第152話 絶望
無かった……
そもそもエリカさんも帰れないって事を途中で気が付いていたんじゃないか……
それよりも、エリカさんと同時期のテンセイシャ……日本から転移してきたテツさんとユリさんが……こっちの方が酷いじゃないか……全く俺と同じ……いや、もっとひどい状況だった。
結婚して子供が産まれた直後……名前を付ける前に夫婦で同時にこちらに転移してきたらしい。彼らも俺と同じで死にものぐるいだったみたいだ。ユリさんもおそらくチサトと同じ使徒らしいが、その力を使っても……見つけられなかったらしい……地球への帰り方を……我が子の元へと……
伏せられた、書けないし言えない神の何かに対して、彼らはその条件をクリアするのは絶望的状況だったらしい……これはチサトが言っていたなんらかの言えない試練の話なんだろうか?
俺は……彼ら以上に……この世界の事に詳しくなって……
懸命に調べて詳しくなったところで……
調べても……
どうやって努力……
頑張っても駄目じゃないのか……
眼の前が真っ暗になっていく……
『どう……すれば良いんだ……』
『……タクマ……大丈夫ですか?』
俺は床に座っている姿勢でミィナスの方を振り向いたつもりだったが……体がうまく動かなかった……
『あ……れ?』
『タクマ? え? しっかりしてください! どうなっているの? 体が……体が透けています!』
『え……?』
俺はどうなっているんだ? 自分の手も……あまりうまく動かないが、目はまだ動かせるか……ゆっくりと手の方を見ると……確かに透けている……なんだこれ?
『魔力、魔力が足りていないのね……』
と、突然、俺の体に温かい力がまとわりつくように流れ込んでくる。あ……力が入るようになった……よく見るとミィナスの握った手から魔力が流れ込んでいるようだった。
『よ、良かった間に合いました……魔力の流れがおかしな事になっています、気をしっかり持ってください!』
『あ、ああ、もう大丈夫そうだ……』
言葉とは裏腹に意識が朦朧としていく……まるでこの世界に俺が溶けていくような感じだ……
『た、タクマ、あ、ああ……そんな……戻ってきて……わたしを一人にしないで……』
ミィナスが涙ながらに俺の手を力強く握りながら魔力を流し続けてくれる……
『タクマ……タクマ……お願い、戻ってきて……』
こんなにも思ってくれているとは……ああ、そうか……彼女は……親もいなくなって……俺が家族だったのか……何時も隣りにいてくれたな……
戻らないと……泣き崩れ落ちそうなミィナスを……抱きかかえないと……意識を……
『タクマ……タクマ……』
俺は朦朧としていた意識が段々とはっきりとして行くのがわかった。ミィナスの手の温かさを感じる……手も動く……意思を強く……強く……
『……あ……』
目を閉じていたミィナスが手の感触が戻ったのがわかった様で俺の方を見上げる。
『……ごめんな……ミィナス……心配させちゃって……』
俺はあまり力の入らなくなった腕でミィナスを優しく抱きしめる。
『……ぐずっ……行かないでください、一人で……行くならわたしも一緒です……』
『ああ……ごめんな……』
しばらく俺はミィナスを抱きしめながら……これからの事を考えようとしたが……全く頭が回らなかった……
『……ぐずっ……良かった……魔力……戻ってきましたね』
『……ああ、君のおかげだ……』
しばらく俺は考えるのを放棄して……ミイナスの頭をなでていた……
◆ ◆ ◆ チサト視点
先頭を歩いていたヴィナルカが突然立ち止まり真後ろを歩いていたエルドがぶつかりそうになる。
『どうした? ヴィナルカ?』
『え……タクマの魔力が無くなった?』
あたしも魔力感知を広げてみると……たしかにミィナスの魔力は感じるが……他は感じない……いや薄っすらと……ミィナスの前にある感じだな。
『急ごう!』
シュウトの声にみんなが図書館内を早足で歩き始めるが……あたしの視界がグニャリと歪み……視界にノイズが走ったように感じた。そうすると体の制御ができずに前につんのめって……あれ……これなんかやばいやつか……
『え?』
『うお! これはなに?!』
『な、なにこれ? 何が起きたの?』
視界のノイズはみんなにも見えた様で口々に驚いているが……あれ……あたしこのままだと頭から激突……なんですが……
『ちょっと、チサト!大丈夫?』
転びそうなところを隣を歩いていたキョウカが抱きかかえて受け止めてくれる。キョウカの声で先頭を歩いていた仲間と、図書館を利用していた人が一斉にこちらを見てくる。
『あ、静かに……ですよ……』
修斗が相変わらずのほほんとした感じでこちらに話しかけてくる……今はそれどころじゃないんだけど……そう思いながら自分の体を確かめてみる……大丈夫……何時もと変わらない……
あたしは立ち上がろうとするがまた世界がぐにゃりと歪んだように見え、また立っていられない状態になり、キョウカにまた抱きかかえられてしまった。
『え、これ、チサト……どうなっているの?』
『え? 千里! なんだこれ、薄くなっていく?』
『え……神威が……』
修斗とキョウカ……ヴィナルカの声が聞こえるが……どんどん聞こえにくく遠くなっていき視野も暗くなっていく……あれ……これ……あたし……消えちゃうのか……
と、突然あたりが明るくなり音も普通に聞こえるようになっていく。
『千里……良かった……』
修斗が力いっぱい抱きしめてくる……何が起きたんだろう……神の庭に行ったわけでもないのに……
『チサト、貴方一瞬……消えかかっていたわ……上手く説明できないのだけれども……そうとしか表現出来なくて……』
博識のヴィナルカも戸惑った表情をしてあたしに伝えてくる。
『大丈夫……だよね……千里?』
『う、うん……動ける……ね。あたしも訳が分からないよ』
あたしは何事もなかったようにまた普通に動け、立つことが出来た。みんなが物凄い心配そうな顔でこちらを見ているが、今はタクマ叔父さんの心配する時だったんじゃなかったっけ?
『あら? タクマの魔力が……戻った……でも弱々しい……』
『へ? あー本当ね……なんか不安定な感じね』
あたしもこの世界に来てから慣れっこになった魔力感知をしてみると、ミィナスの温かい魔力の隣にあるタクマの魔力が揺らいでいるように見えた。何時もは大河の様に安定した流れなのに。
『急ごう。千里も心配だけれども……もしかしたら繋がっているのかもしれない……』
『わかったわ』
『ええ』
■ ■ ■
『今……砂嵐みたいのが起きましたね』
『ええ……こんな事は……初めて見たわ』
『むぅ……不安になる現象じゃの……』
『「テレビ」の「ノイズ」みたいだったな……』
エリカの部屋に残った4人はたった今しがたに起きた、なにもない空間に砂嵐が起きた現象に戸惑いを隠せなかった。アルヴールが不安な感じで3人に質問をする。
『あの、これはこの世界では当たり前に起きる訳じゃないんですか?』
『見たことないわね』
『ワシもじゃ』
『俺も見たこと無いな……手記で書いてあった記憶もない……』
『そうですか……』
アルヴールが窓の外を見ながら呟く。
『嫌な予感……これだったのかな……』
◆ ◆ ◆ チサト視点
あたし達はタクマとミィナスのもとに来たが……タクマが本棚に力なくもたれかかり、ミィナスが彼を抱きしてめている感じだったが、タクマに生気が感じられなかった。
『タクマさん……一体?』
修斗の呼びかけに対して、タクマが振り向きもせずに答える……何時もなら振り向いて優しい笑顔で答えるのに……
『……帰る方法……無かった……』
あたし達は事前に聞いていたので特に驚くことはなかったのだが、彼の憔悴しっぷりに驚きを隠せなかった。
『タクマ、一体どうしたの、魔力の流れが……魂の存在がおかしいわ』
『タクマ……先程……消えかかっていたのです……』
そこに到着した全員で顔を見合わせてしまう……あたしと同じ現象が起きていたのだ。ただ、明らかにタクマの方が重症……に見える。今まで帰ることを目的として力強く動けていたけど……今は……それが無くなったんだ……そうなってしまうのか……あたしとタクマって一体どんな存在なんだろう?
『あ、タクマさん、エリカさん達から聞いては来たのですが……帰る方法、あるんじゃないかって……』
シュウトの発言にタクマが一瞬反応するが……目だけこちらを向いている感じで……無気力な感じだった。
『……あ、あの……千里のこの世界での神の試練を乗り越えられれば……願いが叶うんじゃないかって……』
『……ああ、書いてあったな……ユリさん……だろ? 彼女も途中までは上手くやってたけど……最期はこの世界の人を、仲間を助けるために犠牲になっている……願いが叶ったとは考えられないよ』
あたしはそこまでは知らなかった……前のテンセイシャのユリ……おそらく聖女であり使徒である人。エリカさん達も嘆いていたな……この力をもってしても彼女たちは『災厄』を乗り越えられなかったのだから。
魔力……いや神威と言われる力でタクマ叔父さんを見てみると……確かに魂の流れが煙のように安定しない感じだった。
『ごめんなさい……タクマ、あたし、肝心の試練の内容……覚えてないの……XXXXをXXXXXてXXXXXXXXXをXXXX……駄目みたいね……近い言葉も多分、神のゲームのルール違反なのね……』
一瞬タクマがあたしの方を見るが……いつものような覇気がない……なんにでも興味を持ちひたすら前に突き進む……
そんな目は何処にもなかった。
『ちょっと……休ませてくれ……』
タクマの力が無いか細い声に対して……あたし達は何も言えなかった。
・ ・ ・
あたし達は、タクマと付き添うと言い張るミィナスを残し、一旦エリカさん達の元へと戻り今あったことなどを報告する。
『気持ちはとてもわかるわ……私も1月くらい塞ぎ込んでいたわ……』
『そうだったな……』
エリカさんの体験談なのだろう、子供がいるのに帰れない……そんな立場に立たされたらあたしも悲しみに打ちひしがれ……発狂するかもしれない……
『あの、ユリさんは、その、たまにに消えそうになったりとか……そう言う事ありましたか?』
チバとグニルーグが顔を見合わせ、エリカの方を見るが、彼女もよくわからないような表情をしていた。
『……どう言うことかしら?』
それからは先程あったことをかいつまんで説明をする。もちろんタクマに起きた事もだ。
『……今回はイレギュラーずくめで、予想が立てられないわね……少なくとも私たちの代ではそんな事はなかった』
『そうだな……チサトの周りは前例が無い事だらけだから分からんな……』
そこに集まった人間が誰も何も言い出せなくなってしまう……
◆ ◆ ◆
心にポッカリと穴が開いた……まさに今の俺がそうだろう……ああ、やる気がなくて体が動かないなんて甘え……なんて思っていた時期もあったが……今の俺がそうなるとは……
ミィナスが俺の隣にピッタリと引っ付くように座ってくる。
『タクマは……諦めるのですか?』
『……諦めたくはないが……手段がない』
『先程、シュウトがチサトの試練を超えることが出来れば……と言っていましたが』
『……試練の内容が分からないんだろう?』
『わたし、わたしの知っているタクマならこう言うと思うんです』
俺はミイナスが何を言い出すんだろうと……思ったが……
『チサトの行動を考えてみよう、行動を見れば目的が分かる。それがなにか分かるまでやろう……って、だから諦めるのは早い気がするんです』
俺なら言いそうなセリフだった……本当は逃げ腰ですぐ弱音を吐く性格だった……妻が俺を変えてくれた……
でも……諦めて……こちらの世界で暮らしたほうが良いのだろうか……
エリカさんが自分の子供と……再び会うの諦めて、この世界で生きると決めた様に……
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