第173話 森の街フォレスタでの戦い 後
§ § § 女騎士レジェリンス視点
私はアルティア達本隊とわかれ、50人ほどの混成部隊で周辺の『穴』を浄化して回っていた。
『レジェリンス様、『穴』の発生位置がおかしいです!』
『俺も同意です、地図との場所が違うような?』
私は前方にある『穴』を確認しつつ、斥候担当に近づき状況を詳しく聞く事にする。
『目の前にあるあれは違うと言うの? 探知機を使ってみてもらえる?』
『はい、只今、おそらく違うと……あ、やはり……『穴』増えてますね……』
『『穴』が増えると……中心の『穴』が大きくなって危険になるのよね?』
『ですね……』
『アルティア達が危険……ということよね?』
『そうです……』
私は手持ちの『神聖球』が潤沢にある状態に感謝をする。聖女チサトのおかげだという……『悪夢』でも私達を助けてくれたが、今の世でも助けになってくれるとは……彼女には頭が上がらないな……
『ならばやる事は、一つね。手早く『穴』を浄化、虱潰しに『穴』を消し去っていくわよ! 皆! 気合を入れていきましょう! アルティア達に危険が及ばないように!』
『ハッ!!』
【了解!!】
私の目の前を、我らがエフルダム王国の騎士団とディソスラパ郡の探索者が並走して『穴』の浄化に当たる。
私はその光景を見て、すべての歴史が変わっていくことを感じていた。
§ § §
森の街フォレスタでの戦いは持久戦の様相になっていた。徐々に『穴』への供給線が減っていくが、線の減り方よりも、戦場で妖魔を相手に戦闘をし続ける者たちの体力の減り方のほうが早いように見える。
『よし! 『穴』の線が残り4本! 後少しの辛抱です!!』
『よっしゃあ!』
【しんどいぞ!!】
【気合だ!気合ぃ!】
その場で戦う色々な部隊から激とも愚痴とも言える言葉が大声で発し、お互いを鼓舞し合う。
『巨大多腕型……が多数出現!』
『くそっ! あいつは手強い! 多腕族の亡霊か!』
『どうします!? 一旦引きますか! って、ああっ! まだ住民の渋滞が起きています! 後少しです!』
『だあっ! くそっ! 城門を壊したい気分だ!』
部隊の半数が及び腰になり、半身で逃げ出そうとする体勢になる中、巫女のラシータがアルティアに提案をする。
『アルティア様! 試しに私が眠らせてみていいでしょうか?』
『え? 貴方、大丈夫なの? ここから周囲全部を眠らせたら、私達も全滅よ? ってか、妖魔って眠るの?』
『多分大丈夫です! 力を制御すれば方向はある程度制御できます。 それに、妖魔には生物の魔力の流れを感じます』
その場にいる殆どが驚きの視線を送る中。巫女のラシータが『巨大穴』の方に歩み寄り、多腕型の妖魔に手をかざすと、赤い光の粒子が妖魔にまとわりつき……多腕型の妖魔が綺麗に眠るように崩れ落ちる。
『お、おお、妖魔にも効くとは! 素晴らしい!』
【とどめを刺すだけではないか!】
【『あ!』】
『あ、ダメです!』
探索者の一人がすぐにとどめを刺そうと何人かが近づくが一緒に眠り落ちてしまう。
『【えっ?】』
『だ、ダメですよ! 赤い光の粒に触ると眠ってしまいます! もう少し待って!』
『なるほど、そう言うことか……』
探索者の狩人が投げ縄を投げ、眠ってしまった探索者の足に引っ掛けてズルズルと赤い光の届かない範囲に引っ張っていく。赤い粒子はそんなにすぐには消えないようで、眠った探索者は引きずられながらもなかなか起きなかった。
『困ったわね……時間稼ぎにはなりますが、妖魔は増える一方か……』
『これで眠らせ続けても妖魔が溜まっていくだけですね』
『ラシータ、しばらく出現する妖魔を眠らせ続けて! 皆! 今のうちに体勢を立て直すわ! 怪我をしたものは治療を! 重症を負って治療しきれないものは住民とともに町の外へ!』
アルティアの指示の下、ラシータがそれからも出現する妖魔を眠らせていくが……妖魔がどんどん山のように積まれていく……その間にもフォレスタの街から住人や怪我人の移動が終わり、あたりには不気味な静けさに包まれる。レグロスが不安そうに状況を判断する。
『これは……一斉に目覚めたら危険ですね、そろそろ処理を開始しましょうか』
『そうね……まとめて焼き払えれば良いのだけれども、街の中だから無茶はできないね……皆! 新たに降ってくる妖魔を倒しながら、寝ている妖魔への止め刺していきます! 協力をお願い!』
それからは降ってくる妖魔を倒しながらも、深い眠りに着いた妖魔の首をはねたり、核と思われる部分を貫いていく作業が行われていく。中には一撃で仕留められずに目覚めた妖魔に攻撃をされて手痛い攻撃を受ける探索者なども出始める。それでも眠っている妖魔をあらかた処分し、形勢が逆転したと、その場にいた殆どのものが思っていたが……
『……やはり来ますね……次はどんな妖魔だ?』
『なんだあれは? 手が……何本生えているんだ?』
『初めて見る形ね。多腕型妖魔……に腕をたくさんつけた感じね……手しか見えないじゃない、気持ち悪いわね』
『アルティア殿、先程の光の剣で焼き払え無いのか?』
『あの大きさだと……腕が多すぎて……顔もない? ……どこに核があるんだか……核の場所がわからないと、無駄撃ちになってしまうわ!』
手出しができないまま巨大多椀型妖魔は『穴』を無理やりこじ開けて広げたあとそのまま滑り落ち、10本以上はあると思われる手で着地する。着地した後に腕に隠れて見えにくい仮面を左右に振ってあたりを確認した後、アルティア達が待ち構える部隊とは反対方向に向かって手を足のように使って移動をし始める。
『気持ち悪い動きだな……え? お、オイ! なんでこっちに来ないんだ!』
『あっちは神殿の方向です! あちらには避難した住民が多数います! くそっ!!』
フォレスタの街の衛兵達が騒ぎ出すが、それをよそに巨大多腕型がゆっくりと移動をし始める。
【そっちに行くなぁああ!!】
『くそっ、嫁も子供も逃げてんだ!』
フォレスタの街の衛兵や探索者達が巨大多腕型妖魔に魔法や矢を撃ち始める。余り効いた感じはしないが、巨大多腕型妖魔はゆっくりと振り向き直し、長い手で民家の石などを引きちぎる様に握ると……
『あ、やばい!』
『皆! 盾の魔法を! 建物の影に!!!』
【皆隠れろ! 盾を展開!!!】
その場にいたものが盾を構えたり、盾の魔法や建物の影に隠れる瞬間、巨大多腕型妖魔から建物の建材のブロック、瓦、家具……などの破片が散弾の様に部隊の方に浴びせ続ける。逃げ遅れたもの、盾の魔法の威力が弱いものなどが吹き飛ばされていく。新たに出現して『穴』から出ていた中小型妖魔も粉々に砕かれて消えていく……
『これは……きついですね。腕を振り回されるより厄介だ……被害が大きすぎる』
『洒落になっていないな、『災厄』ではこんなのとやり合うのか!』
前線で盾の魔法を展開していたレグロスとザガリオンが驚愕しながらも後ろに陣取る者たちを守っていた。アルティアの前では、巨人族のロトゥン族が持ち前の巨体と盾を展開し、アルティア以下、巫女などの非戦闘員を守っていた。巨大多腕型妖魔はしばらく投石を続けると、またゆっくりと神殿方面へと踵を変えてゆっくりと移動を開始していた。
『あなた達……ありがとう……』
『ちょっと待ってろ、すぐ治す。ありがとうな』
『すまない、お前たちに怪我はないようで良かった』
巫女のルクレラが盾となってくれた傷だらけの巨人族達に癒やしの魔法をかけていく。周りを観察していた騎士団員がアルティアに報告をする。
『『穴』への線が無くなりました!!』
『『神聖球』残りありません! 別働隊が戻るまで耐えるしか……』
アルティアが上空の『穴』を見て苦い顔をする……その脇で探索者達が救難信号を上空に向かって打ち上げる。
『ティア、どうしましょう……選択肢が少ない。別働隊に『神聖球』を渡しすぎましたね……』
『『穴』は塞ぐわ……後は……戦力が若干足りない……ねぇ、『神核』に妖魔が到達したら……どうなるの?』
『……その地は赤黒くそまり『妖魔』が湧き出る地へと変わる……と言われていますが。ここ数百年はそうなった記述はありません』
『散っていった部隊がどれだけの戦力を持ったまま戻ってくるか……次第ね……』
アルティアはそう言うと、剣に神聖力をため始め、上空に浮かんだ『大穴』に打ち込み『大穴』を消し去ってしまう。ふらつくアルティアの肩をレグロスが支える。
『これで、あとはあいつを止めるだけね……』
『ティア、あなたは、ここで待っていなさい、その魔力と神威では死ぬだけです……』
レグロスの言葉に一瞬アルティアは迷いを見せるが……決意の眼差しでレグロスの方を見る。
『嫌、私は行くわ……』
『ダメです、何故そこまでするのです。多少の被害は出ますが仕方がないでしょう……ここは一旦引くべきです』
アルティアは周囲を見渡しながら言う。
『この街……この街には魔人族が沢山いると聞いているわ。ここで被害を出さなければ……魔人族は、エフルダム王国の敵にならないかもしれない。そうすれば……あなたが死ぬこともないでしょう?』
『ティア……』
『それに……この場が妖魔に染まってしまったら……これが切っ掛けで私の知らない『悪夢』の世界で戦争になったのかもしれない。だから……』
涙ながらに話をするアルティアの隣で話を聞いていた魔人族のザガリオンが若干話の内容に気圧されるが、空を見て何かを考えた後に発言をする。
『レグロスよ。私も何故、『悪夢』でエフルダム王国の連合国と戦っていたのかは知らない。だが、今助けなければ、守らなければならないのはわかる。我々も協力をする。あれを止めよう』
『しかし……我々の部隊はもう半壊も同然……魔力も心もとない……私の現在の魔力量だけではあのサイズの妖魔は手に余る……気力だけで何とかなる相手では無いでしょう?』
『なに、協力を求めるだけだ』
ザガリオンは一人で部隊の前に立ち、目立つ位置で拡声魔法を使いながら辺り一帯に問いかける。
『山羊角族の将、ザガリオンだ! 息をひそめ見守るだけの同胞よ!『悪夢』の未来を変えたい同胞よ! 時が来た! 眼の前の妖魔を打ち倒すのだ! 私には見える! あの妖魔を打ち倒した先に『悪夢』を乗り越える可能性があるということを! 立ち上がれ! 魔人族の同胞よ! 勇気を出し『悪夢』の世界を変えるのだ!』
ザガリオンの大きな声がフォレスタの街中に響き渡る。相変わらず巨大妖魔は神殿の方へと進み続けるが、建物の影から武装した山羊角族だけではなく、下半身蛇の種族や、1つ目の巨人、蜥蜴人族よりも豪華な鱗に覆われた種族、多腕族……などが前に進み出てくる。
浅黒い肌をした武装して強そうな多腕族がザガリオンに話しかける。
『ザガリオン将軍、そこにいる黄金の戦士は『夢の世界』で我々の同胞を数多くを打ち倒してきました。その者の言うことを信じるのですか?』
『ああ、私は信じる。私はここまで行動を共にし彼らを見てきたのだ。レスタジンのものは信じるに値しない、だがこいつらなら心から信じることが出来る』
『……わかりました。我は多腕族の雷族シャスラ! 我は我の意思で戦う! この街を守ろうぞ! 戦う意志のあるものは我に続け!』
多腕族のシャスラの呼びかけに魔人族、その他の種族達も武器を掲げて応え、続々と巨大多腕型妖魔へと突撃をかける。近づいてくる魔人族に気がついた巨大多腕型妖魔は数ある手を振り回し迎撃をしようとするが、高速で動く魔人族達に中々当たらない。その隙きをついて魔術の爆発、電撃、氷の槍などがいたるところから放たれ、見事に巨大多腕型妖魔の足止めを成功させていた。
その様子を見ていたレグロスが若干うなだれてしまう。
『……私がいたからみなさん姿を見せてくれなかった? 戦闘に参加をしてくれなかったのでしょうか……?』
『え、えっと……そんな事は……ない? ないのかな? あれ?』
慰めようとするアルティアが混乱をしだす。そこにルクレラに治療をしてもらっているザガリオンが話しかける。
『……まぁ、そうとも取れるな。自分を『悪夢』で殺し回った相手が戦場に出てきたら普通は恐れて出てこないだろうな……ルクレラ、ありがとう、もう良い』
『無理すんなよ?』
『おまえは……ラシータくらいキレイな言葉遣いになると良いな……』
『なんか「フラグ」みたいな事言うなよな。怪我したらすぐに戻ってこいよ』
『あ? ああ、わかった』
治療を終えた聖騎士、探索者が一同に並ぶ。
『さて、皆さん、行きましょうか。あれを倒せば終わります。死ななければ聖女チサトが治してくれるそうですよ。死なないようにがんばりましょう! それでは……突撃ぃ!!』
【『オー!』】
アルティアの言葉を皮切りに浄化部隊の攻撃陣全員が最後の攻撃を巨大多腕型妖魔にかける。全員が魔力を出し惜しみ無く展開し、斬り付け、魔法を放ち、時には攻撃を食らって吹き飛び……等をして腕の半分を切り落としていく……その様子を直下でみていたアルティアが斥候役の探索者に問いかける。
『想像以上に強い……援軍はまだ確認できないの??』
『返答の狼煙が上がっていません! 援軍が来ない可能性があります!』
『……何て事……』
『アルティア様、前に出るのだめ、皆の回復できなくなる!』
思わず進み出ようとしていたアルティアをロトゥン族達が盾を構えながらも制止する。彼らの後ろには怪我して傷ついた探索者や魔人族が続々と戻ってきて治療を受けているところだった。
『このままでは……このままでは……なにか手を……』
アルティアの目の前では、徐々に傷つき倒れていく探索者、魔人族が増えていき……レグロス、ザガリオン、各部族の隊長と言った猛者達も徐々に疲弊し、鎧などが吹き飛んでいくのが見えていた……
アルティアの目にはこのままだと全滅の光景が容易に想像できる状態だった。
『あ、ああ……時の女神ロクノース様……私に……私に力を……』
アルティアは自分の神威を……残りの全てのちからを剣にまとめようとするが……淡い金色の光しか集まらなかった。
『これでは……駄目ね……撤退……させてくれるのかしら……』
アルティアが眼の前の妖魔を見て絶望する中……
ブォォォォォオ……
遠くでアルティアが聞いた覚えがある様な異質で大きな音が聞こえると……
ふと……突然、アルティア達の周りに金色の光が降り注いだ……
§ § §
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