第5話 食料を探してみる
それから日が暮れるまで男二人であたりを散策し、食べられるものが無いか探した。二人がかりで何種類かの木の実と果物? らしきものを獲得した。チサトさんは水場までは割と近いので大丈夫だろうと言うことで、ペットボトルと水筒と山小屋にあった木の桶? を満タンにしておいてもらった。
「うーん、食べられるのかなぁ?」
「あ、サバイバル知識で……ちょっと切って体につけてからしばらく放置、それでかぶれてなかったら食べられる……ってのがあるな。まさか実践する時が来るとは……」
チサトさんが悩んでいる間に、俺は採ってきたりんごもどきを薄く切って肌に貼ってみる。同時に他の果物もどきでも試してみる。ほとんどが大丈夫な様だ。
「なんか手慣れていますね」
「キャンプが趣味なの?」
「ああ、俺のと言うより妻の趣味だな、いつも連れ回されていろんなことをやったよ」
りんごもどきをかじってみる。酸っぱくて、酸っぱい、そしてちょっと甘い。そして後味が少し渋い……が食べられるな。
「……はぁ……やっぱり結婚してたのかぁ……あ、あれ? なんか変だなぁ」
「えっ!その年でお子さんがいるんですか?」
「……ああ、おそらく……ちょうど出産する日だったよ、ここに来たのは」
「それは……」
「えっ……」
「無事生まれてるといいな……ほら、これは食べられるみたいだよ」
気を使わせてしまったな……チサトさんは頭を抱えてしまっているし……今みたいな時はポジティブなことを言わないとだめだなぁ……そんなことを考えながらりんごもどきを二人に渡す。それなりにお腹が減っていたのでふたりとも黙々と食べる。妻のことを考えない様にしたいが、節々でどうしても思い出してしまうな……こうやって遠く離れてなお彼女は俺の心で光り輝いている。
「すっぱいけどいけますね」
「なんか涙が出てきちゃう……おいしぃ……多分すっぱすぎるけど…あたしの味覚、今おかしいかも」
それからは採ってきた果物をあらかた胃の中に収め、木の実……は流石に煮るか焼くかをしないとダメそうだった。
「どんぐりもどきは駄目ですかね……」
「煮たり蒸したりしないと駄目だろうね。もう暗いし、ここで火を使うとどんな獣が出てくるかわからないからまた明日かな……」
「はぁ、しばらくお風呂とはサヨナラかぁ……ベトベトする感じね」
「明日は水源を下っていって川とか探してみようか、あとは小動物を狩って食べるとかしないと駄目かもね」
「か、狩りですね!」
「えー、可愛そう……なんて言ってられないか……」
「タンパク質を取らないと弱っていく……だった様な記憶あるから必ず獲らないと駄目だねぇ……」
一息ついた所でチサトさんがシュウトくんに質問する。
「ねぇ、修斗…… なんで家に帰りたくないの?」
「……ああ、多分、僕と千里は死んだからこっちに来たと思うんだよ」
「え? ……生きてるじゃない? あたし達」
「千里、最後の記憶は思い出せるかい?」
「……」
「僕たちはここに来る前は交差点でトラックにはねられる瞬間だった。そこであたりが白くなったと思ったらここにいた……」
「う、うん、そうだったと思う……」
「もしかして帰る方法があったとしたら、あの瞬間に戻るのかな? 戻ったとしてもすぐに死んじゃうかもしれないから……」
シュウトくんの予測だとここは死後の世界なのかな? だとしたら色々おかしいものがある。俺の持ち物だ。身につけていたものは一応全部持っている。俺の記憶に間違いがなければアチラにいたままの体でこちらに来ていることになる。
「シュウトくん、俺はよくわからないんだけど、シュウトくんからみてチサトさんはどうなって見える?」
「え? ……向こうにいたのと同じ様に見えますよ?」
「チサトさんは?」
「……そ、そうね、同じかな? なんか変なのよね……記憶がぐちゃぐちゃで……」
チサトさんがなにか納得できないらしく、考え込む。それを横目にシュウトくんが俺に質問をしてくる。
「タクマさんは、やはり死ぬ瞬間に?」
「いや、俺は……交差点でトラックに引かれそうになっている高校生らしき人は目撃していたけど……俺は死ぬ直前じゃなかったと思う……」
「ああ、じゃぁ、僕たちの近くにいたからまとめて転移してきたんでしょうか? まきこまれ転移ってやつかな?」
「う~ん、その理論で行くと、トラックの運転手と、俺の脇に立っていた何人かの人も巻き込まれていないとおかしい気がするよ」
「わからないことだらけですね……」
「そうだね……寝て起きたら夢が覚めてると良いね……」
それから夜は万が一を考えて3時間交代で見張りを立てて寝ることにした。こんな夜中でも時間がわかるのは俺が腕時計を持っていたからだ。携帯の時計を見ればこと足りるのだがこの非常時での電力消費は避けたい。
それにしても普段はそこら中に時計があるのであまり見ない腕時計だが、妻には「社会人の嗜みとして腕に絶対つけておいてね!」と言われて無理に毎日腕につけていたが、忠告に従っておいて良かった……
彼女は無事に出産出来ただろうか? 連絡を取れる手段が全く無いのがもどかしい。試しに携帯を一瞬だけつけてみるがもちろん圏外のままだった。
山小屋の中も月明かりで思ったより明るかった。
明らかに地球の月より大きくて輝いて見える。それでも木枠の窓から見る空は満天の星だった。日本の東京から見る空とは全く違って美しかった。遠くの方では正体不明の鳥の鳴き声が聞こえたりして異世界感を醸し出してくれる。
しかし……蚊が多いな……虫よけが欲しい、地球だったらヨモギを使って煙でいぶすのに!……これは寝不足になりそうだ……ふと休息をとっている二人を見ると、二人とも疲れ切っていたのか、この環境でもぐっすり寝られる様だった。俺は後でちゃんと寝られるのかな……
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