第11話 魔力の実践トレーニング

『さて、まさか魔力移動までうまくいくとは思ってなかったからどうしたものか……』

『魔力を体にまとえさえすれば即死はしないものね』

『もう、身体強化まで教えちゃう?』

『ん~彼らが覚えたら私達を襲う……とはとても思えないわね、良いんじゃないかしら?』

『それでは、身体強化も教えてしまおう』


 狩人3人がなにか話し込んでいる様だが……俺は魔力の移動だけで面白くて夢中になって遊んでいた。未知の体験だ。体を熱が移動するだけで面白い。目にためたり、指にためたり色々やってみた。試しに石を拾って魔力をためた腕で石を投げてみる……想像したとおりものすごいスピードで石が飛んでいく。


 昨日、犬人のセクティナが巨大イノシシをものすごいスピードで切り裂いたのはコレを使ったんだろう。それじゃないと、あの細い体でであの巨大なイノシシの首を一撃で綺麗にスッパリとはねることはできないだろう。


「おお、タクマさん、それすごいですね。僕もやってみよう」

「あ! あたしもやる!」


 3人で突然石の投げあい競争になってしまった。面白いように石が飛んでいく……この世界すごいぞ!


「体の動きと魔力の移動を合わせるのが難しいですね」

「そうねータイミング合わせないと、ヒュン! っていかないね!」

「君たち簡単にやるなぁ……」

「あれっすよ、念のコントロールですよ。念の」

「ああ、あの漫画か……」


 二人がものすごい勢いでうまくコントロールし始めている。いくら普段筋トレをして体型を維持していても、物を投げたりするのは久々でうまく体をコントロール出来なかった。そんな状態で念? 気? 魔力? のコントロール? それを合わせるのはなお難しかった。



『……なんか、教える前に色々やってしまっているぞ』

『わお! なんか使いこなしてる!』

『おどろきね……魔力と体の動きを一致させるのにかなり苦労するものなのに』

『魔法はイメージ力と良く言うが、今まさに実感しているな…コレなら明日にでも山を降りても良いかもしれないな』


『肝心の防御と逃げ方教えないと駄目なんじゃないの?』

『逃げるが勝ちだもんね!』

『そうだな、さっさと教えてしまおう』




 なにか思い悩みながらホムが俺らに近づいてくる。手には昨日狩った巨大イノシシの角を持っている。


『タクマ、シュウト、チサト! 見て!』


「お? なんかやるのかな?」


『目 魔力 移動』


 俺たち3人は魔力を目に移動させてみる。それを確認したホムが牙を木に突き立てる。が、普通に弾かれる。


「あれ? あの牙すごかったですよね?」

「巨大イノシシがすごかっただけじゃない?」

「……もしかして……」


 ホムが牙に魔力を流し始め、そのまま牙を木に突き立てると見事に突き刺さった。


「え、ええ?」

「魔力込めると威力あがるの?」

「やっぱりそうだったのか……」


 いくらなんでも巨大イノシシと言ってもサイズが地球のものよりかなり大きいが牛くらいのサイズだ。現実の牛の角が木の幹を砕いて貫通する……なんて聞いたことが無い。巨大イノシシ自体が魔力をまとっていて、突進との相乗効果で木の幹を砕いたと考えるとわかりやすい。


 要するに昨日のイノシシの角をブロックしようなんて考えていたら今ごろ俺は串刺しで殺されていたか大怪我をするところだったのか……俺は背筋がゾッとしてしまった……妻が薙刀道場に俺を引っ張り出してくれなかったらアウトだった……


『どうやら昨日の無謀っぷりをわかってくれたみたいだな』

『上手にしのいだみたいだけど、魔法鉱石製の槍じゃないと駄目だったと思うわよ』

『運がいいんだねぇ』


 なんか俺に色々注意をしてきているみたいだな……やっぱり無謀だったかなぁ……次からはもっと安全に行くか。


『では次に魔力を利用した防御の仕方だ。大体わかっているかとは思うが魔力を込めた箇所で固くなるイメージをすれば岩のように固くなる』


「あの、何言ってんのかわかりません……」


『アルミス! 簡単、言葉、お願い!』

『わかった! 魔力、石、固くなる』

『アルミスありがとう! わかった!』

『チサトセンス良いね!』


『なんで今のでコミニュケーションが取れるのかしら?』

「千里すげーな、バッチリ向こうの言葉わかってるじゃん」

「昨日寝る前すごいアルミスと話してたもんな……チサトさんありがとう」

「えっ! どういたしまして?」



 俺一人だとこんなに上手くコミニュケーションが取れた自信がない。チサトさんの存在が非常に助かる。褒められたチサトさんもまんざらじゃなさそうなので褒めておいて良かった。妻からは女性は常に褒めて感謝するのよ! と口酸っぱく言われたのが今に生きている。


『うーむ、やりづらいな……セクティナ 俺の腕めがけて石を投げてくれ』

『わかったわ、随分と荒いことするのね』

『あ、魔力は込めないでくれよ……君がやると絶対痛いから』

『ふふっ、わかったわ』


 犬人のセクティナが野球ボールくらいの石を持ってホムの腕にめがけて投げる。魔力を込めてない……のにめっちゃ早い!


ゴッ!


 ホムの腕にあたった石が砕けて散り散りになる。魔力をこめて固くすると石みたいに……と言うよりも鉄みたいな硬さだな。  


『セクティナ……加減してくれよ、痛い……』

『したわよ……魔力をこめていなかったでしょ?』

『ぐぅ……君は魔力なしでも十分人を殺せるな……』


「……すげぇな、なんかホント魔力って万能なのな」

「あたしもできるのかしら?」

「あれができれば生き残れる可能性が高くなる……って感じだな」


『あ~、魔力、固くする……良いことたくさん……コレで通じるか?』

『魔力、固くする、練習!』


「お~!」

『わかりました』

「死ぬ気でやりますか……」


『……アルミスがいてよかったわね……』


 セクティナが何やらしみじみと俺たちを観察しながらつぶやいていた。


 それから俺たちは魔力を固くするイメージで練習を続ける。最初は上手く出来なくても、盾のイメージで移動させる……皮膚にバリアを貼るなどのイメージをすると上手くいくようだった。狩人3人組も何やら驚いているようだったが、何に対して驚いているか分かるレベルでコミュニケーションが取れていなかったので分らないことだらけだった。


「そう言えばホムさんがイノシシの角に魔力を込めてましたけど、あれやってみます?」

「そうだね、そう言えばこの槍、今見ると薄っすらと魔力みたいのが見えない?」

「あ、ほんとだ、見えますね」

「コレに魔力込めて切ったらなんか凄いことになりそうな……」

「やってみます?」


 すごい笑顔のシュウトくんが期待の眼差しで俺を見る。俺は槍を持って魔力を刀身に移動させるイメージで穂先に溜める。その状態で飛ぶ斬撃をイメージして振ってみる。あの大木が切れると良いな!!


 ブォォッ!!!


 槍を振った先の木の枝がきれいにすっぱりと切れ、木の幹に斬撃跡がつく。やった! と思うと同時に俺の意識が……あ、やばいこれ飛ぶ……

「おお、タクマさんすごい! ……え? あれ、ちょっと」


『あ! それはまだ早い!!!』

『魔力欠乏症か!』

『凄い威力……』

『飛ぶ斬撃……殺傷能力がすごいだろうな……凄いイメージ力だ』

『魔力欠ボーショーは久々に見るなぁ』


 シュウトくんが倒れないようにしてくれたみたいだが、恐ろしい眠気の様なものが俺を襲い……俺は意識を保てなくなった。


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