第70話 『穴』の起動装置と呪い



『さて、話をしてもらうか……』


『話せません……』

『話をしたら里が滅ぼされてしまう……』


『まぁ、なんとなくは分かるんですがね……我々としてはやっと追い求めていたものが目の前にある状態になりました』

『ですね……これか……』


 騎士たちは例の禍々しい装置を険しい顔でにらみつける。やっぱり『穴』がらみだろうか?

 そんな緊張感を持った場を崩すかのようにチサトが巨人族の二人に話しかける。


『ねぇねぇ、巨人族のお二人さんはなんで里を滅ぼされちゃうの?』

『え?……言えません……』

『はい……言っても死ぬかと……言ったら家族が死にます……』


『呪いがかけられてそうですね……強力な……』


 レグロスが3人の会話から呪いだと推察する。チサトが疑問に思ったのか巨人のロトゥン族二人に近づき、魔力を流している。スキャンしているのかな?


『ん?どれどれ? あ? これかな? エイッ! それっ!』


『えっ?』

『あっ?』


 巨人族から黒いモヤの様なものが離れてどこかに飛んでいってしまう……今のはなに? ナニが起きたの??


『えっ?』

『そんな馬鹿な……』

『ち、チサト殿、二人の状態はどうなっているのですか?』


 騎士団全員と巨人のロトゥン族二人と仲間が全員……いや日本人3人以外が真剣な眼差しでチサトを凝視する。


『え? えっ? なんか悪い事しちゃった? 黒いモヤみたいのが身体の中にあったからさっきの毒みたいにぽいって捨ててみたんだけど……』


『……おそらくそれが呪いかと……アルティア様のような事をするのですね……』

『アルティア様以外にも神の強い力を使える人間がいるとは……』

『災厄前はイレギュラーが多いのですかね?』

『今のだと呪い返しをしたことになるんですかね?』

『術者に返ってそうだな……』


 騎士団の中で何やら今の力の推察が始まる。会話を聞いていてもどうやらなにが起きているかわからない様だった。一つだけわかるのはアルティアが特別な力を持っていて、それをチサトも使えるという事だけだった。




『では、気を取り直して……お二方、話せますね』

『もう大丈夫……なのですか? お話したら家族を救っていただけるでしょうか? 家族も……俺たちの家族も呪いにかけられているのです……』

『お願いします! どうか助けてください!』


 ロトゥン族二人がレグロスとチサトにひざまずき深々と頭を下げる。それを見たレグロスがチサトの方を見る。


『チサト殿、どうしましょう?』

『出来るならしてあげたいけど……今はナルスゴ砦のみんなを守ることが先じゃないの?』

『そうですね、このナルスゴ砦の防衛が成功したら……その後ですかね』


『分かりました……話せることは話せます……終わりましたら家族を……既に命を捧げてしまった里の仲間たちの家族を救ってください!』

『まぁ、おそらくアルティア様に話をすると飛んでいってしまうので大丈夫でしょう。それではこの装置ですが……『穴』を出現させることが出来るのですね』


『は、はい、その通りです……』


『起動方法は?』


『……その魔石……の様なコア部分に魔力を注ぎ……血を注ぎ込む事です……命を捧げると起動する……と奴らが』

『……と言うことは既に命を捧げてしまった人もいる……何個起動したのですか?』

『2つです……』


 なんとも言えない空気がその場を包み込む。既に二人が亡くなられているのか……


『依頼した人はどんな風体の人物か分かりますか?』

『人族の……丁度あなたくらいの背格好の人間でした。目の部分にマスクをしているからよくわからないですが、2人組で回復魔法師の格好をしていて……最初は回復魔法などを使って里の人間を治してくれていたのですが……気がついたら呪いをかけられて……脅されて……』

『最初は良いやつだと思ってたのに……』

『そうですか……なにかこう、変わった言葉を使っていませんでしたか?』

『それが……俺達と話す以外は……会話を蝋板を使って見えないようにしていて……一応、私達とは共通語で喋っていましたが……』


 それを聞いた騎士たちがレグロス達と全何やら会話をしている。何かしらの調査をしていて裏付けをしている感じなのかな?


『その者達はなにか装飾具をつけていませんでしたか?ペンダントのようなものとか』

『ええ……そう言えば……逆さの天秤のような意匠を凝らしたものをつけていました』

『あれは珍しい感じでしたね。俺も覚えています』


 また騎士たち同士が何やら会話をしている。それを尻目にレグロスが続けて質問をする。


『それであなた達の受けた命令は……どういった内容でした?』


『はい……まずこの装置を3っつ渡されナルスゴ砦の城門近く、村の外の地点で同時に起動させろと……そしてこの残りをヴァノマーパルとの街道沿い半日くらい離れた場所で起動させろと……』

『それだと1人残ってしまいますね……』

『ええ……残った人間は先程の毒を騎士たちに発見されてから飲め……と』


 あまりの酷い指示にそこにいた一同が絶句してしまう。要するに家族を助けるために死んでこい……か……


「ひどい話ですね……」

「うん……なにをやらせたかったんだろう……人に迷惑しかかけていないわ……」



 ここまで大人しく話を聞いていたフェニーリヤが巨人族の二人、ロトゥン族に質問をする。


『あなた達、装置を起動する時は、どんな命令を受けていたの? 例えばわざと人目につくように起動させろ……とか』

『え? なんで知っているんだ? 街のど真ん中でやれと、それもできるだけ人の多いところで……と言われていた……』

『ああ、理由はわからないが……』


 巨人族達の話を聞いてレグロスと騎士団が納得した感じの表情をする。


『なるほど……目的はどちらかと言うとそちらですね』

『みたいですね……』

『そのようね……』



 俺の脇にいたチサトがシュウトくんを肘で小突きながら小声で質問をする。


『ねぇ、修斗、あたし何言ってるのかわからないんですけど……』

『ああ、多分だけど、巨人族とエフルダム王国で戦争を起こそうとしている誰かがいる。のかな?』


 二人の会話にフェ二ーリャが会話に入る。


『その通りよ。あなた達人族や、他の人種から見たら、どの巨人族も同じに見えるでしょ? あたし達はまとっている衣装の柄で里などを見分けるけど……』

『ロトゥン族ではなく巨人族が『穴』を出したと思われる……』

『巨人族全体が恨まれてしまうわね……残念ながら』


 その様子を見ていたエルドが決意をした表情で俺たちに話しかける。


『タクマ、すまない。次の戦い、巨人族の誇りをかけた戦いになる。俺、最前線に出る必要ある』

『わかった。お互い死なないように頑張ろうか』

『ありがとう、理解が早くて助かる』



 話がまとまり、野営地に移動かな? と考えているとチサトの様子がおかしくなる。


『あっ、グッ、ああっ! またっ……痛いっ!』

『大丈夫!? 千里ッ!』


 突然チサトが頭を抱えて苦しみ始める。前回のミィナスの時と同じ感じだ。前回の時と同様にシュウトくんにもたれかかって気を失ってしまう……


『チサト殿は大丈夫ですか?』

『……大丈夫そうです……前もこんな事があって……』

『神の力を使った反動でしょうか?、アルティア様に聞かないと分からないことだらけですね』


 シュウトくんがチサトを大事そうに抱きかかえ立ち上がる。


『それでは皆さん、野営地の方に行きましょうか。今回の事で大体わかりましたね……』


 俺たちはレグロスの後ろをゆっくりと遅れてついていく。いやでも目に入る『穴』を発生させる装置に不気味さを感じながら。

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