第112話 禁忌の地下神殿 後


 俺たちは特に苦労することもなく異質な巨大な建物の前に来ていた。部隊も特に被害もなく少数の死人がたまに襲ってくるくらいで簡単にはねのけて進軍してこれた感じだ。


『ここよね?』

『うん、前もこんな感じだったよね? 千里やってみて』


 チサトが入り口の扉脇のコントロールパネルの様なところに神聖な感じの魔力を流すと建物の扉が開いていき……建物の中の照明が徐々に着いていく。大規模な照明にびっくりした人が殆どで部隊全体がどよめきに包まれる。


『特に死人の気配はないわね……あるのは……正面にある嫌な感じ……『穴』かしらね…』


 ヴィナルカは色々と感じられる様で未知の領域に何があるかを教えてくれた。それを聞いた部隊リーダー達が部下全員に注意を喚起する。兎人族のレスターとシュウトくんを先頭にして探索を開始する。

 部隊の殆どの者がこの近代的な設備に慣れていないせいで、挙動不審な感じで進軍していくことになった。転生者のアルヴールとユズィくらいだな、いつもと変わらないのは……やはりあちらの世界を知っていると状況がわかりやすいのだろう。


 全員が過度の緊張に包まれ、終始無言で進軍が続く。やがて前方に機械音のようなものが聞こえてくる。シュウトくんとレスターがチサト達に無言で方向を確認する。チサトとヴィナルカが無言でうなずくので、部隊はそのまま機械音の方へと進軍を続ける。


 やがて部隊が巨大な扉の前にたどり着く。かなり大きな音がしているのに死人はいなかった。どうやらここら辺には死人はいない感じだな……だが変な気配はするんだよな……



 シュウトくんがドアの脇のガラス窓の様なところから中を覗く。左右を見渡すと何個か割れたガラス窓があった。あそこから巨大触手型の触手が出てきたのだろうか?


『え……』


 シュウトくんが驚きの表情の後、もう一度中を覗く。どう伝えれば良いのかわからないらしく狼狽し始め……俺やヴォルスに助けを求める感じだった。全員に緊張が走り武器を構え直す。


 俺はとりあえず部隊をかき分けて前の方まで移動し、シュウトくんの覗いた窓を恐る恐る覗いてみる。


『……え……』


 シュウトくんと全く同じ反応をしてしまう……


そこには巨大型妖魔……だった巨大型死人が吊られていた……よく見ると奥にも数体吊られている感じだ……ただ、どの死人も拘束具のようなものがつけられていたり、巨大な杭のようなもので打ち付けられていたり……まるで巨大な昆虫の標本の様になっていた。

 機械音のがする箱に……上の方から……妖魔のようなものがたまに降ってくる。降ってくると自動的に箱の中に入り……黒い煙と化して魔石となって底の方に落ちていく。何となく何をやっているかが分かったが……何ともいたたまれない気になってしまった。

 若干考える時間が必要だったが何気なしにその周りも観察をしていると何箇所か機械の箱が壊れているのか止まっており、そこの周辺の壁は壊されていたりして横穴が開いているのでそこから妖魔が外に飛び出して……死人と化したのだろうか?



 俺たちの行動を不思議に思ったのかチサトとヴィナルカも脇にある窓から中を覗く……


『……彼らから発せられているわね……やっぱり』

『そうね……これは……妖魔だけど、これはやっちゃいけない事な気がする』


『そうですね……上に『穴』が……4つありますね……』


 シュウトくんが妖魔が降ってくる上の方を覗き込み『穴』を確認していた。これってなんのために……こんな残酷なことをしているのだろうか?


『前に僕が冗談で言っていた、魔石生産工場ですね……ここ』

『なるほど……上の『穴』で妖魔を発生させ……下の機械で倒す……言っていて嫌な気分になるね……』

『ええ……現実にあるのを見ると……ちょっと嫌な気分になるものですね……』


 シュウトくんの言うことはわかるけど……ものすごく嫌な気分になる装置だな、これ……異世界人たちは状況がさっぱり理解できない様で顔をしかめるだけだった。一方、理解できている転生者二人も複雑な表情をしていた。


『「トラップ」……現実にあると嫌なものですね……』

『んだな……なんか命を……雑ってか……これはおかしいな……妖魔……敵だけどサァ……』

『そうだね……こんな事をやってるから……神様が哀れな妖魔を見て……チサト様を遣わしたのかもね……』




『ごめん、みんな、魔石をこれからも沢山貰えそうだけど……これは嫌。止めるね』


 チサトはそう言い放つと、魔力で鍵を開けてドアを開けて中に入っていってしまう。慌ててドヴェルグ王やエルドが護衛のためについていく。


 ただ、中に入るとその光景に中を覗いていなかった全員が驚き立ち尽くしてしまう。仲間たちの様子を気に留める事もなくチサトがかなり強い神聖な魔力を身にまとっていく……


『多分出来ると思う……これは……嫌だ……』


 チサトは神聖な魔力をためて『穴』めがけて放つと神々しい光りに包まれた『穴』が消失していく。どうやら『神聖球』が無くてもチサトの力で消し去ることが出来るようだった。それからその巨大な部屋にあった『穴』をチサトが順次消していく。

 感嘆の声が上がりそうな聖女的な行為だったが、全員がその場の雰囲気にのまれてうまく反応できないようだった。


 巨大な死人の惨状に憐れみを感じたのか魔術師や騎士、ドヴェルク王国人たちは、吊るされた巨大死人達に魔法や槍に魔力を込めて投げはなったりして止めを刺していく。中心にいた巨大触手型の死人がまだ動けそうなのに抵抗すること無く攻撃を受け入れている。彼が俺たちに知らせてくれた妖魔だろうか……全員がやるせない表情をしていた。普段は怒りをぶつけて容赦の必要がない相手なのに不思議な感じだった。



『終わったわ……』

『お疲れ様、千里』

『うん……この都市は……欲をかいて滅んだのかな?』

『そんな感じだね……また頭痛がするんだね?』

『倒れれたいくらい痛いけど……慣れてきたよ……』

『僕が変わってあげられれば良いんだけど……』


 チサトとシュウトくんが寄り添い、しんみりとした感じの会話をしている。そこにいた者たちの緊張がきれたのか、口々にこの魔石生産工場の感想を言ったり考察などをしていた。



『これが禁忌の理由じゃったのか……』

『ですな……溢れ出た妖魔に蓋をするために扉を封印……したみたいですなぁ……』

『こんな立派な都市を放棄するくらい酷かったんじゃな』


 ドヴェルク族の王と司祭がやや呆然とした感じで脱力した雰囲気になっていた。



 俺はヴィナルカに問いかける。


『悲しい声は無くなった?』

『ええ……ありがとう……って言われてしまったわ……妖魔にも……意思があるのね……』

『妖魔って、なんなんでしょうね?』


 ミィナスが疑問を口にするが、その場にいる誰もその問いに答えることが出来なかった。

 




『では、皆のもの、今日は撤収じゃ。流石に疲れておろう。最後は変な気分になってしまったが、勝利は勝利じゃ。戻って祝杯をあげよう! あれ程の妖魔と戦いながら……被害がゼロじゃ!』


『……オーッ!』

『……』


 作戦に参加した人間は、最後に見たあの光景が忘れられずにあまり勝った気分にならなかった様だ。それから俺たちはなんだかんだで魔石や死人がつけていた装備などを回収しながら入ってきた扉の方へと戻っていった。



 禁忌の扉をくぐり全員が地下都市から脱出したところでドヴェルク王がチサトに話しかける。


『チサト、扉は一応閉めておきたいのじゃが……』

『あ、魔力を通せば開け締めできるわよ?』

『ほんとか? ワシが試してようかの……』


 ドヴェルグ王がコントロールパネルに魔力を流すと扉が徐々に閉まっていく……


『ふぅ……思ったより魔力が必要じゃの……チサトの魔力はどうなっておるんだろうか?』

『うーん、わからない。なんかこんなもんじゃないと、神様もどきが言っていたわ』

『……すまないが、後で詳しく……』

『……神様もどき……おお、何という事を……』


 隣で話を聞いていた司祭がめまいがしたらしく倒れ込んでしまいそうになるのをドヴェルク王が倒れないように抱える。俺たちの中では当たり前に聞いている神様への不敬だが、信心深い司祭様などが聞けばこんな感じになってしまうんだな……




 それからは王国の広場に戻ると、祝杯をあげる会場の準備をしようとしてくれていたが、空模様も雨になる感じだったので、作戦に参加した人が満場一致で今日はすぐに寝たいと言うことになった。ドヴェルグ王は翌日に祝宴を設蹴るからゆっくり休んでくれとのお達しがあった。


 今日は恐ろしく疲れた……魔力も体力も精神も削られた一日だったな……


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