第128話 ダムの壁の上からの逃避


 遠くから安全な場所で様子を見ていた観光客は『巨大穴』と黒い靄に包まれ、巨大化していく司祭を見て一目散に逃げ出していた。


 その様子を脇目に見ながら俺は思考加速した状態で戦術を何通りか考えるが……普通に戦うとかなりジリ貧になりそうなのはわかった。いつもは妖魔をひきつけている間に『穴』の直下で『神聖球』を起動させて浄化。『穴』を消滅させた後に妖魔を殲滅……なのだが、道幅の半分を超えるサイズの妖魔がひしめく中……『穴』の直下に行くのは至難の業だった。何匹かは打ち倒さなければならない……

 ヴィナルやミィナスの魔法で……確かあの起動装置は魔力を吸い取ったし……ダム自体を破壊しかねないな……


『どうするのじゃ? 場所が悪すぎるな……』

『できるなら街まで引きたいが……被害が多くなるな……』


 経験の多いグニルーグとヴォルスもどうするか迷っているようだった……被害が出てもいいならそれも良いのだけれども……


 いつだかチサトが見せてくれた『穴』ずらしをしてダムの壁の上空から崖側にずらせば……200m近い高さだから落下エネルギーで結構なダメージを与えられるし小型だったら即死してくれるだろうな……うまくいくだろうか?


『チサト! あの『大穴』の右側から神聖力で浄化出来ないか?『大穴』の位置をダムの橋の上からずらしたい!』

『え? ああ、なるほど、やってみるわ!!……あ、ちょっと遠いかも……』


『みんなすまない! チサトの魔法が当てられる場所まで前進! 倒さなくても良い、防ぐだけだ!』

『オー!!!』


 『流星の狩人』と各部族の寄りすぐりの戦士達によってチサトを中心に突撃する感じで手前の巨大妖魔に襲いかかる。さすがに中型や小型の様には行かずに、手こずりながらも部隊は前進をするが。ヴォルス達が巨大妖魔を切り裂きながら前進し、各種族の部隊に守られながら魔法が届きそうな距離まで移動をする。


『じゃぁ、やるね! よっ! ハッ!! よっこらせ!』

『……』


 掛け声がなんかおじさんくさかったが、チサトの手からは神々しい魔力の流れが解き放たれ上空に浮かんだ『巨大穴』が逃げるように崖側にずれていく……『巨大穴』の動きに意思は感じられず、磁石の反発のように動くだけだったが……まぁ、上手く行った感じだな。


『おお! うまくいきましたな! 聖女様!』

『なんともまぁ、不思議なもんじゃのぉ』


 その場で巨大妖魔と戦っていたものも状況の変化に気が付き、口々に感嘆の声を上げる。新たに巨大妖魔が出現をしようとしているが、そのままダムの下まで落下してかなり……地面との衝突音がかなり激しく聞こえる。



 ドォォン!!!


『よっしゃぁ!!』

『やった!』

『これでなんとかなりそうだ』


 その場にいたものが一瞬喜びの顔を見せるが、目の前に出現する5体ほどの巨大妖魔を前に気を引き締め直して戦闘を再開する。この数なら……どうやらうまくいきそう……


『ニェエエエエエ!!! セイジョ! セイジョぉォ!!!』


 黒いモヤに取り込まれて倒れていた元司祭が立ち上がりながら絶叫をする。あまりの声の大きさに、味方も、巨大妖魔もそちらの方を振り返る。


『あ、なんかやばい感じね……』


 チサトが焦った感じで後ずさりをしながら言う。


『ちょっと! なんか膨らんでますよ!!! どうしましょうか??? 広範囲の魔法を……ああ、ダムが壊れちゃう、ああどうすれば???』

『……俺の後ろに下がる、チサト! 早く!』


 シュウトくんが盛大に慌てだし、エルドが落ち着きながらも強い感じの声にチサトはすぐに従いエルドの後ろに移動する。


 元司祭……すでに仮面が顔に張り付いているから……人間が妖魔化するのか……どう言う仕組みなんだ???


『……なんか手が至るところから生えてますね……』

『……手前の巨大型が邪魔で近づけない……叩くなら今なのに!』


 元司祭の妖魔はすぐ近くで戦闘に参加できていない最後尾にいる巨大妖魔に手をつくと……巨大妖魔の形状が変化していき……あれは……融合しているのか?


『タクマ! 融合型の妖魔じゃ!! 神聖力で浄化せんとなかなか倒せない相手じゃ! とりあえずチサトを連れて逃げろ!』


 英雄王グニルーグが巨大戦斧を振るいながら俺に行動を促す。あの感じだと前の『災厄』のときに戦った経験がありそうだな。

 

『クッ……抑えきれないな……タクマ! 我々の力に期待してはだめだ! 逃げろ!』


 ヴォルスの切羽詰まった声も珍しいが……それほど危険な状態なのか? よく見るとヴォルスもキョウカも目の前の巨大型をいなしながら戦っているのが精一杯に見えた。各部族の精鋭たちも連携しながら目の前の巨大型妖魔と必死に戦っている……道幅が狭いから同時に相手をするのは2体だが……立ち回りに苦労しているみたいだな……


 俺は思考加速させても特に妙案を……ん? 聖女だけを狙っているのか? それならちょっと試す必要があるな。


『エルド! 一旦後ろへ……』


『ニェエエエエ!!!!!! セイジョメ!!! ササゲル!!!』


『うげ……顔が表面に生えてるのあれ? 妖魔がしゃべるのか……』

『あの仮面全部壊さないとダメですかね……何個もあるし』


 エルドの前にシュウトくんとアルヴールが武器を構えて遮るように立つ。ヴィナルカとミィナスも魔力を全身に練り上げているが……今の状況では味方もろともになってしまうので何も出来ない……


 巨大な像サイズのタコのような姿になった司祭はうねる様にチサトの方に向かって走り出す。突撃してくる間にも各部族の隊長クラスが武器を突き立てたり腕などを切り刻むが、腕が何本か切り離されてもダメージなんて考えないくらいの勢いで前進をしてくる。まるでサイの突進の様だった。


『クソっ! 止められん!』

『聖女様! お逃げください!!!』


『チサト!走るぞ!』

『わ、わかった!』


 チサトを先頭に俺たちは街の方へと逃げ出す。が、すぐに追いつかれてしまいそうになる。


 

『うぉおおおおおお!!!!』

 

 とんでもない魔力をまとったエルドが司祭妖魔の進行方向を遮る様に仁王立ちをして司祭を盾で受け止める。とんでもない衝突音がする。が、あのサイズが違いすぎる……それでもかなり勢いが弱まった。全力でまっすぐに逃げ出すと、動きを止めたところにアルヴールが2刀で切りつけ、至るところを切断していき、ヴィナルカが小規模な氷の魔法で動きを止めようとしているのがわかる。それでも手が新たに出現したり、触手のようなものが飛び出たりして進むのをやめようとしていなかった。


『どおぉおぉりゃぁあああああ!!!!』


 突進力の弱まった元司祭の融合型妖魔をエルドが……なんと巴投げのようにして壁の外に向かって投げ飛ばす。重量差はとんでもないはずだがものすごい魔力量と身体強化でその差を埋めているようだった。一瞬ダムの城壁の外まで吹き飛んだように見えたが、触手のようなものを何本も伸ばし、城壁にへばりつくように戻ってくる。へばりついた所にヴィナルカの氷魔法とアルヴールがすかさず迫撃をするがダメージもお構いなしによじ登ってくる。仮面は全部チサトの方向を見ている感じだった。


『ああっ、だめね!』

『投げちゃいましたね……エルド……すごい』

『みんな立ち止まらない! 走るよ!!! チサト!』

『わかった!』

 

 俺、チサト、シュウトくん、ミィナスの4人だけになってしまったな……


『タクマ! どうするのですか??? すぐに街になってしまいます!』


 走り出してしばらくするとミィナスが若干ヒステリックな感じで俺に聞いてくる。


『あれを使う! 最悪壁から風の魔法を使って融合型妖魔を引きつける!』

『あれ?』

『あ、あれ使えるんですか? タクマさん?』

『あ……おじさん使えるのね……』


 たまに自然に出てくるチサトのおじさん呼びが心に刺さるが、今はそんな事を考えている暇はない。運良く発射台に乗ったままの『ハンググライダーもどき』が残っていた。


『あれ……運転できるの?』

『最悪滑空できれば風魔法を利用して何とかできる! 落ちても乗り捨てれば大丈夫だ!』


 係員らしい人たちが呆然とこちらを見た後に街の方に逃げ出す。俺たちも後ろを振り返ると融合型妖魔がエルドを引きずりながらこちらに接近してくる。エルドがものすごいブレーキをかけている様だな……すごい馬鹿力だ。その脇でアルヴールとヴィナルカが足部分を色々と攻撃しているようだが……足止めの足しにはなっているのだろうか?


『ニェエエエエ!!!!!! ニエェエ!』


 融合型妖魔が絶叫をすると、その場にいた観光客が一目散に街の方に逃げ出す。ここ迄来ると人が多すぎる、フライト出来なくてもここから……バンジージャンプ的に魔法で飛ばないと駄目だな。


『操作は……スティックとペダル式ですね。魔石で後ろのジェットエンジンみたいのを動かすのかな? でも僕には経験が……ゲームくらいしか……』


『大丈夫よ! おじさんに乗せてもらったことあるから!』

『え、どのおじさん??? チサトは運転はできないよね?』

『あ、そ、そうね。乗っけてもらったことしか無いわ! タクマよろしくね!』

『お、おう……』


 シュウトくんが俺を見た後に惑った感じになってしまう。チサトもなんかパニックの様になっているな……俺とチサトは『ハンググライダーもどき』に乗ると……あ、シートベルトみたいのもある……と言うか、シートベルトだな……これもテンセイシャが作ったなにかなのだろうか? これは逃げ出す時に邪魔か?


『シートベルトは無しで、途中で飛び降りられる様に!』

『えええ?? そんな?? あっ、そうか、わかったわ、今のあたしたちなら大丈夫ね!』


 とりあえず俺はスイッチらしい目立ったボタンを入れてみる。後ろのエンジン部分の様なところに電気モーターの駆動音の様な音が聞こえる。


『行けそうですね。ロックっぽいもの破壊します!』

『お願い!』


 シュウトくんが発射台にある『ハンググライダーもどき』の滑走路部分にある重りのようなものをどかしたりしていく。振り返るともうすぐそこに融合型妖魔が近づいてきていた。ミィナスも気がついた様で仮面めがけて弱めの雷撃を放つ。シュウトくんも持っていた槍を慌てて投げつけたりするがあまり効果はない様子だった。


『ニエェエエエエ!』


『行くよ!! 捕まって!』

『わかったわ!』


 ゴォオオオオ!!!!


 俺はペダルを踏み込みエンジン?のスロットルを全力にする。ほとんどジェットエンジンだ! とんでもない推進力が加わり滑走路から一気に加速し空へ飛び立つ。そのすぐ後ろには融合型の妖魔の姿も……あったが、あの巨体で飛べるわけではなくそのままダムの壁の下の方へと落下していった。


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