第14話 敵対勢力との遭遇戦
騎士団の団長が飛んでくる矢を打ち払いながら騎士の仲間に話しかける。
『しまったな、予測より仕掛けてくるのが早いな……』
『思ったより深い位置まで来てましたね』
『大丈夫です、アルティア殿もどうやら気がついたようです』
『それでは、少しだけ頑張って耐えようか』
『はっ!』
それを聞いていたセクティナが団長に話しかけているようだった。言葉がわからない俺達にとっては、本当に何が何だか分からない上に本物の矢が飛んでくるのでパニックになっていた。
矢を打ち終えたのか、矢を打ち払われすぎて業を煮やしたのか、周りの茂みや道から続々と剣や槍などを持った人が続々と出てきて逃げ道を塞ぐ用に俺たちを、いや団長を囲っていく。前と後ろで30人位いるだろうか、ほとんど人間だな……
『レイダオスだな?』
相手勢力の頭的な人間が団長に大声で話しかける。もちろん意味はわからないが……
『いかにも、レイダオスだ。レスタジン王国のものか?』
『さぁな、あんたの首には俺たちを満足させるくらいの素敵な生活がかかっているんだ、おとなしく俺たちに狩られな!』
『火炎爆発』
襲いかかろうとしている相手の戦士達の間に突然手榴弾を投げたかのような爆発が起こる。後続の5人くらいが巻き込まれて吹き飛ぶ。ホムが何やら言っている所から魔力を感じるから魔法なのか? あれ?
『魔術師がいるぞ! そいつを先にやれ!』
『オゥ!』
『火炎の矢』
またもやホムが何かを言うと魔力の爆発と共に火の槍の様なものが先陣を切って突っ込んできた戦士たちに突き刺さっていく。吹き飛んだ後に燃えていくのを見るといたたまれない気になったが、殺される恐怖も感じていたので同情する余地は無かった。
騎士のふたりも乗馬のまま相手に突撃し何人かを文字通り蹴散らしていく。たどり着いた何人かはセクティナの信じられないスピードの斬撃で手足を切り刻んで端から戦闘不能にしていく。
セクティナが打ち漏らした相手がこちらに突っ込んでくるが、アルミスが的確に頭を射抜いていく。アルミスの矢には薄っすらと魔力がこもっているのがわかる。威力が相手の矢とは段違いだった。
団長の方にも何人か群がっていたが、団長はいともたやすく槍で斬り伏せていく。
それでも多勢に無勢、俺達の方にもあぶれた相手の二人が走って襲いかかってきた。
「わっ、きたっ!」
「魔力を固く! つっかえ棒!」
二人が剣を持っている一人を槍をつっかい棒にして距離をとらせる。いい感じだ。槍を振らなければ、槍相手にはそう簡単には突っ込んでこられない。ましてや二人でやったら尚更だ。
一方、剣を持ったもう一人が俺に襲いかかってくる。俺の心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。
俺は練習通りに体に魔力をまとわせて相手の剣をはたき落とす様に振るう。なぜか相手の動きが想像以上に遅く、相手の手に槍が突き刺さり相手の手首を吹き飛ばしてしまう……相手も驚いた表情をするがそのまま槍を相手の首の付け根に突き刺す。魔力をまとわせているせいか、粘土に突き刺した様に柔らかい感じだ。
『グエッ!』
相手が声にならない叫び声をあげる。俺を見ながら呆然としている感じだ。
俺はそのまま槍を相手が刺さったまま振って引き抜き二人が対峙している戦士に走って飛び込み同じ様に魔力を込めた槍を剣を持っている肩口に突き刺す。二人に完全に注意が行っていたのか無防備に当たってくれた。流石に痛い様で剣を取り落とす。
『ぎゃっ!い、いてぇ!!!!がふっ!』
槍が肺に刺さっているのか、相手が血を吹き出し白目を向く。痛みで気絶したのだろうか? 妙に頭の回転が早く冷静だ、どうなっているんだ?
「お、おおう!」
「きゃっ!」
『タクマすごい!』
アルミスがこちらに注意していたようで俺を褒めてくれる。さらに後ろから増援が来るが、アルミスの矢とホムの魔法でなぎ倒していく。
俺は相手から槍を引き抜き周囲に気を配ると、道なりにかなり向こうの方からさらに相手の増援が来ているようだった。その数はざっと100人以上はいるだろうか……
「なんかすごい沢山くるよ!」
「今の3倍以上か……」
「なんか、この人達だけで倒せそうな気もするな……」
「たしかに、この三人はもの凄く強いのね! 頼りになるわ!」
騎士の二人とセクティナが合流する。相手にしていた何人かは増援の方に走って逃げている様だった。
『いい位置に出てくれた。ものどもかかれ!』
『うぉおおおおおおお』
団長が手を上げて合図をすると、突然、脇の林の方から騎馬軍団が駆け出してくる。この時を待って隠れていた様だ。突然の文字通りの横槍を見て敵対勢力が狼狽して立ち止まってしまっている。よく見ると指揮官らしき人間の頭に矢が突き刺さっている。アルミスか?
指揮官を失い立ち止まった密集地のど真ん中に、おそらくホムの放ったであろう爆発の魔法が直撃する。何十人と吹き飛ばされている。すごい光景だ……だが、先程の戦いでアドレナリンが出ているのか、見てもそこまでの感傷が出ない。
混乱を極めた相手勢力に騎士団が突っ込み、蹴散らしていく。勝敗は決したようだった。
「うわっ、すごいな……」
「……こう言うのが起きる世界なのね……」
「地球だと紛争地域でしか起きないものな……」
俺たち3人は呆然としながら行く末を見守った。この世界に転移してすぐに現実を見せつけられた気分だった。元の世界に帰る前に、この世界で生き抜いていけるのだろうか?
『よくやったわ』
セクティナが所々に返り血を浴びた状態で俺たちに話しかけてくる。何人切ったんだろうか、血が吹き出る前に駆け抜けてたな……ものすごい速度だったな……
『わたしたち、がんばった!』
「はぁ、終わったのかぁ……」
チサトが元気よく反応する。シュウトが座り込んで一息つく。
俺は……槍を構えたまま動けなかった。戦闘が終わるにつれて、自分が人を殺したことを実感してしまったからだ。殺さなければ殺される。わかってはいるが心はあまり受け付けてくれないようだった。あれ? ……槍が手から離れてくれない……
『タクマ 戦い 終わった』
『……わかっている』
セクティナが優しく俺の手を握り、指を一本ずつ槍から離してくれる。俺は笑おうとするが表情がぎこちなくなるのが分かる。
「タクマ……」
「タクマさん……」
情けないところを見られてしまった……取り繕うとしても体が言うことを聞いてくれなかった。それから指を全部離し終わるとセクティナが優しく俺を抱きしめて背中をポンポンしてくれる。
『タクマ、あなたはもの凄く良くやったわ……二人を守れたのよ』
そう言い残すと、アルミスとホムと何やら相談をしに行った。何を言っているかよく分からなかったが、慰めてくれてたんだろう。
「タクマありがとう。おかげで助かったわ」
「ありがとうございます。僕、あまり役に立たなかった……」
「気にするな……さすがにいきなり人を殺すのには抵抗があったみたいだ……頭では理解していても上手く行かないもんだな……」
俺は苦笑する。やっと顔のこわばりが取れた気がする。それにつられて二人も軽く笑ってくれる。3人が怪我なく乗り越えられて本当に良かった。
それから騎士団が生き残った人間を捕らえてロープで縛り上げたり、使えそうなものを物色していたりした。
セクティナが団長と話をした後、槍、短刀、短めの剣を俺たちに一つずつ渡してくれた。持って行けということらしい。全部鉄製のしっかりとしたもので木の槍に比べると大分良いものになった。
騎士団が町の方に例の救難信号弾をあげると城門から馬車や大八車が数台こちらに向かってくる。相手勢力の武器回収とかだろうか? 最初からここで戦う算段だったのだろうか?
そんなことをしていると日も落ちてきて夕暮れになっていった。俺たちは到着した馬車に戦利品や死体を運ぶのを尻目に見ながら俺たちは町へと移動を開始した。
俺はこれからも上手くやっていけるだろうか……この過酷な世界で不安になってきてしまった。早く家に帰りたい……夢ならば覚めてほしいと本気で思いながら歩いていた。
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