第79話 遺跡調査試験 目的地到着
『あそこが今回の目的地だ……』
『あんたらのおかげでなんか……凄い楽だったな』
『キトロとアラスパにキャンプのやり方を教えて欲しいくらいだったな……』
『彼らが7人チームだから出来ることなのかなぁ……』
俺たちは2日かけて目的地である遺跡まで移動していた。兎人族のガイドもうまい上、索敵もしてくれたりしてかなり楽に移動できた。野営なんかも手伝ってくれたりしたのだが……俺たちの団結力と言うか、分業化のお陰なのかやたら感心してくれた。普段は二人が色々とチームメンバーの面倒を見ることが多くて大変だったらしい。
『野営用の荷物はここに置いていく……獣や他の人間……いればだが、漁られないように隠して置く感じだ』
俺たちは言われるがまま、かさ張る野営用キャンプ用品などをひとまとめにして袋に入れて落ち葉などで隠す。人数が多いチームの場合は見張りなどを立てたりしてもっと軽装にしたりするらしいが、今回は試験なのでそれはしないそうだ。
『ねぇ、どこに遺跡があるの? 見えないんですけど?』
『たしかに……あ! あれかな?』
チサトとシュウトくんがあたりを見回し、遺跡らしい入り口を発見する。石造りの建物だな……墓なのか? マヤ文明みたいだな……
『大体はこんな感じで自然に紛れてしまって発見が難しい場合が多い。軽く魔力探知してみると良いよ』
俺たちは言われるがまま魔力探知を試してみる……ああ、地中になんか……魔力の塊みたいのが複数あるな……これか?
『すげぇな……兄さん、全員出来てるみたいだぞ?』
『ああ……そうだな。教えることも少なさそうだ。動かない魔力の塊みたいのがわかれば……それが遺跡である可能性が高い。魔石が内蔵されている施設が多いから分かるだけなんだが……』
魔石が電池的な役割をしている……と言っていたがそれを利用して探知する感じか。確かに……動かないな……魔獣は動くからすぐ分かるから判別しやすいか。チーム内で魔石の数やら場所などを話し合って確認する。全員がしっかりと出来ているようだった。シュウトくんがすかさずメモをしている……なんてしっかりものなんだ……
『まぁ、ここは発見済み、探索がほぼ終わっている遺跡になる。魔獣や『穴』のイレギュラーが起きなければ安全だ』
『え?『穴』?』
『ああ、そうだ。この最終試験の前にかならず『穴』の試験が入っているのはそのせいだ。『穴』の規模を確認して殲滅できそうだったらやる……出来そうに無いなら逃げて探索者組合に報告……遺跡に『穴』が出る可能性がある……これは試験中に伝えることになっている。ここで試験を辞めることももちろん出来るぞ』
『要するに遺跡探索するには『穴』をなんとかしないとダメなのね』
『そうだ』
俺たちは仲間で思わず見合ってしまう。聞いてなかったのもあるが、唐突すぎて考えがついていかないのもある。あれ?『神聖球』無くて大丈夫なのか? 色々と考えていると兎人族のレスターが俺たちをじっと観察する感じで見つめているのに気がつく。俺は疑問に思ったことを質問してみた。
『なぁ、『神聖球』なしにどうやって対処するんだ?』
『そうですよ、実は『穴』を消す方法が他にあるとか?』
『あんなに危険なものどうやってなんとかするの?』
俺とシュウトくんとチサトが質問するが、レスターは考えているようでしばらくしてから俺たちの質問に答えずに別の質問を返してきた。
『……誰一人として逃げようと提案しないのだな……先日は大規模な『穴』だったのだろう? 怖くないのか?』
『怖いけど、仲間がいれば大丈夫かなぁ?』
『そうですね、イザとなれば逃げればいいですし』
先程から日本人組だけが質問に答えたりしている。異世界組は色々と考えているようだった。
『他のものは?』
『私は知っていたので特に問題はないわ』
『ウチは初めて知ったが……親が探索者になるのを反対していた理由が今わかったよ』
『俺、初めて知った。俺は大丈夫。里の仲間のチームが心配。どうしよう……』
『父と母が言っていた意味がわかりました。わたしも問題ないです。色々と教えて下さい』
『わかった、教えよう』
『兄さん……先生からいつものように脅すなよって言われてたのに……』
『……うるさい! 怖がるようなすぐに逃げる人間に教えたら大変なことになるだろう!』
『ご、ゴメン……そんなに怒らなくても……』
『『穴』の心配はこれで解決……出来る場合もあるが、出来ないこともある。失敗したら逃げの一手だ』
レスターが持っていた荷物から……『神聖球』を取り出す……あれ? 小さいな? 俺たちが戸惑っているとレスターが解説をしてくれる。
『これは遺跡探索用の『携帯型神聖球』になる。遺跡に出現する『穴』が比較的小さいものが多いのと、遺跡に出現する『穴』はある程度妖魔を吐き出すと閉じてくれる場合が多くてな。これが通用しないサイズの『穴』の場合は中型、大型が出てくるから真っ先に逃げたほうが良い』
『わかった……『穴』は突然出現するのか?』
『そうだな……突然出る場合が多いな……たまに探索していると奥に既にある場合があるが……その時は大きい場合が多いので組合に報告する感じだ……ではそろそろ行こうか』
俺たちは兎人族を先頭に石造りの遺跡に入っていく。もちろん照明が無いので、各々が魔石製のランタンを灯して辺りを照らしていく。ランタンの光量が思ったよりも強く、白熱電球みたいだ。たまに魔石の魔力を狙って襲ってくる魔獣もいるので注意とのことだ。それにしても実際に遺跡を探索して見ると……テレビで見た洞窟探検隊みたいだな……
それからは兎人族弟のロコブリーが遺跡の解説をしてくれる。探索され尽くした……とあって、トラップのあった場所、部屋の構成、どこに宝が隠されていたか……などを逐一教えてくれる。博物館のフロアガイドみたいだ……ふと妻と新婚旅行で行ったイタリアで見た中世の監獄を思い出した。
『ここまでが大体の遺跡だ。ほとんどがこのタイプのものが多い。問題はここからだ。』
『あんた達は期待されているんだな……普通はこの先は案内しないからな』
『ロコブリー……口が軽いぞ……』
『ごめん……兄さん』
『期待されているとは? なんのことですかね?』
『ああ、そこの階段を降りるとよく分かると思うぞ……』
『なにかしら?』
一瞬チサトが走って行きそうだったので思わず止めようと思い手を握ったが、そこまで馬鹿ではなかったようだった。シュウトくんもチサトの反対側の手をすごい勢いで握っていた。
『あ、あの……二人とも……あたしそこまで……馬鹿じゃないと思う……多分』
『あ、えっと……ごめん……罠が発動するとシャレにならないと思って』
『普段から気をつけてくれれば良いんだ……』
一同から笑いが漏れるが全員声を大きくして笑うことはなかった。程よい緊張感だな。
『さてと、ついてきて。一応罠は全部解除してると思うんだけど……ここからは完全に解析はされていないんだ。わからないことだらけでね……』
俺たちがロコブリーについていくと、そこには……時代にそぐわない割と近代的な金属製っぽい扉が開いていた。
『これは……』
「古い遺跡の下に近代的な……」
「……地球? 違うわね……なにこれ? どう言うこと修斗?」
「わからないよ……」
『ウチ……初めて見るものばっかりだ』
『俺も……』
『見たこともない壁……キレイですね』
『……里にあった遺跡と同じ感じね……どこにもあるものだったのね……』
扉をくぐると、目の前には地球に戻ったような気分にさせる近代的な倉庫の様なものが広がっていた。ただ、棚はあるが、棚の中身はごっそりと無くなっており閑散とした倉庫というような印象だ。魔石の照明で色々と照らすとかなり広い空間と、まだ扉などがあり、部屋数などはまだありそうだった。
「倉庫? 工場? 研究施設ですかね? 現代の日本……よりはレトロか? 電源もありそうですね……天井に照明……のようなものはある……地球の文明が崩壊した後の世界とか? まさか……」
「修斗なにいっているかわからないわ……あたしはこんな施設がこの世界にあってビックリしているんですけど、どうなってるの?」
「あ~ チサト、言葉が日本語だけになっているぞ?」
ああ、そうだった。と表情が語っていたが、チサトが異世界語にきりかえる。
『あたし達のいた世界に似ている建物なの。それでビックリしていた感じ……』
『ええ……僕たちのいた世界に似ていますね。でもなんかちょっとずつ色々違う』
『ちょっと色々見ても大丈夫かい? 危険は?』
『とりあえず俺たちが調べた限りでは無い状態だが……あんたらこの建物がわかるのか?』
『あまりになにも無いから、ハズレ遺跡……だと思っていたんだよね』
兎人族の二人が驚きの声をあげると共に、この遺跡に売れるものが無く、発見したのに価値のない遺跡……と言う位置づけだということを聞く。魔石はところどころにまだあるらしく、詳しくはわかっていないそうだ。
『そうですね……この構造だったら……こっちかな……?』
シュウトくんが色々と手探りで色々と調べながら建物のアチラコチラを開けたりし始める。隠し収納的な……いや、整備パネルか? を開けて中を調べているようだ。
『そこ開くんだ……』
『構造を知らないとわからない感じだな』
兎人族も何やら感心する中で俺も色々と調べていると、見たこともない図面や案内板などの文字を見る限り、日本語でも英語でアルファベットではない別の世界のもののようだった。どちらにしろ今いる上の世界よりも進んだ文明があったのだけは伝わってくる。
『これがブレーカーっぽいですね。コレをあげて……どっちがオンだろう……ねぇ、誰か、この言葉わかる人います?』
シュウトくんの呼びかけに人が集まる。照らされた配電盤の様なものを一同で見てみる。
『あ……ウチちょっとわかる。古い言葉だけど少しだけ……上が入る下が切るだね。何を入れるの?』
『……西方共通語に似てますね……』
『そうね、私達の知っている言語に近いものがあるわね……』
『ああ、俺達は西方共通語使えないからな……そっちの言葉がわかる人間に任せればよかったのか?』
『みたいだねぇ』
シュウトくんはスイッチらしきものを切り替えてみるが特に反応は起こらない。
『入れるにしても何も起こらない……「電力」はっと……あ、こっちかな? あ、魔石……だな……魔力を感じない……僕の魔力に余裕はあるから、えいっと……』
突然、部屋の電気? いや魔力? が満たされたことによって照明の明かりが一瞬着くが……しばらくするとフッと消えてしまう。
『えっ?』
『今、なにが?』
『光りましたね』
『お、おいっ、何をしたんだ? この遺跡は動くのか?』
『魔力感知しても……特に何も……無いんだけどねぇ』
異世界人が突然明かりがついたので騒然としてしまう。日本人3人は電気がついたのかな?くらいの反応だが……こちらの世界では見たことがないからそんなものか。
『電気「回路」があったのかい?』
『魔力「回路」……ですね。どうやらこの魔石、交換式みたいですね』
『わかったわ! コレに魔力をこめればいいのね! エイッ!』
『あっ!』
チサトが凄まじい魔力を魔石に注ぎ込む……辺りが天井からの照明の明かりに包まれ、どこかの研究所の様な雰囲気になる。倉庫ではなく研究施設だったのか? ここは? ドアの開閉スイッチ見たいのがほんのりと光りだしたな……コレって施設が生き返ったら危険ってパターンなんじゃ? と思ったらシュウトくんが迷わずにボタンに駆け寄り開閉スイッチを押してしまう。目がランランとしている……ヤバい!
『シュウトくん! 危険を察知してからで!』
『あっ!! あーちょっと遅かったです……すみません……あ、お宝……じゃないな。事務所かなここは? でも生活感がある?』
ああ、ダメだ……あの目は……完全にのめり込んでしまっている……まぁ、こんな研究施設に罠はそうそう無いか……一応魔力感知をしてなにか危険がないかは確認しておく。所々に魔石反応があるから……この施設を動かしている魔石だったんだろうな。
『そこ……扉だったのか……』
『兄さん、だから魔術師組合の奴らを連れてきたほうが良いって言ったじゃないかぁ~』
『うるさいなぁ……今、開いたから良いだろ?』
俺たちは一応警戒しながらシュウトくんが開けた部屋の中に入っていく。一応扉閉まらないように支え棒などを差し込んで閉まらない様にしておく。
何があるか楽しみなのは俺も一緒だった。
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