妻と『妻』
§ § §
酒々井 美月
光が収まると、私は病室のベットにいた。
時の女神様の御力で……恐らく転生がうまくいったのだろう。私は喋ろうとするが周りの言葉が全くわからない上、上手に動けなかった。テンセイシャの話と大分違う……テンセイではなく、生まれわかったのだろうか? これは?
それから私は順調に大きくなり、この世界の勉強をするとともにタクマの事を探していた。この世界での優しい両親の手伝いもあったのだが……
問題は……この世界に……
「タクマ」が沢山いすぎたのだ。
フルネーム……長く一緒に暮らしてきたのに、「タクマ」名字を知らなかった。さらに言えば「漢字」も知らなかった。時の女神様はなんておっちょこちょいなのだろう。この世界には魔力も感じられないくらい弱い人間が多く魔力による探知も出来なかった。タクマもこちらの、いや、あちらの世界で初めて魔力を使ったと言ってた。そんな人間を探知ができるわけがなかった。
せめて住所や電話番号を教えてもらえればよかったのだが……時の女神の加護に頼ったがタクマはすぐに発見が出来なかった。
中学生となり活動範囲が広まり、方方を探し回ったりしていたが、タクマの存在はわからなかった。
だが、探索中に新たな発見をした。この世界にも『魔力』持ちがかなりの数いることがわかり、私は慎重にならざるを得なかった。タクマがこちらの世界にいる時は魔法を使えなかったはずだ。何故魔法が存在しているかがわからなかった。
私は魔力持ちに発見されないように魔力を最低限だけ使い地道にタクマの調査をし、あちらの世界で役立つ知識などを猛勉強していった。タクマは頭が良かったので、この世界でもそれなりに良い学校に行くのだろう……彼と出会いやすくするためにも学校の勉強と、異世界への下調べの両立でとても大変な思いをした。
高校生になり、クラスメイトの紹介で私の元に来た人物を見た私は……とても驚いた。
若いタクマが恥ずかしそうに私の方を見ていた。
思わず私は飛びついて抱きつきたかったが、頭にとんでもない量の情報が一気に入ってきて気絶してしまった。私がタクマと出会うことにより記憶が書き換わり、あちらの世界の自分の歴史も変わっていった様だった。
これ以降は私の行動により、あちらの世界の歴史が書き換わっていくのを実感していた。恐らくこれが時の神の加護なのだろう。記憶を保持したまま歴史を書き換えることができるのだ……
そして、それからはタクマと……
なんと言うか……
鍛錬するだけのはずが……そうだ、前回はルカ姉、奥様が独占していた地位を……いや、違う。
好きだったのだ。異性として。
我慢していた分が反動となったのか……彼に猛アプローチをかけて……なんと成就してしまった。タクマに初々しい反応を逆に楽しまれてしまった……悔しい……
大学受験後に一緒の大学に行けるようにすると、彼の両親と偶然町中で出会うことになった。
彼らは魔力持ちだった。私も相手も驚き、タクマのいない所でバトルを覚悟で待ち合わせをしたが、話をすると彼らもどうやらあちらの世界の体験者、テンセイシャだった様で、色々と懐かしい話を聞けた。私も素性を明かし、詳しく話をしようとしたが、話そうとしても話せない言葉が出てきて困ったものだった。何回か昔話を聞いていると、あちらの世界の父のアスティリやブリスィラの話なども出てきて懐かしいのと、彼らの帰ってくることの出来た「テンセイシャ」達の情報をあちらに持たせられないかを試行錯誤することになった。自分の子供も過酷な異世界に行くことになることを悲しんでいたが、気持ちを切り替えてもらって鍛錬方法や歴史を変えずにタクマを強化する手段を色々と一緒に考えてくれた。
それからは夢のような時間が続いた。奥様が現れるまで、私はありとあらゆる手を使ってタクマを鍛え上げていた。毎日のトレーニングに付き合う体で彼の肉体を鍛え上げ、体を鍛えて登山してみたり、薙刀道場に行ったり、キャンプと言うよりサバイバルの演習をしたり、ゼロから武器を作ってみたり……ポンプを作ってみたり……気功とうそぶいて魔力を体に循環させてみたり。あちらの世界の歴史を大きく変えずに、良い方向に変えられるようにとできる限りのことをしてみた。テンセイする時は二七歳と言っていた。奥様の出産間近であちらの世界に行った事を嘆いていた。それまでが勝負だった。
だが私はとても愚かだった。タクマが自慢する素晴らしい奥様が自分だった事にプロポーズされるまで気が付かなったのだ。……自分がそれだとは考えていなかった。それ以降はあちらの世界の私の記憶が変わること等がなく、悲しい最後を遂げることが確定していた。
だが、私はそれでいいと思った。あちらの世界で不幸だった分、こちらで幸せなのだ。後は……タクマが上手く戻れるように……
妊娠して後少しで出産と言うところで……私は不安になっていた。
タクマが……戻れないのではないだろうか? チサトがタクマ叔父さんの存在を話している内は全てが上手くいく……そう信じていた。……もしかしたら最後になってしまうかもしれない。最後のお別れをせめて言ってから彼を送り出そう。そう思っていたら突然の陣痛が始まってしまう。
私はタクシーで母親に運び込まれながら思った。あの優しいタクマが……出産日に働いていることなんてありえないことに……
最後にタクマの両親、テンセイシャ達と作成した「『異世界』攻略ノート」を渡せなかった……あの中途半端なメモだけしか残せなかった……あれだけで全てが上手くいくのだろうか……とても心配だ……
§ § §
時の女神ロクノース
私は神になった。
神になったと言っても、これは世界の管理者と言ったほうが良いと思う。全てを想像する万能の力ではなく、この世界を見張り、維持していくために作られた『神』もどきだった。
先代の神たちもいい加減で、『神』もどきとなった私は、私が生まれる前の時代、900年前に送り込まれていた。神の尺度で考えるとほんの一瞬、どちらが先で後か等はどうでもよいのだろうか? たまに『神』の魔法の画面で人間時代の私を見ると無感情で無気力……今と対して変わらなかった。
退屈していた。
そもそも人間時代にも神になるとの名目で神殿に閉じ込められている感じだった。国から出ることもなく700年……神になる前も、なった後も対して変わらなかった。
退屈にうんざりしていた。
私は前任者の『神』もどきの気持ちがほんの数年で理解が出来た。愛すべき子どもたちを見ても何の感情もわかなかった。前任者達が数千年後に起きて変化を見届けたい……そんな事を呟き、長い眠りに入っている気持ちが痛いほどわかった。時が移り変わっても大差のない同じ様な人間の社会……数十年、数百年単位で見ていると代わり映えのしない、同じことを繰り返しているようにしか見えなかった。
退屈していた。
管理なんかやめて私も早々に眠りにつきたかった。
飽きていたから、いつも楽しそうなソリエノの『賭け』の誘いに乗った。
正直な所勝ち負けはどうでも良かった。
少しは退屈が紛れると良い……
負けて眠りについてもいいと思っていた。
賭けの対象の時の女神の信徒を選ぶ時……私はふと、なんとなく目に止まった、どんな悲惨な状況でも前向きで目の輝いているチサトを選んだ。私にはない強い意思を持った瞳に憧れたのだろうか……
私は時の神の権能で巻き戻しの力を使い彼女は二周目の試練に入った。
ここでも上手くいかなかった。彼女達の頑張りを見ていると心を打たれた。あそこまで頑張れること、どれだけ世の中の人を愛しているのだろうか……経験のない私にはわからなかった。彼女が羨ましく思った。
二回目の時の巻き戻しの時に、夢の神のソリエノのいたずらで、やり直しの際にチサトの記憶を引き継がない代わりに、彼女の信望する「タクマ叔父さん」をあちらの世界から召喚することにした。しかも「タクマ叔父さん」の記憶もチサトと出会う前まで戻していると言う意地悪さだ。
私はあんなに頑張って、運命に抗っているチサトを不憫に思い、人間界に存在する、まだ『神』になっていない自分を案内役としてチサト達に引き合わせた。
……
すべてが変わった!
色あせていると持っていた世界が色づいた様に見え、全てが違った景色に見えた。
冒険を知り、
異世界の知識を知り、
恋を知り、
大きな悲しみを知り、
子供を持ち、愛する人と死別した。
すべてが変わった。
心が動き、世界そのものの全てが色づいて見えた。私はその世界を愛してしまった。
ソリエノは気が付かなかったが、900年の歴史が既に事細かに変わっていた。私が少しずつ彼女たち、私の愛する人達が上手くいくように変えていったのだ。私が色々と変化をつけても彼に気が付かれることはなかった。恐らく私が未来から遡って神になったからだろう。だから私は時の権能を持っているのだろうか?
ただ、終わる時……私には不満があった。
愛する人が大きな後悔をしたまま寿命を終えたのだ。
私は彼の思いを叶えることにした。
私があちらの世界に転生できれば良かったのだが、それは出来ないようだった。
代わりに私は自分の存在が無くなってしまうかもしれないが、一つの賭けに出た。
人間時代の私が最も信頼でき、私が愛した娘、そしてタクマの幸せを頑なに願う娘ミィナスを過去に送り込み、時間の、歴史の改変を行った。
恐らくこれはやってはいけない事だったのだろう。世界の改変が度々起き、世界だけではなくこの星、神域そのものが崩壊する瞬間も来そうなくらいだった。
事が動くたびに未来が書き換わる不安定な世界になった。
そして、やり直しの世界での私は寂しさを強く感じた。
それでも私は満足をした。愛する人が幸せになる世界が見れたから。
§ § §
異世界戦線異常あり!! 藤明 @hujiakira
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