第54話 服の調達と雑貨屋めぐり


『もう昼めし時なんだけど……』


 俺は誰も聞いてくれるとは思ってはいなかったが、思わずつぶやいてしまった。


 朝早くに役所に立ち寄りミィナスのネームタグを作り終えた後に、服屋兼雑貨屋をめぐり、ミィナスの服を選んで買っていく。ついでに女性陣の足りない服を選ぶ……の名目でファッションショーが目の前で繰り広げられる。楽しそうで良いんだけど……完全に蚊帳の外でもの凄く暇だ……


 最初は完全に気後れしていたミィナスも、店を回るたびに女性陣に慣れていき、ほんの数時間でなんかもの凄く仲良くなってしまっていた。一昨日までの人を殺しそうな勢いの目つきが全く感じられないレベルだ。環境で人って変わるなぁ……


『さて、昼ごはんにしましよう!』

『はいっ!』


 完全にミィナスがチサトたちに懐いてしまった……シュウトくんが自慢気にしていたチサトの能力が生かされている。

 考えてみると、チサトがいなかったら、キョウカもヴィナルカも仲間にならなかったんだろうな……そう考えると彼女の影響ってものすごく大きい。


 いつもの様に屋台でご飯を軽く済ませようとすると、ミィナスのテンションが一気にがある。


『屋台! お祭りみたい!』

『え? ミィナスのところには無いのか?』

『露店はありましたけど、作ったご飯は無かったかと思います。……みんな自分で作っていたから。祭りの時だけ屋台がありましたね』

『そのへんはどこの世界も同じ感じなのね』


『ミィナス、ほれ、これ食べてみ』

『ありがとうございます。……おいしぃ!』


 どこに連れて行っても楽しそうなミィナスの言動と行動でなんとなくほっこりしてしまう。


『それじゃ午後は……ミィナスの簡単な狩りの装備と、あとは日用品ね』


『なぁ……ミィナスは魔法が得意なのか? タクマとものすごく上手に操作してたみたいだけど?』

『あ、いえ、そこまでは得意ではなかったのですが、タクマがもの凄く教えるのが上手で……なんか色々と出来てしまいました』

『たしかに上手だな……ウチもタクマのお陰でコントロールの幅が広がったもの』


『そうねぇ、私もまさか魔力操作覚えたての人に教えてもらうとは思わなかったわ』

『村では、剣と弓を習っていました……道場の練習だけで、実戦はしたことないです』


『普通にからだを守れる装備と、魔法を生かしたなにかかしらねぇ。最初は身を守れる事だけ考えましょう。お姉さん達とても強いのよ』


『はいっ!わかりました』


 それから俺たちは以前もお世話になった初心者向けの武器防具屋に行く。


『おう、ずいぶん小さいお客さんだな。彼女の装備かい?』

『ええ、あるかしら?』

『小犬族のものもあるから大丈夫だろう。ん? 狐か? めずらしいな。あっちのコーナーに積んであるから好きなの持ってきな。あまり状態はいいのないかもしれないが……服の方は普通に子どもサイズもあるからそっちだな』


 ヴィナルカとキョウカが相談しながら商品を目利きしていく。服を選んでいた時の顔と全然違いかなりマジな顔だ。二人共仕事に関しての真面目度が非常に高い。


 最終的には丈夫な服、小盾、短槍、子どもサイズの各装備一式……と小さめの背負子になった。


『まだ小さいんだから荷物運びは……』

『過保護。タクマの国の事はわからないけど、この世界の常識的には全員で運ぶが当たり前よ?』

『分かった……』


 キョウカが事あるごとに過保護、過保護とうるさい気がするが、俺がおかしいのだろうか? ミィナスも試着してみて喜んでいるみたいだしまぁ……いいか。


 

 それからその足で、日常雑貨の店に寄る。女性陣達と同じ様なタオルや歯ブラシ系、その他モロモロの日常品をまとめて買っていく。ここでも女性陣が楽しそうに物を選んでいく。もちろん俺は蚊帳の外だ……


 そんな中でミィナスがカウンターの脇に置かれたガラスケースを目に止め、固まってしまう……


『……あの……タクマ……』

『ん? なんだ?』

『……あの、小さな時計の値段って……』

『……ああ……気にするな』


 しまったな……ここの店には連れてくるべきじゃなかったか? でもいずれ知ってしまうか。


『わたし、頑張って働いて返そうと……思っていたのですが……返すのに……どれだけ……』


 楽しそうだったミィナスの顔が一気に涙目になり、今にも泣きそうになってしまう。思わず俺はしゃがんでミィナスを軽く抱きしめる。


『気にするな。返してもらおうなんて思っていないから。俺が助けたかったからやってしまっただけなんだ』


『でも、わたしにそんな価値なんて無いです!』


『ん~ ……それじゃ、死ぬ気で働いて返してもらおうか』

『え? は、はい。返します』

『探索者になって働けば1、2年くらいで余裕で稼げるそうだ……それまで頑張らないとな』

『……わかりました。頑張ります……』


 ミィナスが悲しい表情が困惑に変わり、俺の顔を見る。俺は思わず頭をさわさわと撫でる。まだ小さいんだからそこまで考えてほしくなかったけど頭が良いんだな……


 チサトがなにか言いたげな表情をしていたが、一応ではあるがミィナスも落ち着いたのを見て成行きを黙って見守ってくれていた。

 他の仲間達もなんて声をかけていいか分からなかったらしく、チラッとこちらを見た後はそのまま自分の買いたい品物を選ぶのに戻っていった。




 買い物も終わり、宿に戻る途中にチサトが日本語で話しかけてくる。


「タクマ……奥さんからの贈り物ってのは言わないようにみんなに言っておいたほうが良い?」

「そうだなぁ……真面目な子みたいだから、言わないほうが良いだろう。罪悪感で無謀なことしかねないかもな……」

「わかったわ、後で根回ししておく。間に合わなかったらごめんね」

「おう、ありがとう」


 良くわからないが、昨日の頭痛で倒れた後のチサトは大人っぽい感じになってしまった気がするのはなぜだろうか? こんなに気配りできたっけか?



 宿に戻るとシュウトくんとエルドも戻ってきた様で一緒に夕ご飯を食べる。先程のこともあり、上手く逃げやがって……といった感情がほとんど起きなかった。


「タクマさん。探索者組合で色々話を聞いてきたんですが、セクティナさんたちは事故に巻き込まれて帰るのが遅くなっていたそうです」

「え? 本当? 無事なのか?」

「なんでも事故の救出やら後処理やらで大変だとか? 仕事は大分前に終わっていたそうですよ」

「早く終わらせてくるって意気込んでたもんな……」


 俺の頭の中には気合が入りまくったホムの顔が出てきた。テンセイシャに興味がありすぎて仕事を放棄しようとしてたものな……


「あとは……他のテンセイシャについて調べたのですが……予想通り遺留品が見つかる事が多かったようで、結構な数の人間が転移してこちらの世界に来ているようです」

「本当?……全然会わなくないかい?」


「ええ、保護された人もいるそうなのですが、この街周辺だと……残念な状態ばかりのようですね」

「……そっか……」

「何というか……この街は前の世界で言う「ラスダンの前の町」らしいんですよね……危ないから普通の人はみんな近づかない」

「って事は、平和な町の近くだったら……生き残りが結構いるってことか」

「おそらく……探し出して彼らから情報得るのも必要かもしれませんね」

「それだけこちらに来ているんだったら、帰る方法も頑張れば……か」

「ですね」


『そこ! 「日本語」あまり使わない! みんな仲良くできないでしょ?』

『あ、ごめん。正確な情報を伝えようと……』

『あ~ セクティナたちの話を聞いてた』


『お? 帰ってくるとか?』

『向こうで事故があって、それの助けをしていて遅れているそうだよ』

『早く帰ってくるといいねぇ』


 彼らが帰ってきたら、色々と話が進んで帰る方法なども見つかりやすくなりそうだな……などと淡い期待をしながら今日は床についた。

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