第164話 国境門街ニィヴィア


§   §   §   夢の神の信徒たちの視点


 国境門街ニィヴィアの南西の森で野営をしている外套の集団がいた。前回よりも大分人が減り、3分の2くらいになっているようだったが相変わらず司祭の講説の声が聞こえ、そこに集まる者たちは聞いているふりをしているだけだった。


 その傍らで外套を深くかぶった男性が巫女のラシータに対して小声だが驚いた感じで問いただしていた。 


『その話は本当か?』

『ええ、本当よ。あなた達にかかっている呪いは見えないそうよ、魔人族には呪いが見えるんだって』

『信じられん……俺は……何人も呪いに縊り殺される仲間達を見てきたのだ……』

『ミバーフスのクソ野郎、死んでしまえ……ってね』

『……本当だ……お前にはかかっていないようだな……俺もなのか……』


 ラシータの直ぐ後ろで会話に参加をしていないふりをしている魔人族のザガリオンが小声で答える。


『ああ、本当だ、お主らには呪いのたぐいは見えない。ただ、あの司祭の周りに居る二人には付いている様だな』


 少し間をおいてから外套をかぶった男が小声で発言をする。


『ミバーフスのクソ野郎、死んでしまえ……本当……だな……ああ……そうか……彼らは神官なのだが……神官を脅しておけば俺らも……なるほどな』

『そうだな、それでどうするのだ?』


 外套を深くかぶった男性はしばらく考えた後に返答をする。


『おそらく、殆どのものが抜けることを選ぶだろう……もちろん俺もだ。家族が残された者……いや、生き残っているものが数人いる。彼らには俺の方から話をしておく。このたぐいの作戦で戻ってきた人間は……ほぼいないからな……』


 そう言い残すと、外套を深くかぶった男性は、仲間の方に目立たない様に小走りで移動し話を始める。


『さて……どうなることやらだな』

『神官と武装神官の目が……死んでいるようにみえるわね……可哀想に……彼らは逃れられないものね……私が呪いを消せれば良いのに……』


 ザガリオンのつぶやきに魔人族のクルレラが答える。向かいに座っていた魔人族の男性も話に加わってくる。


『ザガリオン様……本当にやるのですか?』

『おまえはどうなのだ? このまま突き進めば『夢の神のいたずら』ではなく正真正銘の『悪夢』になるとしか思えんのだが……違うか?』

『そうですね……既に再び合流しない同胞が多いですから……最初から皆そのつもりだったんですね』


『ああ……聞いていたのとはだいぶ違う作戦の様だからな……後に引けないのだろう。レスタジンの者共も』

『うまく事が運ぶと良いのですが……』

『そうだな、別部隊にはお前たちが連絡をしておけ……魔人族……山羊角族を戦争に巻き込まないように立ち回れば何をやっても大丈夫だ……最悪……』


 ザガリオンがレスタジン人の司祭の方をチラッと見て首を切るジェスチャーをする。意味に気がついた魔人族達の間に緊張が走りぎこちなく頷く。



 講説を終え、満足した表情で司祭は声高らかにその場の部隊に指示を出す。


『では者共参るぞ! 目的地はニィヴィアの街だ。中心でこの装置を起動すれば我々のお役目御免だ。喜べ!安住の地に帰れるぞ! さぁ、いざ『約束された祝福の大地』へゆかん!』


 その場にいたものが、不安な表情になったり、やれやれといった諦めた表情になるものが殆どだったが、しぶしぶと重たい腰を上げ準備をしだす。

 


 §   §   §



 『穴』の出現の知らせを受けた俺たちの部隊は野営を切り上げ、浮遊馬車に主力組を乗せ深夜の移動を開始していた。ニィヴィアの街周辺で『穴』が発見されたと言うので野営地点から『穴』探知機を使用してみたところ、円状に最低6つは展開されている状態との事だった。


 要するに、『大穴』の出現は待った無し、しかもどうやら出現予想場所が街のど真ん中……と言う計測結果になってしまったのでかなりの急ぎの行軍となっていた。先生たちとももっと『災厄』絡みの話などをしたかったが……しょうがない。人命救助の方が先だ。


『見えました! ニィヴィアの街です!!』

『分かりました』


 聖騎士のアルティアが前方を確認した後、拡声魔力を使って全軍に通達をする。


『5班、6班、7班は手前にあると思われる『穴』の方向へ向かってください! 探知機を一定距離ごとに作動させて移動することを忘れないで! その他の班は手筈通りに街までそのまま進みます! では作戦開始! 健闘を祈ります!』

【【【『『『オー!!』』』】】】


 ディソスラパ郡の獣人混成軍が300人位が一斉に浮遊馬車から離れ移動を開始する。相変わらず魔力をまとった蜥蜴人族や巨人族の移動の迫力がすごい。ディソスラパ軍の軍勢はチサトがいなくてもアルティアへの信頼度がものすごく、アルティア教ばりに信者がいる感じで士気が物凄く高かった。



 『流星の狩人』は激戦になると思われる街の中央に出現するであろう『大穴』方向へと向かうこととなった。国境門の向こう側にも『穴』が出現をしているのを確認していたため、2~4班も国境門を通り、共和国側の街壁門を通った後に散会する手筈となっていた。



『まだ出現の気配は無いようね』

『もしかして魔人族って、『穴』の出現がわかるのですか?』


 ブリスィラ先生の存在を分かっている様なつぶやきに思わず俺は反応をしてしまう。


『そうね。魔力の流れは見やすいと言われているわね……だけど、『大穴』がらみの時は、上空が淀むからすぐに分かるわ。注意して見てご覧なさい』


 その場にいた『流星の狩人』のメンバーはこぞって魔力視をして街の方向を見てみる。確かによどみの様なものはあるが、まだ『大穴』の気配はしないようだった。


 国境門街ニィヴィアに近づくと、連絡は既に伝わっていた様で、街の城壁の門がゆっくりと開いていく。こちらも例にもれず大型妖魔くらいだったら防げるくらいの壁の高さと門の大きさとなっていた。遠くからも見えていた、街のさらに奥に見える街の真ん中を分断するようにある国境門はさらに大きい。ダムサイズだな……200メートルはあるのだろうか……崖と山と一体化した……なんとも物凄い門だ……『災厄』からの防衛用なのだろうか?



 俺は国境の壁を見上げながらもふと疑問を抱いていた。


 これって、この高さだと街の城壁を超えるにはかなりの魔力を込めなければ飛び越えられないし、崖から飛び降りてもかなり目立つから直ぐに発見されてしまうようにみえる。国境門って閉じられている状態だとこの世界の魔力を持った普通の部隊でも進行は厳しいよな? 工作員達はどこから入るつもりなんだろうか?


 俺は周囲を見回し、工作員の存在を確認してみるが何処にもいない。そんな事を考えていると、街の鐘が鳴り響き、空が白む前なのに街の人は何事かと外を見た後にすぐに外に出てきてあたりを警戒していた。すでに『穴』の警戒情報は行き渡っている感じだった。


『おかしいな……工作員の気配が無い……彼らは外套をまとっていなくても目立つであろうに……』

『ウチもそう思った。出現位置を制圧出来ていない……これから制圧? この軍勢を前に?』

『……注意が必要の様だな……皆も警戒怠るなよ……不測の事態の様だ』


 ヴォルスとキョウカが武器を鞘から取り出し、疑問を持ちながらも周囲の警戒を怠らない。周りの人間も彼らに触発され武器を抜刀し構え出す。


 主力部隊が国境門の前に到着すると、国境門が凄まじい音を放ちながら開いていく。特に変わった様子もなく2~4班が警戒をしながら移動を開始する。兵士が集まると同時に、街の人は何事かとこぞって覗き見をしたりして、大通りに沿って祭りの様に人だかりができてしまっている。衛兵が避難誘導……してくれるとありがたいんだが見物人の人数が多すぎて対処をしきれていないようだった。


『『大穴』はこの地点での出現で間違いは無いですよね?』

『そう思うわ』

『そうね……困ったわ』


 隣りにいたブリスィラ先生とヴィナルカが相槌を打ってくれるが、彼女たちもやや困惑をした感じで周囲を見回す。人が多すぎて上手くいく気配がない……住民に紛れられていたらもうどうしようもないな、これは……




§   §   §  夢の神の信徒たち



『開いたぞ! 幸運な事に国境門も開けてくれている! 『夢の神』の祝福と導きに感謝だ!!』


『起きろ、おい!』


 レスタジン人が傍らで眠っている家程もある巨大な蜥蜴の魔獣を槍で突き刺して無理やり起こす。声を上げ、痛みで目覚めた巨大な蜥蜴の魔獣はあたりを見回し、ある一点を見た瞬間にそちらに向かって全力で移動を開始する。が、傷をかなり負っている様でそこまでの速度は出ないようだった。


『おい、こっちだぞ。こっちだぞ~』


 司祭の挑発するような誘導に対応するように巨大な蜥蜴は周りの木をなぎ倒しながらも歩みを進める。先導して蜥蜴から逃げる司祭の後ろには籠のような物に入れられた巨大な卵を神輿のように担いだ男たちがついていく。


『司祭様に危険があったらまた眠らせるのだぞ』


 神官らしき人物が、レスタジンの巫女達に話しかける。ラシータ以外にも巫女が数人いるようだった。彼女たちは渋々と頷く。




『なんと酷いことを……』

『そうですな……私は今すぐにでも……』

『待て、流石にこの人数差では……街の人間と協力しなければ駄目だな……爆発石ももれなく隠し持っているようだしな……』

『では街に入ると同時に……』

『そうだな……魔獣には悪いが、それが最小の被害になるであろう……』


 この部隊に合流したての魔人族のザガリオン達は即興で作戦を打ち合わせる。合流する前から部隊全体が動き出し、彼らだけではもう止めるすべは無いようだった。




 西方の『穴』浄化目的の三部隊が開いた門が開くと同時に、各々の担当エリアの方に猛スピードで浄化部隊が散っていく。それを後方で兵士と住人たちが見送る。


『皆さんお気をつけて!!!』

『がんばれよ~!!』


 兵士たちが部隊を見送りだした後、門の内側に引き返していく。


『さて……この街に何事も無ければよいのだが……』

『ん、何だこの音は? ……何だあれは! え、やばい! 門を閉じ……』


 ズゥン、ズゥン……


 兵士が振り返り遠くの森の影から猛スピードで巨大蜥蜴が突撃をしてくることに気がつくが、その瞬間、門番、兵士……などが次々に倒れて……眠っていく。その脇からレスタジンの衣装ではなく、普通の探索者の格好をしたレスタジン人が大量に湧き出てくる。



『巫女様達ありがとうございます!』

『よし抜けれそうだな……まさかあの魔力量の探索者達があの数でてくるとは……』

『念のため門付近に『煙幕』を投げるぞ!』


 煙幕の煙が西門付近に広がりあたりが真っ白な煙で包まれてしまう。それを見ていた応援に駆けつけていた住人達も異変に気が付き叫び声を上げながら散り散りに逃げていく。


『司祭様! こちらです!』

『わかっておる! まっすぐ進めば良いのだな!』

『ハッ!』

『者共ついてまいれ! 最後の仕上げだ!』』


 司祭の直ぐ後を神輿を担いだ4人組が大きな卵を運びながら付いて行き、白い煙の中に飛び込んでいく。


 遅れて移動していた魔人族のザガリオンが苦い顔をして呟く。


『くっ……まさかあそこまでの大量の煙幕を投げるとは……あの煙幕とやらで存在する位置が分からんな……魔力阻害か……』

『え、これってどうすれば……』

 

 魔人族の巫女のクルレラが混乱し、どうすればいいのかとザガリオンの表情を伺うがその時に前のほうで少女の悲鳴が上がる。

 

『きゃっ! い、痛いっ!! 離して!!』

『早く来い! 不測の事態だ! お前の力を使うのだ!』

『あ、嫌ッ!!』


 レスタジンの武装神官の一人が巫女のラシータの腕を乱暴に掴み、白い煙幕の中に走りながら無理やり引っ張っていく。


『ラシータぁ!!』

『しまった……くそっ!!』

『追うしかありませんね……』


 ザガリオンと共にクルレラ、ダルラールが続いて煙幕の方に突入をする。




 §   §   § 




『前方で大規模な煙です!!! レスタジンの煙幕!! なにやらいろいろなものが動いています!』

『むぅ……まさかの正面突破じゃの、む? なんじゃあれは? 魔獣か? でかいな』


 目の良いミィナスと携帯望遠鏡を覗いていたグニルーグが知らせてくれる。この街もかなり広いので、煙の様なものが見える……くらいにしか見えなかった。


『なぜか……兵士や……見物人達が倒れて……どうなっているの???』

『……あれが噂に聞く『夢の神』の奇跡か……眠ってしまったのじゃろうか?』


 ミィナスとグニルーグの状況報告に対してアルヴールが解説をしてくれる。


『そうですね、以前もお伝えしましたが、『夢の世界』……いや『悪夢』へと誘う、強制的な眠りの力ですね。今回はどうやら巫女も作戦に参加をしているようですね……』

『厄介じゃのぉ……眠気の魔法の強化版……みたいなものか』

『おそらく、あの赤い祝福の光を避ければ……眠ることはないでしょうが、難しいですかね』


 状況を一緒に見ていたヴォルスがアルヴールに質問をする。


『あの眠りの力は、我々の魔力では弾き返せないのか?』

『私も試してみましたが、無理でしたね。さすがは神の力と言うべきか……ただ、魔力量を高めた状態ではやっていないのでわかりませんが、バレルと色々やばかったので』

『なるほど……予測して避けるしかあるまいか、巫女と思われる人物の視線に入ったら離脱するしかあるまいな』

『……ヴォルス……ウチ思うけど、その作戦はみんなでやるにはちょっと無理な気がする……』


 ヴォルスやキョウカ達の超反射神経を使えばいけるかもしれないが……普通の人は無理だよな……ここは定番のまとまりすぎないで散会して、隣の人が寝たら起こす作戦の方が良さそうだな。俺の意見をみんなに伝えようとすると前方でかなりの破壊音が聞こえる。


ズドォン!! ゴガッ!! ドォン!!!


 煙幕の中から家ほどもある巨大な蜥蜴の……仮面が無いので妖魔では無く、魔獣がこちらの方に建物にぶつかりながらも突進してきている感じだった。


『何事じゃっ!』

『あれは……溶岩山の岩蜥蜴……かなりの成体ね……』


 ブリスィラ先生が蜥蜴を見た瞬間に種別などを判別するが、もちろん俺たちにはわからない。正直な所、翼のないドラゴンにしか見えない。それか超巨大な鎧つきの大蜥蜴か?


『む! 巨大蜥蜴の前方を見ろ! どうやらあれを追いかけている様だ!』

『あのやり方って、ディネーブ城で見た……なんて酷いことを!』


 巨大蜥蜴の前方には、蜥蜴の卵を神輿にかついだ探索者の格好をしたレスタジン人が走っていた。


『どうしましょう? タクマ?』


 ミィナスが俺の方を見て意見を伺うが……とりあえず意識加速を使って色々な手段を考える……大枠は卵をこちらに持ってこさせなければ良いか? 足止めさせて蜥蜴が暴れるならば撃退、レスタジン人も撃退……しか無いな……込み入った指示を出すと混乱するな……先行部隊も扉を抜けたが……後ろの混乱を聞けば帰ってきそうだな……


『よし、攻撃陣は巨大蜥蜴には手を出さず、卵を運搬しているものと発生装置を持っていそうなレスタジン人工作員を排除! 巨大蜥蜴は暴れるようだったら仕留める。いいね? あとは先行している部隊に戻らずにそのまま『穴』の浄化をするように連絡を。おそらく混乱しているはずだ』


『わかった!』

『承知した』

『レスター! 『快速兎』のメンバーで前方の部隊に通達して、後ろの部隊は気にするなと!』

『承知した、皆ゆくぞ!』

 

 ブリスィラ先生がすばやく『快速兎』に指示を出し、俺たちの話を近くで聞いていたアルティアが拡声魔力を使って全員に通達する。


『みなさん、突撃してくるレスタジン人のみを攻撃! 大蜥蜴は後回しです! 私が先陣を切る! 皆の者続け!!!』

【【【『『『オーッ!』』』】】】


 アルティアの指令を聞いた聖騎士と攻撃役の探索者精鋭部隊が向かってくるレスタジン人達に突撃をかける。


 レスタジン側の行動があまりにも無謀すぎる突撃に見え……陽動作戦にも見える……上手くいくと良いのだが……

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