第50話 治療とこれからを考える



『あらあら、大変ね、こっちの部屋を使って。』


 俺たちが宿につくやいなや女将さんがいつもどおりに振る舞ってくれる。

 俺たちはいつも使わない個室に通され、奴隷商から渡された鍵を使って手枷と猿ぐつわを取り奴隷の子をベッドに寝かせる。回復魔法のせいかぐっすりと眠っているが、明らかに栄養失調状態だ。無理にでも食べ物を食べさせないと……点滴が無い時はどうすれば良いんだ……


 

 しばらくするとキョウカがお湯いっぱいの木の桶とタオルを持ってきてくれて子どもを拭いていく。俺も一緒に手伝って拭く。ガリガリな上にかなり汚れている……

 そこに女将さんが子供用であろう古着を手に部屋に入ってくる。


『そのボロ脱がせちゃって、この服着せちゃいましょうね』

『わかったわ』


 俺とキョウカで子供の服を脱がせていくと……あ、女の子だったのか……


『あ、タクマあっち向いてね』

『……分かった』


『はい、もう大丈夫よ。こっち向いていい』


 女将さんから渡された服を着て、見た目はかなりマシになった。元気になったら髪とかしっぽとか洗ってあげなければな……


『おう、飯、出来たぞ。……大分ひでぇな』


 宿屋の主人、兼シェフが入ってくる。手にはお粥?シチューのようなものを持っている。


『ありがとう、あなた。それじゃあ、あなた達、これを無理にでも良いから食べさせる……と言うよりも飲み込ませさせてね』

『わかった。ありがとう女将さん、旦那さん』

『気にするな。……もう回復魔法はかけてあるのか……あんたらに拾われて幸運だったな……』

『それでは、何かあったらすぐに言ってちょうだいね』


 旦那さんと女将さんが部屋から出ていく。

 

 俺が奴隷の子の上半身を抱えておこし、キョウカがシチューのようなものをスプーンで掬って奴隷の子の口の中に無理矢理な感じで入れる。

 薄っすらと目を開ける奴隷の子。目から一筋の涙が流れてくる。


『……おいしぃ……』


『良かった……なんとかなりそうね』

『ああ、ありがとう……』


 それからも大分お腹が減っていたのか、奴隷の子は泣きながらシチューを食べ続け、食べ終わると、そのままぐっすりと眠ってしまった。覚えたての回復魔法を使って彼女の体を見てみると、弱ってはいるが異常な箇所は見られなかった。チサトとシュウトくんのおかげだな……


『……なんで助けちゃったの?』


『……助けたいと思ったから……助けないと後悔するからかな……妻も隣にいたら絶対助けていた。いろいろ考えていたら体が勝手に動いた……おかげで帰るのは大分先になっちゃったけどね』


『そう……良い奥さんだったのね』


『……そうだね……』


 そう言いながら、奴隷の子の髪を撫でると……ゴワッとしていて、きれいに手が滑らない……シャンプーがほしいな……


『なぁ、「シャンプー」……髪を洗うようの石鹸ってないかな?』

『う~ん、あるけど、その子くらい汚いと、どうだろう?この前に行った雑貨屋にあるかも……』

『それじゃぁ、ちょっと行ってくる……様子を見ておいてくれるかい』

『わかったわ。行ってらっしゃい。……タクマ、その前に顔を拭いてから行ったほうが良いわね』


 キョウカに渡された布で顔を拭ってから俺は雑貨屋に向かう……鏡がなくて確認できないのがもどかしいが、かなり泣いていた気がするからぐちゃぐちゃな顔だったんだろう。色々と考え事をしたいのがバレている感じだ……恥ずかしくなってきた。


 雑貨屋に着くとどの商品か分からなかったので店員さんに『髪の毛を洗うもの』と言うと、石鹸のようなもの複数と、クシ、ブラシなど色々と商品を紹介された。なんかペットショップに来た気分になったが、獣人はクシとかちゃんとした物を買ったほうがよいのだろうか? セクティナ達と違って、半分人間みたいに見えたから人間と同じでいいのか? よく分からなかったからとりあえずは石鹸とあまり特別な機能が無さそうなクシだけを買って帰った。


 宿に戻ると、みんな宿に戻っているようだった。気を失っていたチサトも元気に夜ご飯を食べている。俺に気がつくと元気に声をかけてくれる。


『タクマ、おかえり!』

『ただいま。 大丈夫そうだね』

『うん。ごめんね、なんか知らないけど頭が割れるように痛くなって……気がついたらエルドに「お姫様抱っこ」されていたよ』

『なっ! 「お姫様抱っこ」されたかったのか?』

『……修斗もいちいち突っかかってこないでよぉ~』

『ウッ……』


 相変わらずの二人の関係が微笑ましい。俺も食卓に着く。


『あの子は特に問題ないよ。普通に眠っている』

『回復魔法かける。かなり安心。故郷ではかけられなくて死んだ人、沢山』

『そうよね、取り敢えずかけておけば、ちょっとの間は大丈夫な感じね……』

『そう言うものなんだね』


 こちらの世界はかなり回復魔法への信頼度が高い。ってことはかなり万能に回復できるのだろうか? 今の所は医者のようなものをあまり見ないが、回復魔法が担っているのだろうか? ちょっと確かめてみる必要があるな。


 俺は買ってきた雑貨を風呂敷から出し、皆に見せる。


『あら、随分奮発しちゃったわね。この石鹸高いのよ?』

『お~魔獣骨製のクシまである。これウチも使いたいかも』

『元気になったら、色々洗うのをお願いできるかな?』

『もちろん』

『任せて』


『女の子だったんですね、あの子。見た目がボロボロでわかんなかったです』

『あたしも分かんなかったよ……治すのに夢中で。結構危なかったわね』

『今は大丈夫、「スキャン」してみたけど大分良いみたい。二人共ありがとう』


 女将さんが遅れてきた俺の料理を運んできてくれる。


『あなた達、これからのことはちゃんと話し合わなければダメよ。この街には孤児院とか無いんだから』

『え? 無いんですか?』

『ええ、ここはエフルダム王国の最前線基地みたいなものだから、子育てを支援する施設が無いの。預けるならここより2つ王国よりの都市まで移動する必要があるわね』

『ん~ 言葉が難しいけど、孤児院に預けたかったら隣町に行くのね?』

『あ、そうだったわね。そうよ。隣町は普通の街だからね』


 本当に色々と考えなければいけないなぁ……


『で、タクマ、どうするの?』

『とりあえずはあの子が回復する事だけを考えて、しばらくはここで稼ぎながらかなぁ……「託児所」みたいのがあれば良いんだけどね……』


『狐人族の血が混じっていれば、魔力が強いはずだから……狩りに連れて行っても大丈夫かもしれないわよ?』

『そういうものなんですね……あの子、他の獣人と違って人間っぽいですけど、そう言う種族なんですか?』

『いや、獣人と人族が交わって出来たのがあの子みたいな半分人間、半分獣人になるのよ』

『俺の故郷、獣人、半獣人、色々いた。混ざると嫌う人もいる。色々大変』


『……あの子は混ざっていたから売られた? んですかね?』

『それは……良くわからないわね……元気になって、心が落ち着いたら聞いてみましょうか』


 それから俺たちがこれからの事を話し合った。狐人の子の体調が回復してからまた当人交えてよく話そうと言う結論になった。しばらく面倒などは一人が残ってみる感じになり、残り5人で狩りなどに行って稼いでいく話になった。

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