第91話 レスタジン王国の工作員
♣ ♣ ♣
ディネーブ城南西の森の中で5人の人影が高速で移動している。人間とは思えない速度なので魔力を使える人間達なのは間違いがなかった。ただ、ヴァノマーパル人と違う印象を受ける集団だった。顔と頭を目立たない茶色系の布と仮面で覆い表情がわかりにくい服装をしていた。暗殺者集団の様にも見える風体だった。それぞれの背中にはかなり大きめのリュックのような荷物の他に機械の様なものがくくりつけられていた。
その中の小柄な女性と思わしき人物が隣を並走している長身の男性に声をかける。
『ねぇ、ユズィ、こんなことをして、本当に未来は変わるのかな?』
質問を受けたユズィと呼ばれた男性はぶっきらぼうに返事をする。
『変わんじゃねーの? ってか俺は言われことやってるだけだからな……よく知らねーよ』
『何よ! 少しは考えながらやりなさいよ!』
『考えても、どーせ言われたことやるしか無いんだからよ。考えないほーが良いぜ』
『はぁ~ あなたは変わったわね……』
『フン……変わらね~お前が異常なんだよ……』
『異常とは何よ!』
『こら! そこまでにしなさい。辺たりに探索者の気配はないとはいえ静かに行動よ……』
二人の会話に先頭を走っていた人物が色っぽい女性の声で注意をする。
『期日までに帰らないと俺らはドカンなんだからよ、もっと真面目にやれ』
『はぁ……何でこの凸凹カップル連れてきたんですか……シャズイール先生』
並走していた他の二人の男性が先頭を走っていた女性に不満を漏らした。どうやらこの5人は先生一人と生徒4人と言う構成の様だ。
『人手が足りないのは知っているでしょう……このやり方では足りなくなって当たり前でしょうけど……』
『……でしたね……』
『はぁ……』
『ああ、この辺ね……あなた達、手頃な魔獣を引っ張ってきなさい。ここで待っているわ』
先生の指示にやる気がなさそうに生徒たちが返事をする。
『分かりました』
『へいへい……』
女の先生を残して他の4人が辺りを捜索し始める。やがて魔獣を見つけた様で一人が魔獣を攻撃し、先生の元へと魔獣を誘導する。中型の突撃イノシシだった。
『先生ぇ! 連れて来たぜ! っと、早くあれを設置してくださいよ!』
『分かっているわよユズィ。アルヴール、拘束お願いね』
『わかりました!』
シャズイールと呼ばれた女の先生が地面に以前、巨人のロトゥン族が配置していた『穴』の発生装置ににたものを置き魔力を込め始める。引きつけてきた突撃イノシシをアルヴールと呼ばれた小柄な女性が魔法の岩の壁で動きを封じる。封じ込められ暴れる突撃イノシシの下に先程の発生装置を投げ入れ、各々が持っていた地球で言うマスケット銃の様なもので撃ち抜く……辺りに銃声の様なものが響き渡るが、火薬の様な大きな音はしなかったが強い光は発せられていた。マスケット銃の様なものには魔石が仕込まれている様だった。
マスケット銃の様なもので撃ち抜かれた突撃イノシシからは大量の血が発生装置に流れ落ちる。すると突撃イノシシが苦痛の声を上げ絶命した様に見える。しばらくしてから発生装置が光だし装置が爆発し壊れてしまう。そうすると上空に黒い空間の歪みの様なものが発生し出す……『穴』だった。中型の妖魔が出るかでないくらいのサイズの『穴』の大きさだった。
『やはり、魔獣のサイズによって『穴』の大きさが変わる様ね』
『魔力の込め具合は関係無いんですかね?』
『それは教えられていないわ……満タンにすればいいとだけ言われているわ……』
シャズイールと呼ばれた女の先生がマスク越しでも分かるくらいの苦々しい険しい目をしている。本当に嫌々やっている感じだった。
5人組がしばらくその場で魔石製マスケット銃に弾を込め直しながら経過を観察していると、『穴』から仮面をつけた小型の人型の妖魔が数体落ちてくる。ただ、妖魔は地面に落ちてきたらあたりを見回し、そこに5人組がいないかの様にウロウロと歩き出す。驚くことに妖魔は5人組を攻撃しないどころか認識すらしていない様だった。
『『穴』って危険なんですよね……本当は』
『そのはずだわ……私はよく知らないわ……いつもこうだもの……』
『この近くのヴァノマーパルだと、コレを退治するのに大変みてーだが、信じらんねーな?』
『支給されている道具を失くすなと言われていますから……それのどれかが魔除けになっているんですかね?』
『ごめんなさい……分からないわ……頼りにならない先生でごめんなさいね……』
一同に暗い雰囲気が漂う。先生でも知らされていないことが生徒に知らされることは無いのがわかったのと、教えてくれるほどの信頼は無い……もしくは使い捨ていくら位にしか考えられていないのが手に取る様にわかったからだった。
『あとは……5箇所か……はぁ……時間もなんとか間に合いそうね……水場を探して野営の準備をしましょうか。流石に魔力が尽きかかっているわ』
『ですね』
『はーかったるー』
『早く帰りたいな……』
『帰っても良いこと無いだろ……』
『ハハッ!』
5人組の空気は切迫感はあったがやる気などが全く感じられなかった。工作員なのだろうが何か訳ありの様だった。あえて『穴』の近くの水場を探し野営の準備をしている様だった。どうやら先程の突撃イノシシの肉を串に刺して焼いて食べるようだった。
『ああ、逃げてぇなぁ~』
『同意』
『ホントね……』
『なぁ、この呪いって、本当に発動するのか?』
『ええ……それは……見てきたから確かよ……呪いの義務を果たさなければ。絞め殺される様に死んでしまうわ……』
『シャズイール先生……それって脅しとかじゃなくて?』
『ではないわね……話してはいけないことを話した仲間が雑巾のようにねじれて死んでいったわ……』
あまりの表現に生徒全員が絶句し固まってしまう。場の空気が悪すぎるので、ユズィが先生に違う話題を投げかける。
『あ~でも、シャズイール先生がこんなに喋ってくれるなんて嬉しいです。いつもは寡黙なのに』
『さすがにここまでは監視されているとは思えないわ……気配もないし。国でこんな話をしたら懲罰房行きよ?』
『うへ……』
『噂の再教育ってやつですね……』
『はぁ……本当に教義にある『幸福の未来』なんてあるんですかね? 私なんて殺される悪夢しか見ないのに……』
『ああ……あの、例のやつだろ……あれ、俺も見るんだよなぁ』
『んだなぁ~』
『『幸福の未来』の夢を見た人間は……相当昔だったらしいけど……』
アルヴールの夢の話に男たちが話に乗って来るが……また生徒全員がげんなりして沈黙があたりを包む。何を喋っても悪い方向に話が進むような状態の様だった。今度は先生が生徒二人に声をかける。
『ねぇ、あなた達二人は『転生者』なんでしょ? なにか面白いことを話してよ?』
先生の唐突な内容の質問にアルヴールとユズィが驚いた表情をする。
『え?』
『あれ……なんで知ってんだ?』
『生まれた時に変な言葉をしゃべる人間は『転生者』なんですって。あなた達の小さいときから知っているんだから当たり前でしょ。バレると処刑だから村の皆で頑張って隠したものよ』
『そうだぞ。俺らも喋るなって親から言われてたぞ』
『んだなぁ~ なんか小さいときから大人びているからすぐ分かるんだよなァ』
『そうだったのですか……』
『あ~ なんか、ありがとー?』
『転生者』でない3人の期待の目に負けた感じでアルヴールはボソボソと喋りだす。
『あの……面白い話なんでしょうけど……余計に今の状況が辛くなりますよ?』
『あ~ そうだぞ。正直なぁ……ほんとーに夢の様な話になっちまうぞ?』
隣同士にいたユズィとアルヴールは顔を見合わせて同意をする。
『それでも良いから聞きたいわ。もしかしたら死んでからそっちに行けるかもしれないでしょう?』
『俺も聞きたいわ、失敗したらもう話聞けないしな』
『んだなぁ~』
『いいのかなぁ?』
『いいんじゃね?話そうよ。せっかっくだし』
アルヴールとユズィは二人で見つめ合った後、微笑みながら面白おかしく転生する前の話をしだす。現在のレスタジン王国に無い、自由で物に溢れ、娯楽に満ちた楽しい世界のことを……
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