第60話 探索者試験対策


『みんな、行くわよ。日暮れ前までには着きたいから……急ぐわよ』

『それでは行ってくる。また異世界の話を聞かせてくれると大変うれしい』

『ああ、帰ってきたらいくらでも聞いてくれ。気をつけて』


『チサト~あたい寂しぃ~早く帰ってくるね!』

『お~気をつけてね!』


 『風の双剣』の面々は一昨日の『穴』の調査も含め、10日ほどの予定でとなり村と言うより砦? 小規模な砦をベースに調査活動をするらしい。これだけ『穴』が頻発することは『災厄』中じゃないと珍しいらしいので、どこかに魔石核が発生しシュウトくんの言うところの「ダンジョン」が発生した可能性があるとのことだった。

 「ダンジョン」とは言っても大体地表や天然洞窟にある場合が多いので、ファンタジー物語の様に、迷宮だったり塔だったり人工物の中にある事はほぼ無いそうだ。俺はやや理解しきれなかったが、相変わらずシュウトくんが水を得た魚のように熱く語ってくれた。


 セクティナ達にも昨日の晩餐で探索者試験を受けることを伝えたが、あなた達ならまず大丈夫と太鼓判を押されてしまった。地道に頑張ればなんとかなると言う事だろう。




 それからは探索者試験に備えての授業と訓練、筆記試験の勉強……と休む暇がないくらいだった。筆記試験に関しては日本人3人組でテストの対策の様に要点をまとめて全員で知識を共有して行く。日本で受けるテストよりはるかに簡単なのでまとめるのも非常に楽だ……が、エルドとキョウカの目が若干死んでいる気がするが……多分大丈夫だろう。



 そんな感じであっという間に5日が経ち週末の休みになる……いや、その前の晩の話だった。



『う、ウチもう嫌だ! 暴れたい! 明日は狩りに行こう! ほら! ミィナスのためにも大規模な狩りを……』

『お、俺も……休み……一日でいいから欲しい……』

『う~ん。試験はもう4日後なんだけど……』


 俺は少し考えてしまう。エルドとキョウカが筆記試験をパスすれば簡単に他の試験も通れる気がするのだ。ここは心を鬼にしてスパル……


『タクマ……明日は狩りにしましょう。心が疲れていては試験も上手く行かないわ』

『そうよ。ちょっと見ていて可愛そうになってきたわ! ちょっとは加減しましょうよ!』


『タクマさん……僕たちは合格ラインを聞いていないので……今の感じだと100点満点目指している感じなんですが……そこまでしなくても大丈夫かと思います』

『う~ん。 でもミィナスも完璧に出来るようになってるし……』


『その子は特別よ。頭のいい子とウチを一緒にしないで!』

『ミィナス……ものすごく頭がいい……俺そこまで良くない……』

『う~ん。でも、諦めたらそこで負けって言うしなぁ……』


 ミィナスが俺の服の裾を引っ張って俺に言う。


『タクマ、いじめるのは良くない。』

『……わかった。明日は狩りにしよう』


『クッ……ミィナスには甘いのね……その甘さを少しウチにも……』

『ミィナス……ありがとう……』


『ど、どういたしまして?』


 思わぬ感謝にミィナスがたじろぐ。これは彼らを攻め過ぎだったんだろうか……?


『う~む。やる時は徹底的にやる!手を抜かない!と言う教えはあまり良くない気がしてきたよ……』

『それは誰の教えですか?』

『妻の教えだ……なんだかんだで俺を追い詰めて結果を出させてくれたからな……』

『……優しいだけの奥さんじゃなかったんですね』

『……そう言えばそうだな……』





『うぉりゃぁ!!』


ドコッ!!


 キョウカの強烈な一撃が突撃イノシシの側頭部に決まる。キョウカの希望で今回は仲間の援護は一切無しで一人でやらせて欲しいとのことで……その結果が今だった。


『いやぁ~ 狩りはいいねぇ。うん。とても良い』


『凄い! キョウカ強い! かっこいい!』

『完全に「ストレス」発散してますね……』

『まぁ、あれだ。命を無駄にしていないから良いんじゃないか……良いのか?』


 休日初日は仲間全員で狩りをしていた。もちろん探索者試験対策ではあるがキョウカはやる必要がないくらいだ。


 森に入る前に狩りの天才のヴィナルカから索敵の上手な魔力の使い方を教えてもらったので順調に魔獣を探すことが出来ていた。シュウトくんが魔力を音波に見立てて飛ばして反射を感じ取っているソナーじゃないか? って閃いたお陰で必殺の図解で仲間全員でイメージの共有が出来た。ヴィナルカからは相手が敏感な魔力の使い手だと探知を使ったのがばれるから注意してねとの忠告は既に貰っていた。


 俺とシュウトくん、チサト、ミィナスは探知魔法を使った後に突撃イノシシを発見し、魔力が届く範囲に気付かれないように接近、獲物の足付近に土穴の魔法でいきなり穴を出して足止めした後に風の槍で胸辺り貫くと言う一人連携を実践していた。

 狩るだけなら上手くいくのだが、問題は土穴に巨大イノシシがハマった瞬間にかなり暴れるので風の槍が頭に当たったり思いもよらぬ場所に当たり商品価値を落とす事だった。


『う~ん。エルドに抑えてもらってから槍で刺したほうが効率的だなぁ……』

『そうですね。試験用に個人が出来る狩りを「テーマ」に練習していますから仕方がないかと』


『ん~ 風の刃がもう少し切れ味良くて遠距離まで飛べば良いんですが……』

『漫画みたいにスパッと行かなかったもんね……』


 この世界の風の魔法だと刃状にするとかなり近距離までしか刃物で切ったようにならずにすぐにかき消えてしまっていた。槍みたいに魔力と精霊力を一点集中してやっとまともな威力で飛ぶ……と言った感じだった。

 魔力は体から離れれば離れただけ威力が減衰しやすい。魔力をまとめないと遠くまで飛ばない……やっぱり電気みたいだな……



 あまり放出系の魔法が得意でないエルドは雑貨屋で買ってきた魔獣の骨を槍の穂先にしたかなり大きめの槍を用意していた。


『エルド、一体どうやって狩るんだ?』

『俺、弓も苦手、魔法も苦手。魔力強化はとても得意。やることは投げるだけ』

『タクマさん、見ててくださいよ。多分上手くいきます』


 エルドが体全体と槍の穂先に魔力を込め始める。かなりの量だ……そのままものすごい勢いで槍を投げる。あれ? 獲物はどこ? そんな事を考えていると遠くの方で叫び声と着弾した音が聞こえる。


『シュウト、上手く行った。ありがとう……ちょっと威力ありすぎると思う』

『やはり、魔獣の骨に魔力でしたね。セクティナ達の話を聞いていてピンときたんです。獲物の魔力感知外からの物理攻撃……しびれますね!』



『あなた達、かなり無理をするわね……』


 ヴィナルカがエルドの投擲した槍の着弾地をみて思わず呟く。頭が爆散気味になっていたので明らかな過剰威力だな……これが戦争とかだったら恐ろしい……


『う~ん。これだったらエルドの体にあった長距離からの大きな弓を使ったほうが良さそうな気がするんだが?』

『ウチもそう思う。戦争だったら良いけど、これじゃせっかくの獲物がぐちゃぐちゃだ』

『弓なら私が教えるから、早く覚えましょう……これは戦に使う技術だと思うわ』


『わ、分かった……苦手だけど頑張る……』


『「バリスタ」とか無いですかね……エルドなら持ち運べそうな……』

『「バリスタ」とはなんですか?』


 ミィナスがきれいな発音で俺たちに訪ねる。


『ああ、ええっと機械の弓の事なんだけど……』

『弩のことね。それなら……確かにエルドなら大型のものを使えば良いかも知れないわね』

『後で専門店に寄ってみましょう。場合によっては兵舎に行ったほうが早いかも知れないわね』


 昔、妻と小さなクロスボウなら作ったことあったな……こちらの世界にもあるのか。是非とも見てみたいものだ。



 色々と狩りの練習や魔法の練習などをしていると早いものでもう少しで夕暮れ時となっていた。さぁ、帰ろうかと声をかけようとすると、なぜか仲間たちがソワソワとしだす。


『みんなどうしたんだ?』


『あ、えっと、なんと言うか……』

『ええ、何も起きないわね……』

『こんな日もあるんだねぇ』

『あれですよ。平和だなぁ……と』


 何が言いたいか良くわからないのでみんなを見ているとミィナスと目が合う。


『はい、このチームにいるといろいろなことに巻き込まれると皆さん言っていました』

『ああ……確かに練習する度になにかに襲われたりアクシデント起きているね……』


 たまには平和な日があって良いと思うんだけど……


 それから俺たちは何事もなく街に帰り、突撃イノシシ7頭を売って受付の人たちにびっくりされた後、各々、試験に必要なものの買い出しをする。エルド、キョウカに関しては防具を一新するそうだ。最前線で戦うから装備はしっかりとしないとダメだものな……シュウトくんもなにか考えがあるようでエルドの買い物について行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る