第75話 砦防衛戦 祝宴と帰還

 砦……といっても戦争用に作られた臨時の場所……というわけでもなく城壁の中はそれなりの生活空間があり、小さな街が存在していた。どちらかと言うと城郭都市と言ったほうが良いのだろう。俺たち探索者と騎士、魔術師達は街の中心の広場に集められていた。そこに街の一般見物人やら、兵士やら、子どもやら……で人がごった返していた。


 このナルスゴ砦の責任者? 領主が何やら挨拶を全員にしていたようだったがいかんせん声が小さすぎるのと、難しい言葉を使ってスピーチをしていたので内容が殆どわからなかった。前方の方で終わったら一応まばらに拍手が起きていたが……どこの世界でも政治家というのは同じなのだろうか?


『全くわからないですね……』

『ほんとに……仲間の言葉はわかるのに……』

『俺達の「ヒアリング」は日常会話と探索者会話限定だな……』

『安心して頂戴……私もわからなかったわ……』

『わたしは……わかりましたが、獣人の耳の良さのおかげかと思います。難しい言葉をたくさん使っていましたが、要約するとみんな頑張った。復興頑張ろう。です』


『ありがとう……ミィナス……』


 俺はミィナスの頭をくしゃくしゃと撫でておいた。彼女は何時も気持ちよさそうに撫でられてくれるな……


 広場の壇の上にランパルトが上がっていく。巨大な上に壇上の上なのでものすごく目立つな。彼はその場を見渡したのちに魔力強化でその広場全域に声を響き渡らせた。


『まず、この場で戦いに参加してくれた人、援護に回ってくれた人、裏方で頑張ってくれた人全員に感謝をしたい。誰がかけてもここまで上手くは行かなかっただろう。全員が一丸となり『穴』となったことで掴んだ勝利だ。各々が自分を仲間を褒め称えて欲しい』


 さっきとは違い、しっかりとした拍手が会場から巻き起こる。ランパルとがあたりを見回し拍手が小さくなるのを少しだけ待った後に話を続ける。


『今回の『穴』はイレギュラーだった。人為的に『穴』が作成され、不安定なため普段より強力な妖魔が多かった。俺の記憶だと『災厄』の時にしか見たことのない妖魔たちもいた。今後はイレギュラーに対応するために『神聖球』の生産も増やしてもらい、各種族、各町などにしっかりと配備してもらう予定だ』


 その場にいる全員が真剣な顔に切り替わっていく。突然知らされた事実……だったのだろうか? ランパルトはやっぱり前の『災厄』に参加してたのか。一人だけやたら冷静だったものな……


『なお、今回の報酬は期待していいぞ! かなり極上の魔石が大量に手に入ったからな! ただし! 査定と換金に時間がかかるからお前たちの手元に入るまでは時間がかかるから気をつけろ! 金が入るまではハメを外して金を使いすぎるなよ!』

『『『お~っ!』』』


 その場にいた人間が大盛りあがりする。掃討な数の妖魔を倒したから……かなり入るんだろうか? 巨大妖魔もよく考えたらバカでかい魔石を落としていたし、大型も相当数いたし、かなり大量の魔石が……これは相当な稼ぎになるな……



 それからは探索者、騎士、魔術師それぞれのグループに別れその後対応などを知らせてくれる。その間にも町の人間が臨時の宴の席を作ってくれているようでいろいろな人が奔走していた。


『では、通達したとおり、『穴』の討伐試験の終了と、大型魔獣の狩りの試験は免除とする。生き残ったものはもちろん合格だ。まぁ、今回は、回復魔法師と『流星の狩人』たちに感謝しろ! 彼らがいなければ死人が出ていたと考えている。死にそうになったものは次からは注意を怠るなよ! ではこの街の出発は明朝だ! 日の出と共に出るからハメを外しすぎるなよ! 解散!』


 総勢100名近い受験者とそのサポートに来ていた探索者組合の面々が思い思いに散っていく。宿は臨時の兵舎を使用するらしいので部屋というよりは寝るだけのスペースになるらしいが……


『つっかれたねぇ~ ご飯食べたら兵舎行ってねたほうが良さそう~』

『千里は大活躍したものね。偉かったぞ』

『え? 修斗こそ活躍してたじゃない、ありがとうね』


 なんか二人の褒めあいの時間になっているな……なんかあったのか? 今までだったからかい合って遊んでる感じだったのに。


『さて、ご飯食べたらゆっくり休もうか』

『そうね……だけど、おそらくゆっくりはさせてくれないと思うわ』

『わたしもそう思いますよ。タクマ、周りを見るといいですよ』


 言われてやっと気がついたのだが、こちらをチラチラと伺っている探索者、魔術師組合の面々、騎士に至ってはチサトたちに話しかけたくてウズウズしている感じだった。ああ……そうか、ここからは大変だな……獲物をおそうかのように一斉に彼らが俺たちを取り囲んでいった。




 それからはチサトとシュウトくんの元には怪我を治した人たちが列を作りお礼の挨拶をしていき、エルド達の方には騎士や近接部隊達が挨拶にきたり、こちらの方には魔法部隊達がお礼と今後の話などを聞いてきたり……休む暇……ご飯を食べる暇がないような感じになってしまっていた。小1時間くらいは話していただろうか……自己紹介で名前を言われても頭にはいらなくなってきて、疲労で頭がボーッとしてきた所に、ブリスィラ先生が止めに入ってきてくれた。


『はい、はい、みなさん!気持ちはわかりますが、あなた達の英雄は疲れていますよ! そろそろ休ませてあげなさい!』


 渋々と探索者、騎士、魔術師が引き下がっていく……やっと開放された……


『戦場を駆け回るより疲れた気分ですね……』

『ああ、頭がもう回らない……』

『人種と名前がユニークすぎて覚えきれないわ……元からあまり覚えないけど……』

 日本人3人組がぐったりとしてしまう。それに引き換え現地の仲間達は元気なままだった。人と接するのになれているのだろうか? あれ? ヴィナルカとミィナスがいつの間にかいない……


『お疲れ様。英雄様達』

『お疲れ様でした』


 微笑むヴィナルカとミィナスが飲み物を持ってきてくれていた。現地の人がご飯のプレートを持ってきてくれていた。今の状況だと大変ありがたい……のどが渇いてお腹がペコペコだ。


『あらあら、優しい仲間ねぇ……タクマ、チサト、シュウト、次からは、宴に出る時は気をつけたほうがいいわね。みんなあなた達と話したがっているわよ』

『ええ、こんなになるとは知りませんでした』

『「芸能人」みたいな感じになったね……』

『本当に……こんなの経験したことないわ』



『エルド達は疲れてないのね……』

『あ、俺、ほとんど話をしていない。フェリーニャが対応してくれた』

『共通語じゃなくてあちらの言語が多かったから楽だったわよ』

『我々は名誉回復、誤解を解くためにはひたすら話をしなければいけなかったからな。かなり本気の社交というやつだ』

『なるほど……』


 巨人族は今回は災難だったものな……罪をなすりつけられそうになってしまっていて……って、そのへんも後でいろいろ調べなければいけないのか、面倒だ……




『そっちも大変そうだったわね』


 あまり疲労の色を見せないアルティアと護衛の騎士二人と『風の双剣』の3人がこちらに歩いてやってきた。


『あれ? アルティアは全然疲れていないのね。顔色がいいわ』

『あ~ これはチサト殿のおかげね。過去に負ってた古傷や……重かった体を治してもらったみたいで……最高に体の調子がいいのよね』

『でも、アルティアを完全に治した感じはしなかったわよ?』

『……ねぇ、もう一度やってみてもらえる? 余裕あるかしら?』

『いいわよ。頭は疲れてるけど、魔力はなんか大丈夫そうなのよね』


 そこにいた全員がチサトの発言で固まったり、本当? といった眼差しを向ける。アレだけの戦闘でアレだけの人数を回復させてなお大丈夫そう……って一体?どれだけ魔力があるんだろうか?

 一瞬固まっていたアルティアだったが、チサトの前に進みで適当な椅子に座る。


『ではやってみましょうか。エイッ!』


 チサトが魔法で治療を始めると、光り輝く粒の様なものがアルティアとチサトを包み込んでいく。


『ああ……これは……似ている。温かい……私の体の隅々まで満たされて……治っていく感じね……神聖力も満たされていくわ……』


 アルティアがものすごく気持ちの良さそうに微笑みながら穏やかに呟く。


『これ以上は治らない感じね……結構魔力使っている気がするけど、どうなのかな?』

『え? チサト殿はわからないのですか?』

『え? 何を?』

『だから、その、魔力の量と言うか、限界と言うか……???』

『……あ、わからないわね、今の所限界まで使ったことないから……』

『そ、そうですか……』


 アルティアがうろたえ始めて回りをキョロキョロして助けを求める。そこにいるみんながなにが起きているかよくわからない感じになっていたが、ホムが前に進み出てくる。


『チサト、私を治療してみてくれないか。ちょっとした実験だ』

『あら、ホム、いいわよ。そこに座って』

『フム……』


 そこからチサトがホムを治療していく……がすぐにチサトが治療をやめてしまった。


『悪いところが殆ど無かったわよ。すぐに終わっちゃった。強いていえば頭の奥が疲れている感じだったわね。』

『ああ……とても体が、頭も軽いな……が、魔力が回復した感じは無いな……』


 ホムがちらっとアルミスを見る。アルミスが分かったわよといった表情でホムと席を入れ替えて座る。


『じゃぁ~あたいもお願いね! 確かめたいことは分かったからぁ~』

『良くわからないけどやってみるわ、エイッ!』


 アルミスにも優しい魔力の流れが流れていく……ホムよりは長い感じだな……


『え、ええええ? 全然痛みが無くなっていく……膝まで治ってる……指の健まで……』

『これ以上は無理ね……』

『フム……アルミス、どうだ? 魔力は?』

『体は全快……すごすぎるねぇ~古傷が治るなんて……魔力はかわらないかなぁ~頭スッキリだけどぉ~』

『フム……やはりか……チサトは『神聖力』に類似したなにかを使えるのが確定だな……おそらく過去の文献にあった『神の力』を使える人間なのだろう。アルティアと同じ様に』

『え? あれ? あたしどう反応すればいいの?』


 全員がどうしたものかと悩み始めているようだった。『神の力』が使えるとなにかヤバいのだろうか? 俺は思わずシュウトくんの方を見てみるが、あちらもわからないジェスチャーで返されてしまった。混乱している俺の袖をミィナスがクイクイと引っ張り俺の耳元でささやくように教えてくれる。


『タクマ、『神の力』を使える人は神殿で保護されてそこで力を使う……などをするらしいです。少々面倒なことになりました』


 俺は伝えられた事にかなり驚いてしまって思わず声を上げて反応をしてしまう。


『それって……チサトが連れて行かれちゃうってことかい?!』

『……おそらくは……』


 みんなの視線が俺に突き刺さる……やってしまった感が強い……チサトがえっ? と驚いた表情をしている……もちろん彼女の保護者のシュウトくんもだ……


『しばらくは隠し通して……って思ったけど、この戦いに来た人にはバレバレか?』

『フム……そうだな。さすがに物凄い力だったから……いずれは疑われてバレるだろうな、ただし当たり前だが王都まで連絡が伝わり、神殿側の対応が決るまでは時間があると思うぞ』



 少し思い悩んだ感じのブリスィラ先生が提案をしてくる。


『そうねぇ……神殿といえど、探索者組合には手を出しにくいから探索者ライセンスを最速で取得してしまってこちらで保護出来るようにすればいいかしらね……』

『なるほど……あとは試験も少しだったはずですから……なんとかなりそうですね』


 シュウトくんが指折り試験の数を数えている。結構な数があった記憶があるけど、『穴』のおかげで色々免除されるはずだから……あとは遺跡探査とかだっけか?



 アルティアが申し訳無さそうにチサトに謝る……


『チサト殿すみません……私が軽率にお願いしてしまって……』

『どちらにしろバレる話なんでしょ? 別にいいわよ。それよりも……とりあえず探索者ライセンスね! 頑張るしか無いみたいね』

『そうだね……まだ少し時間があるみたいだから、色々この先どうするかを考えていこうか……一緒に頑張ろう、千里』


 シュウトくんがチサトのフォローをする。俺もなにか気の利いた事を言いたい気がするが……俺の目的は王都なんだよな……ちょっと困ったな。考える時間が欲しいな。


『……とりあえず……休もうか。疲れたからだと頭ではいい案も思い浮かばないだろう。しばらくはチサトをみんなで頑張って護衛かな?』

『わかったわ』

『そうね、夜は私たちの真ん中で寝てもらいますか』

『別行動はしばらく禁止ですね』

『え~ わかったわよ。子どもみたいな扱いね……』



 それから俺たちは、ちょっと先行きが不安になったが、戦いの疲れもありその場はお開きとなり各々兵舎の割り当てられた部屋に散っていった。色々なことが同時に起きすぎて相変わらず忙しいな……その夜はチサトを今後どうするか考えたかったが、疲労で目を閉じるだけで熟睡してしまった。

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