 シャズイールは上の空になっていたが、気を取り直して『穴』発生装置に魔力を注入し、魔法の石の檻で捉えていた突撃イノシシの下に装置を投げ入れる。それを見た残りの2人が突撃イノシシに持っていた刀で何回も突き刺し血を流させる。先日の銃でのトドメよりも難儀している感じだ。


『ああ……この切る感じ……嫌だな……』

『んだな……魔石銃でズドンとやったほうが気楽だなぁ』


 ジャズイールはその様子をぼうっと眺めている。心ここにあらずと行った感じだった。ユズィとアルヴールが捕まったのが相当ショックだった様だった。


『先生……無理ですよ、あの相手じゃあの二人は取り戻せないです』

『んだな……おそらく隠れても、狐人族も耳長族もいた……なにをやっても見つかるなぁ……しっかし、なかなか死なないもんだなぁ……』


 ジャズイールは二人の遠回しに諦めろ……と言う会話の内容に更に落胆をしてしまう。突撃イノシシも傷を負っているが刀で切りつける二人を睨み、唸ることをやめない。



 ジャズイールはふと何かに気がつく。


『えっ? 何この反応? あなた達っ……』



 ズドォオオオオン!!!



 突然、魔法の石の檻と突撃イノシシが大砲の着弾があったかの様に爆散する。近くにいた生徒二人も突然のことに吹き飛ばされてしまう。少し離れていたジャズイールも同様に吹き飛ばされてしまうが何が起きているかすぐにあたりを見回す。


『ぐっ……どこから……えっ? ビナード! シュダルウィー! ああっ、そんな……』


 爆心地から近かった男子生徒二人がかなり吹き飛ばされて横たわっている。気絶をしているか……ジャズイールからは死んでいるかの判別は出来なかった。そんな事を考えている間にジャズイールは背後を取られ、その首には剣が突きつけられていた。


『動かないでくださいね』


 可愛らしい子供のような女性の声が後ろから聞こえてきた。ジャズイールはとっさに腰にあった自決用の薬を取ろうとしたが、動作を予測されていた様であっさりと叩かれてはたき落とされ、さらに腕を組み伏せられてしまった。呆然としていると続々と到着してくる強すぎる魔力反応の相手を前に絶望をするしか無かった。


♣ ♣ ♣


 ほんの少しだけ前に時間は遡る。


 『流星の狩人』の一行と両手を後ろで縛られたユズィとアルヴールは森の中を高速で移動する。

 普段の省エネと敵に気が付かれない様に移動する隠密行動とは違い、かなり飛んだり跳ねたりかなり軽快な動きをしていた。


『なぁ、これほどいてくんねぇか? 走りづらい……ってかお前ら早すぎ』

『このペースでずっと行くの? どんだけの魔力量よ……』


 ユズィとアルヴールは不満を漏らしながらも一行に付いていく。一番うしろにはヴィナルカが見張るように殿を務めている。ヴィナルカなら逃げた瞬間に射抜けるのと魔獣が来てもすぐ気がつくから一番うしろを努めてもらっている。前方にいるであろう相手の探知は一番前のミィナスにお願いをしている。

 

 高速移動中にアルヴールが何かを思い出したらしく俺たちに話しかけてくる。


『あ、毒、自決用の毒持ってるから気をつけてください! 無理だと思ったら死んじゃいますよ!』


『毒はどこに持っているんだ? 歯の中?』


『ああ……そんなところに毒は仕込まないですよ……腰のポーチです。小さい瓶に入っています』

『ははっ! そうだな「時代劇」とか「映画」でそんなんあったな! ハハッ!』


 なんか笑われてしまった……時代劇とか物語の中だけの話なんだろうか?そんな事を思っているとミィナスが振り返ってユズィをギロッと睨むがユズィはそっぽを向いて誤魔化す。




 突然ミィナスが止まり、皆に敵の位置を教えてくれる。


『いました。前方4町(500メートル)くらいの場所に3人と強めの魔獣の反応があります……』

『わかった。あ、二人共、索敵……魔力感知ってどれくらいの距離できる?』

『え? 「100メートル」くらいできれば上出来……よね?』

『……4町って「600メートル」くらいじゃなかったっけ……どんだけ? その子すごくね?』


『ありがとう。ミィナス、1町くらいのところまで近づいて……エルド、やれるか?』

『フフ。俺、出来るようになってる。任せろ』


 俺の問いかけにエルドが満足そうに微笑む。お披露目会でのショックから猛練習を重ねてかなりの威力と精度で砲丸を打ち出せるようになったからな。今日は実践デビューだ。


『何をやる気かしら?』

『わかんねぇ……コイツラちょっとすごすぎてわかんねぇ……』


 

 ミィナスの案内で100メートルと少しの所まで移動をする。もちろん風下だ。相手は視力強化で見えるがこちらに気がついていない。


『んじゃ、みんな囲むように展開して。自決を防ぐのと、戦闘不能にする感じで……手足は切れてもチサトが治してくれるから大丈夫……だよね?』


『うん……大丈夫だけど、タクマも過激になってきたね。あたしちょっと心配だよ』

『あーそうだね、だけど眠らせる方法とかいきなり麻痺させる方法とか無いからね……それじゃ、合図はエルドの魔力の高まりを見て動いて。細かい所は任せるよ』


 エルドと俺を残し全員が四方に散っていった。そう言えばヴィナルカの話だと麻痺毒はあるけど、即効性のものはあまりないらしい。そのへんは地球と同じ感じの様だった。麻痺の魔法とかあれば楽なんだろうなぁ……


 不安げな顔でアルヴールがエルドに質問をする。


『何をするの?』

『フフ。俺。これを思いっきり投げる』


 ユズィはその返答を聞いて理解をするのを諦めた表情をする。


『砲丸……魔力のかけら? わかんねぇな……大丈夫なのか? なんか嫌な予感すんだけど……』



『あ! エルド! やっちゃって! 『穴』を起動させようとしている! 今なら止められる!』

『分かった……』


 エルドが魔力を集中し始め、利き手の右手に砲丸を持ち魔力を集中させていく。と同時に身体の投げる筋力、目にも魔力の増加を感じる……最初に出会った頃にはここまでの魔力操作は彼は出来なかったな……鍛錬の成果だな。うん。


『セイッ!』


 エルドが投げる瞬間にさらに魔力を爆発させ、砲弾に力を完全に乗せ投げつける! 投げる瞬間にブォン!とかすごい音が鳴った! 考えるまもなく『穴』の起動装置周りに着弾し……え? ちょっと威力すごすぎない? 大丈夫なのこれ? 発生装置の周りにいた二人がなんか映画さながらに派手に吹き飛んじゃってるんだけど……


『よしっ!うまく行った!』


『え?』

『大砲……』

『死んじゃって無い? お、お兄ちゃん大丈夫かな……』

『先生は大丈夫みてぇだな……うぁ、ミィナスって子早すぎ……もう「制圧」してるわ……獣人ってみんなあんなにはえーのか?』

『あの子は特別早い様に見えるなぁ……大人と子供くらいの力量の差があるね……敵うわけ無いか、そりゃ……』


 二人が制圧する様子を見て感心したような呆れたような諦めの様な、複雑な感想を言い合う。とりあえず俺たちも現場に移動することにした。




 地面に組み伏せられたジャズイールが押さえつけているミィナスに問いかける。


『クッ……どうするつもり? 尋問しようとしても無駄よ』

『わたしはあなた達が死なない様に足止めをしていれば良いので少々お待ち下さい』

『……えらく丁寧ね……』

『それはどうも?』


 その横ではヴォルスとキョウカが吹き飛ばされた二人の状態を確認しながら雑談をする。


『どうやら気絶しているだけのようだな、一応縛り付けておけばよいか』

『そうね……それにしても……あれ……すごいな……攻城兵器みたいだったね……魔法の盾も貫通しそうだったね』

『巨人族ならでは……と言いたいところだが、巨人族は剛弓使いで有名であったな……あの様な大砲の話は聞いたことが無いな……』

『あれはタクマの槍の投擲からヒントを得たみたいよ。ものすごい練習してたかなぁ、エルドは。ウチと組み手あんまりしてくんなくなっちゃったし』

『ここまでやれるものなのか……恐ろしいものだ』


 話ししながらも気絶した二人を縛り上げるのを止めない。


『うん、こんなもんでいいかな?』

『縛り過ぎではないか?』

『そう? ヴォルスの縛り方は綺麗だな』

『叔父に練習させられた』

『ちょっと解くから教えて……』

『フム……熱心なの良いが、今で無くても良いのではないか?』

『それもそうね。あ、そっちの女性で縛り方教えて、ミィナスが押さえつけてるだけじゃない?』

『それもそうだな……』

 

 敵を前にして二人があまりに自然な会話をするのにジャズイールは唖然としているようだった……そんなところに俺たちは合流する。

 

『アルヴール……ユズィ……生きて……』

『先生!』

『良かった……みんな生きている……』


 二人の無事を見てジャズイールの目に涙が浮かぶ……


『ごめんなさい……せっかく生きているのに……私たちは失敗したわ……これで私たちの命は……明後日までになったわ……本当にごめんなさい……』


 謝罪する先生と呼ばれた女性に対して二人はいたたまれないような表情をする。


『先生……』

『先生、大丈夫よ』


『アルヴール……私の可愛い子……ごめんなさい……あなた達だけでも解放しようと思ったけど……駄目だった……』


 ジャズイールの頬には涙が伝い、本格的に泣き始めてしまう……そんな様子にアルヴールはうろたえはじめてしまう。


『えっと、先生……』


『最期に話しておくわ……あなたは私の実の子なの……言うに言えなくて……ごめんなさい……』


『えっと、知っているわ……先生……』


『えっ? ……なぜ? 知っているのは……もう生きていないはずなのに……』

『えーっと……テンセイシャは赤ちゃんの時から記憶があるの……最初は若いからお姉さんかと思ってたんだけど……』


『……え?』


『だって、私たちの世界ではあんなに小さい時に子供は産まないわ。だけど一番優しく接してくれる人だったからすぐに分かったよ。私をうんでくれた人だって』


『そうなの……』


『ありがとう。話をしてくれて。先生』


 ジャズイールの目からさらに涙が溢れ出す……アルヴールの目にも涙が見える。どうやらレスタジンの社会は複雑な感じなんだな……実の子と一緒にいられない?


 そもそも彼女たちの事を殆ど知らない……これから知っていかねばな……


『えっと……なんか感動のところ……すまないんだけどやっちゃうね』

『え?』


『あ、キョウカありがとう……なんか……わたしが悪者みたいで……』

『だよねぇ……ウチも押さえつけてる前では……いやかもね』

『ここで結び方を教えるのか……私も嫌だぞ……』


 ミィナスに代わり、キョウカがジャズイールを押さえつけ、ヴォルスに結び方を教わりながら腕を拘束縄で縛り上げていく。気絶している二人の方からチサトが声をかけて来る。


『こっちの二人は治療と、ついでに呪いも消しておいたわよ! あとはその「セクシー」なおねーさんね』


『ああ、よろしく!』


 縛り上げられたジャズイールがアルヴールに混乱した感じで話しかける。


『アルヴール……これは一体?』

『彼女、呪いを消す事ができるの』

『……本当に?』


 チサトがジャズイールに近づくと例の色の違う魔力を使って嫌な感じの気配を消し去っていく。ジャズイールも感じ取ったらしく驚きの顔を隠せない。


『……え……』

『これで大丈夫よ。母さん』

『まさか……『聖女』様なの……あ……『聖女』と言っても……呪いが発動しない……本当なのね……』


 ジャズイールが先程とは違った感動をした感じの涙を流し始める。一連の話でどれだけ厳しい環境に置かれているかを知った俺たちは黙って見守るしか無かった。


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