第10話 魔力の覚醒を試してみる

 夢を見ていた。

 

 夢ではなくて過去を思い出しているだけかもしれない。インドア派っぽい雰囲気なのにアウトドアが大好きな妻に連れられて渓谷にキャンプに来ていた時の記憶だ……釣った魚をさばいて楽しそうに焼いたりしていた……今度は鳥をさばいてみたいなんて言われて戸惑ってた時の記憶だ……あの後本当に鶏をさばく教室とかに体験をしに行ったっけ……昨日のイノシシの解体を見たからこの夢をみているのだろうか……




「……夢か……」


 3日目の朝が来た。今日もいい天気だ、そしてハンモックと虫よけの香のおかげで快眠してしまった……よほど体が疲れていたのだろう。起きるたびに今が夢じゃないと軽く落胆する。帰れる方法があるんだろうか……


「おはよう」

「おはようございます!」

「……おはよう……」

『「おはよう?」あいさつかしら? みんなぐっすり寝てたわね』

『おはよう』

「ああ、それが朝の挨拶ね! 『おはよう!』」


 ほんとチサトさんの順応性が高い。この状況下だと彼女を見習わなければいけないな。


『お、みんな起きたー? 朝ごはん作ったよ!』

『アル、いつもありがとう。あ、でもあれよ、今日はまたここに泊まるよ、材料を使いすぎないでね』


『え? なんで?』

『ホムと話をしたんだけど、ここらへんは危険地帯だからせめて最低限の魔力を使えるようにしてから下りた方が良いんじゃないかって話になったの』

『あ~そうだね~ここらは魔力使えないとキビシーね~』

『問題は意思疎通がうまくいくかだけど頑張るしかないな……こんな素敵な研究対象に死なれては困る』


「ダメだなやっぱり何言ってるか全然わからないっすね」

「そうだね、さすがに1日じゃ駄目だね……3ヶ月はかかるんだろうか。よくそう聞くし」

「ん~慣れてきたら日本語禁止にしよっかぁ?」

「うへ……」

「そうだね……そこまでやらないとダメだろうな……」


 6人でゾロソロと山小屋を下りて、かまどの周りにみんなが集まる。猫人のアルミスが簡易的な葉のお皿にパン? ナン? の様な小麦粉が原料っぽいものを乗せて配ってくれる。ほんとありがたい……とてもいい匂いだ。


「いただきます」

『女神の祝福に感謝します』


 お互い食べる前の挨拶をしてモクモクと食べる。本当にうまい……ほとんど塩味のナンだな……


『タクマ、シュウト、チサト』

「え? なぁに?」

『ここ まほう おぼえる』

「なんだろ? わからない……」


 そうするとホムが指の先に光のようなものを発する。ペンライトみたいだな。思わず、ボーッと見てしまい感心してしまう。ホムが光った指で俺たちのことを指差す。


『これ、きみたち。覚える』


「もしかして……? 魔法を俺たちがおぼえるのかな?」

「ほ、ほんとですか!!! すげぇ!!!」


『え、なんか伝わったかな? ものすごい嬉しそうな』

『だ、大丈夫そうね、魔法に忌避感がなさそうで』


 俺も頑張って片言で質問してみる。


『キケン ケモノ ツヨイ?』

『そのとおり!』


 ホムがものすごく嬉しそうに俺の背中をバンバン叩いてくる。ああ、意思疎通出来るだけで嬉しいなやっぱ。


 それからはホムが頑張って簡単な向こうの言葉でジェスチャーを交えて話し、俺が絵を地面に描いて確認。チサトさんが片言で質問したりしてなんとなく流れがわかった。


 要するに体になんかを循環させるらしい……がちょっとわからないなこれだと。何を流すのこれ?


「じゃあ、わたしやってみるね! えっと『わたし やる!』」


 チサトさんが座禅を組んで瞑想をするポーズをする。あれでいいのか?

 ホムがフムとうなずいた後、チサトさんの背中辺りに何かをし始める。


「え、温かい……なにこれ?」

『喋るでない、集中だ』

『しゅーちゅーね』

 

 チサトさんが再び目を閉じて……なんかやってるのは分かるけど傍から見たらわからないな……


『ほぅ、すごいものだな……』

『すごいわね……』

『チサトすごい!』


 チサトさんの雰囲気がなんか説明できないけど変わった気がする。この雰囲気が魔力なのかな?


「凄い、コレが魔力なのね?」

『魔力 動かす 練習』

「おお! 動く動く! おもしろい!」


『……まじかよ、最初からここまでコントロール出来るのか……』

『イメージ力が高いのかしらね。やはり知的な感じがするからそのせいかしら?』

『チサト、目、魔力、動かす』

『ん? あたい やる?』


「おお! なんか色々見える!」

「え? なにがみえるの?」

「人からゆらゆらと、湯気? オーラかな? なんか色々と流れが見える。凄いよコレ」


『……出来たみたいだな……恐ろしい才能だ』

『……わたし……そこまで出来るのに3ヶ月かかったんだけど……』

『チサトセンス良いね!』


「面白そう……次やります!」


 次はシュウトくんも同じ様にやってみる。座禅を組んでホムに魔力を流してもらっている? のかな?


「温かい……コレを動かすんだな……」


『動かないね』

『やはりチサトが特別だったのか』

『でも、魔力の維持デキテルネー』

『確かに、それだけでも凄いわ』


「う、うーん、なんか変わらないような?」

「あたし、修斗の魔力の流れが見えるよ。なんかその温かいのを血管に流すイメージで回したら回ったよ」

「血管……リンパ腺とかか……あ、なんか動いた」


『おお、動かせてるな。ちょっとやればうまくいきそうだ』


 

 次は俺か……なんかドキドキしてきたな。座禅を組んで。ホムが魔力を背中から操作する。


 ああ、やはりこの温かいのが魔力か……気功みたいだな……血管……そう言えば妻が一時気功にハマってたな……ツボとか経絡とかなんかやってたな……俺は魔力を試しに移動させてみる。あ、なんか簡単にできるな……やはり経絡とかその辺が関係あるんだろうか?


『ものすごいね……よどみなく動いている』

『やはりテンセイシャなんだろうか……』

「タクマさん凄い、自由自在に動いてる!」

『タクマお師匠様みたいだ』


「ええ? 僕も見てみたい、目に移動、目に移動……」

「俺も目に移動させてみる……」


 本当にオーラの様なものが見える様になった。コレが魔力の世界か……コレを相手が使ってきたら……森でもすぐに見つかってしまうな……早めに覚えさせたかったわけだ。相手がコレを使えてこっちが使えない状況……暗闇の戦いで暗視スコープ有りと無しくらいの差があるな。最初から彼らが俺たちを警戒しなかったわけだ……魔力がなければ戦えない世界なんだな、ここ。


 あれ? チサトさんだけ魔力の質と言うか量も多いな、あとは大体似た感じだ。どう言う基準なんだろう?


『こんなに順調に行くとは思わなかったよ……』

『言葉を覚えてきたら、彼らのやり方教わったほうが良さそうね』

『ああ、おそらく何かしらのイメージの仕方があるんだろう、シュウトは最初うまく行かなかったが、チサトのアドバイスで上手く行くように見えたな』



 俺たち3人は面白くなって体中に魔力を移動させて遊んでいた。体の中で水をポンプで送る感じだ。あれ? コレはもしかして気と言うやつなのでは? 面白いがさっぱり彼らの言っている言葉が理解できなかった。早く言葉を覚えたいな……

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