第89話 出発準備してたら案の定
祝賀会の翌日、午前中はチームはバラバラで明日の準備をすることになった。
シュウトくんとミィナスはヴォルスに接近戦の稽古をつけてもらうそうだ。本格的な強い騎士に手加減無くやってほしい……との事だったのでついていこうとしたら二人に邪険にされてしまった。何でも俺がいると色々と甘くなって練習にならないそうだ……同じような理由でキョウカも閉め出しを食らっている。彼女の場合はヴォルスに絡み過ぎだから……だそうだ。お互い過干渉ってことなのだろうか?
『タクマとエルドは色々回るところあるわよ? 王都への旅の雑貨、全員分の食料……後は……』
『俺、分かった……頑張って運ぶ』
『ああ……お手柔らかにな……』
ヴィナルカの暗に荷物持ちをしろとの、命令とも取れる言動に渋々俺たちは従う。正直なところ何を用意すれば万全か……などは現地の人の方が詳しいに決まっているからな。俺は後ろ髪を引かれながらヴィナルカ、キョウカ、チサトの3人組の後を追う。
俺は雑貨屋などを目指す途中でエルドにちょっとした疑問を投げる。エルドは里に帰らなくて良いのかな……と。
『なぁ、エルド、フェニーリヤさんはどうするんだ?』
『ああ……彼女たちは試験が終わるの。少し先。一旦『神聖球』を里に持って帰らなければならない。その他探索者の救援信号弾とか、里には雑貨もなくなっているから大変』
『……エルドが里長……じゃなかったっけ?』
『……テュールがなんとかする話になった。俺、フェニーリャは争い起きない限りは探索者でいい。そう言う話になった』
『……そうか……』
何となく思ったんだが、エルドと、フェニーリャは戦士って感じで事務処理や取りまとめなどには全く向いてないものな……彼らの時代で変革していきそうな気配だな。
『王都まで。必ず一緒に行く。王都で色々考える。情報沢山のはず。どうも『穴』がらみで巨人族もおかしくなってる思う』
『だなぁ……アルティアも戻ってくるのが当分先らしいし……色々解決していると良いね』
『そうだね。レスタジン……なにやってるか調べる必要ある。里で戦争を起こさせない。それが俺の目的』
『平和が一番だもんな……』
俺がエルドと雑談をしていると女性陣3人がアレヤコレヤと雑貨やら保存食やら色々と購入をしていく。色々と説明してもらっているんだが……頭にあまり入ってこなかった。彼女たちの買い物が全部終わってから色々考えよう。
(あら? ちゃんと覚えておくべきだわ?面倒だから思念で色々送るわね?)
あ……ちょ……情報量が多い……あれから遠慮が無くなりすぎだよヴィナルカ……
彼女が近づいてきたと思ったら俺の腕に手を添えて買い物の情報と使い方の詳細を流してくる。色々とバレて触るのを避けてくるかと思ったら、逆に俺に良く触れて来て思念伝達を良くしてくるようになっていた。彼女の中で完全に吹っ切れたのだろうか?若い体で禁欲生活なので……なるべくなら触らないで欲しいんだけどな……
かなりの量の雑貨と食料などを揃え、宿に帰って一旦全部置いておく。それから探索者組合の訓練所の方に向かう。シュウトくんとミィナスの稽古が午前中とのことだったのでご飯を一緒に食べるためだ。後、とても二人の様子が気になってしょうがないので俺が提案した……かなり強引に……
『ず、ずるい! ウチもやる!!!』
キョウカが稽古中の3人の中に割って入っていく。だが3人共かなり疲れているようだったので相手にしてくれる人はいなかった。キョウカが誰かやってくれる人がいないかと辺りを見回すが、もちろん探索者組合にいる人は誰も相手をしてくれない。そんなキョウカの肩をポンと叩いてヴォルス達が着替えに行ってしまう。
ヴォルスが昼食の席で俺たちに探索者組合で得た情報を流してくれる。
『王都行きは……どうやら雲行きが怪しくなってきたようだな』
『なぜだい?』
『ディネーブ城近辺の魔獣の大量発生だが、やはり『穴』の発生が森の奥であるとの情報が確定したらしい。現地の狩人、探索者、村人……など情報を照らし合わせるとそうなったようだな』
『それって僕たちに関係あるんですか?』
『ああ……一応、探索者には『穴』がらみの有事の際には参加する義務が発生する。至急の用事などがない限りはライセンスの停止……などの罰則があるはずだ』
『それって、要請を無視して王都に行ったとしたら、古文書館などに入れないと言うことですよね?』
『……まぁ、そうなるかもな……ライセンス停止の情報が行っていなければ大丈夫だとは思うが……』
シュウトくんとミィナスの質問が、俺が聞きたかった内容でありがたい。俺のことを考えてくれて嬉しいな……
『そうなると、探索者組合の要請があったら受けざるを得ないわね……』
『うーん。タクマ、どうなの? あたし達が依頼を受けている間に王都に急いで行っちゃう?』
チサトの提案に少し心がぐらついてしまったが……ここまでやってきた仲間に全て任せて、帰れるかどうかも確定していないのに放り出すのもなんかな……
『それはしたくないな……途中でほっぽりだすのも嫌だね。要請があったら俺も行くよ。それから王都に行く』
俺の返答に対して、なんとなく『流星の狩人』の中に安堵した雰囲気が流れるが……これってまた大変な危機だと思うのだけど……
『方針は決まったわね。あとは探索者ライセンスタグを受け取る時に詳細を聞いておきましょうか』
『ああ……そうだったな。おまえたちはまだ探索者ではなかったのだな……ライセンス制度にもおかしさを感じてしまうな』
この世界だと魔力持ちはみんな探索者になっているのだろうか? どこに行っても驚かれるからな……
それから俺たちは雑談をしたのちに、明日の準備をするべく買い物や狩人組合、魔術師組合などに顔を出し出発の挨拶などもしていった。いよいよ明日出発だな……何事もなければ良いのだが。
俺たち『流星の狩人』は探索者組合の受付で、受付嬢の犬人族のフィオレーナからランセンスタグを受け取る。認識タグを受け取った1月……もうそろそろ2月前になるのか……が懐かしい。受け渡しにはブリスィラ先生も立ち会っていた。感無量……といった感じで先生も若干目が潤んでいるようだった。
『それではこちらが探索者ライセンスタグになります。名前などがしっかりと魔法で掘られていますので、間違いがないか確認をしてください。一度つけてしまうと他の人はつけられない魔術式が組み込まれていますので注意をしてくださいね』
『あ、ロッカーのあれですね』
『そうです。シュウトはいつも理解が早いですね』
俺たちは渡されたタグを各々首に通し、魔力がタグに認識されたのを確認する。
『ライセンスタグ自体は魔鉱石が入っていますので、ほんの少しだけ魔力が吸われてしまう時があります。魔力欠乏症の時などは必ず外してくださいね。あとは隠密作業のときなどは外さないと探知に引っかかる場合があるらしいので注意をしてください。これだけ微弱な魔力を感知出来る人間はそうそういないかとは思いますが……』
それなら試してみようか……と思ったら、仲間から大量の魔力探知反応を感じる。皆好奇心旺盛のようだった……その行為にブリスィラ先生がちょっと呆れた感じで反応をする。
『あらあら……あなた達は優秀なんだけど、気が早いのよ……そう言うのは後でこっそりやりなさい』
『は、はい。でもなんか一応探知成功しましたよ!』
『あらあら……それはすごいわね……』
シュウトくんがちょっと興奮気味に先生探知結果を報告する。俺も後で試してみるとするか……
『それじゃぁ、これが王都ガイド、王都への道のりガイド、そして探索者憲章、と、できなさそうなので探索者合格者用説明会資料ね』
『はい、色々とありがとうございます……え? できなさそうとは?』
『あらあら?……耳の早いあなた達ならもう分かっているのではなくて?』
気がつくと、俺達の周りには組合長のドルテオ、回復魔術師のエイルさん、騎士団団長のレイダオス、魔術師組合のえらい人っぽい人などが集まっていた。仲間を見回すと皆やっぱりか……と言う表情をしている。
『ああ……なんか色々確定なんですね……』
『そうね……申し訳ないわ……思ったより大変なことになっているみたいなの』
どうやら俺たちの異世界ライフはこれからも波乱万丈の様だな……
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