第131話 『巨大穴』の浄化と危機



 ドォン!! ドォオン!!!! ゴオォン!!!


『さっきから何の音??? 煙でよく見えないわ!!』

『あの感じだと……巨大妖魔がダムの壁を攻撃しているのか?』


 俺とチサトは途中まで先陣を切っていたが、戦闘開始からは軍勢に守られるように移動をしていたのでかなり軍隊の後尾にいる状態だった。まぁ要するに、後ろにいすぎて戦いの煙やら砂埃やらで前が見えない! 体育祭の騎馬戦での砂埃……なんて目じゃないくらいだ! 


『なんか『巨大穴』も小さくなっているけど……あ! なんか嫌な感じが……』


 チサトが『巨大穴』の方を見て顔をしかめる。俺も視線を追うと……巨大な人型の手が数本……それと触手のような……枝か? なんかもうめちゃくちゃな生物が這い出ようとしているのが見えた。その隙間から巨大妖魔がはいでてくる……え? 巨大妖魔が隙間から這い出るってことは……あれ、どんなサイズなの???


『チサト! 私は前に出るわ! ものすごく嫌な感じがする!』

『そうね。あたしも行く。タクマ、今やらないと……駄目な気がするの!』

『わかった……なるべくなら『流星の狩人』と合流しないと「プラン」が……』

『大丈夫よ。ダメそうだったら私が全力でアルティアと飛んでみるわ!』

『え? タクマ? 飛行機は……(ああ、そうかダムの上だったわね、あの観光用の乗り物は)……わかったわ』


 俺たちはここまで乗せてもらった馬人族にお礼を言った後に、全力で『巨大穴』の方へと向かう。騎士のレグロスと女騎士のレジェリンス、獣人の隊長格が何人か護衛でついてきてくれる。巨大妖魔達との戦闘の脇をすり抜けていくのだが……善戦……と言うより圧倒しているな。まるで相手の攻撃が何をやってくるのかわかっているかの様だった。獣人の精鋭や騎士はすごい強いんだな……



● ● ● ●  ジェネラウール視点


『行ける! 行けますね!!!』

『どんなやつがでてくるかわかってれば対処のしようがあると言うものだな……報告の通り過ぎて笑いが出るわ』


 戦況を見て騎士ディグディスが興奮し、ジェネラウールが不敵な笑みを浮かべる。『悪夢』の内容を聞き込み調査し、妖魔の図案化をし……倒した夢などを分析……要するに様々な人『悪夢』の話を統合、検証することによって妖魔の種類毎に攻略方法を編み出していたのだった。多腕型、巨人型、巨大犬型、地竜型……など今回の『巨大穴』から出てくる妖魔達はバラエティに富んでいたが難なく対処をしている感じだった。


『それで……例のやつは出てきたのか?』


 ジェネラウールの問に斥候らしき人物が報告をする。


『はっ、未だ出現せず……との事です。探索者による『穴』の浄化隊がうまくやっているとの報告もあります。空の色も変わらない様ですので……おそらくかなりの差異が生まれているかと思われます』


『そうだったな……』


『空の色が変わる……そのはずでしたね、そういえば……』


『ああ、そうだ……禍々しいあれだな……』


 ジェネラウールが遠い目をする。彼は前回の『災厄』に少年時代に参加をしているのでどんなものかは知っていた……まるで地獄にいる様な空を見て、聞いていたよりも圧倒される雰囲気で愕然としたものだった。


『……え……空が……』

『ヌゥ……変わって来ているな……だが……薄いか?』


 ジェネラウールが空を見上げているとその場にいた騎士たちも見上げ始める……空が赤く染まり初め……『巨大穴』には黒い稲妻様なものが走る。そこから巨大な手のような物が『巨大穴』を広げようと穴の縁に手をかけて無理やりこじ開けようとしている。


『む……まるで『災厄』みたいだな……おそらくあれが例のやつだな……魔術師団長! 例の特製の神聖槍を打ち込むぞ!』

『はっ!! 只今準備いたします!』


 慌ただしく準備をする魔術師や騎士たちを見てジェネラウールが呟く。


『さて……効くと良いのだが……』



■ ■ ■  帝国軍視点 ■ ■ ■

 

 皇帝と側近が揃って望遠鏡を覗きダムで起こっている状況を覗き見る。


『始まったようだな……』

『陛下……本当にあんなことが……空の色が変わるなんて……』

『伝承ではアチラの世界とつながっているそうだ……アチラとは何処なんだろうな……』

『過去の文献によると……地獄らしいですが……レスタジンのやつらの言う通りになりましたね』


『ああ、そして『悪夢』を見た民たちの絶望の始まりでもあるな……』


 布陣していた帝国軍の兵達も同様を隠せずに大きな騒ぎになっていた。突然赤黒く染まる空を前に右往左往するだけだった。


『さて……我々がすることはわかっておるな……』

『はい。失敗を成功に塗り替えることですね』


『お前……良いことを言うな……そうだな……余は『悪夢』での大失敗は絶対にせん……』

『本当に来るのでしょうか? 光の騎士など……おとぎ話の英雄ではないのですか?』

『ああ……来る……余は見たからな……怒り狂うアイツは本当の『悪夢』だからな……それで、ラレス、本当に光の騎士は誰だかわからないんだな?』


 二人のそばをエフルダム王国の騎士が3人待機していた。


『わからないと言っているじゃないか、あ、じゃないですか』

『敬語はいい……オレとオマエの仲だろう……』

『いや、しかし……皇帝だろう、今のお前……貴方様は』

『はぁ、いやだねぇ、せっかく昔の通りで良いと言っているのに』

『……光の騎士と言って近いのはアルティア様だけだな。聖騎士の間違いじゃないのか?』

『聖騎士じゃないと思うぞ……たしかにヤツは美しい顔立ちだが』

『そうか……しかし大丈夫なのか? この軍勢は、帝国軍は、今にも逃げ出しそうだぞ?』

『アイツが怒り狂ってたら逃げるんじゃないかな? アハハ』

『人間変わらないものだな……』


『陛下……お戯れが過ぎます……』


 ラレスと帝国側近が呆れる感じで皇帝を見ていた。


■ ■ ■


『だめだ!! そんな危険な真似はさせられない!』


 騎士のレグロスが俺に向かってかなりマジな目で怒鳴りつける。


『……だめか?』

『駄目です! 許可できません! そんな危険な事は! 着地はどうするのです!』

『えっと、それは、受け止めたり風の魔法で……』


『あ~ ちょっと私も想像していたのと違う……です。はい。ジャンプしながらは試したことがないのでなんとも……「ヒコーキ」の上からやるものかとてっきり……』


 アルティアも若干涙目な上、目が泳ぎ周りに助けを求めている感じだった。

 前線に出ていた巨人族の隊長達を前に俺達は押し問答をしていた。いざ投げてもらおうとしたら、アルティアが渋りだしたのだった。


 まぁ、アレだ……やっぱりいくら怪力とはいえ……投げられてから神聖剣とやらを使うのは難しいと……言うことなのだろうか?


『タクマ、ここに来る前にアルティアに話をしてなかったけ?』

『ああ、したつもりだったが……飛んでもらうと……』

『まさか放り投げるなんて思いません! てっきり「ヒコーキ」飛んで近づいて撃つものかと!』

『……すまない説明不足だったかも』

『タクマ……最近、色々と端折りすぎよ』


 たしかあの施設にはあと2台くらい「ヒコーキ」があったな……あれ飛ばせれば問題ないのかな……俺たちがまごついていると、ひときわ大きい巨人族が俺たちに話しかけてくる。エルドより2周り大きいくらいだな……ものすごい迫力だ。


『つまりあの「ユーランヒコーキ」に乗ってあの『巨大穴』を塞ぎに行くのですね?』

『え、あ、そうだね、そうしたいんだけど……』


『ではやるか、では失礼して……』

『えっ?』

『へ?』

『え?……まさか』


 ひときわ大きい巨人族二人が、呆然とする俺とアルティアを持ち上げ、ものすごい魔力を込めて……


『フンッ!!』

『セイっ!!!』

 

 大きな掛け声と共に城壁の……「ヒコーキ』のあった方にぶん投げた……まるで荷物を投げるかのように……って投げられているのは俺だ!!!


『きゃ~~~~~!!!!!』

『うおおおおお!!!!』


 マジか! これ、届くぞ! すごい! 早い! ヤバい! 死ねる! あ! 魔法、風の魔法を!!! 

 俺は慌てて風の魔法で姿勢を制御し、完璧に混乱しているアルティアの近くまで移動して彼女を抱き寄せる。ああ、良かった……彼女を投げてなんとかしようとしなくてよかった……こんな状況で魔法を制御なんて……できるわけないな……


『あ、あっ、ありがとう……あ、風の魔法ね……よいしょっと』


 抱きかかえられたアルティアは到着……着弾間際にやっと我に返った様で、二人して風の魔法をコントロールしてダムの壁の上に着地をする。


『ありがとう……タクマは冷静なのね……私は……もう興奮して……ドキドキが収まらないわ!』

『ごめん……「絶叫系」に慣れているからかも……』

『「絶叫系」?』

『ああ、飛んだり跳ねたりする遊びだよ。今度詳しく説明するから、今は急ぐよ、あっ、よかった、まだ「ヒコーキ」はありそうだ』


 俺とアルティアは急いで「ヒコーキ」の方に駆け寄った。上空を見ると空に赤みがさし、気味の悪いことになっていた。早く浄化しないとやばい感じだな……


■ ■ ■


『な、なんてことを!!! 彼女に怪我があったらどうするのです!』


 レグロスが巨人たちを非難するように絶叫する。


『急がないと駄目、多分ダムが壊れるの直ぐ』

『言い争っている暇、無い、『穴』消す、先』


 巨人族が真面目な顔をしてレグロスに返答をする。


『……それもそうですね……しかし……距離が離れてしまった……なるべく近くまで……アイツラを蹴散らしていくしか無いか……すまないがチサト……みなさん、聖女様の護衛をお願いします』


『行ってらっしゃい、レグロス、怪我したら私を探して戻ってくるのよ。すぐに治すから。アルティアをよろしくね』


 チサトの発言にレグロスが一瞬呆気にとられた表情をした後に軽く微笑みながら返事をする。


『行ってきます。チサト……もう、出し惜しみは無しだな……』

 

 レグロスから大量の魔力が放出され辺りが光りに包まれる……周りが呆気に取られている中、レグロスは体に纏う光を更に強くしながらとんでもない速度で走り出す。


【あれは……光の騎士……】

【彼がそうだったのか……】


『じゃぁ、みんな、怪我した人を見けたら移動開始よ! よろしくね!』

『はいっ!』


 その場に残された聖女護衛隊はチサトの言葉に従い怪我人を探して移動し始めた。


■ ■ ■


【総員構え!!! 目標【巨大穴】から出ている何か! 撃てぇ!!!】


 ダムの上に並んだ巨人の兵士や、中には民間人が巨大な強弓を構え、巨大な矢を一斉に撃ち放つ。とんでもない轟音を響かせながら『巨大穴』をこじ開けてでてこようとした超巨大妖魔や、落下しようとしていた巨大妖魔に突き刺さっていく。痛みがあるかはわからないが、超巨大妖魔は『巨大穴』をこじ開けていた手を放し、中へと引っ込んでいく。


【いけそうだな! しばし待機! 【巨大穴】への注意を怠るな! これでいいんだな?フェリーニャ?】


 巨人族の部隊を率いていた隊長が脇で一緒に強弓を撃っていた女性に話しかける。


【ええ、私達の役目は、あれの出現を遅らせることよ。浄化は聖女様たちがやってくれるわ】


【お、フェリーニャ! あれはタクマ達……え? 聖騎士様? あれ? なんで戻れたんだ??】


【……下から飛んできたんじゃないか?】

【……まぁ、あの人達なら何をやってもおかしくないな……】

【そうだな、我々はやれることだけをやろう】


 『グロッドの巨槍』の面々は一瞬、理解不能な表情を見せた後、『巨大穴』を注視し続けるのであった。


■ ■ ■


 アルティアが上空の『巨大穴』を見上げながら状況を知らせてくれる。


『また『穴』への線が減った! もう少しね!』


『ありがとうございます。後はなんとかなります。』


 俺は巨人族の技師達の手を借りて、「ヒコーキ」を発射台まで運んでもらい搭乗していた。アルティアが神聖剣を撃てる様に、一部装甲などを剥がしていた。


『ああ、また王都のソウタを儲けさせてしまうな……』

『今回は大里から援助金……出るでしょう?流石に?』


 あ、そうか……当たり前だよな。飛行機は高いものな……でもこれじゃないと上手く行かないだろうし……乗り捨てたやつをせめて回収すれば……


『あ……ごめん……さっき借りたやつ、国境の橋に置いてきた……』


『え? 壊れてないのか? よかった。後で回収だな』

『まぁ、あれだ、国の危機なんだ、壊しても構わない、ただ、大事に使ってくれよ!』


『行きましょう! タクマ! ドキドキします!』

『結構タフだね。それじゃ、行きます!!』


 巨人の技師達が「ヒコーキ」を押して勢いをつけてくれる。俺はすぐにペダルを踏み込んで舵を切り『巨大穴』へと向かう。後ろではアルティアが神聖な光の粒などをまとい始めている……後はタイミング良く近づいて撃つだけだな……うまくいくと良いんだが……


『行きましたね』

『うむ……操作も上手……というか知っている感じだな』

『あとは上手く行けば……』

『聖騎士様が使った「ヒコーキ」として……ふふふ』


『あんたら何考えてるの……弓撃ちに行くわよ!』


『ああ、そうだった』

『ダムが崩れなければの話だったな』


 巨人技師達はいそいそと置いてあった弓矢を担ぎ、仲間が戦う場所へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る