第94話 ディネーブ城防衛戦 後

■  ■  ■


『おいおい! 何が起きているんだ! 誰だ城門を開けたやつは!』

『わかりません、突然開きました……城門の自動巻き取り機を操作したものがいるみたいですね……便利なんですよねあれ、あ、そうじゃない。どうすれば……』

『騎士たちを向かわせよ! 避難してきた町人たちがやばいだろ!』

『承知しました、早速向かわせます……』


 ディネーブ城の当主らしき壮年の人物が城の物見台から突然城門が開いたことに驚き、慌てて部下に指示を出す。ヴァノマーパルからの救援部隊でなんとかなりそうな雰囲気だった矢先のトラブルで混乱が起きていた。


『お、おい! 城下町に血眼オオカミの馬鹿でかいやつもいないか? 大丈夫なのか?』

『はっ……城下で防備に回っていた騎士と残った探索者が向かってくれているようですが……被害はかなり出るものかと……今は兵士と狩人達がなんとか抑えてくれているようですが……』

『くそっ! 街の探索者たちを『穴』の調査にだしたのが裏目に出たか……俺も出るぞ!』

『お、おやめください! 引退して何年経っていると思うのですか!』

『くっそー』


 当主が部下たちに両腕を羽交い締めにされて取り押さえられる。どうやらここの当主は考えるよりも先に行動をするのが日常の人物の様だった。


■  ■  ■



 俺たちは血眼オオカミの群れのおかげで無人になったディネーブ城の街をかなりの速度で移動をしていた。魔力切れが近い魔術師を浮遊馬車に置いて、残ったメンツ全員で開かれた城門に向かう。


『騎士団前へ! 魔術師達はうかつに前に出るな! 騎士を盾にしろ!!』


 騎士隊長ラレスの怒号が響き渡る。突出していた魔術師の数人が速度を落として後ろにつく。騎士に続き、俺たち探索者チームがあとを追う。結構倒したと思っていたが……血眼オオカミがかなり残っているな。100匹くらいはいるのだろうか……王と、頭領2頭……リーダークラスが少しか……


 城門の方の状況を見ると兵士達が頑張って血眼オオカミの群れを抑えている感じだったが、血眼オオカミの王が兵士達を吹き飛ばしながら進んでいく。何かを狙って突き進んでいるようにしか見えないな……

 

『タクマ、俺、城門入ったら敵を引きつける。後ろお願い』

『分かった。ヴォルスとキョウカは好きにやってくれ。後はいつもどおりエルドが前面の陣形で戦う。チサトとシュウトくんは前と同じ様に戦闘が落ち着いてきたら回復の方に行ってしまって!』

『わかったわ!』

『はいっ!』


『承知した』

『行ってくるわ!』


 ヴォルスとキョウカが俺たちの元を離れ、騎士たちと違う方向に移動し始める。手薄になっているところの兵士たちの援護に向かうようだった。




 乱戦になりすぎていていつものように自由に魔法を使えないなこれは……エルドが前に立ち、迫りくるう血眼オオカミを吹き飛ばしながら突き進む。エルドはあえて血眼オオカミを上方向に吹き飛ばし、空中に浮いた血眼オオカミをミィナスとシュウトくんとヴィナルカが魔法や弓矢で射抜いていく。俺はいつでも敵が来てもいいように盾と槍を構え、撃ち漏らしが来ないか警戒しながら付いていく。


 同時に到着した魔術師達も5,6人ずつで円陣を組むように、役割分担をしながら前進していく。前の『穴』の戦いで見せた連携を上手く取り入れているようだった。


 通常の血眼オオカミの討伐が進み、残るは王と頭領クラスのみになっていた……だが、血眼オオカミたちは逃げることもせずに近づいてくる兵士や騎士たちを振り払い城下町の奥へ奥へとに向かっていく。

 

 丁度、血眼オオカミたちが城壁の隅の方に追いやられ……いや、その先に追いやられている人物が兎人族が二人いるな……どう見ても血眼オオカミは追いやられている二人を追ってきた様にしか見えない……一人は血に染まった衣に剣を突きつけながら? ……一人は……あれは?『穴』の起動装置?


 『流星の狩人』の面々はすぐに気がついたが、騎士のラレスや魔術師、兵士たちも全く気がついていない様で、血眼オオカミの王にのみ注意が注がれている様だった。

 

 『穴』の起動装置を抱えた人物が何やら話しているが、遠すぎてよく聞こえない……が、自分の首に小剣を突きたてた後に血を流しながら『穴』の起動装置を抱きかかえる。

 それと同時に血眼オオカミの王と頭領が同時にもう片方の血に染まった衣を持った人物に襲いかかろうとするが、その場にいたかなりの人数の雨の様な弓矢と魔法の攻撃にさらされ、血だらけになり満身創痍になりながらももうひとりの兎人族の男の喉笛を食いちぎり、まるで盾になるかのように血に染まった衣の前に2匹がうずくまる。


 俺たちは何が起きているか正直なところ理解できなかったが、『穴』が発生したのだけはわかった。


『魔術師隊こちらへ! 前と同じ様に一斉射撃をして妖魔を撃ちます!』

『わかりました! みなさんタクマたちの元へ!』


 ネラルウカの指示で魔術師隊がエルドの後ろに展開し、いつでも魔法を撃てる準備をする。あとは『神聖球』が来るまで時間稼ぎだな。


『ラレス! 『神聖球』の準備を!』

『わかった! あっ……すまない、ディネーブの者たちよ! 『神聖球』はないか!』

『あるぞ! すぐ持ってくる!』


 探索者らしき人物が、ラレスの問いかけに答え、一目散に走ってどこかに行ってしまう。おそらくこの街にある『神聖球』を取りに行ったのだろう。ヴァノマーパルから持って来たやつは浮遊馬車に置いたままか?


『来ますね……』

『はい、気配を感じます……』


 シュウトくんとミィナスが『穴』の奥で何かを感じるらしく『穴』への警戒を怠らない。3呼吸するくらいの時間が経つと、空中に浮いた『穴』から小型から中型の人型の妖魔がこぼれ落ちてくる。相変わらず不気味な風体だ……落ちてきてから妖魔の方も状況を確認するまで動けないのは経験上知っていたのでちょっとだけ間をおいてから魔法発射の合図をする。その間にも新たな妖魔がボタボタと『穴』から落ちてくる。城壁にいるギャラリー達は明らかに気持ち悪そうな表情をしたり声を上げたりしている。



『炎の槍! セット! 目標『穴』の直下! 3,2,1 発射!!』


 例のごとく魔術師と『流星の狩人』の連携で落ち来る妖魔を炎の槍や、風の槍で片っ端から焼き払い、吹き飛ばしていく。それから5分くらい撃ち続けただろうか? 倒した妖魔はおそらく100は下らないだろうが『穴』が広がっていく…… 妖魔の中型なども出始めた頃にディネーブ城の探索者が『神聖球』を持ってきてくれる。それを見たラレスが指示を出してくれる。


『タクマ!次の魔法の斉射後に行きます! 騎士たち、次の魔法後に突っ込むぞ!』

『承知しました!』


『わかった! ヴィナルカ、ミィナス! 炎の槍の後に氷の槍をお願い!温度を下げて!』

『分かったわ!』

『はいっ!』

 

 俺は手を上げ魔術師軍団に指示を出す。


『炎の槍! セット! 目標『穴』の直下! 3,2,1 発射!!』


 炎の槍の後、一拍の間を置いてヴィナルカとミィナスに氷の槍を放ってもらう。これで着地地点が業火で作業できないなんてことにはならないだろう。



『助かる! 行くぞ!』

『おう!』


 水蒸気が充満するが、ラレスに率いられた騎士たちは風の魔法を使いながら水蒸気を吹き飛ばし着地地点に移動し『神聖球』を起動させる。上手く起動し、例のごとく『穴』が消滅していく……


 その光景を見ていた城下町や城から見ていたギャラリーから大歓声が上がる。俺たちも思わずハイタッチなんかをして上手く行った功をお互いに労う。


『やりましたね!』

『なんか簡単だったわね、あ、修斗、けが人の所に行くわよ!』

『わかった! 直ぐ行こう!』


 チサトとシュウトくんが喜ぶ間も無く、けが人のところに急いで移動をする。どちらかというとディネーブ城の兵士や狩人に被害が多いようだな……城門を開けられた時に出た被害だろう……準備もなしに100頭と王つきの血眼オオカミに来られればたまったものじゃないな……




 それから、探索者や魔術師が総出で血眼オオカミから魔石や毛皮の剥ぎ取りなどを行っていく。襲われた不利益を少しでも取り戻したいから当たり前の事だろうな。そんな中、兎人族と、『流星の狩人』は『穴』発生装置の後に集まる。


『……はぁ……何とも言えんな……』

『そうね……』


 キョウカとヴォルスが血眼オオカミの王と頭領の元で何とも言えない悲しい様な表情をしていた。俺も近づいて何事かとみてみると……俺もおそらく同じ様な表情になってしまっていたと思う。血まみれの衣の中には血眼オオカミの子供の死体が入っていた。ここまで血眼オオカミの群れを陽動するために街まで持ってきたのだろう……


『子供を追って来ていたのですね……』


 ミィナスが悲しそうな顔をしてそっと呟く。その呟きに兎人族のレスターが反応をする。


『はぁ……そうだな。魔獣と言えど、オオカミだもんな……産まれたばかりの子供を追ってきたんだろうなぁ……王の子だったのだろうな……』

『その隣は……こいつもおそらく誰かを守るためにやったんだろうな……部族はわからんが兎人族だな……二人共』


 『穴』発生装置を抱きかかえ、黒焦げになった兎人族の死体をみながらレスターが呟く……

 

 その場になんとも言えない空気が漂う。血眼オオカミにしろ、身元が不明になった兎人族にしろ、家族を守るために死んでしまったのだ。平和な世の中ならばどちらも生き延びられただろうに……


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