第181話 ヴァルティリ城救援戦 前


 俺たちは、共和国ヴァルティリ領軍とディソスラパ西郡軍と共に、ヴァルティリ城の方へと赴いていた。近隣は収穫の終わった田や、まだ収穫されていない秋の実りをつけた畑が広がるのどかな雰囲気だったが……それとは反対に眼の前の空に広がるそれは禍々しく、この世の終わりのような風景だった。


『まるで『災厄』のようね……』

『そうじゃの……少しばかり空の色が薄いかもしれんが……』

『ウチが見た中で一番邪悪な感じがするよ……これでも『災厄』じゃないんだよね?』

『私が読んだ文献だと……空は赤黒く染まり、赤い雷が雨の様に鳴り響く……って書いてありましたね。正しくそんな感じですね。』

『『穴』の多さで空の色が変わるんですね。たしかに色が薄いですが、絵物語に出てくる地獄みたいですね……』

『ああ、そうじゃな……どうやら『大穴』の数で変わる様だのぉ……そう言う仕組みだったんだのぉ……』


『悪夢』で『災厄』を経験している流星の狩人のメンバー達を中心に、丘を超えた先に見えている『穴』や空の色を見て眉をひそめながら話をする。


『兄上、テニエンヴェス家の者たちもここから五里の丘陵地帯に軍を展開し、留まっているようです』

『わかった。フォルメル、引き続き監視を、今はヴァルティリ城城下町の救援が先決だ』

『はい、兄上、して軍の方はどうしましょう?』

『そうだな……十部隊に分けて、二部隊は城への救援へ、八部隊は各個『穴』の浄化に当たる感じだな……』


 ディソスラパ西軍の鬼人族の首領のユキムラがヴォルスに質問をする。

 

『ヴォルスよ? 俺らはどうするよ?』

『そうだな……非常事態とは言え、さすがに城下町に鬼人族……ディソスラパの軍勢が大量に押しかけると問題はあるか……』


 ヴォルスが臨時で広げられた印がつけられた地図の上を見ながら悩む。隣にたシュウトくんが地図を指しながら話し始める。


『ここからここ……おそらく『大穴』が出る場所の2箇所だったら、今いる軍だったらなんとかなりそうですね。テニエンヴェスの軍勢と真逆で作戦にあたっていただいたほうが良いかと。場合によっては攻撃されてしまいそうですし』

『そうですね、兄上、私もこの意見に賛成です』


 シュウトくんが周囲を見渡し、地図と照らし合わせ『穴』の位置の確認をしている。


『ここは平原が多いからよくわかりますが……『穴』の数がものすごいですね……』

『うむ、過去最高の量じゃな、よほどヴァルティリ城を落としたかった様に見えるのぉ……』


 グニルーグが地図の『穴』の位置を記したものを見ながら呟く様に言う。彼も自分の国でレスタジンにやられたことを思い出しているのだろうか……

 

『チサト、ヴァルティリ城の核に関して覚えていることはないの?』

『うん、前の回……『悪夢』では一旦ヴァルティリ城の街が妖魔で埋め尽くされた後に、連合軍で打ち勝っていたんだっけかな? ……『神核』は私は見ていないかな……妖魔に落ちたとは聞いていない様な……ごめんね、完全に覚えて無くて』

 

 ヴィナルカの問いに、チサトが答えるが、望んだような正確な答えは無さそうだな……『悪夢』……いや、前回のやり直しの前の世界の記憶があることは聞いていたが、流石に遠い記憶になるらしく、かなり歯抜けな感じみたいだった。何年も前のことを事細かに思い出せと言っても……思い出せないものな。


『伝令! 別働隊で行動していたエフルダム王国の探索者達が合流! 被害は軽微だそうです。チサト様に重症者の治療依頼が来ています。続いてですが、東方にて聖騎士アルティア様の軍もこちらに向かっているとの事です! こちらは被害状況等は連絡ありません!』

『ヴォルス様! エフルダム王国騎士団がナガラセ川の大橋にて越境許可の要請が来ています! 『穴』の援軍とのことですが……』


 エフルダム王国騎士団の知らせの言葉にチサトが手を合わせて喜ぶ。


『あ、もう来てくれたのね、ヴォルス、援軍をお願いしていたの。こんなに早く来てくれるとはウェンティかな?』

『風雷の騎士か……断る必要もないな……今は戦える人間が一人でも欲しい所だ。すぐに許可を! 全軍にテニエンヴェスの旗のもとには近づかない様に連絡をしてくれ!』


 それからは忙しかった、部隊の編成、各方面への連絡……だが、これを乗り切ればおそらくしばらく休める、そんな気持ちで作戦準備を続けていた。



§   §   §  テニエンヴェス家 視点


 ヴァルティリ城を一望できる丘の上から、テニエンヴェス家の軍勢が状況を見ながら話をしていた……


『確かにレスタジン人の工作部隊がなにやらやっている場所に『穴』が発生していますね……』

『若……やはり止めておきませんか……どうも空の様子もおかしい、我々にも被害が出そうだ』

『若、さすがに人道的に問題がありませんかね?』


『……いや、今が好機……俺はそう信じる』

『眉唾な情報でしたが……このままでは妖魔共に本当に共和国民が殺されてしまいますよ?』

『フン、どうせ敵となる家なんだ……我々を侮辱し続けた罪が今裁かれるのだ! 敵の家の民などどうなってもよかろう?』


『若……』


 若と呼ばれたものの発言に、周りの武官たちばかりでなく、お付きの従者までもが眉をひそめてしまう。若はそれにも気づかずに不敵な笑みを浮かべ続けていた。


『あいつらの言う通りに、『あれ』が落ちてくれば……弱体化した奴らを討つチャンスだからな……ククッ』


 主君の少々ネジの外れた発言に武官はお互いの顔を見合わせるのだった。



§   §   § 


 ヴァルティリ城での議会で、何人かの議員たちが、伝令の報告を受け、将軍たちの意見を聞き……傍から見ても慌てた感じで浮足立っているようだった。


『ヴォルス様より伝達です。門を固く閉ざし、神殿を死守せよとの事です。ディソスラパ西郡の軍と和解、友軍として『穴』の浄化に当たる。との事です』

『続報です、南東方向より、聖騎士アルティア様の軍が、南方よりエフルダム王国軍が支援に入るとのことです! 敵対行為をするなと注意が来ています!』


 議員達は話し合いながらも、目まぐるしく変わる状況においついていけない様子だった。

  

『……どう言うことだ? 『巨大穴』とやらは本当に出現をするのか?』

『それが本当でないとすると侵略行為ですぞ?』

『ヴォルス様がこの国を侵略する? 彼なら出来てしまうだろうな……』

『ヴォル坊がそんな事をするわけ無いだろう……あの愛国者が。民を守るために奔走しておったぞ』


 騒がしく議論が続く中、会議室の扉をあけて、肩で息をしながらチバが入ってくる。


『今、戻った! 状況は!』

『チバ将軍……助かりました。 君、状況の説明をよろしく頼む』

『はいっ、只今。では……』


 議員たちに促された士官が、チバや、同時に会議室に入ってきた護衛の騎士達に説明を開始する。話を聞いていくとチバの顔がどんどんと曇っていく事に評議会のメンバーが気がついて、騒然とし始めてしまう。


『総力戦だな……ここ……神殿を落とされればこの街、町民、文化……全部なくなるものと思うしか無いな……ヴァングラッド! 軍の全権を一時的に俺にかしてくれ』

『わかった、チバ、頼むぞ!』

『ああ……厳しい戦いになると思うが……町民の避難を任せる! 狙いは神殿の地下だ! では!』


 チバは早足で会議室を出て、護衛の騎士たちを引き連れながら廊下を進んでいく。


『チバ様、ご指示を!』

『神聖槍、魔石槍をできるだけ前線、城門前に持ってこさせろ! 城壁から門外に届くありったけの飛び道具の準備を!』

『チバ様、それですと街の中に『穴』が出現した際にはどうするのですか?』

『『穴』ならあそこに出る、魔力を込めて城門前の空を見てみろ!』


 追従していた護衛の騎士や士官が立ち止まって魔力を目に込めて指定された場所を見てみると……


『魔力の線が集まっていますね……』

『なるほど、そういう仕組なのですね』


『わかったな? 全軍を城壁前に集合をかけろ! それでは行け!』

『ハッ!』


 指示を受けた騎士や士官は慌てて各軍への通達を急ぐのだった。



§   §   § 



 俺たち『流星の狩人』とその他のディソスラパ郡の精鋭部隊は、ヴァルティリ城の城門をめがけて走っていた。本音を言えば全軍で『巨大穴』から出てくるであろう巨大妖魔を相手にしたかったが、『穴』を塞ぐために軍をバラけて展開させなければいけなかったので、精鋭を集めての進軍となっていた。


『ヴォルスよ懐かしいな……いや、懐かしいわけではないか?』

『ああ……『災厄』の前哨戦だな……こんな感じであったか……すまないな、私はそこまで『災厄』の事を覚えていないのだ……』

『……そうか……余り覚えてねぇ方が……良いかもなぁ……』


 ユキムラがヴォルスと並走しながら話をしている。そのとなりを並走していたキョウカ母がユキムラを注意する。


『あなた、無駄口を叩くのは後ですよ。眼の前のことに集中なさい』

『……ああ、すまねぇな。懐かしくてよぉ……不思議な感じだなぁ、これ』


 魔力を纏いかなりの速度で近づきながらあたりを見回す。平原だからかなり見通しも良いので周りの部隊の動きなどもよく見える……皆上手くやってくれよ……そう思いながら走っていた。




『前方上空、『巨大穴』の気配があります! 皆さん注意を!』


 例のごとく最前線で索敵をしてくれていたミィナスがその場にいた全員に注意を促す。あの位置か……ちょうど城壁の手前だ。街のど真ん中に出現しないでくれて大変ありがたい。だが……今までで一番大きい『穴』だな、どう見ても。


『『穴』に繋がる線の数が……いや、太さもすごいわね……降ってくる妖魔を足止めだけじゃダメな気もするわね』

『そうじゃの……巨大妖魔を倒しても……おかわりが来そうで怖いのぉ……』


 俺の隣を並走していたヴィナルカとグニルーグが不安そうにつぶやく……今回は『流星の狩人』がフルメンバーだから大丈夫……当初は楽観的かもしれないがそう思っていたが、城壁に近づくに連れてわかる『巨大穴』の大きさに、部隊にいた者たちの殆は戸惑いを隠せなかった。

 アルヴールも例外でなかったようで、焦った感じでチサトに質問をする。


『チサト様?! あんなに大きいのですか?! 『災厄』の『穴』って! 大きすぎるんですけど』

『うん。あれより大きいよ! でもあのサイズは『災厄』のまわりにあったやつぐらいの大きさね。大丈夫、今の皆ならいけるよ!』

『わ、分かりました……がんばります』


 俺は取り敢えず意識加速を使い戦術の計画を何パターンか立てる……割と今なら陣地を築いて一方的に攻撃が出来るか……城門の上にはヴァルティリ領軍が展開している。もしもの時は彼らにも協力をしてもらわないと……


『よし、みんな、『巨大穴』の向こう、城門前に陣を築くよ! 駆け抜けよう!』

【【『『オー!』』】】


 総勢100人近い部隊が『巨大穴』を通り過ぎて城門近くへと近づくと、城壁の上に展開していた軍隊の様子に異変が……どう見ても鬼人族達に驚いているな。一応連絡はしてもらったはずだけど……まぁ、突然、敵対勢力が友軍とはいえ雪崩れ込んで来たら、しょうがない反応か。そんな事を考えていると、『巨大穴』からは中小の妖魔が文字通りに降ってくる。落ちてきた後に慌てるようにしている所を見ると、『穴』の向こうからこちらの状況はわからないようだな。


『セット! 炎と爆裂! 3,2,1 発射!』


 事前に打ち合わせていた、例の掛け声に合わせて前衛の頭を超えて、流星の狩人、狐人族や魔術師達の精鋭達が妖魔の落下地点へとめがけて魔法を放つ。噂に違わぬ魔力の強さの狐人族のお陰で、妖魔が面白いように吹き飛んでいく。魔法の得意なミィナスが沢山いる……本当にそんな感じの戦いだった。


『セット! 風の槍!! 3,2,1 発射!』


 タイミングを見計らい、妖魔を吹き飛ばし、風の魔法で煙を吹き飛ばし……等を繰り返しをして順調に殲滅をしながら5分ほど経過すると……やはり予想通りに上空から巨大な……昆虫の足の様なものが出てくる。煙に紛れていて正直良くわからないが……


 ミィナスが魔力探知をしながら状況を報告してくれるが、少々焦っている感じだ。


『来ました! 巨大型妖魔です! あれは? 虫ですかね? 見たことありません。チサト、あれは?』

『昆虫型ね。カマキリの手が多いやつ……大きいね……みんな、鎌以外は変わった事はしてこないわ! すごい威力だから気をつけて!』


 場合によっては俺の槍の全力投擲で何とかする算段だったが……


『なぁ、あれってコア部分、小さくない?』

『そうね、虫だけあって、ずいぶん……わかりにくいね。元となる魔獣の特性のせいね』


『あれは厄介だぞ! 鎌部分がえれぇ硬ぇんだ! 野郎ども! 俺たち鎌を止めている間に腹に一発かましたれ!』 

『鎌が4本で、足も8本??? 羽もあるんですけど? カマキリにはとてもじゃないけど見えないんですけど? 私、虫苦手なんですよ!』


 アルヴールが若干涙目になり、目の前の雑魚妖魔を切り刻みながら絶叫しながら訴えてくる。確かに、カマキリと言うより、もうあれはただのモンスターだな。宇宙生物みたいだ。目も……なんか6つくらいあるし……相変わらずの家サイズだな……止められるの? これ? 取り敢えず撃ってみるか……


『セット! 炎と爆裂! 目標腹! 3,2,1 発射!』 


 魔法の轟音と共に巨大カマキリ型妖魔に魔法が雨あられと注がれる。そこに集まった人の恐怖分だけ魔法の威力が上がったせいか、煙が巻き上がり状況が理解しづらくなる。ここにいる人間はだいたい魔力視ができるから大丈夫だとは思うが……


『セット! 風の槍!! 3,2,1 発射! 前衛! 動きを止めてくれ! ヴォルス前衛の指示を!』

『承知した!』

【『オー!』】


 煙が晴れると同時に巨大カマキリ型妖魔がこちらに突撃をしてくる、8本足のせいか虫型のためか、図体の割に速度がものすごく早い。ヴォルスとキョウカが1本ずつの鎌を迎撃し、盾となってくれている一方、グニルーグとユキムラ達鬼人族は3人がかりで1本を止め、もう一本と体全体を前衛が総掛かりで受け止める感じになっていた。振り回されっぷりを見るとかなり限界は近そうだ……


『タクマ、俺助けに行く、あのままだと持たない』

『わかった、エルド任せた、チサト、すまないが危ないときは盾をお願い!』

『わかったわ!』


『わたしも前に行きます! あの鎌さえ封じればなんとかなりそうですね』

『気をつけてね、頭と心臓だけやられないようにして!』

『あはっ! わかった! 気をつけます! じゃ、いってきます!』


 エルドが両盾を構えながら浮足立っていた前衛の前に入り攻撃を完全に防ぎ戦況を落ち着かせ、ミィナスが体中に雷の魔力をまとって一気に前線へと向かい、不安定な戦いになっていた場場所へと援護を始める。キョウカが鬼神化していない状態でなんとかなっているから……彼も油断さえしなければ大丈夫だろう……


 それからも戦いが続いていたが、前衛がしっかりと足止めをしている間に魔法で徐々に体を破壊し、しまいにはヴォルスとキョウカが相手のコアを打ち砕き、巨大カマキリ型妖魔は黒い煙と化していっていた……


 それを見た城壁の兵士達が盛り上がり、まるでこの戦闘に勝利したかの感じだったが……


 下で戦っている俺たちは、上空の『巨大穴』から這い出てくる追加の巨大カマキリ型妖魔の片鱗を見て、これがいつまで続くのかと、軽く絶望をしていたが……


『よい~しょっと!』

 

 チサトが上空の『巨大穴』へと向けて浄化の光を放つ。直撃を受けた『巨大穴』が一瞬小さくなるが、徐々にまた大きくなっていっていた。


『うーん、時間稼ぎにはなるかな?』

『当たれば一応小さくなるんだね……あれ? チサト? 前は避けられなかったっけ?』

『あ、そうか、エイやっと! あ、この手はもう通じないか……ちょっと遠くなったからそれはそれでいいか……』


 まるで意思のあるかのように『巨大穴』が城壁より遠くへとずれていく。やはり、『穴』からの力の供給を切らないと……無限に湧いて出てくる感じか……周囲の『穴』の浄化をしている部隊がうまくやってくれるのを祈るしか無いか。5分ほどしか時間稼ぎにはなら無さそうだが、今はその時間さえ稼いでくれるのがありがたかった。

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