巨人と獣人の国々の騒乱

第117話 国境の橋でのにらみ合い


△ △ △ 聖騎士アルティア視点



私は夢を見る。


私の夢はいつも戦いだ。


獣人たちとの戦い。


亜人たちとの戦い。


妖魔たちとの戦い。


帝国人たちとの戦い。


……そして私の夢の最後はいつも巨大な壁の前での戦いになる。

私は夢の途中で意識が途切れ、それより先の未来を見たことは無い。


 ナルスゴ砦の戦いの直前で初めて『悪夢』と言われているものを見た、砦の城壁の見事さと触手型の巨大妖魔の片鱗を見て私はそこが最後の地なのかと思ったが……違った。あの時はチサト達の援護のおかげで私は生き延びた。

 私は、この巨人族の国、小国と言って良いと思う規模だが、ここに来て初めて知った。明らかに見覚えのある壁だった。遠くのエフルダム王国の街からも見えるくらいの大きさで存在を知っていたが、巨大すぎて私にはそれが悪夢に出てきた壁だと分からなかったのだ。


 これは「ダム」と言うらしい。


 かなり昔に作られた、神から伝えられた技術を使って作られた水を貯める施設らしい。本当は『古代の止水壁』と呼ぶらしいがテンセイシャがそう名付けてからはそちらの名前が一般に広まった。これのおかげで下流に位置する村、街、我らが国は安定した農業を行え大変助かっていると聞いた。

 間近で初めて見た時は懐かしさと同時に威圧感と、自分の勘違いに呆れ、自分の最後の地がここだと言う事の悲しさと恐ろしさが同時にこみ上げてきて変な感じだった。


 悪夢と言われるものに順序はない。いつも断片的に色々な物を見せてくる。望んだような夢は見ることも無い……嫌なことばかりを見させられる。悪夢と言われるだけはあると思う。


 巨人族を殺す夢。


 小鬼族を殺す夢。


 犬人族を殺す夢。

 

 蜥蜴人族を殺す夢。


 帝国人を殺す夢。


 妖魔を殺す夢。


 私の夢は戦いばかりだ。


 戦う事は好きなはずだったが、何度も悪夢を見てからは正直あまり好きじゃないことに気がついた。私は戦いの稽古や試合が好きだっただけだった。殺し合いが好きなわけではなかった。

 魔獣相手なら少しの同情を……妖魔相手なら傷がつかない私の心も、人の心を持った相手を斬りつける時は嫌な気分がするものだ。


 他の人の夢の話を聞くと幸せな夢を垣間見ることも出来るらしい。私のアレは幸せな夢なのだろうか? 私が愛した、生きて欲しい人を助けるからいい夢なのだろうか?


 私も夢の中くらいは恋愛がしたかった……そろそろ私の最後が近づいている……ああ現実でまともな恋愛がしたかった……お気に入りの小説の続きも読みたかったな……





『はぁ……本当に集まっているわね……』


『どうしたのです? 珍しいですね。ため息なんて……』


 私に同行してくれている近衛騎士のレグロスが私の独り言に反応して話しかけてくる。今日はディソスラパ郡とエフルダム王国の国境にある『自由と盟友の架け橋』と言われる大きな石造りの橋の前まで来ていた。なんでもエフルダム王国軍とディソスラパ郡の部隊が陣取って動かないとの報告を受けたからだった。



『二人きりの時は敬語をやめて……』


『……駄目です。あなたはすぐに甘えてボロが出ます。普段からこれで行くと約束したでしょう?』


 レグロスは私の幼馴染というやつだ。幼い時は家格など大人ほどは知ることもなかったので仲良く遊んだものだったが、物心がつく頃からの教育によって段々と、レグロスが私を避けるようになり……疎遠になって行った感じだった。騎士学校で久々に再会し思い切って気軽に話しかけた時、私に返って来たのは他人行儀の敬語……悲しかったのを今でも覚えている。


 過去を思い出した私は隣で馬にまたがっているレグロスに馬上から軽くケリを入れる。


『痛っ! 何するん……ですか?』

『嫌なの……』


 私は目が潤んでいくことに気がつく……最近……なんと言うか……感情が制御できない……これから死ぬ運命なのだから当たり前なのか……レグロスの顔が本当に困り果てている……


『……ティア……しばらくは普通にしゃべるよ……人が来たら注意するんだぞ』

『うん……ありがとう』



『ねぇ……レグは『悪夢』を見たのよね?』

『はい、見ましたね……あ~。うん。見たな』

『どんなやつを見たの?』


 私の目線にたじろいたあとレグロスはちょっと考えた後にゆっくりと山中を指差す。


『あれが壊れた夢』


 レグロスは遠くにある白い固まり……ダムを指差す。ダムが壊れる瞬間だと思われる夢は見たが……私はその後の夢は見ていない……あれからレグロスは生き延びてくれているのだろうか?

 

 ……それにしてもあんなに大きなものが壊れるのだろうか?


『俺がこの辺でやった聞きこみの内容をまとめると……ダムが壊れて、下は洪水で大惨事になるらしい……残念ながら情報が少なすぎてなんで壊れたか、原因がわかんない感じかな? これから聞き込みを更にしないとね』


『……それだと……今はどうすればよいかわからないわね……』


『そうだね……ティアは……ティアはどこまで悪夢を見れたの?』

『私は……ダムの前で戦って……妖魔と戦っていたのが最後の夢……それ以降は見ていないわ』


 レグロスは驚いた表情もせずに何やら考えているようだった。他の人の、獣人たちへの聞き込みの中で私の最期を聞いたのだろうか?


『……そうか……やはり妖魔と……『穴』か……』

『『穴』は大分駆除できたでしょ?』

『この1月ちょっとでかなり浄化できたけど……まだちょこっと残っているみたいだし……レスタジンの奴らの目撃もあるし……アイツラが『穴』をばらまいてるしな……どうなるかはわからないよ』

『……そう』


 私達、エフルダム王国騎士団ヴァノマーパル支部隊2番隊は巨人族の呪いを解除すべくこの地に来た後、『穴』の発生や他の呪いの発生……などトラブルに見舞われ続け、すっかりこの地に駐留してしまった。異国の地での戦いなど世界の半分に影響力のある教会の聖騎士特権が無ければできなかったことだけど……選択したことには後悔はないが……


『止められるのかな? ダムの破壊』

『破壊される原因を……全部しらみつぶしに止めるしか無いかな……』

『そうね』


 私達はにらみ合いが始まっている集団の方に馬をゆっくりと歩かせて進んでいった。




『アルティア様!』

『聖騎士様!』


 私とレグロスが進み出ると橋の前で陣取っている巨人族や犬人族の兵士が振り返ってこちらを歓迎してくれる。完全にこちらを信じている目だ。


 私達はこの1月以上の間、各地でひたすら発生する『穴』との戦いをしてきた。


 初めは巨人族への呪いを解くためだったが、呪いを解いている最中にも『穴』が出現しその対処に追われていたのだ。終わったと思ったら隣の部族、隣の種族の領域のも……と、広範囲に『穴』が出現するという自体に陥った。

 私達、ヴァノマーパル支部騎士隊は損害を出すこともなく『穴』を駆除していった。戦いの最中に信頼できるディソスラパ郡の精鋭たちも共に戦ってくれた。それでも……間に合わなくて死んでしまった現地の住民たち、戦士たちもいる。必死に戦っていると、気がついたら彼らの信頼を私達は一手に受けるようになっていた。



『どう言う状況かしら?』


『はい、2日ほど前から、エフルダムの騎士が……橋の向こう側に』

『橋のこちら側には来ないのですが、陣を築き始めています。どう言うことなのでしょうか?』

『どう考えても侵略だろうが!』

『あんな少数で来るわけ無いだろ!』

『こちらにはアルティア様達がいるんだぞ!』


 巨人族と犬人族の兵士達が言い合いを始める。そりゃそうだろうな……どう見てもあれ正規兵だし……なにかの伝達、伝令にも見えないし……理由がわからないな。


『わかりました。少し話を聞いてきます』


『よろしくお願いします』

『お願いします……』


 私はため息をついて重い体に鞭打って進み始める決心をする。


『レグロス。行くわよ』

『承知しました』


『あ、お供します!』

『俺も!』


 私とレグロスを先頭に、部族の隊長クラスが何人か後を付いて橋を渡り始める。それに気がついた様で、対岸に陣取っていたエフルダム王国騎士団からも数人騎馬で向かってくる。見覚えがある鎧だな……叔父さんか? あちら側も私の存在に驚いているようだった。


 王国騎士団の正式の鎧を身にまとった壮年の男性が話しかけてくる。私の親戚の叔父のジェネラウールだ。かなりの手練で……とても寛容な人だ。私の無茶をよく見逃してくれた人だ。まぁ、ちょっとだけ彼には恨み言があるが今は関係ない……


『アルティア! 久しいな! 念の為聞くが、なぜそちらにいる?』


『お久しぶりです。ジェネラウール叔父さん。ディソスラパ郡に発生する『穴』の駆除を手伝っておりました』


『ふむ……ああ、そうか、教会の聖騎士特権か……妖魔がからむ『穴』の発生の際は自由に動いていい……と言う決まり……だったか?』


『はい。そのとおりです。ディソスラパ郡とは現在、協定を結んでおりますので、聖騎士及び探索者協会関係者は『穴』の関わる有事の際には上の判断を仰がなくても良いことになっております』


 叔父さんの疑問に付き添っていた巨漢の騎士が答える。顔に見覚えが……ああ、そうか大人になったのね……


 『あら……ディグディス? 大きくなったのね! とてもたくましくなったわ!』

『……あ、ありがとうございます……アルティア様』


 少年時代に会ったきりだったが、特徴的な顔だったのでよく覚えている。私の元婚約者だ。私が神の加護、聖騎士の神託を受けてしまったので破談になってしまったが……懐しいな……正直なところは家同士が決めたことだったので……あまり覚えていないのだけれども……学生の時、勢い余ってブチのめしてしまった黒歴史もあったか……


『アルティア……私も忘れずにね』


 叔父の隣りにいた女性騎士がヘルメットのバイザーを上げにこやかに微笑む。


『あら? レジェリンス! 久しぶり! 3年ぶりかしら!』

『そうね、前の帝国との戦い以来ね……元気そうで何よりだわ』


 私の従兄弟の女騎士レジェリンスもここに来ていた様だ。エフルダム王国……本気でなにかやろうとしているのかしら? 流石にこの3人を一度に一人で相手するのは難しいな……まぁレグロスがいれば余裕か?

 

 少し思い悩んでいると、叔父さんが慌てた感じで私に話しかけてくる。


『ちょ、ちょっと待て、アルティア……なぜ獲物を狩る様な目をしておるのだ……『穴』の駆除はわかったが、ディソスラパ郡になぜ組みしている? と言う質問だったのだが……』



『えっと……助けてたらこうなっちゃって……』


 どう説明すれば良いか私には分からなかった。巨人族があまりに哀れで助けに来て助けたは良いが……そこからはなし崩し的に……そんな私の様子を見て隣りにいたレグロスが進言してくれる。


『はい、ジェネラウール様。要約いたしますと、現在ディソスラパ郡においては『穴』の出現が未だに報告されており、駆除が完全に済んでおりません。ですので手助けをしていたのですが、その結果アルティア様が『穴』の駆除の総大将の様な感じになってしまい、ディソスラパ郡東部全体を受け持ち駆け回っている次第でございます』


『ありがとう……レグロス……』


 どう言えばいいか分からなかったので、レグロスには本当に感謝している。いつも助けられてしまうな。



『なるほど……』


 ジェネラウール叔父さんが私達に付いてきたディソスラパ郡の隊長達を回し見る。立派な口ひげを触りながら何やら考えているようだった。


『我々も不確定要素が多くてな……侵略の意思は無い。が、『悪夢』か、『未来の夢』かわからんが……有事が起きると言われておってな……念の為集まっている感じだ。何もなければ数日で撤退するぞ』


『ええ、心配はしなくて大丈夫よ。アルティア……何も起きなければいいのだけれども……』


 女騎士のレジェリンスが不安そうな私の顔を見てフォローを入れてくれる。が今は敵対勢力状態なんだけど……どう反応をすればいいんだろう。迷ったところに叔父さんが私に質問をしてくる。


『アルティア……お主は『悪夢』をどこまで見ておる?』


『……ダムの近くに発生した『穴』の戦いまで……』


『……なるほど。有益な情報をありがとう。お主らは引き続き『穴』の駆除に尽力を注ぐといいだろう。私はとりあえず色々とやらんといかんようだな……』


 私は叔父さんの質問と答えの意味がわからなかった……




 それからお互い、なるべく小競り合いの無い様に、お互い橋の前で陣をとり、見張り合うことになってしまった。侵略の意思がないのに陣取るって前代未聞な気がするのだが……こんなところでお見合いをしている時間は無い気がするんだけど……


△ △ △ 

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