第205話 『災厄』勝利の裏側で
俺は……吹き飛ばされていたのか……目の前には紫銀髪の……ミィナスがかばってくれたのか……あ、『神核』は……魔力伝導装置は……
俺はクラクラする頭を抱えながらも起き上がろうとするが力が入らない。周りを見回すとかなり酷い状態だった。
目の前には無惨にも……瓦礫の山となった魔力伝導装置と、魔力が込められたままの『神核』が傷一つ無い状態で存在をしていた。
ヴォー!!! ヴォー!!! ヴォー!! ヴォー!! ヴォー!!
神殿の外から『神核』の爆発の合図が上がっている……俺が周りを見ると……騎士や兵士たちは気絶し、ミィナスも意識を保っているが、目の焦点が合っていない……ヴィナルカは起きているが意識が朦朧としている様だ……アルヴールは大丈夫そうだが混乱している感じか……
『神核』を爆発させないと……負けてしまう……神とのゲームに……そうすると俺はあちらの世界に戻れない……
俺は体中が痛み朦朧としながらも『神核』の方へとフラフラしながら近づいていく。そうだ、俺が爆発させれば……俺が死ぬとどうなるのだろうか……父さんと母さんは……どうやって戻ったのだろうか……頭の中では走馬灯の様に記憶が駆け巡り、ふらつき、揺れる意識の中でも徐々にはっきりしていく。
『タクマ!!!!』
俺の後ろからチサトの声が聞こえる……ああ、今、ちょっと癒やしがほしいな……と、思うと、光に体が包まれて、たちどころに俺の傷が癒えていく……
『ありがとう、チサト、助かった』
『ひ、ひぐっ、ひぐっ……』
チサトが周りを見渡し……ミィナスの方に目をやると……チサトが泣き出していた。癒やしの力が辺りを満たし、ヴィナルカ、ミィナス、兵士達も癒やしの力に包まれていく……
『チサト、今の状況だと……俺が適任だと思う。俺はイレギュラーなんだろ? おそらくチサトの勝利条件に含まれていない……』
はっきりした意識の中で俺は『神核』へと進もうとするが、俺の目の前に神の盾の力で壁が作られてしまう。俺はチサトの方を思わず見てしまう。彼女がまた犠牲になろうとしているのだろうか……若干怒りに包まれるが彼女の様子がおかしかったので怒りが引っ込んでいった。
『なんで、こんなっ!! ひぐっ、ひぐっ……』
『ありがとう、チサト、約束を守ってくれて』
ミィナスが微笑みながらゆっくりと立ち上がり『神核』の方へと歩いていく。何を考えているんだ? 彼女は……そうか、彼女も勝利条件に当てはまらない人物だからか? だとしてもこんな小さい子にそんな事をさせる訳にはいかない!
『チサト!! 俺がやる!! この壁をどけてくれ!』
『駄目、だめなの! 叔母さんからの指示なの!!!』
『え? な、なんだって? そんなバカな……美月がそんな事を……そんな残酷なことを言うわけがないだろう!!』
『本当です、タクマ。タクマの大事な手記に、奥様からのメッセージが書かれていました。わたしあてに……』
『何を言っているんだ?? 違うだろ? そんなはずは無い……オレは全部見たんだ!』
『奥様は時の女神の使徒様なのです。だから未来を見通し、チサトを導き、わたしの事も導いてくれるのです。魔人族特有の魔力で狐人族にわかるように、わたしへの指示が書かれていました』
『何……なにを??』
ミィナスが神の盾の向こう側に進み、オレの方に振り返る。その表情は晴れ晴れとしていた。俺の頭は考えることをやめていた……どうしろと言うのだ……
『ありがとうございました。タクマ……わたしはあなたに拾われて幸せ者でした。前回の『悪夢』の事……物凄く覚えているのです……その時もあなたはわたしを助けてくれた……だから、恩を返せるのは今しかないのです』
ミィナスの言う事は理解できても、俺は何も考えられなかった……どうすれば良いんだ……違う!! なにか手段が……何でも出来る叔父さんなんだろう? 俺は!!
ミィナスが『神核』の方へと駆け出し、魔力を込め始める。チサトが神の盾の力を強め、この部屋にいる全員を守るようにする。もちろんミィナスも包むが……あれだけ近ければ……あの盾も意味がないだろうに……
『さよなら、タクマ、チサト、ヴィナルカ、アルヴール! キョウカ! シュウト! エルド! ヴォルス! パパ!!! みんな、みんな愛しています!! 大好きです!!!』
『神核』からとてつもない光が放たれ、とてつもない衝撃波が体を貫いていく。盾があっても後ろの壁に叩きつけられ何が起きているか把握できないくらいだった……
§ § §
とてつもない衝撃波がロヴァリア城壁都市全体とその周囲へと飛び散っていった。力のない妖魔は消し飛び、ロヴァリアに近い『穴』は消し飛び、超巨大型妖魔は半身を削り取られ、『災厄の妖魔』の装甲部分や触手などが吹き飛び大ダメージを負っている感じだった。
『やっと来たっ! タクマさんナイスです!!』
『すごいのぉ!!! 殆どの『穴』が消えておる!! 反撃開始じゃ!!!』
盛り上がる二人とは裏腹にヴォルスが冷静にグニルーグにツッコミを入れる。
『グニルーグ、合図があるまで倒しては駄目なのだぞ!』
『わかっておるわい! 完全勝利を目指すんじゃ!! 皆の者! 合図があるまで止めは禁止じゃ!! 足止めをするぞ!!!』
『『『オー!!!!』』』
盛り上がり、弱った『災厄の妖魔』仲間たちを後目に、キョウカが神殿方向を見て目をうるませていた。
『……ミィナス……あとはウチ達に任せておきな……』
キョウカが体中に白い光をまとわせると、『災厄の妖魔』へと再び強烈な一撃を与えていた。
§ § §
苦戦していた聖騎士団達だったが、突然の衝撃波を食らい吹き飛ばされたかと思ったら、周囲の妖魔と超巨大型妖魔の半身が吹き飛んでいった。
『お、おお! これは!! タクマ達がやってくれたようです!!』
『ええ、分かっているわ。これで思う存分力を込められるわね……』
興奮するレグロスの脇でアルティアが聖剣に神聖力を注ぎ込んでいく。眼の前の半身をもがれた超巨大型妖魔を目指して特大の神聖剣を振るい、核を直撃させて跡形もなく超巨大型妖魔を吹き飛ばしていく……
『これで……これで私達の未来が開けるね……レグ……』
『そうだね……ティア、あ、ダメです。まだ妖魔は残っていますよ! 気を引き締めていきましょう!』
『もちろんよ! さぁ、みんな! 頑張っていこう!!!』
聖騎士、王国騎士団の精鋭が勝どきの声をあげ、残った巨大型妖魔へと突き進んでいく。
§ § §
『よし! これでお終いだ!!!』
アスティリが強力な雷の魔法で眼の前の超巨大型妖魔を黒い煙へと消し去っていく……その様子を見ていた殲滅魔道士のガリィが呆れた感じで驚いていた。
『あなたやっぱりすごいですね……桁外れです』
『ああ、お前か、殲滅魔道士様だな。久しぶりだ。足止め助かった。魔人族を代表して感謝する。』
『何とも言えない気分ですが、一応はじめまして……感謝には及びません。まぁ、今度は戦わなくて良かったよ』
『ああ、こちらもだ……さて、残った妖魔共を……』
『殲滅しましょうか』
二人の魔道士は妖魔の取り漏ならしがないように片っ端から魔法で妖魔を射抜いていった。
§ § §
『もう終わりか……』
『テツとユリの時も……最後はこんな感じだったと思うが……』
チバとカズヤが老齢ながらも巧みな剣さばきで巨大妖魔を切り刻みながら余裕を持って話をしていた。
『3,2,1 発射!!!』
共和国騎士達の神聖槍が巨大妖魔の核部分に突き刺さり、巨大妖魔が黒い煙と返っていく……
『よし、これで甥っ子にも武勲が出来たな。カズヤ、助かった』
『ああ、これで貸し追加だな』
二人は笑いあいながらお互いの手を異世界流にハイタッチさせていた。
§ § §
『勝ったな』
『そうじゃな……』
『やっと終わった……』
ディソスラパ連合軍の大将ユキムラが黒い煙と化していく巨大妖魔を見ながら安堵をしていた。
『んで、キョウカのやつはどうなった? 死んでねーよな?』
『大丈夫みたいです。どうやら『災厄の妖魔』と戦っているのが見えますが……あれだけの英雄が揃ったら『災厄の妖魔』も手も足も出ないみたいですね』
『それもまたすげぇ話なんだけどな……』
ユキムラはお付きの鬼人族から望遠鏡を借りて戦闘の様子を食い入る様に見ていた。愛娘が『災厄の妖魔』に一撃入れるたびに『災厄の妖魔』の体が吹き飛んでいるのを見て誇らしげになっていた。
§ § §
『チサト、やったみたいねぇ~さっすがぁ~』
敵陣真っ只中にいながらも気の抜けた言葉をアルミスが発していた。その隣で全身が汗だくで疲弊しながらも戦況を確認していたセクティナが同意をする。
『そうね、まさかこんなに妖魔がいなくなるとは思っていなかったわ……時の神の導きに感謝をしないとだめね』
『ああ、そうだな、時の女神様のおかげだな……我々の国も信仰を変えなかければいけないな』
一緒に戦っていたザガリオン達魔人族が冗談とも本気とも分からない発言で沸いていた。
一時的に行動不能になっていた超巨大型妖魔を見てどうしたものかと迷っていると、城壁の上からホムの声が聞こえる。
『セクティナ、ザガリオン! 一旦引け!! 魔法でとどめを刺す!!!』
その様子を見ていたドルテオが魔術師部隊に号令をかける。
『魔術師隊! 爆裂魔法準備! 目標! 剥き出しの核周辺!! 3,2,1……』
撃ち放たれた魔法が『超巨大型妖魔』へと直撃し、黒い煙になっていく……その様子を見ていたクルレラが……涙を拭きながら神殿の方を振り返る。
『や、やったぜ、俺たち、見てたか……ミィナス……』
彼女の特別な目では、もう感じることが出来なくなってしまった狐人族の少女へ、語りかけていた……
§ § §
『……それじゃぁ、力を注ぐわね……』
チサトが『神核』に神聖力を注入し、黄金色、時の女神の色へと染め上げていた。
『……これで終わるのね……これで良かったのかしら……』
ヴィナルカの言葉に、その場にいた者は誰も答えられなかった。
いつもは元気いっぱいに軽口をたたくアルヴールも悲壮な表情を隠せないまま黙り込んでしまっていた。
静寂が神殿を包み込む。
『……じゃぁ、私は最後の仕事をしてくるから……ヴィナルカ、アルヴール……後はお願いね……』
『……分かったわ……』
『……』
チサトと護衛の騎士達は先に神殿の上へと戻っていった。取り残された俺とヴィナルカ、アルヴールは暫く誰が喋ることも無く時間が過ぎていった……俺は、眠りについたミィナスを抱きかかえ……階段をゆっくりと登っていった。
一歩一歩が重かった……いつの間にこんなに大きくなったんだろう……
きれいな顔だった。
チサトが時戻しの力を使い、傷などが塞がり、まるで生きてるようだった。
だが、もう、俺の問いかけに答えてくれない……
どこで間違えたんだろうか……
俺が『悪夢』を全て思い出せていれば変えられたのだろうか?
王都から帰る道中で塞ぎ込んでいる事が多かったのをしっかりとケア出来なかったからだろうか?
それとも美月を『時の女神の使徒』と見抜けたかったからだろうか?
俺にはわからなかった……
ただ、心に穴が空き……何も考えられなかった。
§ § §
夢の神ソリエノが魔法の画面を見ながらお手上げのジェスチャーをする。
『あ~あ、これで君の勝ちは確定かなぁ……追加で妖魔出せないかなぁ……ちょっと調べてみるか……』
『……そうね……』
素っ気ない反応に何気なくソリエノがロクノースの方に振り返るとギョッとした表情をする。
『ハハッ!! 何を泣いているんだ?? あの狐の子が死んだからかい? 僕たちは何人もの死を見ているのに彼女だけ特別扱いかい?』
『……そうね……』
ソリエノが若干イライラした感じで反応の薄いロクノースの付けていたマスクに手をかけ剥がし取る。
『ああ、もう!! イライラするんだよ! 目を隠してまで……え? ……どう言う事だ???』
ロクノースの顔を見て夢の神ソリエノは慌てて魔法の画面を見て確認をする。
『ちょ、ちょっと待って……えっと……あれ、そうすると、マジか……』
ソリエノはおどけた表情から真顔になって宣言をする。
『君は……君にはただの賭け事じゃなかったんだね……君そのものの「存在」もかけていたとは……一体何が……いや、からくりはわからないままの方が良いか。ロクノース、今回の賭けは君の勝ちだ。負けを宣言する。……いいのかい? 下界に降りるチャンスだぜ?』
『……ありがとう、ソリエノ……』
ソリエノからマスクを受け取ると、ロクノースはいつもと変わらないような素振りでつけ直す……
§ § §
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます