第68話 探索者試験・個人・狩りの試験
『ねぇ、エルド? 故郷の皆さんはみーんな。いい弓矢をもっているようにみえるんですけどぉ?』
『そうですよ! てっきり巨人族は弓を使わないからと思って一緒に知恵を絞ったのに!』
『エルド、説明をなさい。私も少し怒ってますよ』
翌日の探索者試験の個人の狩りの試験の集合場所でエルドがチサトとシュウトくんとヴィナルカに詰め寄られている。巨人族パーティを見る限りだと人間の丈を優に超えた剛弓を背負っていた。あちら側はこちらの騒ぎを見てはなにやってんの?って顔をしているから弓矢を使うのは普段通りなんだろう。
『お、俺、ちょっと弓が苦手……い、今なら出来る……かも?』
慌てて弁明するエルド。そこにフェニーリャたち巨人族が会話に加わりフォロー? 追い打ち? を始める。
『エルドは昔から力の加減が苦手で良く弓を壊してたの』
『今なら理解できるが、エルドの魔力がありすぎて壊してしまっていたのだな……里の弓は強力だからほんの少し魔力を使わないと引けないからな……魔力調整がむずかしいのだよ』
『今なら……魔力コントロールが上手なった。弓使っても多分壊さない』
『それじゃぁ、ちょっとエルドに弓を貸してあげてよ!』
『そ、それは……試験が終わってからでいいかしら?』
『壊し屋エルド……だもんな』
『『グロッドの巨槍』として、チームとして貸せないわ……あたしとしては貸したいけど……』
『元里長よ、『神聖球』を持ち帰るのが我々の目的だ。それを成さなければダメだ』
『そうね……』
『里長も止めてください』
『お、そうか、里長は俺か……やめておこう。試験が終わってからで……』
エルドの発言に周りがドッと沸く。ギスギスした感じも全く無くなって本当に良かった。雨降って地固まる? ってやつかな?
『では狩りの個人試験を行う! ここに張り出された表に従って集まってくれ! 各チーム毎にバラけて移動してもらった後、個人の狩りの試験を開始する! 今日だけでなく、明日もあるから余裕を持って行動するように! 試験官はあくまでも試験官だ、アドバイスなどは貰えるかもしれないが、あまり頼らないような!』
ランパルトのよく通る大声での指示に従い俺たちは臨時で木の看板に建てられた表を見て集合場所に移動する。巨人族の『グロッドの巨槍』の他に、蜥蜴人族のチーム、狼人族のチーム、虎人族など亜人種だらけだった。どのチームも強そうだな…… 集合場所に着くと、探索者の職員5名、エイルさんもいるな……と騎士のレグロスがいた。
『あ、レグロスさん! 昨日ぶり!』
『チサト殿……それは ぶり はいりませんよ。ふつうに挨拶で良いかと』
『さすが騎士様。真面目ね』
『……なんかアルティア様と似てるんだよな……あ、ダメですよ。今は仕事中ですからあまり話しかけないでくださいね』
それから探索者組合職員の回復魔法師エイルさんから狩りの説明を受け、俺たちはゾロソロとかなりの大所帯になりながらも2時間ほど移動し、狩場に到着する。全員が魔力持ちとあって、かなりの速度での行軍だった。現実世界だったらマラソンとまでは行かないが、かなりの速度で走っている気がする。
『では先ほど説明したとおり、噛みつき角ウサギ・切り裂きカモシカ・突撃イノシシなどの魔石を有している魔獣を狩れば大丈夫です。噛みつき角ウサギに関しては小さすぎると魔石がない場合があるので注意をしてくださいね。倒した獲物が大きすぎる場合にはお渡しした、援護弾を上空に打ち上げてください。職員や手の空いている受験者で運ぶのを手伝います。後、大怪我を負って動けなくなった場合は赤い方の救護弾を打ち上げてください。間違えて援護弾を打ち上げないでくださいね。助かる命も助からなくなりますよ!』
エイルさんからの説明を受け、各チーム一人ずつがバラバラに森に入っていく。俺達のチームからはヴィナルカが最初に入っていった。すぐに帰ってくるだろうけど……
『そう言えばアルティアはどうしたの? 試験官はやらない感じ?』
『ああ……アルティア様は何でも隣のナルスゴ砦から救難信号が上がったらしいので確認に行きました。急ぎの場合は彼女が魔力全開で走って行ったほうが早いですからね……』
『え? 馬は使わないんですか? 走ってですか?』
『魔力を上手に扱える騎馬は……ここにはいませんからね。それに普通の馬だったら……もうあなた達が魔力強化して走ったほうが早いはずですよ。試してないとかですか?』
『あ……無いですね。試したことがないです』
『そう言えばそうね……』
『俺、試してなかった。今度やろう』
『どれくらい出来るかワクワクしますね!』
『ウチも今のコントロール力でやったことは無いな……楽しみだな』
確かに、戦闘や魔法攻撃の練習ばっかりをしてきたから長距離移動……なんかはあまり真面目にやって来なかったな。工事現場トレーニングのときは3時間くらいぶっ通しでやれたからマラソンくらいできてしまうのだろうか……そう思うとワクワクしてくるな。
『ただいま』
『えっ?』
『早すぎではないですか?』
エイルさん達の所に噛みつき角ウサギを背負ったヴィナルカが到着する。さすがヴィナルカ。狩りの天才だ。と言うより早すぎではなかろうか……
『まだ温かい……事前に狩りしていたとは思えませんん。魔石反応もあります。はい。文句無しで合格になります』
『狩ってきたものはどうすればいいのかしら?』
『確認が終わりましたらご自由にどうぞ。ここのキャンプを川辺にしたのもそのためです』
『わかったわ。それでは解体しましょうか』
ヴィナルカが狩猟用ナイフを取り出し解体をし始める。ホント手際がいいなぁ……
『それでは『流星の狩人』さん、次の受験者の方を出してください』
『それではわたしが行ってきます!』
『あ、注意するんだよ、大物は狙わないでウサギにするんだよ? それから……』
『わ、分かってます! タクマ、絶対についてこないでくださいね!』
『え、ええ~』
『……絶対です……』
『分かった……』
ジト目で俺を見ていたミィナスだが渋々納得すると笑顔になり元気よく森の中に入っていく。ああ、本当に大丈夫だろうか? 怪我はしないだろうか? ものすごく心配になってしまう。
『タクマの過保護はいつなおるんだろうねぇ?ウチ心配だわ』
『ミィナス、もう十分魔力操作できる。普通の大人よりはるかに強い。安心するといい』
『分かってはいるんだけどね……』
どうもミィナスの最初の状態が頭から離れなくて、なんとかしなければと思ってしまうんだよな。まだ子供なのに模擬戦をしていても完全に押される場面も多いから、成長すれば俺よりも強くなるんだろうけど……それでも心配になってしまう……
『魔獣の数がちょっと多すぎだと思うわ? なにかしているのかしら?』
『あ……気がついちゃいますか……やっています。探索者になったら教えますね。秘密らしいです』
『ん~確かに……変わった匂いがするわね……』
『あ、よくある「魔除けの逆のなにか?」ですかね?』
『……敵を引きつけるなにか?ってこと?』
『そうです。でもこの現実的な異世界だと……危ないですよね……「レベル上げ」じゃあるまいし……』
『たしかにウチの探知でもかなりの魔獣が引っかかるわ……』
俺たちが口々に魔獣寄せの仕組みについて話をしたりしているとエイルさん達職員とレグロスが慌てて割って入ってくる。
『だ、だめです。分かっていても話をしては。使い方によっては人を殺せてしまう道具ですから。気がついても内密に!』
『大丈夫です!ちょっと離れた所に置いてありますので私たちに危険はありません』
『ただ今戻りました!』
噛みつき角ウサギを背負ったミィナスが帰ってきた。ミィナスと同じくらいのサイズでウサギが巨大に見える。
『お、ミィナスおかえり~ 早かったね!』
『はい。魔獣が沢山でした。巨大なのも来ているので注意ですね』
それを聞いたレグロスが魔力探知を使った様で彼から波動を感じた。なるほど、相手が使うと気づかれる……とはこの事か。
『大丈夫……だと思います。イノシシ……シカ……亜種や頭領クラスはいませんね』
『おい、騎士のあんちゃん、それわかるのか? 今ので?』
『ええ、コツがあるので簡単です。あ、これは試験を受かると先生たちが教えてくれますので是非とも試験を合格してください』
『おお……是非とも知りたいね。がんばらねぇとな……』
一緒にチームメイトを待っていた他のチーム受験者達のモチベーションが上がった様だった。たしかに魔力探知を使えると使えないでは狩りのときに雲泥の差だからな。
それからは他チームの気合も入り続々と獲物をとってきた受験者が増えてきた。俺が思うにこのグループは能力のある問題児の集まり……を寄せ集めしたんだろうな……全員が薄っすらと魔力をまとっている感じがするし、狩りも順調だ。全員が狩ってきて当たり前って顔をして帰ってくる。しかもなんか手慣れた感じで獲物をさばいていたりしてベテラン臭しかしなかった。
『あの、『流星の狩人』のリーダーさんは……あ、タクマ殿ですよね、あの……この方を止めていただけませんか?』
『え~ 帰ったら手合わせするだけでしょ? 別に問題ないでしょ? 違う?』
キョウカが延々とレグロスさんに手合わせをしろしろと煩く迫っていたのだった。キョウカの対戦相手になりたくない人間は全員そっぽを向いてしまい……誰も止めに、いや、被害を被りりたくないから関わりたくなかったのだ。鬼人族の婿探しの方法の噂は全員が知っているくらい有名なんだな……
『あ~ 俺はもう対戦したんで……レグロス……お願いします……』
『騎士は不用意な決闘は……え? 結果はどうなったんですか?』
『負けましたよ?』
『違う、引き分けだ。タクマも再戦はいつしてくれる?』
『え、ええ~あれはキョウカの勝ちだよ』
『違うよ~ なに? そんなにあたしと戦うのがいや?』
『あ~っと……可愛い顔をしてねだってもダメだ……俺の負けだ』
『えっ! 再戦してくれるのか!』
『違う! 俺が前の戦いで負けたってことだ!』
『えっ? 可愛い顔……』
『そ、そっちに戻るのかっ!』
俺がキョウカと言い合っている内にレグロスさんがエイルさんの後ろに行き何やら会話をしだす。……あれはフェイクだな……話しているふりだ。絶対。
『ただいまぁ……なんか変なことになってるね。じゃぁ、次はタクマで……行ってらっしゃい!』
『え、話の途中……』
『行って来ます!』
チサトが狩りを終えるなり場の空気を察して俺をその場から離脱させてくれる。正直ありがたかった……
いざ狩りを始めると、ミィナスの言っていたことがすぐに分かった。確かに大量にいる……狩り放題だな……
俺は手頃なサイズの噛みつき角ウサギを狩るとさっさとキャンプまで走って戻っていった。慣れって恐ろしい……躊躇していた自分が懐かしい。
『順調すぎて怖いですね……皆さんすごい能力で……』
『ああ、本当ならアルティア様が担当するはずだったからな……』
『良かったですね、恒例の『暴れん坊』が居なくて……』
『……あれも一種の『暴れん坊』だと思うが……まぁいいか。今のところは害がない』
キャンプに戻るとエイルさんとレグロスが雑談をしていた。一方、キョウカは相変わらず他チームの強そうな人に手合わせの約束をしようと話しかけたり色々しているようだった。おそらく純粋に戦闘を楽しみたいのが本音だろうけど、婿探しの噂も出回ってしまっている……どうしたものか……
『おかえりなさい。順調だったようですね』
『ただいま。キョウカはずっとあんな感じ?』
ミィナスが困った感じで俺の質問に答える。
『……はい、本人は婿探しでは無く手合わせだけお願いしているのですが、噂が独り歩きして婿探しの手合わせになっているようですね。昨日はエルド達の事もありましたので……』
『ああ……ある意味有名なチームになってしまったんだな……』
ちょっとキョウカはこの場を離れた方がいいな……
『キョウカ! 次は君の番だ!』
『えーっ。わかった。ウチはもうちょっと話を……あ、フンッ!』
突然キョウカが呪印刀にかなりの魔力を込めたと思ったら全力で茂みの中に呪印刀を投げつける。遠くの方で ドコッ! と音がするとキョウカがそちらの方に走っていき……戻ってくると手には頭を潰された噛みつき角ウサギが……
『ヒッ!』
エイルさんが声を上げて体をビクつかせる。その場にいた殆どの受験生がその光景を見て固まっていた。
『これでいいわよね?』
『ええ……大丈夫です……とんでもないですね……』
『ん? そうか? タクマの方がぶっ飛んでるわよ?』
『え……そうなんですか? まともな方だと思っていたのに……』
『いやいやいや、キョウカ、待って、巻き込まないで……』
エイルさん達職員はおろか、受験生たちの俺を見る目が変わってしまった。ヤバい完全に仲間だと思われてる。って仲間か。どうすりゃいいのこれ?
『あ、俺。行ってくる。』
『いってらっしゃい』
フェニーリャが優しくエルドを見送る。あっちは落ち着いてていいなぁ……それよりもキョウカだな……ちょっと説得しなければ……
『キョウカ、ちょっといいか?』
『ん? 今は解体で忙しいんだけど?』
『あのさ、決闘じゃなくて婿探ししている人と思われているらしいぞ。みんなから』
『え? 婿探し関係ないって言っているのに?』
『ほら、エルドの戦いが結婚賭けた戦いになってただろ? だから決闘したら結婚しなくちゃいけない感じだと思われているらしい』
『あ~……そっかぁ……フェニーリャは上手だったよね……ウチも婿探しの事言わなければよかったよ……』
『……それは言わないと後で文句言われるだろうな……』
『でしょ? 先に言わないと後で言われるのすごい嫌なの……それでね……』
それから俺はしばらくキョウカの話し相手? 愚痴の相手を務めていた。誰かが犠牲になるより良いだろう……
結局狩りの試験は今日でこの場にいる受験者全員が終えることが出来たようだった。エルドとフェニーリャが突撃イノシシを、他の皆は噛みつき角ウサギを狩ることが出来ていた。さすがにものすごい数の獲物を解体していたのでこの場がものすごい匂いになっていた。俺たちがいなくなったら獣達が集まってくるんだろうな……
夕日を見ることもなく順調に試験を終えた俺たち受験者は狩りの合格判定をもらい、自分で撮った獲物を運びながら足取りも軽く帰路についた。狩りの日程は2日って書いてあったから明日は休みになるのだろうか? そんな事を考えていると前方から軽装の騎士を乗せた馬が駆けてくる。
『レグロス! 隣町……隣のナルスゴ砦にかなりの規模の『穴』が出現! 至急戻られたし!』
『承知した! すぐに向かう!』
レグロスが知らせを受けると魔力を体にまといかなりの速さで駆け出し街に戻っていく。凄いと思う反面、確かに今の俺達なら彼の真似が出来そうと冷静に分析する自分がいた。
『あなた達は一班か? 二班までは緊急で『穴』の殲滅作戦に協力せよとの事です』
『そこまで大規模な『穴』なのですか?』
エイルさんがいつものほやほやした顔ではなくキリッとした表情で会話をしている。
『ええ、アルティア様からの報告なので間違いがないでしょう』
『わかりました。ではこの地図をどうぞ、おそらく二班はまだ狩りの試験中でしょうから』
『これはありがたい。それでは!』
伝令の騎士は森の方に馬を走らせる。かなり急いでいる様だな……そこまでやばい状態なのか?
浮足立つ探索者試験の受験生たちに向かってエイルさんが全員に聞こえるように魔力強化した大声で通達する。
『緊急試験を開始します!『穴』の征伐の開始です! 受験生は一度町まで戻り、支度を終えたのちに西門に集合!』
『『うぉおぉおおお!!!』』
『『いやったぁ!!!!!!』』
受験者たちから歓声があがる。『穴』って災害じゃなかったの? 俺はまわりを見回すと俺の仲間以外は歓喜していた。どう言うこと? 仲間同士で目を合わせるが誰も理由がわからない様だった。
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