第111話 禁忌の地下神殿 中


『こんなもんでどうじゃ?』

『おそらく扉は大丈夫じゃろう?』


 ドヴェルグ族の鉱夫が崩れた岩を扉に当たらないように上手に撤去してくれる。まだ完全ではないが巨人族もすんなりと通れる位の広さは確保できていた。


『じゃぁ、開けるね!』

『全員、妖魔に注意! 動きが遅くても油断をするなよ!』


 俺はいきなりドアを開けようとしたチサトにびっくりして全員に注意を喚起する。一応、死人の知識はすでにここにいる仲間に連絡してあるが……ドアのまわりの岩をどけて一安心の空気が流れていたので、みんなが慌てて武器を構え、敵が来る事を想定して陣形を組み直す。


『目的はキョウカとヴォルスの救出です! 空の魔石や装備の回収はあとにしてくださいね!』


『おう!』

『え?』

『お宝?』


『目標は天井に開いた穴の直下! 良いですね!』

『お、おう?』

『おう!』


 ゴゴゴゴ……


 なんとなく場が混乱している最中にドアが開いていく。工場の鋼鉄製の重いドアが開くような鈍い音が響き渡る……


 魔石灯で前方を照らすと、音に惹きつけられて寄ってきた死人達がわらわらと群がってくる……がそこまでの驚異には思えなかった。先陣を切ってくれるドヴェルグ族の戦士たちが近づいてくる死人達を片っ端から吹き飛ばしとどめを刺しながら進軍する。


 俺たちも続いて扉をくぐりあたりを見回すと、そこには半球状の百メートルの高さのドームにある近代的な都市が広がっていた。二人が落ちた地面の穴が遥か上にぽつんと見えるくらいだった。穴からは光の筋が漏れ出し幻想的な光景を醸し出していた。


『広いですね……』

『予想以上だねぇ……』


 俺とミィナスは思わず上を見てポカーンとしてしまう。


『あなた達は後ろに下がっていたほうが良いと思うのだけれども……』

『俺もそう思う……心配なのはわかる。だけど今のタクマとミィナスかなり危険』


『戦闘には参加しないよ、危なかったら入ってきた扉に全力で逃げるよ』

『タクマ、下がりましょう、エルドより前に出ては駄目です』


 俺はミィナスに引っ張られて軍勢の最後尾辺りに移動させられてしまう。エルドとヴィナルカが心配して一緒に下がってきてくれる。



 軍勢の先頭では死人達との戦闘が起きている様で、武器や魔法の音が聞こえるが、総勢100人以上にも膨れ上がった最後尾ともなると前で何をやっているかが正直わかりにくかった。



◆  ◆  ◆


「ゾンビ? ミイラ? なんか……弱ぇ……阿修羅つよすぎだったんだな……」

「なんかちょっと可愛そうですね……明らかに栄養分不足……」

「やっぱりそう思いますよね……あれ『死人』って言うんだって」

「マシンガンとか欲しいぜ、あとグレネードとかあったらなぁ」

「わかります……とてもわかります……」


「お? やってたクチかい?」

「そうですね、割とスキな方です」

「私もお兄ちゃんやってるのよく見てたなぁ……」

「火をつけたら燃えちまいそうだなぁ……」


 修斗とアルヴール、ユズィのテンセイシャ達は前方で行われている戦闘に参加しないで見守りながら感想を言い合っていた。ドヴェルグ族の怪力と死人の遅さと脆さが相まって一方的な狩りになっていた。たまに軍隊の横からはぐれた死人が襲ってきたりしていたが全員がそれなりに警戒をしているので難なく打ち払いながら進軍をしていた。


『巨大型出現! 死人タイプです!』

『試しに火の魔法使います!』


 魔術師軍団が火の魔法を一斉に巨大型に放つと身体に燃え移り、予想通りに枯れ木が燃えるように火が広がっていく。


ギィィィィィィヤァァア!!!


 巨大型死人妖魔が痛みのせいか悲鳴の様な声を発する。魔術師軍団もかなり気持ち悪い様で、なんかいたたまれない気分になってしまった様で口々に気持ち悪いだの、可愛そうだの……いろいろな意見が飛び交っていた。


『妖魔ながら不憫じゃのう……』


 燃えている巨大型死人を見たドヴェルグ王がボソッと呟いた後に飛びかかり、巨大な戦斧で首と胴を綺麗に切り飛ばす。切り離された巨大型死人は黒い煙となり空の巨大な魔石を残し消え去っていく。


『王様強かったのね!』

『む、むぅ。ありがとうございます?せい……チサト』


 それからも散発的に死人が襲ってくるが、大小かかわらずに簡単に迎撃をしていく。相当数の死人がこの地下都市の遺跡にいるようだった。


『敵がうまくバラけているようですね』

『そうですな。おそらくヴォルス殿とキョウカ殿が散らしてくれているのでしょう』


 修斗の問いかけに戦士長のブレズーグが答える。修斗はなるほどと納得の表情になった。


♠  ♠  ♠


 暗がりの中の大きな正体不明の施設の屋根……いや、屋上と言ったほうが正しいと思われる場所に登ったヴォルスとキョウカは下の様子を見ながら小さな声で呟く様に話していた。


『派手にやっているな……』

『そうね……あまり陽動した意味がなかったかな?』

『そんな事もあるまい……こう俯瞰で見ると我々だけでかなり倒していたようだな……』


『そうだね……あ、ごめんね……ウチやっと気がついたけど、迎撃しないで屋根にいればよかったんだね……』


 キョウカがシュンとなった感じで口調に元気がなくなる。


『私も色々と知らなかったんだ……しょうがあるまい……』

『怒ってたくせに……』

『あ、いや、それは……なんと言うか……私も人間だ……もう良い』

『……ありがとう……ん?』


 なんとなく二人は見つめ合ってしまうが、キョウカとヴォルスが異変に気が付き身を乗り出してあたりを見回して戦況を確認する。


『あれは……倒したのではなかったのか?』

『えっ? ……さっきの触手が死人化したものかもね……なんか細い……下に……この建物のの中にいる感じだね……』

『! ここは危ないな……逃げるぞ!』

『了解!』


 ヴォルスとキョウカが跳躍して違う建物に飛び移ると同時に、正体不明の施設の窓や扉を蹴破るように派手な音を出しながら触手が飛び出てくる。それから巨大触手型死人の触手らしきものが何かを探すかのように辺りに触手を這わせていくが、如何せん動きがおそすぎて何も触ることが出来なかった。


『気持ち悪い……』

『早めに合流するぞ!』


 ヴォルスとキョウカは道中にいる敵をなぎ倒しながら救援部隊の方へ疾走していった。


◆  ◆  ◆


『なんか嫌な空気ね……こっちかしら?』

『ええ……そうね、おかしな雰囲気を感じるわね……』

『魔力を吸っている? 流れている? 変な感じね』

『そうね……まるで魔力を吸い寄せて何かを生み出している感じかしらね……』


 チサトとヴィナルカが右方向の大きな建物を気にしている様だった。近代的な感じがするがどことなくレトロな雰囲気をもつこの地下都市においても異質な感じのする建物だった。

 俺も同じ様に見ているが、光が届ききっておらず薄暗いため詳細がわからなかった。


『なんか……泣いている感じね……』

『そうね……悲しい感じ……不思議な感じね……』


 チサトとヴィナルカが呟くように話をしていると……


 ドォン!!!


 異質な感じのする建物から突然破壊するような音が鳴り響き、触手のようなものが至るところから突き出してくる。その場にいたほぼ全員が何事かと振り返ってしまう。


『ヴォルスとキョウカが右方向から来ます!』


 俺は巨大触手型の死人の出現に驚いていて気が付かなかったが、ミィナスが二人に気がついた様で知らせてくれる。これで……どう立ち回れば良いんだこれ?



『すまない!』

『ありがとう! 助かったよ!』


 ヴォルスとキョウカがすごい勢いで走ってきて俺たちの軍勢に合流する。


『ヴィナルカ! 大規模氷魔法は行ける?』

『大丈夫よ、少し時間をちょうだい』


 俺たちのやり取りを聞いていた各リーダーが部隊にそれぞれ号令をかけ、巨大触手型の死人の迎撃体制に移る。

 が、巨大触手型の死人は途中で建物に引っかかったのか、こちらまで触手を伸ばすことが出来ずに途中で止まってしまった。


 俺たちがあっけにとられていると、となりにいたチサトとヴィナルカも違うことで混乱している感じだった。


『えっ?』

『……どういうことかしらね……これは……』


 二人の様子がおかしかったのでミィナスが二人に質問をする。


『どうしたのですか? なにか違うことでも?』

『う、うん……よくわからないんだけど『殺してくれ……助けてくれって……』』

『そうね……こんな事……妖魔の意思? しゃべる……のかしら? 初めてのことだわ……』

『あの大きな建物の方向かな……』

『そうね……』


 二人はなぜか分かり合っている感じだったが、周りにいる人間は誰も理解できていない感じだった。不安そうな顔でミィナスが俺に話しかけてくる。


『わたしは聞こえないのですが……』

『俺もだ……神託系なのか?』


 先頭にいたラレスが触手の先を剣で払うと、砂のように崩れていってしまう。それを見ていた者たちからどよめきが起こる。



『チサト、ヴィナルカ、俺たちはどうすればいい?』


 チサトは少し考えた後に言いにくそうな感じで返答をする。


『……多分……行かないと駄目な気がするの……みんなには悪いけど……』

『……そうね、もしもの時は私が凍らせるから大丈夫よ。私も何があるか見る必要がある気がするわ』


 ヴィナルカもチサトの意見に同意をする。俺は部隊全体を見渡したが、何故か反対意見が出ることもなく、目的が異質な建物方向への調査へと切り替わっていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る