第138話 祝宴


『我々の勝利と未来に! 乾杯!!!』

『『『乾杯!!』』』

【【【乾杯!!】】】


  ジェネラルールが軽いスピーチをした後に持っていた盃……いや小さな樽の様なジョッキを掲げ乾杯の音頭をとっていた。8,000人近い人の乾杯なんて……壮観だな。まるでスポーツのスタジアム観戦に来ている気分だ……


 俺たちはあれから3日かけて戦場から巨人族の大里に戻った後、各種族や部隊が持ち寄っていた糧食や酒を分け合って祝宴が設けられていた。長期戦を見込んでいたらしく、大量の在庫の大盤振る舞いになっているとの事だった。



【聖女様本当にありがとうございました】

【いえいえ、神様があたしに力を貸してくれただけです。女神様もお喜びですよ】

【ああ、なんという寛大な……時の女神ロクノース様……感謝いたします】


 チサトの前にエフルダム王国の騎士やらディソスラパ郡の獣人、巨人たちが例の如く列を作りお礼を言われたり、祈りを捧げられたりし続けている。今回は何故かチサトが嫌がらずに対応し……なんとも驚いたことに、いつの間にかこちらの獣人が使う共通語を喋れるように……何か状況が良くわからないが、ミィナスの話だとかなり流暢に喋れるようになっているらしい。勉強した記憶が無いのだけれども……ものすごい習得力だな……神の力のおかげなのか?


 チサトの様子を見ていたシュウトくんがちょっと呆然とした感じで俺に話しかけてくる。


『不思議ですよね……千里、いつの間に話せるようになったんですかね……』


『ああ、たしかに、勉強なんてする時間……無くはないが……見たことがないな……ねぇ、ヴィナルカ、魔力とか神聖力を使うと違う国の言葉を喋れるようになるなんて話はあるのかい?』


『そう言えば、どこかの魔術師が、魔力を頭に送りながら色々勉強すると効率が良い。なんて説を発表していたわね。彼女の力は凄いからそのせいかもしれないわね……でもあそこまで普通に喋れるようになるのかしらねぇ』


 魔力を使って身体強化をしていたら直ぐにマッチョになってしまったから……この世界はそういう仕組なんだろうか? 俺も意識加速をよく使うから……だからこの世界の言葉を早く覚えられたのか? よほど感情的にならない限りものすごく頭の回転が早くなった気もするし……


『タクマ、チサトの使っている言葉はわたしの故郷の言葉にそっくりです。こちらの北東系の言葉じゃなくて、南東系のアクセントなんですよね……なんででしょうか?』


『……わからないことだらけだね……』


 たしかにここは北東部らしいから……標準語と大阪弁くらいの差があるのだろうか? ミィナスもテンイシャだったら話が早いのに。


 俺たちの周りにもいろいろな人が挨拶や話をしに来る人がひっきりなしだったが、こちらはほとんど共通語なので疲れることもそこまで無かった。まぁ、今回は安全で、酒をちょっと飲んでいるから俺のテンションが少し高いのもあるけどね……


『僕も飲んでみようかな……』


 俺を見ながらシュウトがボソッと呟く、隣で酒を嗜んでいたヴォルスが少々驚いた感じで聞き返す。


『ん? シュウト、君はもうすでに大人だと思うのだが……まだ成長をするのか?』

『僕たちの世界ではお酒は二〇歳になってからなんですよ。僕は17歳なので……まだですね』

『ふむ……14歳で大人だと思うのだが……異世界の考え方は違うものなのだな……』


 二人が会話をしていると近づいてきたキョウカがヴォルスの腕に抱きつきながら会話に入ってくる。


『えー飲もうよシュウト、気分がいいよ~』

『キョ、キョウカ……飲み過ぎだ。酒に呑まれるな……抱きつくな……』

『え~いいじゃない、今日くらい~お硬いなぁ~』

『ヌゥ……後で覚えておれ……クッ……』


 酒のせいだけではなく顔を真っ赤にしたヴォルスが珍しく慌てふためく。二人の距離感ってなんか絶妙で付かず離れずだから……これを機に進展したりしないのかな……それにしてもキョウカが積極的だなぁ……いつもは割と節度がある感じなのに。


『……やっぱり普段からのストレスが出るんだろうか……』


『……僕、酒を飲むのはもう少し先にします……千里に絡んじゃいそうです……あ、レグロス! ちょうどよかった!』


 こちらの方に盃を持ったアルティアとレグロスが伴ってこちらに歩いてくる。


『え、シュウト、どうしたのだ? 飲んでいないようだが』

『あ、その話は置いておいてください。レグロス、僕にあなたの戦い方を教えてくれませんか?』


『……ガリィの助言にもあったな……本気か?』

『はい、実は……ガリィに言われる前に……決めていたんです。僕にも力が……巨大妖魔を倒せるくらいの力が必要だと。今回も僕に力があれば……千里を危険な目に合わせることもなかったはずなんです』


 まぁ、たしかに……チサトと飛べるかもわからない「ヒコーキ」に乗ってダイブはしなっかったかもしれないしな……結果的には両勢力をすんなりとまとめてダムまで連れてこられたから結果オーライってやつだったけど。


『俺には……君を……『悪夢』で鍛えた記憶がある……今の君にはおそらく無いくらいの強い動機だ。俺の本気の特訓は厳しいぞ……付いてこられるか?』


『はい。千里を、仲間を守ることができるのなら』


 レグロスの動きが完全に止まり……天を仰ぐ。閉じた目から涙が溢れてくるのがわかる……


『……ああ……そうだったな……大きな意思は変わらないな……しばらく俺は……この地に駐留する事になる。詳しい話はこの祝宴が終わった後にしよう』


『はい! よろしくお願いします』


 隣でかしこまった感じのアルティアがそこにいたメンバーを見渡した後に丁寧に発言をする。


『タクマ……『流星の狩人』の皆さん、今回は本当にありがとうございました。お陰で私、『悪夢』……いや、神の試練を超えることができました』


『……神の試練?』


『ええ、皆さん口々に話をしていますよ。今回は多分『神の試練』だったのではないかと……私だけではなく、帝国との戦争で死ぬもの、ダムの崩壊によって死ぬもの……たくさんの命が救われ、未来を切り開けたのです。神の『悪夢』が無ければ予測することもできず、準備することもできずに死にゆくだけでした……これを『神の試練』と言わずになんと表現すればよいのでしょうか?』


『なるほどのぉ……確かに我々は『悪夢』に救われたの……』


 グニルーグがしみじみとした感じで相槌を打つ。彼も『悪夢』を利用してドヴェルグ王国の危機を乗り切ったから当たり前か?



『神の試練……俺も『悪夢』を見られないかな……』

『僕も見てみたいです……どうやれば良いんでしょうかね? 未来を知ることが出来るってずるいじゃないですか?』


 俺とシュウトくんの発言にアルティアやそこにいた者が驚いた感じだった。


『う~ん。シュウトやタクマは……全部見てそうなのに見ていないのね。私の魔力量ですらよく見るのに……でも、自分の死ぬ所だけだったりするんですけどね……』

『うーん、時の女神様の加護が防いでいるのかしらねぇ……私よりも加護が多そうだし』


 アルヴールとヴィナルカが疑問を口にする。それは俺たちも思ってたことだからな……




 

【エルド……どうしたの一人でこんなところに……探したわよ】

 

 巨人族のフェリーニャがダムの橋の手すりで雄大な景色を眺めているエルドのところまで歩いて近寄る。


【ああフェリーニャ、里の景色を見ていた。これからどうするか。考えていたよ】


 フェリーニャが隣まで来ると一緒に夕暮れになり始めた景色を見始める。夕日に照らされた自然の山々と木々が美しく浮き上がっていた。


【どうするの? これから……私たちは『悪夢』を、神の試練を乗り越えられたから……これからは好きに生きられる気がするのだけど】


【俺は……彼らに、『災厄』が終わるまで付いていこうと思う。彼らに出会って……全てが変わった。里も破壊されていないし、仲間も、君も俺も生きている。俺は、彼らを守りたい、恩を返したい】


【……そう、わかったわ。私、待ってるわ、私も強さに自信があったけど……あなた達みたいなとんでもない強さは無いもの。足手まといになってしまうから……】


【フェリーニャ……すまない……】


【あ、でも、早くあの子には会いたいわ。『悪夢』だともういたわよね?】


【……え? なに? あの子?】

【ふふ……私も『悪夢』で新しい家族の夢見ていたのよ……とても幸せそうな家族を……】


【あ……う……】


 それからも夜がふけるまで獣人や巨人族、エフルダム王国軍の馬鹿騒ぎは続いた。その場にいるものの殆どが『悪夢』の様な未来が来ないことを実感し、新しい未来が来ているのを感じていたのだった。



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