第93話 ディネーブ城防衛戦 前
夢をみていた。
雪山……これは……ああ、妻と一緒に行った……いや、当時は彼女だったな……一緒に行ったスノボか……楽しかったな……楽しかったけど最後に俺はやらかしてしまった時の夢だ。
俺は調子に乗ってジャンプしたりして遊んでいたら制御がうまくいかなくて彼女にぶつかりそうになって……強引に転んだら木まで転げてしまって右手の骨を折ってしまった時の夢だ……痛かった……痛くて情けなかったな……まるで全部自分のせいだと言わんばかりに泣きじゃくる彼女を見て俺は痛いのに慰めなければいけないと言う変な状況になっていたな……ああ、これも良い夢なのだろうか……
『……おはよう……そうか、滑らせればいいのか……』
『おはよう、タクマ、良い夢を……え? 滑る?』
『おはよう、エルド……ああ……腕の骨を折った夢を見た』
『……それは、良い夢じゃないね』
『妻の姿を見れたから……良い夢だったと思う』
エルドが複雑な表情をしながら俺を見る。ちょっと間をおいて気を取り直してシュウトくんを起こしに行く。シュウトくんはどこでも快眠熟睡が出来てすごいな……そんな事を考えていると先に起きていたヴォルスが俺に話しかけてくる。
『妻の夢……と言うことは前の世界の夢か?』
『ん?ああ、そうだよ。前の世界……雪山を見たのは久々だったな』
『雪山……雪国の生まれなのか?』
『ああ、違うよ。俺のいた国では冬になると雪が降るところがあるからそこに滑りに遊びに行くんだよ』
『なんとも面妖な……雪山で遊ぶとは……危険ではないのか? 自然生物の領域であろう?』
『あ~そうか……俺のいた国では雪山にいってもたまに、本当にごく稀に小さい熊が出るくらいでほとんど危険が無いんだ。どこ行っても安全な国だったよ』
『……むぅ。私が聞いた話だと戦争の絶えない国……と聞いていたのだが……』
『俺の時代が平和だっただけかもな……60年前とかは戦争中だったわけだし……』
『なるほど……平和を勝ち取った訳だな』
『……そのへんは難しい解釈だな……なんとも言えない……やっぱり色々な時代の人が来てるんだな……』
話をしていると俺は前に見た夢を思い出した……あれもなんか微妙な未来を察知していたのだろうか? 夢で腕の骨を折ったからこの世界でも腕を折るのだろうか?
『あ……前は時計をもらった夢を見たら時計を失うことになっていたな……この世界だと夢ってなんか重要なんでしょ?』
『ああ……そうだな、現在この世界を見ている神の一人が夢の神……だからな……タクマも悪夢を見たりするのか?』
思いっきり見たな……多分あの全てを破壊する山のような妖魔の夢……あれだろうな。
『おそらく見ている……山のような妖魔がすべてを吹き飛ばしていた……けどそこしか見てないんだよね……』
『……そうか……見たのか』
ヴォルスが考え込み始める。ヴォルスも悪夢を見ているのだろうか? エルドも俺たちの話を聞き入ってなにか考え事をしているようだった。各々が考えにふけっていると天幕が開いてチサトが顔を出す。
『朝だよ~朝ごはんの準備できてるって』
『分かった、行こうか』
『修斗ねぼすけだな……まだ寝てるのか……』
そうチサトが言うとなかなか起きないシュウトくんのもとに歩いていき耳元に息を吹きかけて頬にキスをする。
『お・は・よ・う・修斗』
『……え、えええええええええ!!!』
シュウトくんが目を開けると同時に飛び起きる。相変わらず二人のコメディが面白い。こんな感じなのを見るのは久々だな。思わずニヤついて見ていたが、その様子を見たヴォルスが不思議に思ったらしく俺に質問をしてくる。
『た、タクマ……今のは、お前たちの故郷では当たり前の事なのか?』
『あ……当たり前でないかな……ちょっと悪ふざけしている感じ』
『そ、そうか……女性がそんな事をやるとは、いやはや……』
質問の内容がおかしかったのでヴォルスを見てみると顔が赤くなっている。どうやら今のラブコメな状態がかなり刺激的だったようだ……貞操観念が高い国のようだな……
朝食を済ませた後はその後行軍を再開する。浮遊馬車の上で今朝の夢からアイディアを得た俺は、氷魔法の得意なヴィナルカとそれなりに使えるミィナスに氷の床のアイディアを話してみたところ、出来そうだからやってみようかという話になった。作戦開始直前に血眼オオカミが走るルートに適当に地面を氷で固めて、オオカミたちを転ばせて団子状態にしようと言う算段だった。ヴォルスと話しをして思ったのだが、この世界の人、氷に馴染みが無い。ビックリするほどない。やはり冷蔵庫、冷凍技術ってすごいことなんだなとしみじみと実感した。
それにしても浮遊馬車は本当に便利だ。そのうちこの世界の標準になるのだろうか? そんなことを考えながらちょっとボーッとしながら移動を続ける。後ほどの戦闘を考えると魔力消費が今日は出来ないので皆暇そうにしていた。
半日ほど移動を続けると、無人の荒らされた村の様なものを通り過ぎる。ここも魔獣に襲われたのだろうな……そしてしばらく移動をすると遠くの方に城壁に囲まれた城の様なものが見えてくる。襲われているはずだが煙とかが上がっていない不思議な雰囲気がした。
『血眼オオカミの群れを確認しました。やはり、相当数がまだ残っている様です』
『火を使わないから街が綺麗なままね……荒らされてはいるみたいだけど……』
チームでも一番目のいい、ミィナスとヴィナルカの二人が俺たちに詳細を報告してくれる。大きな異変はなかったので俺たちにも見える距離まで移動すると、街には戦争などで起こる破壊の形跡はない不思議な感じだった。街の中心に野良犬の集団がたむろっている感じだった。
『どこに陣取りましょうかね』
その様子を見ていたシュウトくんが俺たちに話しかけてくる。その質問にヴォルスが答える。
『ん……起伏もなければ障害物もない……あるとしたら家だけ……これほど残された市街地があるとなると……外におびき出して叩くのが人情かもしれんな』
まぁ、そうだろうな……そうすると必然的に……町の城壁の入口から少し出たところだろうな……
『浮遊馬車を置いてとりあえず街の城壁入り口まで移動しましょうか。気が付かれた時点で「トーチカ」の作成をしようか……』
俺の返答に、その場にいたネラルウカさんが頷きまわりに指示を出す。
『全員に通達、浮遊馬車を停車させて準備でき次第城門へ移動します。ラレスにも伝えておいてください』
それか俺たちは慌ただしく準備をして浮遊馬車を後にする。隠密移動とのことだったのでなるべく魔力を使わずに移動をする。兎人族の3人は先行して斥候と囮役を引き受けてくれた。今回はミィナスが行かないから俺の心が楽だった。
特に問題もなく予定していた町の入口、城壁前に全員が集合をする。兎人族の合図がないのでこちらの動きは血眼オオカミの群れに気が付かれていないようだった。
『じゃぁ、始めるわね!』
チサトが元気よく指定した場所に魔力で「トーチカ」を作成していく。魔力視をうっすらとしてみると、独特な光の魔力をチサトが纏っているようだな、あれが『神の力』なんだろうか?
チサトが3つ目の「トーチカ」を作成し終えると、街の中から上空に信号弾が上がる。どうやらこちらの動きを察知したようだった。残念ながら街の建物自体が死角になり相手の動きは音でしかわからない……魔力視も100mくらいが限度なのでそれ以上に探知距離を広げようとすると魔力消費が半端ないので今はしないでいる。
それからヴィナルカとミィナスが城門の方に近づき、氷魔法を放ち地面を凍らせていく。魔法が届く30メートルの地点から少し奥側を凍らせて転ばす……予定になっている。うまくいくと魔法効率も良さそうなのだが……
『騎士団前へ、魔術師はトーチカの後ろへ!』
今回の作戦の指揮を執る事になった騎士隊長のラレスが全員に指示を出す。
『よし、完成、あと1つ、あたしたちのね』
『ちょっと遅れても大丈夫だよ、千里、頑丈なのをお願いね』
『わかったわ。任せておいて!』
その様子を見ていたラレスが全員に指示を送る。
『魔術師、騎士団は「トーチカ」へ! 以降は合図が出るまで「トーチカ」から出るなよ! では『流星の狩人』よ、後は任せました』
騎士団と魔術師が既に出来上がっている魔力製「トーチカ」に入っていく。それと同時に城門の方から兎人族の3人が敵をひきつけながら俊敏にこちらに向かってくる。斥候を任されるだけあって早いな……ミィナスとどちらが早いのだろうか?
二百匹はいるであろう血眼オオカミの群れを後ろにして兎人族が氷の床を迂回してこちらに向かってくる。足音による地響きがすごい……最低でもライオンサイズだものな……ミィナスとヴィナルカもトーチカ前などを凍らせながらこちらに向かってくる。あれだけやれば綺麗に転びそうだ。血眼オオカミもかなりの数がこちらに来ている様だった。中型と大型も少し混じっているな……更に大きいのは見えないから王クラスは引きつけられなかったようだ。
『よし、できた! 皆入って! あたし達のは2階建てだ!』
『おお、上からも撃てるのか……』
チサトがはりきって作った俺たち用の「トーチカ」はさながら砲台のようになっていた。中には階段まで作ってくれて……チサトは美術のセンスがいいのだろうか?サイズ感や階段のステップ数などが素晴らしい……って今は関係ないか。
『来たぞ! ひきつけろよ! まだ撃つなよ!』
ラレスの怒声が聞こえてくる。さぁ、撃とう……と準備をしていると、血眼オオカミたちが氷の床に面白いように引っかかって転び、転んだオオカミに後続が激突し転び……とまるでレースの衝突事故の様な感じになっていた。
『爆裂魔法。撃て!!!』
ラレスの合図で、転んで団子状態になっている血眼オオカミたちに魔術師20人と俺達5人の爆裂魔法が炸裂する。
ドォン!!ドォオオン! ドーン!!
可愛そうなくらい一方的に被害を与えているな……なんかこちらに来ていた半数はいまので吹き飛んだ様に見える……あまりの事に後続の血眼オオカミ達が怯むが、大型クラスの遠吠えに反応し迂回する様にしてこちらに突撃をしてくる。やはりそこまで馬鹿ではなかったか……突撃してくれれば楽だったんだが……
魔獣目線で見ると、この「トーチカ」は襲えそうな高さと相手が見えるくらいの隙間があるので攻撃が届くと勘違いするんだろうな……
それから血眼オオカミ達は迂回してまっすぐに突き進んでくる。今度はリーダークラスと頭領クラスもまじり襲いかかってくるが……襲いかかろうとジャンプした地点の氷にまたも引っかかり転んで団子状態になっていく……面白い様に転んでいくな……
『炎の槍、撃てー!!』
ラレスの合図で俺たちも炎の槍を撃ち放つ。頭領クラス、リーダークラスはさすがの耐久力で「トーチカ」前の穴を飛び越え「トーチカ」に張り付くが、身体が大きくて隙間に入れない。
入れないところでモガイているところを騎士の弓矢と槍、魔術師の風の槍の魔法で串刺しになっていく。
後は一方的な蹂躙となった。頭領クラスがあっさりと殺されたことにより、部下のオオカミたちが散り散りに逃げていくのだが、弓矢や炎の槍で討ち取っていく。半分以上は打ち取れたのだろうか……撃ち漏らしは王の方……街の方に走っていってしまったな。
『王が来てくれれば楽だったんだけどね……』
『王は……いたのは一個下の頭領クラス? だったんですかね?』
俺とシュウトくんは「トーチカ」の2階から戦況を確認しながら会話をする。王の位置を確認する必要があるな……
『タクマ! 戦況がわからない! 『快速兎』を送るか?』
『ちょっと考えさせてくれ!』
隣の「トーチカ」にいたラレスが入り口を壊して出てくる。もう辺りに血眼オオカミはいないものな……俺たちも「トーチカ」の出入り口の岩を壊し外に出る。それに続いて「トーチカ」から続々と騎士と魔術師達が出てきた。皆の表情がとても明るい。一方的で安全だったからだろうな。
『いやはや……完全勝利でしたな……被害ゼロとは……』
ネラルウカが感心しながらこちらに近づいてくる。
『ああ、たしかに完勝だが、肝心の王がいなかった……探知の範囲にはいないな……』
ラレスが強めの魔力感知をしてくれる。あれだと200メートルはできるくらいだろうか? 街の殆どをカバーしている気もする……どうしたものだろうか? やはり兎人族とミィナスに斥候をお願いするか? 俺たちが迷っているとチサトがミィナスに話しかける。
『ミィちゃんおいで~』
『ミ、ミィちゃん……分かりました……』
チサトにミィナスが「トーチカ」の前で二人で何かを話しているが……何をする気だろう? チサトがミィナスを後ろから抱きかかえ……そのまま風の魔力を込めて飛び上がっていく。
ゴォオオオオオオ……
凄まじい風圧でミィナスを抱きかかえたチサトがかなりの速度で浮き上がっていく。打ち上げロケットみたいだ……
『なるほど……あれなら遠くまでよく見えますね』
『「狙撃」されることは……無いよな? この世界では……』
『おそらく……魔法の射程短いですからね……遠距離から魔力強化で槍でも投げれば当てられそうですが……』
俺とシュウトくんがチサトを見ながら感心した感じで雑談をしていたが、現地の異世界人組はあまりの事にポカーンとして口を開けて呆然としていた。普段動じないヴォルスまで口を開けて呆然としている姿が面白かったが……チサトとミィナスが上で何かこちらに驚いた感じでジェスチャー混じりで色々と話しかけている様だが……風魔法の音が大きすぎて聞こえないな……ジェットエンジンみたいな音だからな……
1分ほどすると、チサトとミィナスが降りてくる。ちょっと二人共表情が慌てている感じだった。
『大変です! 城門が開いていって、血眼オオカミの群れが城に入っている様です! 王も見えました!』
『あたし達が見ている間に城門が開いていったの! なんかパニックになっている様だったわ!』
俺たちは思わず顔を見合わせる。どうやらトラブルの様だな……俺たちは城下町に魔力を込めて救援するべく慌てて走り出した……
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