第2話 状況把握と異国の骸骨


 とてつもない突進力をもったイノシシの驚異も去ったので、木の枝から降りて話をしたいところだったが、何が襲ってくるか分からず危険すぎるのでそのまま3人で木の枝の上で話しをしていた。



「さてっと、何から話せばいいか分からないけど、全員ここに来た理由が分からない……でいいんだよね?」


「うん、夢……にしてはリアル過ぎ、なんなのこれ?」

「そうですね……ここは死後の世界かな……」


 高校生カップルもやはり俺と同じ状態の様だね……突然巻き込まれた感じだな。


「……現状把握は俺と変わらない感じだね……とりあえず情報収集と同時に、やっぱり水の確保だな……」


 二人がうなずくと、女子高生の方が自分の体と服などを触って自分の服の状態を確かめている。



「あれ?あたしの鞄がない」

「僕のも無いや、あれ? 最後に持ってたっけか?」

「え、あ、俺のは……あ、あるか、良かった……」


 俺の肩からかける小さなショルダーバッグはなんとか持っていた。なぜこの二人の持ち物が無いのだろうか? この環境下では持ち物の多さが生存に直結すると思うのでかなり厳しい状態かもな……


「君たちの持ち物は?」

「えっと……ちょっと……色々あって」

「あ、僕は財布だけだ……」

「お兄さんの荷物はなんであるの? ……あれ? ……ええっと、あれ? んと、お兄さん? の名前は?」


 女子高生が俺のバックを見て疑問を投げかけてくるが、そのまま俺の顔を見るなり不思議そうな怪訝そうな複雑な顔をする。



「酒々井 匠真だ、よくわからない状態だけどよろしくな」


「えっ? え? シスイ? タクマ? あれ? ……あたしは大富 千里、チサトよ! チサトか、チサって読んでくれればいいよ」


「僕は成木 修斗、シュウトって呼んでください」


 握手をしようかと考えたが、木の上で身動きが取れなかったのでそのまま言葉だけで挨拶を続ける。


「よろしく、タクマと呼んでくれ。チサトさん、シュウトくん」

「……あれ? やっぱり反応なし? やっぱり人違い? 他人の空似ってやつ? それにすごく若い? どうなってるの?」

「……チサトさん、すまないが初対面だと思うぞ? オオサトなんて名字の人……知り合いにはいないな」


 チサトと名乗った女子高生はよくわからないがとても混乱しているようだった。どこかで会ったことあったかな? 思い出そうとしても完全に記憶に無い。モデルかと見間違うくらい可愛いハーフっぽい女子高生との接点なんてあったら覚えていそうなのに……


「君くらい綺麗な子は俺の周りにはいなかったから、いたとしたら絶対に覚えているよ」


「え? そ、そうですか……あ、デヘヘ……」

「ち、千里……こんな時に……なに照れてるの……」

 

 チサトさんはかなり本気で照れているが、どう見ても言われ慣れているレベルだと思うんだけど……


 俺は気を取り直して、自分の荷物の中を確認してみる。小さなメモ帳、家の鍵、ペン、財布、定期、携帯、飲みかけのペットボトルのお茶……これしか入ってないとは……サバイバル環境下では全く必要のないアイテムだらけだな。ペットボトルはまぁ役に立つか? 

 一応、携帯の電波状況を見てみるが、わかりやすく圏外だった。節電のためにも電源を切るか……電源を切って自分のバッグの中に再びしまう。


「圏外みたいだな」

「ですよね……こんな山奥っポイところじゃ」

「ガラケー?」


 チサトさんが俺の携帯を見て不思議そうな顔をしている……ガラケーってなんだろう? 今は疑問に思っている場合じゃなさそうだな……まぁいいか。



「全員が神隠しにでもあったのかね?」


「……かみかくし?」

「……異世界転移ってやつじゃ?」


 あれ? 神隠しって通じないか? 今どきの若い子って、10歳くらいしか違わないし単純に知らないだけか? イセカイテンイってなんだ? 聞いたこと無い単語だな……


「ほら、突然違う場所に出現したり、テレポート的なことが起きたりすることを神が隠した? という感じの表現なのだけど、君たちの年代でも分かるだろう?」

「……昔からある行方不明者の不思議話にあるやつですね」

「あ~そんな感じかな?」


 俺とシュウトくんの会話が続くが、それを聞いていたチサトさんが不思議そうに質問をしてくる。


「あの、テレポートしたって……ここどこなの?」

「そうだね……とりあえずそれを確認するためにも、見晴らしのいい場所を探すか、高い木に登って辺りを見回すとかなんだけど……」 


 全員で今いる木の上の方を見上げる。猿でもないと登れ無さそうな木だった……上が見えないくらい高いな……


「……すんません、僕はそこまで木登り得意じゃないです」

「あたしも」

「俺もだよ、さっきは良く枝に飛び乗れたと思うくらいだから……それじゃあ開けた場所探して、出来るなら水の確保か……」


「え? さっきから水って……」


 ああ、そうか、まだ日本の都市部にいる感覚なのだな……今はどう考えても山奥のどこか知らない場所だ。自動車の音や飛行機も見えないから人里までは相当な距離があるだろう。


「俺達は今、遭難している状態だと考えたほうが良いと思うのだけど」


「あ、たしかにそうですね……さっきのでっかいイノシシもいるし別世界みたいだし……水を探さないと駄目なんですね」

「たしか3日水を飲まないとかなり危ないことになるらしいぞ」


「……え、そんなに」

「俺たちは普段水に恵まれすぎていて気にしたことないもんな……」


 この木が低いながらも俺は辺りを見回してみる。あれ? なんか近くの木の幹に……死体か? 鎧を着たような骸骨が倒れているな……俺は指をさして二人に知らせてみる。


「なぁ、あれ……」

「え……人の骸骨?」

「鎧……西洋風? 日本のものではないですね。あと……あれは槍かな?」


 うーん、ちょっと嫌な感じはするが、今の状況だと背に腹は代えられない……さっきの巨大イノシシもいるし、ちょっと道具を拝借するか……


「ちょっと待っていてくれ、あの仏さんの持ち物見てみるわ」

「あ、僕も行きます。千里は残っていてよ、すぐに登れないでしょ」

「え~ ……うん、わかった。ちょっと気味悪いね……」


「チサトさんは周りを警戒していて、なにか変なことあったらすぐに知らせてくれ」

「は、はい!」


「千里……なんか俺の扱いが……」

「ふんっ!」

  

 喧嘩するほど仲が良いというくらいだから大丈夫かな……そんなことを思いながら木から降りて、俺とシュウトくんで周りを警戒しながら先程木の上から見つけた骸骨を調べてみる。

 どう見ても現代の人間の持つ持ち物じゃないな……全部ハンドメイドっぽいし、鎧の革のベルトの縫い目なんかもよく見るとずれている。機械で作った訳ではなさそうだな……脇腹付近の鎧に何かが貫通したような跡があるな……これが致命傷か。腕や足なども死んだ後に動物が食い散らかしたのだろうか無くなっていた。


 シュウトくんも致命傷っぽい傷跡に気がついたようで、俺に小声で質問してくる。


「これって、さっきの巨大イノシシのやつですかね?」

「……あまり考えたくは無いけどそうかも知れないね……ところどころ喰われたかの様な跡もあるね……そちらは死んだ後って感じか」

「人間が近くにいるってわかっただけでも……」


「……確かにそうだな、使えそうなものは拝借しちゃおう」

「ちょっと気が引けますが……しょうがないですね……」


 若干金具部分が錆びた槍1本、よく中世ヨーロッパの博物館で飾ってあるような骨董品みたいなやつ。槍の穂先が若干豪華な感じで鈍く光っている様な印象も受ける。持った感じはかなり丈夫な印象だ。

 あとは鞘に入った短剣ベルト付き、こちらはありがたいことに抜いてみるとあまり錆びていない。

 よくわからない道具が多数入った袋、こちらもベルト付き。あと水筒らしきものもあったが中身は空、映画とかでみる獣の臓器を利用したやつだろうか?

 矢筒と矢などもあったが、肝心の弓はなかった。

 後は財布、音が出ないように貨幣と共に消音用に綿みたいのが詰められている……となにか知らない文字の書いてあるタグが首の骨にかかっていた。


「めちゃくちゃファンタジーな装備ですね……」


「中世ヨーロッパ的な感じだね、装備を見る限りは重量もあるし、荷物も少ないから、人里はそこまで遠くない……はずだな」


「魔法とかもあるんですかねぇ……」

「今、俺達が確認できる範囲では無いなぁ……とりあえず使えそうなものは全部回収しておくか」

「わかりました、あ、僕はそこまで運動神経良くないので……武器はタクマさんが……」

「わかった、じゃあ、槍は俺が持って、短剣はシュウトくんがもってくれ、あとは道具袋と財布もそれなりに重いか、チサトさんは運動神経いいのか?」

「悪い印象じゃないですけど良くもないですね」

「それじゃ水筒だけ持ってもらうか……」


「きゃぁ!!!」


 チサトさんの声だ、俺たちは慌てて立ち上がり振り返ると、チサトさんがダッシュで俺たちの方に走ってくる。何事だ?


「へ、へへびぃ!」


 先程まで登っていた枝の幹を結構な大きさの蛇が伝って降りていく。でかいけどそこまでの驚異ではないか……


「チサトさん、シー」


 俺は口に指を立てて静かにしてのサインをする。慌てていたチサトさんも俺たちの後ろに来ると落ち着いたようだ。


「あんなのでビビらないでよ……」

「う、うるさいわね、あいにくあたしは都会人なので生で見たこと無いのよ! あんなの!」


「シー」


「……ごめんなさい……」


 一応辺りを見回して警戒をしておく。さっきの巨大イノシシが来るとまた厄介なことになりそうだし……それに早めに夜を過ごせる場所を探さないと大変なことになりそうだ……


「それじゃ、警戒して移動しながら、水と今日寝られそうな場所を探そう」

「え?……あ、そうか夜は街灯なんて無いですもんね」

「……野宿……キャンプ用品も無しに……」

「幸い、気候がいいから夜も大丈夫そうだけど、どんな生物がいるかわからないから早めに探しておこう、それに太陽がいい感じで真上だからあと6時間かな……」

「早めに人里見つかるといいですね」

「はぁ、なんでこんなことに……」


 それからは俺を先頭に歩きやすそうなところを選んで移動を開始する。移動しやすいってことは巨大イノシシたちも歩きやすいわけで、やつらとの遭遇もしやすい……のだけどもあの場所にずっととどまっていても餓死するだけだからな。


 それにしても妻が出不精な俺を引っ張ってサバイバルキャンプに連れ回してくれたおかげで大分今は助かっている。あれがなければ高校生カップルの様にパニックになっていただろう。


 早く妻の元に駆けつけねば……もう出産には立ち会えないよな……一体世界のどこに飛ばされたのだろうか?



 ……これが夢だと良いのだが……




§  §  §  §  §  §  §  §  § §  §  §


☆☆☆ や ♡ などを入れていただけると大変励みになりますので是非ともよろしくお願いします。

感想などお待ちしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る