第153話 決心
◆ ◆ ◆ チサト視点
『まだ……起きないのか?』
『はい……たまに目が覚めて……食事とトイレを済ませるとまた寝たり、起きていてもボーッとして座っていたりしていて……』
『困ったもんじゃのぉ……折角ワシが王都の案内を……』
『グニルーグ……貴方が遊びたいだけでないの?』
若干、ヴィナルカの目が本気だった。それに気がついたグニルーグが慌ててフォローをする。世話を焼いているミィナスも困ったような表情をする。
『ワシは純粋にみんなに楽しんでもらいたかっただけじゃよ……』
『本当かしら? あなたはタクマを歓楽街に連れて……あ、これは『悪夢』の記憶ね……』
『……なんと……ワシならやりかねんな……』
『タクマ、持ち直してくれるのかしら……』
ヴィナルカの耳が元気無く垂れ下がる。
あれから2日が経っていた。
やる気の無くなったタクマは宿の部屋にこもり始めてしまった……日本での一つの記憶……離婚していた方のタクマがたまに見せるやる気なし状態……あれに近かった。
たまに昔を思い出して塞ぎ込んでいる……とお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは言っていたな。あたしと一緒になってから明るくなった……と感謝された記憶もある。
あれからエリカさん達に『災厄』の事を話しておきたいと言われていたので、タクマとミィナス抜きだったが、『災厄』の概要は教えてもらっていた。
その時が来ると、空がわかりやすいくらいに禍々しい感じになり、多数の『穴』が出現。グニルーグの話だとダムの戦いで起きた穴が複数、それと中心にさらに大きな『穴』が出てそこから山の様な超巨大妖魔が出てくるらしい。前回の戦いでロヴァリア城壁都市と言うヴァノマーパル城塞都市よりも北方にある場所が落とされ……『災厄』は食い止めたがこちら側に一歩侵略されてしまった感じみたい。
最後の壮絶な戦いでかなりの人間が死んでしまい、超巨大妖魔たちを食い止めるためにユリさんとテツさんが何かをしに離脱し……その後『災厄の穴』が全てが止まった……と言う事だった。二人が向かった先だと思われる場所にはテツさんの武器が転がっていて……大きな爆発の跡が残されていた……と言う事だった。
重たい雰囲気になる中、あたしは思った。死体を誰も見ていないのだ……帰れた可能性はあるのじゃないかと……
タクマが回復したら……その事を話して……相談に乗ってもらいたかったのに、タクマがあの状態じゃな……あたしは……あたしの知っていることを全てを話したほうが上手くいくんじゃないかと思い始めていた。
ヴォルスと別れてから4週間、もっとかもしれないけど、やっと彼があたし達の宿を訪ねてきた。
『なんと言うことだ……あのタクマが……』
あたし達の説明を聞いたヴォルスは驚きを隠せなかった。どうやら彼もタクマの事を鉄の心を持っていると思っていたようだった。弱いタクマ叔父さんを知っているあたしとしては……過大評価をしているとしか思えなかった。
ヴォルスは共和国の自領内外でのいざこざに巻き込まれ、色々と調整などを行っていたらしい。あとはどうやらドヴェルグ王国の地下遺跡やダムの神殿のように『核』の場所を発見したらしくその調査などをしていたみたい。いろいろな発見があったので調査協力、それとレスタジン人の暗躍や、周りの亜人獣人達との折りあいが悪くなってきたので色々と協力をして欲しいとの事だった。
要するに……ヴォルスの共和国が大変ということね。
不安そうにキョウカがヴォルスに質問をする。
『ねぇ……ヴォルス……鬼人族とも……』
『……すまない、キョウカ……上手くやるつもりが……想定していた最悪の事態になってしまいそうだ』
『そう……』
『まだ間に合う……そう思っていたのだが……タクマがあれでは……』
二人はお互いに目を伏せうつむいてしまう。キョウカの凹みっぷりが尋常じゃない気がする……
こんな時……タクマが……いつものタクマだったら前向きな解決策を出してくれるのにな……
『私の想定不足だったのだ。レスタジン人が『悪夢』でみた未来を……全部まとめてこの短期間にやろうとしてきたのだ。あと1年は猶予があると思っていたのだが……』
『そうですよね……未来を知ってしまえば……相手が対策を打つ前に動くでしょうね、手の内がバレていると思うわけですから』
修斗がヴォルスの話に納得をした感じだった。確かに悪夢の解析では、レスタジン人、夢の神を信じている者のほうがより詳細でしっかりとした夢を見る傾向にあるようだったし。そのへんはアルヴールにも確認済みだった。
『またレスタジンですか……私の知っている限りじゃ、もう殆どの部族から訓練された戦士、工作員を借り出しているわけですから……普通の兵士、新兵……子供まで動員されている可能性がありますね。あまり国力は高くないはずなので』
アルヴールが呆れた感じで内情を話してくれる。どうやらレスタジン王国はこのエフルダム王国やフリーダム共和国よりはかなり国力が低く、まともにやりあったら簡単に負けてしまう……そんな国だという。乾燥した大地が続き、砂漠とサバンナだらけ……と言う話だった。要するに国が貧しいのだろう。
それからあたし達『流星の狩人』は今後のことを話し合った。
あたしと修斗はタクマが治ってから協力したいが、『災厄』が絡むとなると神の試練の目的達成のためにはそれを成し遂げなければいけないし……失敗をすればタクマは帰れないかもしれない……
とりあえずヴォルス自身が今日、明日とやることがあり2日ほど考える猶予があるのでそれまでに話し合っておいてくれ……との事だった。ヴォルス的には是非にでも来て欲しい感じだな……もちろん今となってはヴォルスも『流星の狩人』の一員だ。彼の意見も尊重しなければな……
結論は先送りになってしまったが、ヴォルスもあまり長居が出来ないようだった。
『この後、本日中に探索者組合と叔父に会いに行く。良い案があればよいのだが……』
『……ウチも一緒にいって良い?』
『……ああ、一緒に行こう』
ヴォルスがキョウカを伴って宿を出ていく。状況が状況なら王都デートだったんだろうけど……あの感じだと深刻な話をするんだろうな……久しぶりにあった時のキョウカのテンションがすごかったのに、今はかなり重い雰囲気になってしまっている。
あたしはどうすれば良いんだろうか……
ヴォルスが……共和国が大変なことに……タクマだったらどうするんだろう……
もちろん……助けに行くだろうな……
ふと、あたしは一度目のタクマ叔父さんとの出会いを思い出していた。
あたしの前の2つあるうちの一つの記憶……
まだ小学校に入る前……あたしは全ての大人が怖くなっていた。血の繋がった父は最初のうちはあたしを可愛がっていたらしいが、父の仕事が上手く行かなくなり、酒に逃げ、暴力を母とあたしに向けるようになり……母も破天荒な性格だが、わりと男性を立てるタイプで頑張って耐えて耐えて……耐えきれなくなった母はあたしをつれて日本に帰ってきたらしい。
「大丈夫……怖くないよ……ほら、これ食べる?」
「兄ちゃん……ありがたいんだけど、誘拐犯みたいだよ……それじゃ」
日本に来てからすぐに自信の無さそうな叔父さんがあたしに声をかけてくれるが最初は怖くて喋れなかった。ただ、彼は諦めずにあたしとコミニュケーションを取り続けてくれ……あたしを優しさで包んでくれた人だった。
彼はあたしの新しい父であり、あこがれの人であり、世界で一番大好きな人だった。
冗談で……いや、かなり本気で彼に大人になったら結婚してくれと懇願したものだった。もちろん笑ってからかわれたりしたが……あの時のあたしは本気だったのだ。
中学校の時に……タクマ叔父さんが事故でなくなった時は……心にポッカリと穴が空いて……何も考えられない日々が続いたな……今のタクマ叔父さんの心境がそんな感じなのだろうか?
そしてもう一つの記憶……
あたしの記憶には血の繋がった父親の記憶はなかった。母に聞いてもあたしが記憶もない小さい時に離婚した……と言われ、すまなさそうな感じで謝られた。偶然旅行に来ていたタクマ夫妻とばったり会う事がありそれで救われた……とか言っていた。
こちらの記憶だとタクマには愛する奥さんがいて、従兄弟の兄ちゃん、同い年の星花ちゃん……お祖父ちゃんお祖母ちゃん……そして気がついた時には再婚をしていた母。義理の父は優しい人でタクマにも引けをとらないくらいだった。あたしに可愛い妹もできた。
この時のタクマは幸せいっぱいな上……恐ろしく色々な事ができる人だった。
あたしの知っている今のタクマだ。
タクマがあそこに帰れないのは……気持ちがとても分かる気がする。
正直な所、地球の日本での生活の時は……もう一つの記憶が無かった。こちらの世界に来てから2つあることに気がついたのだ。全く仕組みがわからない。
だが、もし、ここの世界にいるタクマとあたしの知っている、幸せいっぱいのタクマが同一人物だとしたら……どうなるんだろう、やはり色々未来が書き換わって……大変なことになるんだろうな……あたしが生まれる前に戻れたとしたら……タクマは色々変えよう、救おうとするだろうし……
あたしは残ったメンバーに相談をする。
『ねぇ……やっぱりタクマにあたしの事を話したほうが良いと思うの』
修斗が飲んでいた飲み物のカップを机に落としてしまう。
『え? ……駄目だよ……駄目だ! 消えそうになったばっかりじゃないか!』
修斗が本気で私に怒鳴るように反論をする。彼があたしに対して本気で怒鳴るのは……初めてみた気がする。
『タクマが……あの状態から立ち直る方法って……やっぱり日本に帰れるってことを知る事だと思うの。あたしの知っているタクマ叔父さんが、今部屋で寝込んでいるタクマだったら……戻っているって事でしょ? だったら絶対帰れるじゃない』
『……それは……今の状態で……多分あれも手記を見て未来が書き換わったから二人が消えそうになったんだと思う。僕は絶対反対だ! 言うなら力ずくでも止めるよ!』
修斗のあたしに対する愛だけが伝わってきた……
彼はどの世界での記憶をみても……あたしを守るためにすべてを捧げてきてくれた……
あたしを守る絶対の騎士だ。
でも……それでも伝えるべきだとあたしは思うんだ……あたしは周りに残ったメンバーを見回してみる。
目のあったヴィナルカが不安げにあたしに言う。
『……私には止める権利はないと思う……あなたの考える通りにやるといいと思うわ』
『俺……思う。未来は変えられる。だけどよく考える必要がある。一昨日は本当にびっくりした。チサト消えるのみんな悲しい』
エルドも……そうだよね……巨人族のみんなは未来を変えられたって最後は大喜びしていたものね。よく考えた結果がこれなんだよ……エルド。
アルヴールと目が合うが……彼女は迷っているようだな……
『……あの、私、言うか迷ってるんですが……』
『言ってみて。アルヴール』
『手記……あれから私、テンセイシャの手記も殆ど読んだんですよ。テンセイシャの地球にいた時間がずれているのをタクマ様はもちろん知っている訳で……タクマ様がチサト様の話を信じる証拠とかありますかね? 割と嘘をつき放題なんです、今』
そうか、突拍子もない事を言われても信じないか……でも流石に家族構成とか、趣味とか……あれ? そんな話をタクマから聞いてない……よな? 言って信用されるか?
『証拠は……あたしの記憶……しか無いな……タクマの姪であるあたしの知っていることだけを話せばいいと思うんだけれども……』
『手記には、記憶を共有する魔法……などのこの世界で色々な攻略情報も書かれていまして……その、過去の使徒が上手く活用したって話もあったり……』
あたしはその情報を知らなかった……あたしの力でそんな事ができるのだろうか? 記憶を盗み見てしまえる魔法か……恐ろしい魔法だ。
ヴィナルカが躊躇した感じだったがあたしに教えてくれた。
『……そこまで万能では無いわ……』
『全部盗み見れる訳じゃないのね?』
『そうね……意思や考えてること、頑張れば見た事のあるものも……って感じかしらね』
『ヴィナルカ知っていたのね……』
『そうね……一応巫女なのよ……私』
あたしは目を閉じて……ちゃんと情報を伝えなかった自分を想像してみた……やっぱりあんなに落ち込んで廃人のようなタクマは嫌だ……
どれだけあたしは、小さい時からタクマ叔父さんに助けられてきたんだろう。
今、あたしは彼に恩を返す時なんじゃないだろうか?
『千里……』
修斗が不安そうな顔で私を見る。
『あたし行くね』
『ごめん……君を止める……君を連れてタクマさんから離れる……話せないように……』
『……修斗、気持ちは嬉しいけど……ずうっと逃げ続けるの? 無理だよ?』
『僕は……僕はっ! 君がいなくなるのが嫌なんだ! だから、止める!』
あたしは修斗の気持ちに感謝の気持ちがいっぱいだ……
彼には助けられ続けていた。そして今回も。あたしは思わず嬉しくなり顔がにやけてしまう。
『え? 千里? 冗談だったの?』
修斗の展開していた魔力が小さくなる……あたしはその隙きに神聖魔術の詠唱をする……
『え、え? 千里? それって魔法?』
あたしから発せられた神威が神聖魔術となり修斗の体を綺麗に縛り上げる。ソリエノが間違って返して来た記憶に感謝だ。
『ちょ、ちょっと千里……あれ……魔力が……』
『大丈夫よ、修斗、それはあたしが解くか、あたしが死ぬかしないと解けないものだから』
『え……ちょ、ちょっと待って、千里!』
あたしは体も手足も動かない修斗に近づき彼の頬を両手で挟んで唇にキスをする。戻った記憶の断片ではしょっちゅうしていたら大丈夫だと思ったが、結構恥ずかしいな。
『え、え? え?』
『ふふっ。戻れたら続きしようね』
『千里? 戻れたらって……千里……まって、千里!!………………!』
あたしは神聖魔術の沈黙の魔法を使い……修斗の周りに展開させタクマのいる部屋へと向かった。
ちょっとだけ我慢してね……修斗。
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