第142話 ヴィナルカとのデート
夢を見ていた。
いつもの……過去の夢か……これは……あれ、珍しい。妻の友人と話をしている時だな……なにかのお祝いの席なのか? 皆着飾っている……あまり覚えていないな……妻が遠くのテーブルで誰かと話しているのを見ながら会話をしている……
「ほんと、あの子も変わったよね~」
「ね、匠真さんにあってからすごい変わったんだよ」
俺は頭に疑問が浮かんでくる……ものすごアグレッシブでひたすら興味を持ったことに楽しそうに突撃する妻の姿しか知らない……
「えっと、昔はどうだったの?」
俺の不思議そうな顔を見て嬉しそうに解説をしてくれる。
「え、あんなに笑わなかったかなぁ~」
「真面目っ子を超えた真面目っ子! そして完璧超人! かなぁ?」
「スポーツ万能で……引きこもって勉強ばっかりやってるイメージ? 」
「あ、昔はそうだったね! 匠真さんと付き合いだしてからもうそこら中飛び回ってるよね! いつもおもしろい写メ送ってくるし!」
「ねぇ~恋って人を変えるってのを現実で見ちゃった感じだよね~」
俺はちょっと呆然としてしまう……今の逆? でも無いか、興味を持ったことは徹底的に研究して攻略する感じだし……真面目キャラは変わらないのか?
「今とぜんぜん違うんだね」
「そうね」
「匠真さんラブだものね……わたしもそれくらいの恋したいなぁ」
「運命の出会いほしー!」
遠くからグラスを片手に妻がこちらに近づいてくる……ドレスっぽいから……結婚式の二次会? か? 思い出せないな……
「ちょっと、なんか嫌な感じの事吹き込んでない?」
「あんたが羨ましいぞこの!」
「ちょっとは幸福を分けやがれ!」
「いい男紹介しろ!」
「あ、ちょっと、いたっ、もうちょっと優しく!」
妻が友人三人に手痛い祝福の洗礼をうけて…………
「……夢か……」
『おはようタクマ、いい夢だったみたいだね』
『おはようエルド、いい夢だった。『悪夢』はやっぱり見ないな……』
『見ないほうがいい。思う……でも、俺も最近『悪夢』見ない。なんでだろう?』
『もしかしたらエルドの夢の神の試練は終わっちゃったのかもね……』
『あ、俺はもう、神の試練必要ない……だからか』
何故かエルドが納得した表情になりいつも通りシュウト君を起こし始める……俺はいつ『悪夢』をしっかりと見られるんだろう……やっぱり時間制限的ななにかがあるんだろうか……時の女神の加護があるらしいし無理なのかなぁ……あ、ドアの前にいつも通りの足音が聞こえてきた……
翌日、皆ぐっすり眠れた様だったが、ダレることもなく、いつもどおりの日の出前の起床だった。あれだ、俺たちはこの世界に完全になじんでしまっている。夜に出歩く発想が無くなってしまった。
今日は皆にはちょっと無理を言ってもらって、午前中はヴィナルカと二人で別行動となった。一緒に来たがると思っていたミィナスが素直に引き下がったのを見てちょっと驚いたが……
『……とりあえず、歩こうか?』
『……はい』
二人で歩き出すが、まだヴィナルカの動きがぎこちなかった。普段はあれだけしなやかな動きをしているのでギャップがすごいな……彼女の振る舞いを見ると出会った頃の妻の動きを思い出す……こちらも緊張していたけどそれを上回る緊張っぷりだったものな……懐しいなぁ……なんか俺もちょっと緊張してきた……
『あ~ っと、とりあえず港の方に行こうか。こちらの世界の船とか見てみたい』
『わ、わかったわ。ダメね……頭で理解していても感情が上手く制御出来ないわ』
俺たちはそれからも特に話すことをせずに港まで歩いていく。年代物……いや、現役で運用されている帆船や、魔石を利用したと思われる現代的な船など……様々な船がそこには停泊していた。対岸にもかなりの数の船が停泊しているのを見ると心がウキウキとしてしまう。
『すごいな……ここ、ちゃんと「公園」みたいになっている……』
『ええ、ここは「コーエン」と言われているわ王都に近づくとテンセイシャの知識が入った建物などがかなり増えると思う。ここもそうね。あの巨大な跳ね橋なんてこの世界に生きていると……あの構造を発想することは無いと思うわ』
とりあえず川沿いの公園の様なところにベンチの様な公共の椅子があったので、近くにあった露店で簡単な飲み物と「トルティーヤ」もどきを買って二人で並んで座る。
『……ねぇ、タクマは、あちらの世界の記憶はいくつあるのかしら?』
俺はヴィナルカの質問の意味がわからなかった……いくつの夢を見たのか……ならわかるけど……『悪夢』絡みの話なのかな?
『一つ、だと思うのだけれども……』
『そう……奥さんがいて……子供がいて……幸せだった世界よね?』
俺はヴィナルカの意図がよくわからなかったが質問に付き合うことにした。
『妻はいたが、子供は出産日だったのでまだ会っていないんだ……幸せだったとは思う』
『……そうなの……大分違うのね……』
ヴィナルカが俺から目をそらし目に見えて元気がなくなっていく。俺もなんて言っていいかわからずしばらく持っていた「トルティーヤ」もどきを食べながら考え事をする。俺のもう一つの世界……なんてあるのだろうか? やっぱり思い出せないな……そんな事を考えているとヴィナルカが半分も「トルティーヤ」もどきを食べない内に話しだす。
『私が見た『悪夢』の世界では……あなたは……結婚はしてたけど失敗しちゃって……と言っていたわね……』
『……信じられないよ。まったく別の世界の話みたいだね』
俺は驚きを隠せなかった……いつだか言っていたパラレルワールド説の方が近いのかもな……高校時代から付き合っての結婚……多分彼女がそっぽを向かない限りは俺は彼女と別れるつもりはないが……
『うん……別の世界なのかもね。あれから私、色々考えたの、時の女神様がこの世界をやり直しさせているとしたら……それだとしたらどこからやり直しをさせているんだろう? って』
『そりゃぁ……上手くいかなかった所から……かな?』
『そうすると……『災厄』の直前になってしまうわ。私だったら、準備時間を考えてかなりの時間を巻き戻すわ。直前に巻き戻ってもどうしようもないもの』
たしかに……そうすると『災厄』が問題だと……俺たちがこちらの世界に転移したところまで戻すのが良いのか……でも記憶がない状態で戻して意味があるんだろうか? 『悪夢』って対立している夢の神様が見させているんだろう? なにかおかしいと思うのだけれども。
『ねぇ、タクマ。あなたは本当に何も覚えていないの?』
『確かに……俺が全部覚えていれば……もっと楽に色々と……ものすごい有利な展開な気がするんだが……すまないが、全く覚えていない。あ、『悪夢』でみたのは……山のような妖魔がこちらに向かって口を開けるところだけだな……』
ヴィナルカが身を乗り出す感じで俺に質問をする……
『……その後の……『悪夢』は……見た……の?』
『……本当にそこだけだ……その……大人のミィナスを抱きしめていた……ものすごく悲しい感情だけが俺に伝わってきた……それだけなんだ』
『……そう、とても、とても可愛がっていたものね』
『そうなのか?』
『ええ、まるで自分の娘のように……ね』
『そうか……』
ヴィナルカはどこか遠くを見るような憂いげな目をしていた。
彼女は……そうか、『悪夢』で色々違う世界のもう一人の俺を見てきたんだな……てっきり愛の告白的な……何かになるかと勘違いしていた。ちょっと自分が恥ずかしくなってきてしまった。
『ねぇ、私、やっぱりあなたのことが好きみたい』
『へっ?』
『世界や環境が違っても、あなたはあなただったわ』
『あ、でも、俺は……俺には……』
『私が勝手にあなたのことを好きなだけよ、応えてなんて言っていないわ』
『あ、あの、俺、どうすれば……』
『ふふっ、あなたらしい返答ね……恋愛下手なのは……変わらないのね』
『え? そんなはずは……』
俺はヴィナルカの発言に何がなんだかわからなくなってしまった……えと、どう言う事だ……ダメだ……恥ずかしい……こんな本気なのは……妻以来だ……ああどうすれば? 考えてみたら妻がグイグイ来ていた気もする……俺からはあまり行動していなかったかも……あ、ヴィナルカが大笑いしている、なんでだ?
『あ~ すっきりした。それじゃぁ、後は私がこの街の観光案内をするわ』
『え、俺は、あっと』
わけが分からなくて泣きそうだ……本当にわけが分からない……ヴィナルカは持っていた「トルティーヤ」もどきを上品な所作で食べ終わると。晴れ晴れとした表情で立ち上がり自信満々に言った。
『さ、タクマ、行きましょう。この街はよく覚えているのよ』
『わ、分かった……』
それからは吹っ切れたヴィナルカに連れられ、西アゴノストの観光名所めぐりをしていた。本当によく知っている様で裏道を通ったり美味しいお店を回ったり……なんと言うか地元人の様だった。ヴァノマーパル探索者組合でもらったブリィスラ先生特製のパンフレットの内容を覚えているだけなのだろうか?
■ ■ ■ ヴィナルカ視点 ■ ■ ■
やはり覚えていなかったわ……
私達の長く滞在したこの街、探索者として最も長くいたこの街……この街の二人の思い出の場所を巡ってみたのだけれども。行く先々での彼の反応を見ても忘れているフリでも無さそうだったわ。とてもじゃないけど嘘のつけない彼の性格だからわかるの。長年連れ添った私ならわかる。いや、『悪夢』での話だったわね……混乱してしまうわね……
もしかしたら神は、彼の記憶を保持したままタクマの時間を巻き戻してこの世界を救う手段をとった……と言うわけでもなかったようね。彼は昔から不思議な空気を漂よわせていた。ぼろぼろになりながらも気がついたら仲間が増え、信頼されていった。あの時も……ダメだ……私はどうやら『悪夢』と今を混同して考えすぎのようね……今の世界のタクマだけで考えなければいけないわね……
『この辺は住宅地? なんかいい感じだね』
『そうね、ここは探索者達もたくさん住んでいるのよ。割としっかりと稼いでいる人たちのエリアね』
ここで私とタクマは『災厄』の後、前線基地になってしまったこの街のここで暮らしていた。今は城壁も低いから見晴らしがいいわね。
『ヴィナルカ! すごいぞ! 橋が動いていく! あんなに大きいのに!』
『ええ、すごいわね』
この街の東西をつなぐ跳ね橋が降りてくる。朝、昼、夕の1刻ほど船が通るようにしていた橋が降りてきて大きな橋になるこの街ならではの観光名所だった。以前のタクマもよく見ていたな……ああ、だめだな。思考がぐちゃぐちゃね……
それから二人で他愛のない雑談をしながら名所をめぐり待ち合わせ場所へと移動する。心配そうにしていた仲間達がこちらに気が付き嬉しそうに駆け寄ってくる。
『どうだった? ヴィナルカ? その様子だと大丈夫だったみたいね』
『そうね、ひさしぶりのデートを満喫したわ』
『あ……デートだったのか』
『久しぶりのデートよ。もうタクマったら』
私は思わず『悪夢』と同じ様にタクマの背中を叩いてしまう。周りも一瞬キョトンとした感じだったが、もとに戻ったのがわかったのを理解して普通に笑顔になってくれた。みんなには迷惑をかけて申し訳なかったな……
それにしても今回のこの世界で産まれなかった魂はどうなるのかしら?
このままだと産まれない……リトとセイカの魂はどうなるのかしら?
私は思わず考え込んでしまうが、わかる訳がなかった……神のみぞ知る……なのよね、おそらく。
私は考えることをやめ、目の前で興味津々で待ち構える女性陣達に今日回った場所と内容などを説明するのだった。
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