第66話 個人リーグ戦・エルドの過去



 エルドが席から立ち上がると、仮設闘技場に向かって歩き出す。次はエルドのリーグ戦だが……いきなり相手は幼馴染の子か……ミィナス達の戦いでちょうど観客がたくさんいる状態で迫力のある巨人族の二人が対峙したとあって観客がそのまま残って二人の様子を注視する。


【エルド……ここに来てまで手を抜く……なんて事はしないわよね?】

【もちろん。俺は探索者になる。探索者になってお金を稼いで家族を楽にする……】

【そう……じゃぁ……わたしも本気を出すわね】

【フェニーリヤ……お手柔らかに……】


 退治する幼馴染の巨人の子は片手に盾、片手に棍棒のスタイル。一方のエルドはいつもどおりの両盾。盾の持ち込みは可なので……正直な所防御側有利のルールだ。エルドが盾に魔力を込めて守られると本当に打つ手が無い時が多いからな。


【グロット族の名誉にかけて神にこの決闘を捧げる!】

【え? あ、ああ……グロット族の名誉にかけて神にこの決闘を捧げる】


『それでは。はじめっ!』


 幼馴染の巨人の子は爆発的に体に魔力をまとう。とんでもない魔力量だ。それを見たエルドも一瞬焦った顔をするが、同じ様に魔力を一気に爆発させ体にまとう。あの状態の攻撃を食らったら通常状態だと死ねるから当たり前の判断だ。


【はぁっ!!】


 とんでもない速度の突撃と共にで棍棒は振るわれる。エルドはいつもどおりにしっかり盾でガードをする。


ドゴォォォン!!


 訓練場にものすごい打撃音が鳴り響く。幼馴染の巨人の子は構わずにエルドに相当の魔力を込めた棍棒を叩きつけ続ける。エルドも難なく防ぎ切るが、エルドの表情に少し焦りが見え相手に話しかける。


【フェニーリヤ! 本気を出す必要はない!試験なんだ!】

【何を……】


ドゴォォォン!!


【どの面下げて……】


ドゴォォォン!!


 あまりの連撃にエルドが盾で攻撃を受け流すと、棍棒の一撃が地面と木の柵をまとめて吹き飛ばす。とんでもない威力だ……あれを受け続けていたのかエルドは。


【それだけ強ければぁああああ!】


 何やら叫びながらエルドに棍棒の連撃を続ける。集まりだしたギャラリーも危険を感じたのか少し遠巻きになっていく。エルドは観客の事を考えてか攻撃を受け流すことをやめて受け止める方にシフトしていく。


【里長との決闘に勝てたでしょ!】


ドゴォォォン!!


【探索者は危険なんだ! 里長と結婚する方が君は幸せになる!】


 更に幼馴染の巨人の子の魔力が高まる。


【わたしの……】


ドゴォォォン!!!


【わたしの幸せはわたしが決める!!!】


ドゴォォォン!!!


【俺は、君に死んでほしくないんだ!】


 一瞬、幼馴染の巨人の子の動きが止まる。が、更に全身に魔力を流し、棍棒にもかなりの魔力を流す。魔力素材じゃないからそろそろ壊れそうだな……


【フン! 何が君のことを絶対に守るだ!!】


ドゴォォォン!!!


【俺と一緒にいると危険! 君が死んでしまう!!】


ドゴォォォン!!!


【わたしは、わたしは……あんた以外と結婚する気は無いんだよ!!!】


 ものすごい速度でエルドに突撃し、相当の威力の魔力がこもった渾身の一撃をエルドに放つ……がエルドも同じくらいの魔力を両盾に込め、全力で攻撃を受け止める……


ドゴォォォン!!! バキィッ!!


 幼馴染の巨人の子の棍棒が魔力と威力に耐えきれなくなり綺麗に折れてしまう。それでも相手はエルドに対して殴りかかるが、エルドが上手くかわし脇を固めて地面に押さえつける。


【フェニーリヤ! 落ち着いてくれ! 俺が悪かった! 謝るから!】


 幼馴染の巨人の子が力を抜き諦めた感じで審判の方に振り返り審判に話しかける。


『審判さん。私の武器が折れて……押さえつけられて動けない……私の負けでいいかしら?』

『は、はい、そうですね……それまでで……』


【フフッ、エルド、ありがとう、しっかりと戦ってくれて】

【えっ? あれ? なにが?】


 あれ? なんか彼女が普通の対応を突然している……怒っているんじゃなかったのか? あまりの様変わりにエルドも呆然としている。言葉がわからない……ミィナスを見ると……ミィナスも困った顔で俺に解説してくれる。


『えっと……痴話喧嘩……ですかね?』


【すっげぇ痴話ゲンカだったな】

【そうだな……巨人族って熱い奴らだったんだな。温厚かと思ってたぜ】

【巨人族の本気を始めてみたぜ】


 観客たちも何やら思い思いに感想を言い合っている。言葉のわからない俺達は置いてきぼりだった。後でエルドに内容を聞かないと……

 

 幼馴染の巨人の子が観客席にいた里長の子に大声で話しかけている。


【テュール! 見ての通りよ! 決闘は成された! グロット族の長はエルドになった!】

【わ、分かった……グロット族の名誉にかけて見届けた……しかし……確かに負けだとは思うが……これでいいのか?】

【本当に強かったのか……】

【信じられん……家族の……彼女のために誇りを捨てていたとは……】


【フェニーリヤ! どういう事??】

【簡単なことよ。里長の私にあなたが勝った。これからはあなたが里長よ】


【……えっ?】


【エルド……そう言う事になってしまってな……申し訳ない……】

【お前が里を出た後……不服を申し出たフェニーリャと里長の決闘騒ぎになってな。なんと言うか……圧倒して勝ってしまったのだよ。彼女が……】

【さすが元戦士長の娘……恐ろしい気迫だった……部族の男を全員のしてしまったのだ……】


【えっ?】


 言葉のわからない俺たちは傍観しているが、エルドの様子を見る限りおかしなことになっているようだった。見かねたミィナスが話の間に割って入る。


【みなさん! まだ試験は続いています! 話は後で!】


【あっ、そうだったわね】

【……俺、どうすればいいかわからない。考えさせてくれ】


【俺達も試験を続けなければ】

【そうだな。目的を果たさねば……エルドは偶然ここにいただけだからな……】


 ぽかんとしたままエルドが席に戻ってくる。気合が削がれていて先程まで激戦をこなした人間にはとてもじゃないが見えなかった。

 それから試験官が俺たちの方にやってきて、エルドはこの試験合格だから次の3試合はやらずに良いとの事だった。あんな試合を見せられたら誰もやる気はしないだろう……キョウカの様な戦闘狂じゃない限りは。

 一応、ミィナスとエルドから事の顛末などを聞いているがいまいちどうしたら良いかわからない。いきなり里長になるなんて……後でしっかりと話し合って、より良い落とし所を探さねば……




 今日のスケジュールにあった個人戦の試験が終わると巨人族の4人組が俺たちの方にやってくる。幼馴染の巨人の子フェニーリャが物凄い満面の笑みだ。エルドが若干引いている……


【さぁ、エルド。詳しい話をしましょう】

『す、すまない。共通語でお願いできるか? 俺、判断出来ない……』

『わかったわ。私とテュールは共通語が結構わかるからそちらで話をしましょう』

【お前たちには私から後で通訳する】

【はい、承知しました】


『じゃぁ、場所を変えて……夜ご飯を食べながらでも……』


 それから俺たちの宿に近い広めのレストランに入る。酒場と言ったほうが良いのかも知れないが何と呼べば良いんだ?エルドの表情がかなり暗い……フェニーリャが苦手……ってわけではないんだよな?ミィナスの話だと守りたいから逃げたって事だし。


『あ、僕、千里達に知らせてきます。あまりのことに忘れてました……』

『あ、俺も忘れてた……シュウトくん、よろしくね』


 シュウトくんがその場から逃げ出すように騎士団訓練所の方に小走りで移動を始める……ああ、俺もちょっと逃げたかったな……


 大きめのテーブルを中心に全員が席につくと元里長の子であるテュールが話し始める。


『では、新里長……よろしくおねがいします』

『ちょっと待つ。俺、里長にはなれない。探索者になる』

『あら? 神に決闘を捧げた場合はどうなるんだっけ?』

『う……』


『エルド、すまないが解説を頼む』

『神に捧げる戦い、里長がする場合には里長をかけた戦いになる……』

『ああ、なるほど……』


 エルドは上手くはめられてしまったのだ。まさか里長がフェニーリャになっているとは知らずに決闘を持ちかけ……おそらく里では当たり前の決闘の挨拶をさせて……自分の結婚したかったエルドを強引に里長にして自分の望みをかなえようとしたのだろう。彼女が一枚上手だったのだ。


『フェニーリャはどうしたいんだ?』

『えっ? あたしはエルドと結婚できればいい。後は別にいらないわ』

『フェニーリャ……それだけのために里のものを全員倒したのか……』

『そうよ。逃げ出した誰かさんは余裕で勝てたでしょうけどね』


 フェニーリャがエルドの方を見るとエルドがビクッとして小さくなってしまう。フェニーリャの目的と巨人族チームが同じ目的では無さそうだな……


『なるほど……ところで、あなた達はなぜ探索者試験を?』


『ああ、それは私から話そう。災厄のお触れがエフルダム王国から出たと聞いてな。おそらく『穴』がまた近くに出るだろうと、長老たちが騒ぎ始めて『穴』を消すことのできる『神聖球』を借りる事ができる探索者ライセンスが必要になったのだが、前回の戦で里には探索者がいなくなってしまってね……』


『それであたし達が慌ててこちらに来たってわけ。エルドに会えたのは本当に偶然。どちらにしろ探索者ライセンスを貰えたらその後は別れてエルドを探す旅に出る予定だったわ』


『フェニーリャ……そこまで……エルド……女性にここまで言わせておいては男がすたるぞ』


 エルドは俯いてしまって反応が無かった。何かを必死に考えてるようにも見えた。とりあえず落とし所……か……里長をやる気のない二人と元里長の子か。


『ちなみに里長と言うのは、代理をたてられたり、委任できたりしないのかい?』

『え? それはどう言う事ですか? 少し言葉が難しい……』

『ああ、里長が旅に出る間、里長を代わると言うことなんだけど……』

【里長の代理や委任を出来る法は無いのですか?と言っています】

『あ、なるほど……あります。巨人族、どうしても里長が強い。戦争行く間かわりに任せる』


 ミィナスの通訳がありがたい……とりあえずはエルドが探索者になっても問題はなさそうだな……元里長の子に代理を任せて探索者として生活。エルドの目的は確か家族のためにまとまったお金を作ると言う目的だったはずだから、最終的には里に帰るのだろう。何年後かはわからないが、その時になったらまた情勢は変わるだろうからな……


『それならば里長問題は大丈夫そうですね……後は……』

『そうですね。里の問題より二人の問題のようですな』

『エルド、俺は彼女としっかりと話し合うべきだと思う。エルドが何を思っているかはわからないがこのままではいけないと思うよ』


 俺とテュールがエルドを見るとなにかを決意した様だった。


『俺、フェニーリャと二人で話す』

『わ、わかったわ……』


 最初は満面の笑みだったフェニーリャが緊張した面持ちでエルドに答える。彼らの人生はここで色々決まるのだろうから当たり前か……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る