第103話 悪夢の示す道 後


『それじゃ、やってみるわね』


 チサトが席を立ち、空の『神聖球』に順次神聖力を注ぎ込んでいく。あっさりと満杯になったようで、黙々と神聖力を込めていき、そこにあった3個全部が満杯になったようだった。


『……』


 仲間を含めて異世界人が誰も声を発さなくなってしまった。

 最初の1つ目は歓声があがっていたが、2つ目の途中でざわつきになり、3つ目で誰も声を発さなくなり真剣な眼差しで見つめるようになっていた。


『これで終わりかしら? まだまだできそうかも。他に空の『神聖球』はあるの?』


 チサトがそう言うと、そこにいた鉱石人全員がチサトを崇めるかのように膝まずき頭を垂れ始めた。


『おお、せい……』


『それはやめて……』


『ああ……すみませぬ。全員立ちなさい』


 王に促され、全員が渋々と立ち上がる。


『え、えーと、チサト様、大変ありがたく……』

『普通に喋って……』

『分かった……先代の『聖女』様とも会っているが、桁違いじゃの……1つとちょっとを満杯にするくらいだった気がするのじゃが……』

『え? 先代とも会ってるの?』

『そりゃそうじゃ、鉱石人の寿命は150年じゃからな……『災厄』を3,4回は経験出来る……まぁ、それが良いとは限らないんじゃが』


『おじいさんだたったのね?』

『うーん、ワシはまだまだ生きられるぞ。おじさん……で……』


 



『これで計画がかなり変わりますね……ヴィナルカがこちらに来てくれると状況が分かるんですが……』


 シュウトくんを中心に会議室で『穴』の浄化作戦が引き続き話し合われる。『穴』の浄化に関しては、探索者と神殿関係者じゃないと浄化の技術や知識がない様なので、ドヴェルグ王から全面的に作戦を任せられていた。

 

 エルドがふと思いついた感じで意見を言う。


『俺思う、チサトが『触手の穴』浄化できないか?』

『それは試してみる価値がありますね……』


『チサト、どうなの? できそう?』

『うーん、わからない、さっきはやろうとしたけど、なんか逃げられちゃったし……』

『『穴』が逃げるのか……』

『『穴』じゃなくて、黒い触手の塊みたいな感じだったよ?』


『とりあえず後で試すか……』



 それからも作戦会議が続き、『穴』の浄化位置や担当などを割り振っていく。『神聖球』の設置をレスタジンの者も手伝ってくれる話になったのだが……シャズイールが俺たちに質問をしてくる。


『私たちは妖魔に襲われないのだけれども……原因が分かるかしら?』

『本当ですか? それなら……作戦に……ああ、ダメか……』


 俺たちは顔を見合わせるが、シャズイールの質問に対して誰も答えを持っていなかった。シュウトくんが途中まで行けそうな顔をしていたが、頭の中で考えがまとまったらしく方向転換をする。


『呪いの可能性もありますし、マスクの可能性もありますし、もっていたペンダントなどの持ち物の可能性もありますし……って事で、不確定なので作戦に組み込めませんね』


『どちらにしろ、マスクと装束をまとっていては、敵軍認定されて攻撃されてしまうわ。妖魔が襲ってくることを前提で計画を立ててもらうとありがたいわね』


『私たちもおしゃれな装備をしたいです……あんな地味で奇妙な装備は嫌』

『オメェよ……ちょっとは空気読め』

『いたっ! 蹴ること無いでしょ!』


 その場に笑いが起きる。レスタジンの方も大分馴染んできたか……彼らの装備もちょっと考えないとダメだな。とりあえず見た目だけでもこちらの人と同じにしたほうが良いかと思った。そうすると作戦開始は明日にしたほうが良さそうだな。


『とりあえず、作戦の担当が決まったら、装備……見た目を変えようか。レスタジンっぽさは消さないとダメかと』

『そうですね。よろしくおねがいします』


 シャズイールがうやうやしくお辞儀の様な仕草をする。挨拶なども……こちらの国に合わせたほうが良さそうだな……


 それからは、装備の一新などをする準備などをお願いしたり、明日の作戦のことを話し合ったり、今日眠れる宿などを紹介してもらったりしていたらすっかりと夜も更けてしまった。ドヴェルグ王国の鍛冶師たちが総出で寝ずの作業をしてくれるらしい……それにしても王の権限がすごい。いや、信頼を置かれている感じか?





 ドヴェルグ王が話の終わりを見計らって話しかけてくる。


『ん、話は終わりかの? 終わったならば、チサト、タクマ、シュウト、ヴォルス……には渡すものがある。ちょっと夜も遅くなってしまったがこちらに来てくれるかの、あ、狐人族の嬢ちゃんもおいで』

『じょ、嬢ちゃん……』

『え? ウチは?』

『ああ……もちろん付いてきても良いぞ。隠すことでもないしの』


 とりあえず『流星の狩人』全員でドヴェルグ王の後をついていく。


『ここじゃ』


 俺たちは武器防具置き場の様な場所に通される。部屋にはいると、いろいろな武器や防具がならぶ中、中心に6体のマネキンのようなものに防具などがつけられていた。鉱石人の職人や女性たちがいそいそと何やら準備をしている。


『おお、すごい……武器庫?』

『な……何と……』

『えっ……まさか……』


 驚いて喜んでいるシュウトくんをよそに、ヴォルスがマネキンにつけられた鎧を見てかわからないが驚愕の表情をしている。エルドの表情からも驚きと苦悶の表情が見て取れる。


『フム……ヴォルスとエルドが既に見ていた様だな……』

『……ドヴェルグ王もか……』

『ワシだけでは無い、氏族がだいたい見ておるの』

『我々の領の武器庫では見たことのない手甲だと思っていたが……ここで制作されたのか……』

『……ああ、なるほど、視点が自分だから見えるのは手甲のみじゃの』


 そう言いながらドヴェルグ王がヴォルスに黒い鎧の手甲を渡す。鉱石人の女性がヴォルスの脇に立ち、今つけている革鎧を外すのを手伝い、ヴォルスが黒い鎧の手甲をつける。


『ぴったりだ……それに……夢と同じだな……』

『フム……鉱石人は目見当が得意じゃからな。そうじゃろう。そうじゃろう』



 二人で何かを分かりあえている様だが、他のものにはさっぱりだった。説明をしてほしいな……


『あの、なんか二人で楽しそうなんだけど、あたしちっともわからないんだけど?』

『そうですよ、なんか凄い強そうな防具じゃないですか?』


 チサトの怪訝な顔に比べて、シュウトくんの顔は輝いていた。さっき、ドヴェルグ王が渡したいものがあると言っていたからこの装備なのか? まさか? 魔力視で見ると薄っすらと魔力が流れているからかなり高級な装備に見える。それこそ一式でこちらの世界の家が買えちゃうくらいな……



『あれ? この装備だけ片腕がありませんね?』


 ミィナスが魔力視をしながら装備などを間近で見ながら発言をする。それに対してドヴェルグ王が嬉しい顔を引き締め直し真面目な顔で返答をする。


『……そうじゃな……もう、夢の……未来の啓示からだいぶ変わっているようじゃの……』


 ドヴェルグ王が俺の方を振り返り俺の顔や腕を見ながら話を始める。



『これはタクマの鎧じゃ……夢の啓示だと……夢ではタクマの左腕が無かったからの……』


 俺は思わず自分の左腕が切れた場所を触って確認してしまう。


 そうか……チサトが回復魔法を使えない状態で怪我をしたら……そう言う未来もあるんだな……


『ワシは希望しか見えなくなった。大きく未来が変わっておる』


 ドヴェルグ王が若干目が潤んだ感じで感動した感じで語る。その脇で防具の品定めをしていたミィナスがあまり空気を読まずに発言をする。バーゲンで買い物をする女性の様だ……


『これが、タクマだとすると……これがシュウト、チサト、先程長耳族の娘と言っていたのでヴィナルカがこれ……あとは狐人族の娘……あの、わたしこんなに大きくなるんですか?』


『フム……そうだったの……今みたいなちんちくりんではなかったの、こうなんというか豊満であった……』


『あなた、品位が疑われますよ?』


 作業をしていた鉱石人の女声が呆れた感じでドヴェルグ王にツッコミを入れる。お妃様なのだろうか? 服がかなり質素ながらもしっかりとした服を着ているように見える。ミィナスのしっぽがゆらゆら嬉しそうに揺れているからいいんじゃなかろうか? 成長したかったのか?


『おお、すまぬ。チサト様と耳長族のふたりの装備以外は戦争用になるから……隠密作戦には向かぬ。探索者の場合は……どうかの? 着ていけるように調整はできるのぉ。どうするのじゃ? すぐに着るか? 一応、急ぎでサイズだけ合わせるか?』


 戦争用か……確かに隠密作戦をする場合には音が出るだろうから不向きな装備だな……チサトとヴィナルカのだけ頂いて後はサイズを合わせて……保管をしておいてもらう方がいいだろうな。俺たちは仲間で話し合った結果、同様の結論になり、とりあえずチサトのサイズだけしっかりと合わせてもらうことにした。彼女だけは絶対に死なせてはダメなのがよく分かったしな……チサトは少し小綺麗すぎるので目立つとちょっと嫌がってはいた。


 話が終わる頃にキョウカが不満の声を上げる。


『ねぇ……ウチたちには? ないの?』

『……俺も戦争用は欲しい……これから大きな戦い、必ずある……』


『うーむ。すまんの、夢の啓示で、最後の戦いにいた者のしか用意しておらなんだな』

『ウチはやっぱり参加してないのか……』

『……俺、自分が死ぬ夢見た……だから最後の戦い、いるわけがない……』


 その話を聞いていたヴォルスが一瞬複雑な表情をするが、ドヴェルグ王に話しかける。


『ドヴェルグ王よ、二人の分の資金は私から出そう。二人にあったものを制作してくれないだろうか?』

『フム……我々が見た夢の啓示とだいぶずれておるからの……大丈夫かのぉ……』


 悩み出すドヴェルグ王に、妃と思われる女性が話しかける。


『あなた、目を見れば分かります。作ってあげましょう。』

『うむ……そうじゃのぉ……輝いておるなぁ……のぉ、お主ら、いかなる時があっても聖女様……チサトを守ると誓ってくれるかの? ……お主らの同族が敵になったとしてもじゃ』


 ドヴェルグ王の真剣な眼差しにチサトとエルドは少し驚いた表情をしたが、すぐに返答をする。


『俺、誓う。その約束守れる。既に未来変わった。それにチサトたちならもっと良い手を色々考えて、うまくやってくれる』

『ウチは……うん。守れるな。誓うよ。里のものがチサトと敵になるとは……考えにくいし……それに、ウチ、里を出たから何というか……』


 俺はキョウカがちらっとヴォルスを見たのを見逃さなかった。ヴォルスも困ったような照れているような表情を隠す感じで、変な表情になっていた。二人はかなり仲良くなっている様だが……どうなんだろうか?


『フム……まぁ……大丈夫じゃろう……職人たちをこちらに、サイズとどんなのがほしいかを聞かねばな。金はいらんぞ。今回の『穴』の浄化でありあまるくらい我々は貰っておるからな』


 それから職人たちが部屋に入ってきてキョウカとエルドの計測などをしようとするが、何人かは非常に驚いた顔をしたりするのが印象的だった。キョウカとエルドが恐れられるのって……夢の啓示でなんかあったから……なんじゃないだろうか?





 人の往来で慌ただしい中、ドヴェルグ王と妃は部屋を抜けて自室に戻るために二人寄り添って歩き出す。


『あなた……確実に未来は変わっていますね……』


『うむ……敵対勢力と予測していた……巨人族の猪将軍、鬼人族の姫、……それにレスタジンの者共……まさか仲間として引き連れてくるとは思わなんだな……』


『ええ……それに皆から聞いていたよりもなんだか、とても良い雰囲気でしたわ』

『そうじゃの……この勢いで亜人の王も仲間にしてくれると嬉しいんだがの』


『それは……上出来すぎるわ……でも期待してしまうわね』


『そうじゃのぅ……』


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