第23話 言語講習とショッピング
『ウチ、行きたかった!』
教室に入ると鬼人の女性が開口一番俺たちに話しかけてきた。どうやら昨日の食事会のことかな?
『食事?』
『そう! 今日は、休む! 行こう!』
『今日は、買い物、行くよぉ!』
『! 行きたい、もっと! ……あ、金、少ない……』
『俺、一緒、朝、働く?』
『朝、仕事ある?』
『あるよ! あなたも一緒に行く? えっと、わたしチサト、オオサト チサトよろしくね』
『行くわ! ウチはミナモト キョウカよ! よろしくね!』
『『『えっ?』』』
流石にびっくりした、突然日本の名前が出てきた。何が起きているんだ? 髪の色はたしかに黒だが、ほかは全然日本人ぽい顔ではなかった。目も赤いし、顔はロシア系か? たしかに服は道着っぽい和的な要素が少しは入っている気がするが、この町にも似たような服を着ている人がちらほらといるからわからなかった。
『え? おかしい?』
『「日本人」なの?』
『親の親の親の親……たくさんの親が「日本人」だよ』
「先祖が日本人てことかなぁ?」
「なんてことだ……過去にもやはり転移してたのか……」
『日本語禁止!』
『え、えぇ……』
『わすれてた、ごめん』
『あら、あら、みなさん仲がいいのね。授業はじめるわよ。準備はよろしくて?』
ブリィスラ先生が教材の資料を抱えて入ってくる。大柄なので資料も大量だ。どうみても戦士なり筋肉系の仕事についていたようにしか見えない。
『さぁ、みなさん、探索者目指して今日も言葉の勉強を頑張りましょうね!』
今日は、日常会話、飲食店での会話、雑貨屋での会話など日常的に使う会話と単語がメインだった。全員今から買い物に行くことが決まっていたので真剣だ。昨日眠ってしまっていた巨人族のエルドも頑張って授業に食らいついていく。
それにしても教材のプリント、教科書の様な冊子なのだが黒インクのみの印刷とは言えかなりできが良い。……この世界の印刷技術はすごい。文明レベルと全然合っていない感がものすごい。日本人なり地球人の誰かが転移してきて技術を落としていったのだろうか? キョウカさんの先祖の話がものすごく気になってしまった。
『それでは、授業はここまで。こんなに熱心な生徒さんは久しぶりよ』
『ありがとうございました!』
『ブリィスラ先生! 一緒に買物に行きませんか?』
『え? あら、みんなで行くのかしら? 今日はこれから予定ないはずね……良いわよ』
『やった!!』
チサト以外の全員が固まる。まさか先生を誘うとは思っていなかった。
『れ、烈風と一緒、買い物』
『緊張するね』
『あれ? もしかして先生は有名?』
『先生、昔、戦い、活躍した。烈風の斧』
『あら、懐かしい言葉知ってるのね、もう30年も前のことよ?』
『30年前……』
大ベテランが引退して先生をやってくれている感じか。授業中みんな真面目だったのは先生の経歴を知っていたんだろうな。
『さて、どこに買い物に行くのかしら?』
『雑貨屋! 洗濯! 歯磨き! 掃除! の道具、ほしい』
『あら、それでは、私のオススメのお店にいきましょうか? 皆さんいいかしら?』
『はい!』
俺たち以外の3人がコクコクとかたく頷く。俺達の世界で言うところの往年の名選手的な扱いだろうか? それならばなんとなく気持ちがわかる気がする。
ブリィスラ先生に連れられてチョット歩いたところの雑貨屋に入っていく。移動する時もチサトが先生に色々話しかけていた。本当にコミュ力が高いと言うか、肝が座っているなぁ……
『あら、これは、値段、安いわね』
ヴィナルカが感心したように品物の値段を見ながら呟く。良いところを紹介してもらったのだろうか? それとも俺達の所得にあった、駆け出し用の店なのかな?
「色々なものが所狭しとならんでますね。陳列商法でしたっけ?」
「ああ、なんかそんな感じだな、用途わからないものも結構あるな」
『「日本語」禁止!』
『ごめん……』
『すまん』
商品を物色していると先生が洗濯用の石鹸、洗濯板、洗濯桶、物干ロープのセットを見繕ってくれた。流石にバネ付きの洗濯バサミは無いが、木のピン? みたいなものを紹介してくれた。ロープに止める時に滑り止めみたいにするのかな? なんとなくイメージが掴めてきた。
『ありがとうございます。先生!』
『いいのよ、最初は大変ですものね。歯ブラシはこれね』
先生が手にとったのは木の先端を細かくしてブラシ状にしたものだ。磨くジェスチャーをしてどうやって使うのかを教えてくれる。江戸時代の博物館で見た記憶があるな……爪楊枝の進化系だな。流石にナイロン製のブラシなんてあるわけないか……
『石鹸、あるんですね。小銀貨1枚??? 高い!!!』
『先生、洗濯、どうやってる?』
『私は、洗濯はお願いするわ。洗濯する仕事の人がいるわよ、この町には』
『なるほど、わかりました』
城壁のトレーニングの時に作業着を回収していた人たちが洗濯をしてくれてたのか……まとめてやったほうが効率いいもんな。稼げるようになったら洗濯を頼む感じだろう。洗濯機なんて無さそうだし。
『石鹸は汚れが強い時だけ使うのよ』
『魔法で汚れはとれないの?』
『それは、試してみたことがないわね。魔術師に相談してみないとね』
『生活魔法はないのか。残念……』
各々が欲しい物を手にとてカウンターに移動する。みんな生活用品を手にいっぱい持っていた。来たばっかりだから物入りだものね。
『タクマさん! あれ!』
『え……あるんだ……』
『……金貨100枚……』
『あ、あれ、ウチ、親の家、ある』
そこにはガラスケースに外から鉄格子をはめて厳重な防犯をされた箱の中に、腕時計とコンパス、懐中時計が置いてあった。
『たまにこの世界に来る「テンセイシャ」が持ってくるものね。大変めずらしいから高値がつくのよ』
シュウトくんが思わず小声で俺に話しかけてくる。もちろん日本語でだ。
「タクマさん、どうしましょう? これはチャンスじゃ?」
「修斗、人の持ちもの売ろうなんて思わないの!」
「す、すいません……」
「すまないが、あれ、妻のプレゼントなんだ……本当に困らない限り売るつもりは無いよ」
「本当にすいません……」
「そっかぁ……」
ガラスケースの中にある腕時計は止まっていた。俺が持っているのは自動巻きの時計だ……動くから更に価値が高い可能性が高いな……俺たち3人が本当に金に困った時にどうするか考えよう。妻からのプレゼントで思い入れがあるからやっぱり売りたくないしな……
それから俺たちは買い物をすませる。持ち帰る方法が無かったので、急きょ風呂敷? 布を買って包んで持って帰る。どうも感覚が日本の時のままでビニール袋のサービスがどれだけ優秀かを実感させられてしまった。先生にはお礼を言って店の前で別れた。みんなでご飯を食べたかったが、夕暮れ時となり結構な時間になってしまったので、ちょっと雑談をしたら解散となった。夜の町は基本的に出歩かないらしい。日本の安全な夜道の感覚のままだったのでちょっと仲間には驚かれてしまった。
ご飯を宿で食べた後、昨日と同じ様に言語トレーニングを全員で頑張ってしてみる。途中で女将さんに酒をおごってトレーニングに参加してもらった。その後、初の異世界歯ブラシを使ってみたが、所々から血が出て大変なことになった。しばらく使って柔らかくする感じなのかな? そんなことを思っていたら、途中で見かねた女将さんがブラシのほぐし方と磨き方を教えてくれる。ほんとに助かった。
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